【映画】「KNEECAP/ニーキャップ」感想・レビュー・解説

さて、本日2本目の映画。というか、順番的にはこっちを先に観たのだけど。

まず先に、エンドロールを観ながら「?」と思った話に触れよう。

本作のエンドロールは、「実際の映像を背景」にして展開される。本作は、「ニーキャップ」という3人組のラップユニットの半自伝的映画であり、彼らの実際のライブ映像が流れつつエンドロールが進んでいくのだ。

で、その映像を観ながら僕は「あれ?」と思った。どう観ても、本作でニーキャップの3人を演じている人と同じなのだ。だから僕は、「もしかしてこれは、実際のライブ映像とかじゃなく、映画のメイキングだったりするのか?」とか思いながら帰路についた。

のだけど、公式HPを読んでようやく理解できた。本作はなんと、ニーキャップの3人が本人役として出演している映画なのだそうだ。そういう映画を観たのは3回目かな。最初は『15時17分、パリ行き』、そして次が『THE CAVE ザ・ケイブ レスキューダイバー決死の18日間』である。ただ、先に挙げた2作品は「一般人が本人役で出演した」のに対して、本作『KNEECAP/ニーキャップ』では、アイルランド発で世界的に注目されているラップユニットのメンバーが本人役で出演しているので、ちょっと状況は違うかもしれないが。

いやしかし、変な映画だったなぁ。というのも本作の背景には、「アイルランド語の復権」という、北アイルランドで盛んに行われていたある運動が関係しているようだからだ。「ラップ」と「アイルランド語の復権」がどう繋がるんだよって話で、まあその辺りは本作を観ても分かったような分からないようなという感じなのだが、とにかく「ニーキャップ」というのは「ある種『時代』が生み出したヒーロー」みたいなところがあるようなのだ。

しかしそんな「ニーキャップ」のメンバーの内2人は麻薬の売人だったりするわけで、だからこそ話が余計ややこしくなったりもするわけだけど、まあとりあえず僕が理解できた範囲で内容を紹介してみようと思う。ちなみに、始まってしばらくしてから少しの間睡魔に勝てない時間があったので、少し物語が飛んでいる箇所がある。まあ、なんとなく理解しているつもりではあるが。

舞台となるのは、北アイルランドのベルファストという地域。生まれたばかりのニーシャは、父親アーロの思いつきで「巨石の上で洗礼を行う」ために、神父らと共に森を歩いていた。しかし警察がこれをIRA集会と勘違いし、上空に警察のヘリがやってきてしまった。ニーシャは、生まれた直後から警察と対峙する運命にあったようである。ちなみにアーロは、「イギリスが作ったものを爆破し続けて逃走、3年逃げ続けた末に漁船から落ちて死んだ」とされているのだが、未だに死体は見つかっておらず、「死んでる説」と「生きてる説」が混在するややこしい人物でもある。

さて、そんなニーシャは、幼馴染のリーアムと共に麻薬のディラーをしていたのだが、ニーシャは麻薬取引で警察に捕まってしまう。しかし彼はアイルランド語のネイティブであり、警察の取り調べに対し頑なに英語を話そうとしない。

そしてその取り調べに呼ばれたのが、音楽教師であり、後にニーキャップのDJとして活躍するJJだった。彼はアイルランド語の復権のために妻と共に活動をしていた。具体的には「アイルランド語法」の成立を目指していたのである。要するに、「母語であるアイルランド語を守ろう」という法律のようである。

さて、そんな法律の制定を目指そうとする背景についてははっきりとは分からなかったものの、本作で提示される状況と僕の推測を含めてなんとなくその背景を説明してみよう。

まずは「イギリス」の正式名称から。正式には「グレートブリテン及び北アイルランド連合王国」となる。そしてここに「北アイルランド」が残っている通り、「ニーキャップ」の拠点である北アイルランドはイギリスを構成する一部と言えるだろう。イギリスは「イングランド」「スコットランド」「ウェールズ」「北アイルランド」の4つの国から構成されているようで、それぞれが独自の文化、法律、言語を持っているそうだ。

