【映画】「ムガリッツ」感想・レビュー・解説
基本的に変な話、変な人、変な状況は大好きなので、「毎年11月~4月は閉店し、翌シーズンのためのメニュー開発を行う」というイカれ狂った店「ムガリッツ」というだけでなかなか興味深いなと思う。ただ、映画としてはさほど面白くないという感じだったかな。いや、決してつまらないわけではなかったのだけど、「メッチャ面白い!」みたいな感じではない。
オーナーは毎年テーマを発表するのだが、本作で取り上げられているのは「目に見える物」だった。基本的に、与えられるお題はこれだけらしい。ここから半年間掛けて、30品目近く(以上)のメニュー開発を行うというわけだ。
このレストランには「研究開発チーム」と呼ばれる部署があるようで、詳しいシステムは説明されなかったと思うが、「研究開発チームが提示した方向性を、いくつかのチームに分かれた料理人たちが具現化していく」みたいな形なのだと思う。研究開発チームには料理人以外の人も結構いるらしく、サーシャという女性(研究開発チームの議論を先導するような役割の人だった気がする)は、「元記者で政治担当だった」そうだ。畑違いにもほどがあるだろう。
しかし何よりも、「半年休んでメニュー開発を行う」なんて仕組みをビジネスの中で成立させているのが凄いなと思う。もちろん、メニュー開発中はお客さんは来ないわけで、収入はなし。つまり、オープンしている半年間で、1年分のスタッフの給料を得なければならないことになる。さらに、これもイマイチ仕組みは分からないものの、普通に考えれば、オープン期間中に研究開発チームのメンバーがやることはない気がする。まあ、養蜂をしたり畑仕事をしたりしてるシーンもあったので、次に繋がるような新たな動きを各自でやってるのかもしれないけど、にしたって「非効率の極み」みたいな環境だなと思う。よくもまあそんな環境を成り立たせているものだ。
さて、恐らく研究開発チームのメンバーなのだろう、スタッフを前に「創造性」について講義みたいなことをしている場面があった(というか、今後の方針についての話し合いの中で「創造性」についても話していただけだろうが)。その人物は、「創造性を育むために必要なことは、『遊ぶために遊ぶこと』だ」と行っていた。つまり、目的や野心などを持たないで、ただ「遊ぶ」というだけのために遊ぶことによってのみ「創造性」は養われていくというわけだ。
だから、メニュー開発はとにかく自由に行われているようだ。どんな発想も恐らくだが、発想の段階では否定されないのだと思う。誰かが「試食出来るものはとりあえず試食しよう」みたいに言っていたので、「材料が手に入らない」みたいな状況でもない限り、とりあえず一旦作ってみよう、という感じなのだと思う。
で、個人的に印象的だったのは、料理人たちが皆楽しそうに作業をしていたことだ。
時々、シェフの世界のドキュメンタリー的な映像を観ることがあるが、怒鳴られたりするのが当たり前の超厳しい世界だなと感じることが多い。多くの人がそういう印象を持っているんじゃないかと思う。しかし「ムガリッツ」には、どうもそんな雰囲気はなさそうだ。みんな笑いながら、時にはふざけているみたいな感じでメニュー開発をしている。もしかしたら、オープン期間中は厳しくなったりもするのかもしれないが(その辺りの描写は、最後の最後にちょっとあるだけで、実情はよく分からない)、少なくともメニュー開発中はメチャクチャ楽しそうだった。
ホントに発想は自由で、あるチームは、粘土で器を作るところから始めていた。しかも、「ヘソのあるお腹」を模すのだという。しかし、女性が作った器は「膣」にしか見えないという指摘がなされる。で、オーナーを含む面々への試食にも、その「膣型の器」で料理が提供されるのだ。
料理人は試食する面々に、「手を使わずに、顔を器に近づけて舐めるように食べて下さい」という、なかなかあり得ない指示をする。で、その通りにして食べたオーナーは、「これは叩かれるな」と言っていた。要するに「炎上する」みたいな話である。まあ「だからダメ」というわけではなさそうだが、オーナーはまた別の表現として、「詩集のような美しい世界の庭に、突然老女の死体があったら驚くだろう」と、これまで顧客と積み重ねてきた「世界観」とかけ離れていると指摘していた。まあでも、そう口にしたオーナーも、厳しい言い方をしているわけではなく、他のメンバーと笑いながら「いやいや、さすがにこれは~」みたいな雰囲気だった。こういう環境なら、「無謀すぎることでもやってやろう」と思えるだろうし、だからあらゆる人の独創性みたいなものが開花するんだろうな、という気がした。雰囲気としては、凄く良かったなと思う。
また、これも試食の際にオーナーが誰か(ゲスト参加者だと思う)に話していたのだが、「石器時代に人類が食べていた塩生植物を特定した」みたいなことを言っていた。「塩生植物」とは、海の傍で育つ植物らしいが、「ムガリッツ」では様々な文献や学問をさらって「かつて人類が食べていたはずの塩生植物6種類」を特定し、さらに、自生していた植物の栽培に成功した、みたいなことを言っていたのだ。「塩生植物」なんて単語をそもそも初めて聞いたぐらい全然知識はないのだが、そういう「人類史」みたいなものも踏まえつつメニュー開発をしているようで、なかなか壮大な話だなと感じた。
あと、個人的には凄く良いなと感じたシーンなのだけど、恐らくメニューの大枠が決まった後のことなのだろう、ある料理人チームが屋外でミーティングをしている時のことである。どうやらそのチームの料理が本メニューとして採用されたらしいのだが、リーダーらしき人物が、「ここからは我々の料理じゃなくて、みんなの料理になる。だから、誰かが変更を言い出したら、理由に拘らず検討しよう」と言っていたのだ。要するに、これまではチーム対抗だったのが、これからは全員でブラッシュアップする過程になるから、チームのメンバー以外からの苦言とかもちゃんと聞こうね、みたいなことなのだろう。こういうフォロー的なことをちゃんとやっているのは良いなと思うし、才能と才能のぶつかり合いの場だからこそ特に必要だろうなとも感じさせられた。
そんなわけで、映画としてメチャクチャ面白いというわけでなかったけど、「ムガリッツ」という環境はなかなか興味深いと感じさせられた。「料理」という観点ではなく、「クリエイティブが生まれる環境」という捉え方をすると、かなり印象が変わるのではないかと思う。創造性や独創性が必要な組織は、参考に出来る部分があるんじゃないだろうか(まあ、ちょっと特殊な環境すぎるとは思うが)。
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