【映画】「ザ・フー キッズ・アー・オールライト」感想・レビュー・解説

さて、今日は、朝起きて、ポッドキャスト聞いて、文章書いて、展示観て、映画観て、アートムーンナイト下北沢に行って、哲学カフェに行って、今、という感じなので、超忙しかった。まあ、勝手に忙しくしてるだけだけど。

まあそんなわけで、普段なら「映画を観てすぐ感想を書く」のだけど、今日は、観終えてから7時間ぐらい経過している。まあそんなに悪影響はないかなとは思うけど、いつもとちょっと勝手が違うのですすっと書けるかどうか。

さて、いつものごとく、「ザ・フー」のことは何も知らなかった。もちろん観る前の時点で「ロックバンドである」ぐらいのことは知っていたけど、それ以外のことは何も、という感じだった。

で、本作を観る上で、まず1つ勘違いしていたことに触れておこう。

本作は「過去映像のみ」を使用したドキュメンタリー映画である。ドキュメンタリー映画の場合、過去映像だけではなく、存命であれば本人のインタビュー、あるいは本人以外の様々な人のインタビューなどが含まれることが多いだろう。個人的には、本作もそういう作品だと思っていた。

のだけど、本作にはそういう「現在パート」みたいなものはなく、「過去映像のみ」で構成されていた。そんな本作を観ながら、僕は、以前観た映画『プリンセス・ダイアナ』というドキュメンタリー映画のことを思い出した。この映画も、最初から最後まで過去映像のみで構成されていたのだ。どっから見つけてきたんだという映像も多く、例えば「ダイアナ妃の出産を伝えるアナウンスがスーパーの店内に流れている様子」や「ダイアナ妃の事故を伝えるニュース映像をテレビで観ている若者たちの様子」など、個人所有だろう映像も多数繋ぎ合わせながら、過去映像のみでダイアナ妃の生涯を追っていくという構成だった。

本作『ザ・フー キッズ・アー・オールライト』の場合は、ライブやテレビでの演奏シーンなどが多いので、映画『プリンセス・ダイアナ』とはまたちょっと違うテイストなのだが(というか、映画『プリンセス・ダイアナ』が異常なだけだが)、本作も「現在パートを一切用意しない挑戦的な作品なんだ」と思いながら観ていた。

しかしどうもその理解は間違っていたようだ。公式HPによれば、「本作はキース死後の79年、アルバム『四重人格』を原作とした映画『さらば青春の光』と同時公開されたが日本では未公開」とのこと。「78年5月にシェバートン・スタジオで本作のために撮影された、伝説的天才ドラマー、キース・ムーン最後の渾身のパフォーマンス(32歳で他界する3か月前、メンバー全員が死力を尽くした)」の映像も含まれているので、「そりゃあそういう構成になるよね」という感じの作品だった。

というわけで、僕の勘違いの話は終わり。

で、本作は、先程も書いた通り、ライブやテレビでの演奏シーンが多い。僕の体感では、全体の6~7割ぐらいはそういう「演奏シーン」だったと思う。なので、「ザ・フー」を知らない僕のような人間には、ちょっと向かない作品だったなと思う(本作鑑賞後に客席から拍手が上がっていて、恐らくザ・フーの熱狂的なファンなんだろうなと思う)。

しかし、残りの3~4割は、メンバーへのインタビューやテレビ出演次のトークなどであり、個人的にはそちらのパートが結構楽しめたので、最終的には「まあ面白かったか」という感じにはなれたかな。

さて、「ザ・フー」については何も知らなかったので、本作中に収録されている映像の中で、「ギターやアンプをぶっ壊している」みたいなシーンが多くあり、驚いた。どうやら「ザ・フー」は、そういう「過激なパフォーマンス」で注目されるようになったバンドだったようだ。

ただもちろんこれは諸刃の剣でもある。「ザ・フー」では、ギターのピートがバンドマスター的な存在(リーダーであり、作詞作曲も行う)らしいのだが、そのピートが、自らが行っている「ギターやアンプを壊す」というパフォーマンスについて言及する場面があった。

『ある時ギターを壊さないでいたら、「ピート、ギターを壊せよ!」みたいに言われたんだ。客が金を払うのは、俺がギターを壊すのがみたいからなんだ』

他にも、「女の子の興味はファッションで、だから奇抜な衣装にしている」「このバンドには魅力が少ないから、ファッションや物を壊すパフォーマンスで惹きつけているんだ」みたいなことも言っていた。彼らはそもそも、自分たちを「ポップアート」と捉えているようで、「ポップ音楽は現代芸術に必要不可欠だから、自分たちは芸術であり続けなければならない」みたいなことも言っていたのである。なかなか面白い発想のロックバンドだなと思う。