そんな北アイルランドの母語は当然「アイルランド語」なのだが、母語であるはずのこの言語は現在、話者が極端に減っているそうだ。作中では、「アイルランド語の話者は世界で8万人、その内6000人が北アイルランドに住んでいる」みたいな説明がなされていたと思う。北アイルランドの人口は190万人ぐらいいるそうで、そう考えると「アイルランド語話者」の数の少なさが理解できるだろう。「北アイルランドに住むほとんどの人がアイルランド語を話していない」ことになる(日常会話はほぼ英語のようだ)。

しかし学校では、今もアイルランド語を教えているようである。JJが勤務する学校で、音楽教師であるJJは何故かアイルランド語の代講を行っていたのだが、しかし生徒たちは全然やる気がない。それもそのはずで、テキストの例文があまりにも古いのだ。そりゃあ「アイルランド語を学ぼう」なんて気にはなれないだろう。周りで喋ってる人もほとんどいないし。

ただ一部には、「母語なんだからアイルランド語の権利をちゃんと守るべきだ」と主張する人もいて、そういう人たちが中心となって「アイルランド語法」の制定を目指している。しかし政治家も全然やる気がない。話者があまりにも少ないのだから、「そんな言語のことは後回しにしてもっと重大なことを議論しなくては」という感じなのである。まあその気持ちも分からないではない。確かに、190万人の住民の内6000人しか日常的に使っていない言語のことを考えるのは、無駄な気がしてしまう。

まあそんな背景の中で、「母語なんだからちゃんと守ろう」という活動をしていたのがJJであり、そんなJJが警察の取調室で出会ったのがニーシャである。そして、警察が押収したニーシャの手帳に、アイルランド語で書かれた歌詞を見つけたJJは、その才能を見込んで「アイルランド語のラップ」を始めることにしたのである。

とはいえ、教師であるJJは顔バレするわけにはいかない。そこでニットの覆面帽を被り身バレしないように活動することにした。

初めは全然注目されなかった「ニーキャップ」だったが、普段アイルランド語を使わない若者を中心に彼らのラップが広まり始める。しかしその歌詞は過激で、さらにニーシャとリーアムは麻薬の売人でもあったため、ニーキャップは常に警察からマークされる存在でもあった。

やがて「アイルランド語でラップをするニーキャップ」は、「アイルランド語復権」の象徴的な存在として認められるようになり、そしてなんと、「ニーキャップ」の影響がどの程度あったのか不明だが、アイルランドでは2022年に「アイルランド語法」が制定されたのである。

そんなハチャメチャな来歴を本人主演で描き出す、半自伝的映画である(どの程度フィクションが混じってるのかはまったく分からないが)。

しかし、本人たちにどこまでその動機があったのかは不明だが、結果的には「ニーキャップがアイルランド語でラップをし続けていることで、アイルランド語が消滅言語にならずに済んでいる」みたいな可能性はあるんじゃないかと思う。全然知らなかったが、「ニーキャップ」は世界的にかなり注目されているようで、アイルランド以外の国にもその影響が広がっているみたいである。恐らく「日本人が洋楽を聴く」みたいなのと同じような感じで「英語圏の人がアイルランド語のラップを聴く」みたいな状況なのだと思うが、洋楽から英語を学ぼうと思う人がいるように、あるいは日本のアニメを観て日本語を学ぼうとする人がいるように、「ニーキャップ」のラップを聞いてアイルランド語を学ぼうとする人が出てきても全然おかしくはないだろう。

しかし何にせよ、個人的には、教師のJJがとにかくヤバいなと思う。ニーシャとリーアムは、「ヤバいラップ」を歌ったところで失うものなど何もないが、JJはバレたら教職ではいられないだろう(しかし面白いことに本作では、ニーシャとリーアムがJJに向かって、「お前は趣味だろうけど、俺たちは人生かかってるんだ」と真逆のことを言っていた)。実際に彼は、「ニーキャップ」のメンバーであることがバレて教師をクビになっている。まあそりゃあそうだろう。アイルランド語の歌詞がなかなかえげつないからなぁ(ラップとしては別によくある感じかもしれないが)。

結果的には「ニーキャップ」として名を知られる存在になれたから良かったものの、全然そんな風には進まなかった可能性もあるわけで、結局JJが一番ギャンブラーだよな、と思ったりした。

まあそんなわけで、メチャクチャ面白かったというわけではないのだけど、スピードとノリで爆走する感じは良かったし、おちゃらけた物語の背景に「アイルランド語の復権」なんて真面目なテーマが潜んでいる感じも凄く良かった。しかし、変な映画だったなぁ。

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