【映画】「マーティ・シュプリーム 世界をつかめ」感想・レビュー・解説

これは面白かったなぁ。主人公は実在の人物をモデルにしてるらしいが、さすがに本作の内容が実話ってことはなさそうで(すべてが実話だとしたらあまりにも酷すぎる話が満載なのだ)、ちょっと調べてみると、モデルとなった人物のエピソードとはやはり違うっぽいが、ただ「こういうぶっ飛んだアスリートがかつて存在した」というのは事実なのだろう。主人公のマーティ・マウザーはとにかくクソみたいなロクデナシで、実際にこういう人がいたら僕はまったく好きにはなれないが、物語として観る分には面白い。しかしホント、クソみたいな人間だったなぁ。

ただ、1つ先に書いておきたいのは、僕は基本的に「アスリートは清廉潔白な存在でいなければならない」なんてまったく考えていないということだ。アスリートに限らず、アーティストやタレントなど「表に出てくる人間」には、特に最近「潔癖さ」みたいなものが求められる気がするが、僕自身はそんなことどうでもいいと思っている。

もちろん、アスリートに限らず「強い影響力を持つ人物」は、その悪行が他者に影響する可能性が高くなるはずだし、さらに言えば、「選手=そのスポーツの代表」みたいに見られることは仕方ないと思っているので、「個人の評価がそのスポーツの印象を悪くする」みたいなこともあるだろう。確かに、そういうことは避けるに越したことはないと思う。

が、究極言えば、そんなことは個人の人生とは関係ない。アスリートで言えば、「お金やお金以外の形でサポートしてくれる人・企業」に対する責任は果たさなければならないと思うし、あるいは「見せ物」として観客を呼び込んでいるなら見てくれる人にフェアであるべきだと思うが、「勝敗」しか関係ないなら好きにしたらいいと思う。

だから僕は、本作の主人公のであるマーティを「アスリートとして失格だ」みたいに判断しているわけではない。彼は「世界一になることで影響力を有し、それで金を稼ごう」という野心を持ってはいるが、現状では「出場した選手権での勝敗」以外にアスリートとしての彼を成り立たせるものはない。本作は1952年から始まっており(終戦直後だったからだろう、日本は海外への渡航禁止命令が出ていた時期のようだ)、その時点ではどうやらアメリカには「卓球協会」は存在していなかったようだ。つまり彼は、米国代表ではあるが、自分で渡航費を捻出し選手権に参加しているのだ。そういう意味でも、彼には「勝敗」しか関係なかったと言える。

だから、「アスリートとしての是非」みたいなことは興味がないし、僕は別に全然良いと思う。

ただ、人としてクズですねぇ、ホント。メッチャ嫌いだわぁ、こういう人!

物語はニューヨークの靴屋から始まる。マーティは、叔父が経営するその靴屋で店員として働いており、販売員としては優秀なのだが、いかんせん勤務態度が酷く、叔父を困らせている。なにせ、客のフリをして店にやってきた既婚者の女性と、裏の倉庫でSEXするみたいなことは日常茶飯事なのだ。ちなみに、マーティは彼女を妊娠させてしまい、そのことで後々色々とややこしくなっていく。

マーティは近い内にロンドンでの選手権出場を控えており、叔父から受け取った給料を渡航費に充てるつもりだった。しかしあーだこーだと色々すったもんだあって、叔父は勤務後に手渡すと言っていたお金を渡さないまま旅行に出かけたという。マズい、このままでは選手権に出場できない。マーティは同僚のロイドに銃を向け、「叔父からもらう約束をしていた給料分だけ金庫から出せ」と言ってどうにかロンドン行きを果たす。

選手権でマーティは順調に勝ち上がるのだが、1人不気味な選手がいた。日本人のコウト・エンドウだ。見たこともないラケットを使い、対戦相手を次々に倒していく。彼が繰り出すサーブをまともに返せないほど、圧倒的な力の差だった。恐らく決勝では、こいつと対戦することになるのだろう。

さて、マーティがホテルのロビーで取材を受けている最中、記者たちがざわついた。昔の女優で、ある時期から完全に姿を消したケイ・ストーンがいるというのだ。マーティは彼女のことを知らなかったが、電話で口八丁を繰り出し、どうにか彼女を卓球の会場に足を運ばせることに成功する。筆記具メーカーの社長と結婚した彼女との関係もまた、後に彼の人生に大きく関わってくる。

さて、予想通り決勝ではエンドウと対戦することになり、そしてマーティは完敗した。まったく歯が立たなかったのだ。日本は長く渡航禁止命令を受けていたこともあり、この大会でのエンドウの優勝は、日本にとって戦後初めて国際的なスポーツ大会での勝利となった。