さらに、「曲作り」に関するこんな言及もあった。ピートがマスコミらしき人からインタビューを受けている白黒の映像が出てくるのだが、その中で、たぶん同時代に活躍していたのだろう、同じイギリス出身のビートルズと比較して、「ビートルズの曲の質は高いですよね?」みたいなことを質問している人がいた(凄いこと聞くなと思った)。そしてそれにピートは、「質からは距離を取る方がいいと思ってるんだ」みたいな言い方をしていたのである。これもなかなか面白い表現だったなと思う。

ただこの点に関しては、ピートの(あるいは「ザ・フー」の)「観客」に対する不満みたいなものも含まれているようだ。

ピートはある場面で、「ライブでの音が大きいのには理由があるんだ。客は曲の良し悪しなんか分からないんだから。だからデカい音を出して耳を塞がせるんだ」みたいなことを言っていた。少なくともピートは、自分たちの曲を聞いてくれる人の「耳」を全然信用していないようで、別の場面でも、「努力したって、多くの客には曲の良さは理解されない」といい切っていたぐらいだ。なかなかムチャクチャなことを言うなと思う。

そんなわけで彼らは「ステージ上で大騒ぎ」をして、そのパフォーマンス性みたいなもので人気を得ようという方向に進むのである。僕には、彼らの音楽的な良さのことは別に分からないが、Wikipediaには「イギリスのロックバンド。ビートルズ、ローリング・ストーンズと並んで、イギリスの3大ロックバンドの一つに挙げられる」と書かれているし、音楽性もきっと評価されているのだろう。そしてその上で、「音楽じゃない部分を尖らせてのし上がっていく」みたいなやり方をしたというわけだ。相当変わったバンドだなと思う。

ただやはり、思うところは色々とあったようだ。これもピートの発言だが、メンバーに向かって「このまま見世物で居続けていいのか考えないと」と主張したり、あるいはインタビューの中で「限界だと悟った。行き着くところまで来てしまったんだ」みたいな話をしており、自分たちが始めたやり方が行き止まってしまったと認識していたようである。

しかし、また別の文脈での話だったが、「ファンから『止めるな』みたいなことを言われる」みたいなことも言っていた。要するに、「今まで続けてきたことは、そのままやってくれ。それでこそ『ザ・フー』なんだ」みたいなファンの声が結構あったというわけだ。ファンから「定番を無くすな」「続けなければ多くの若者が生きる意味を失う」などのように言われると、悩みを告白するようなテンション(に見えた)で話していた。まあ確かに、ファンの心理としては、「『自分が良いと思ったザ・フー』こそがザ・フー」なわけで、「そうであってほしい」という気持ちを持つのも当然だろう。これは、人前に出る仕事をするすべての人が等しく感じている問題だろうと思うが、特に「ザ・フー」は「他とは違ったことをやりたい」と思って始めたことが色々あるだろうから、余計に難しいだろうなと感じた。

ギターやアンプを壊したりするのは、最初は「誰もやっていなかったこと」で、だから彼らは「やりたくてやっていた」のだと思う。しかししばらくすると、「それが『ザ・フー』である」みたいなシンボル的な行為とみなされてしまった。だから、本来は「やらなくてもいいのにやっている」ということ自体に価値があった(少なくともメンバーにとっては)のに、やがて「やらなければダメなものをみなされているからやっている」というものに転換されてしまい、それは「ザ・フー」のスタイルとしては真逆だから悩ましかっただろうな、と思う。まさに「自縄自縛」という感じだろうか。

そして、このような「ザ・フー」の(というか、主にピートの)葛藤が映し出されることで、本作の6~7割を占める演奏パートの見え方も変わってきた。最初は「知らないバンドが知らない歌を歌いながら、ギターとかアンプをぶっ壊してるだけ」でしかなかったのだが、次第に「『客を信用せず、質から遠ざかり、パフォーマンスやファッションで惹きつけ、そしてそれ故に一層客を信用しなくなる』という意味不明な悪循環を自ら選択した奇妙なロックバンドが、あらゆる『大きなもの』に絡め取られそうになりながら、それでもこの一瞬の
ために全力でライブをしている」みたいに見えてくるようになったのだ。だから、冒頭からしばらくは、ライブ映像は正直つまらなかったのだけど、後半になるにつれて、メタ的な視点からちょっと面白く感じられるようになったなと思う。

まあそんなわけで、正直なところ、「ザ・フー」を知らない人にはオススメ出来ないドキュメンタリー映画ではあるのだけど、とはいえ、僕のように感じる人もいるだろうから、観てみても面白いかもしれないとは思う。観れば観るほど変なバンドで、この記事ではピートの話ばかりしたが、そのピートが、「ベースは常に無関心だし、ボーカルはふざけることなら全力でやる、そしてドラムは超絶的な変人だ」みたいに言っていて、よくもこんな4人がまとまって1つの活動を行えているものだなと感じさせるほどだった。最終的には「なかなか面白いドキュメンタリー映画だったな」と思えて良かったという感じである。


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