マーティはリベンジを誓うが、やはりとにかく金がない。また、叔父が「金を盗まれた」と訴えを起こしたことでマーティの元に警察がやってくる。さらに、ロンドンでの世界選手権で負けた腹いせにゴミ箱を投げたからだろう、罰金1500ドルに加えて選手資格の剥奪という処分まで下されてしまった。しかし彼は、戦後初めて国際的なスポーツ大会が開かれるという日本への渡航費をどうにか捻出するために、クソみたいな金策に駆けずり回る。

そしてそれは、泥沼で大暴れするような最悪な状況しか引き起こさず……。

というような話です。

ある場面で彼は、親友(と評していたけど、マーティにとってはただの金づるだっただろう)の”酷い扱い”に対して(この場面で酷かったのは明らかにマーティの方だが)、「こんなことをしたら、お前の心の底の良心の器にずっと傷が残り続けるぞ」みたいなことを口にしていた。しかしそのセリフを聞きながら、「お前がそれを言うんか!」となった。「お前の方が心を痛めろよ」と感じる場面ばかりであり、そんな状況をあれこれと経験してきた上でなお、相手の罪悪感を増幅させようとするような発言ができることも「さすがクズ」という感じだった。

また別の場面では(詳述しないが、その状況そのものも酷かった)、彼は「俺には果たさなければならない義務がある。そして、義務には犠牲が付き物だ」と言って、自分の酷い振る舞いを正当化しようとしていた。この場面もマジでクズ過ぎたなぁ。彼がそれを本心から信じて言っているように見えたのもその印象により拍車を掛けたなと思う。

まあとはとにかく、金の稼ぎ方が酷い。仕組みはよく分からなかったが、友人と他人のフリをして「賭け卓球」の場に潜り込んで大金を巻き上げたり、自分が逃がした犬を不倫相手に見つけたことにして報奨金を得ようと画策したりするのだ。まあ確かに、不倫相手に年収を聞いて「1200ドル」と答えていたので(いやでもさすがに年収としては低すぎるか。月収かな?)、罰金の1500ドルはまともに働いても稼げる金額じゃなかっただろうし、彼は翌週に開かれる日本での選手権に出場しないといけないので、とにかく時間がない。だから焦る気持ちは分かるが、にしたって手段を選ばなすぎだろう。

ただ、「こういう男がモテるんだろうなぁ」という感じもあって、そこはなかなか複雑である。自信満々で、自分の力でなんとかしてやろうみたいな気力に惹かれるんだろうか? 

本作では、ケイ・ストーンという女優とのあーだこーだが結構描かれるのだけど、正直男目線では、「ケイが何故マーティに惹かれるのか?」は理解できなかった。もちろんケイには「夫に対する不満」があっただろうし、その上で、当時23歳だったマーティが魅力的に感じられるというのは分からないではない。長く女優業から離れていて「自分に注目が集まる機会」がなかったからこそ、熱烈なアプローチに絆されたみたいなこともあるだろう。しかしなぁ、それにしたって、それまで全然関わりがなく、突然電話してきて訳わからんことをまくし立ててきた男に、あれほど協力的になる理屈は、僕にはよく分からない。まあ、ケイ自身にもよく分かっていないのかもしれないが。

しかし、一応卓球がメインの映画だし、卓球の試合のシーンもかなりリアルなのだが(エンドウを演じたのは、東京2025デフリンピック卓球男子団体で銅メダルを獲得した川口功人だそうだ)、卓球のシーンが全然ないのは凄い。物語の8割ぐらいが「金策 & トラブル対処」じゃないだろうか。選手権を控えてるのに金策ばっかりしてるから、練習してるシーンも全然出てこない。ってかだから「なんでマーティは卓球強いねん!」みたいな感じもあって、その辺りはもう「なんか強かったんだね」で受け取っておくしかないんだけど。まあもちろんそこには、「卓球はまだマイナースポーツで、アジアでは盛り上がっていたがアメリカでは全然だった」という背景はあるわけだが、それは「マーティが米国代表になれた理由」に過ぎないわけで、選手権に出て他国の選手と闘って勝てちゃうぐらい強いってのはチートな感じがした。

あと、CGなのか何なのか分からないが、マーティを演じたティモシー・シャラメが代役無しでちゃんと卓球をやっているように見えたのも凄いなと思う。「撮影では腕の振りだけ撮って、ボールは後から合成」みたいなことなんかなぁ。よく分からないけど、ティモシー・シャラメがメチャクチャ特訓して相当以上のレベルまで卓球を上達させたとかなら凄いなぁ。

と思って一応調べてみたら、なんとティモシー・シャラメは他の映画に出演しながら7年にも渡って卓球の訓練を積んだらしい。マジかよ。やっぱり役者ってすげぇな。迫力があるわけだ。

というわけで、人間的にはまったく好きになれない、というかメチャクチャ嫌いな人物が主人公だったのだが、とにかく最初から最後までトップスピードで突っ走る作品で、非常に面白かった。しかしホント、メチャクチャクズだった!


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