【映画】「爆弾」感想・レビュー・解説
なかなか面白い作品だった。本作は、物語そのものというよりは、「密室での心理バトル」みたいな部分にかなり全振りして映画化したのが良かったんじゃないかなという感じはする。しかしこれ、佐藤二朗が怪演過ぎるから、「小説で読んで面白いのか?」って感じちゃうなぁ。まあ、原作小説もミステリ作品として評価されてるっぽいから、原作では、佐藤二朗が演じた「スズキタゴサク」ではなく、もっと「ストーリー」に焦点が当たっているのかもしれないけど。そうだとしたら余計、映画で「心理戦」をメインにしたのは正解だなという感じはする。
物語は、1人の酔っ払いが酒屋の自販機を蹴飛ばし、店主を殴った現行犯で逮捕されるところから始まる。21時半頃のことだ。取調室で男は「スズキタゴサク」と名乗った。ネットで調べると、これはかつて「身元不明の遺体」に付けられた名前だそうで、つまり警察からすれば「明らかな偽名」だった。しかし男は本名だと主張、しかも「住所は忘れてしまった」などとふざけたことを主張する。
最初に取り調べた野方署の刑事・等々力は、「酒屋の店主は、自販機の修理代と治療費を出せば大事にはしない」と言っていると伝え、「10万ぐらい包めばいいんじゃないか」とアドバイスする。しかしスズキタゴサクは「10万円なんて、逆立ちしても出ません」と嘆く。そこで彼は、「刑事さんのお役に立ちますんで、それで被害者の方を説得して下さい」と訳のわからないことを言い始めた。
男は続ける。自分は霊感があり、事件の匂いが分かるのだ、と。等々力はもちろん本気になどしていなかったが、スズキタゴサクが言う通り、22時ちょうどに秋葉原で爆発が起こったことで、野方署は俄に騒がしくなる。警視庁からも応援がやってくることになった。
そんなわけで、すぐにやってきた警視庁強行犯捜査係の清宮が取り調べを担当することになった。等々力は防犯カメラの捜査に回された。
スズキタゴサクは清宮に、「9つの尻尾」という謎のゲームを仕掛ける。9個の質問に答えれば、あなたの「心の形」が分かるというのだ。清宮は、未だ身元さえ分からないままのスズキタゴサクの糸口を探るため、このゲームに乗る。
しかしその間にも、スズキタゴサクがチラリと覗かせるヒントの通りに都内で爆発が続き……。
というような話です。
まずストーリー的な話で言えば、「なかなかよく出来てるな」という感じだった。スズキタゴサクの動機や正体はもちろん、その背後で関わる様々な人間関係がなかなか奇妙なもので、そしてそれ故に「スズキタゴサク」という存在感が割とリアル寄りになっている感じもする。佐藤二朗の演技は見事だったので、スズキタゴサクだけでも全然「本当にこういう人いそうだな」という雰囲気にはなるのだが、さらにその背景が上積みされることで、より一層スズキタゴサクの輪郭が濃くなるような感じがした。
特に、個人的に「よくもまあ、こんなトンチキな設定を組み込んだな」と感じたのが、野方署の刑事だった長谷部有孔である。正直なところ、「その設定、必然性あるんか?」と感じるような人物ではあるのだが、個人的には不思議と違和感を抱かなかった。作品全体に、この長谷部の「異様さ」が上手く溶け込んでいる感じがあるなと思う。スズキタゴサクはとにかく奇妙な存在なわけだが、長谷部や彼の周りの人物にいる人物を描き出すことで、「警察側も奇妙である」という打ち出し方になり、そのお陰で「奇妙 VS 奇妙」みたいなやり取りに違和感がなくなっていく。「正義 VS 奇妙」みたいな対立関係だったら、たぶんあまり面白くならなかった気がするのだが、「警察側の奇妙さ」がちゃんと打ち出されていたことで、「類家(山田裕貴) VS スズキタゴサク(佐藤二朗)」のバトルがきちんと成立していたなと思う。
あと、後半で明らかになる「爆弾の設置場所」もなるほどという感じだった。「誰にでも出来るわけではないが、出来る人には容易に出来る」という意味でリアリティがあるなと感じたし、「これって結構現実的な脅威なんじゃない?」みたいにも感じた。
取調室でのやり取りをメインにしたことで、「爆破事件の捜査」の方はかなり簡略化された描かれ方だった気もするが(とはいえ、スズキタゴサクの身元が不明な以上、捜査らしい捜査が行えないというのもまた事実ではある)、個人的にはその点に不満はない。そりゃあ、前後編とかにするならもっと捜査の方も描けただろうが、今の時点で137分という割と長い尺の映画なので、「捜査の方を切って、取調室をメインにする」という判断は、個人的には正しかった気がする。
というわけで、ストーリーがつまらないわけでは決してないのだが、ストーリー的な部分にあまり重きを置かずに観るのがいいんじゃないかなと思う。
で、やはり本作は、佐藤二朗演じるスズキタゴサクが取調室で暴れまわる部分がメインになるだろう。「暴れまわる」と書いたが、別に暴力的に振る舞うわけではない。彼は、言葉で刑事たちを翻弄していくのである。
先程も触れたが、警察は目の前にいるスズキタゴサクについて何の情報も得られていないので、爆破事件の捜査も含め、すべての情報は「スズキタゴサクの口から語られることのみ」をベースにするしかない。まずこの点が、本作の特異な部分だろう。普通は、身元が割れ、親族や勤務先などを当たって色々情報を集めるものだが、本作ではそういうことが出来ない。だから、スズキタゴサクが口にする言葉から、スズキタゴサクの過去や爆弾の在り処を推測するしかないのである。
それ故に、警察側は、通常イメージするような「高圧的、威圧的、暴力的な取り調べ」を行うことが出来ない。出来ることは、「無関係だろうことをひたすら喋り倒すスズキタゴサクに適切にボールを投げ、少しでも多くの情報を引き出すこと」ぐらいである。
しかも、当然警察は、「いつまで爆破事件が続くのか」も分からない。「もう爆破事件は起こらない」と確証が持てればスズキタゴサクへの扱いを変えようもあるが、そんなことにはならない。
そんなわけで、取り調べの主導権を警察側が握ることは出来る、スズキタゴサクのペースでやり取りが進んでいくのである。
そしてこのスズキタゴサクが、まあとにかく喋る喋る。しかも、どーでもいいようなことばかり。脱線に次ぐ脱線という感じの話をペラペラと喋り倒すのだが、しかし後から振り返ってみると、「あの時話していたあれもヒントだったのか」みたいになる。テキトーに喋っているように見えて、ちゃんと考えられているのだ。
しかしスズキタゴサクは、そういう「知性」的な部分を巧みに隠す。アホなフリをしているのかどうかよく分からないが、議論で相手に勝とうみたいな意識ではなく、今この場の状況をかき乱そうみたいな動機で喋り続けている感じがする。暖簾に腕押し、糠に釘、みたいな慣用句が浮かぶような状況であり、なかなか狂気的な振る舞いだった。しかしそれでいて、「こういう人、実際にいてもおかしくないよなぁ」という雰囲気も感じさせるわけで、まさにその印象は佐藤二朗の怪演によるものだなと思う。いやホント、佐藤二朗は絶妙だったなぁ。
ただ個人的には、前半よりも後半の方のやり取りの方が面白かったなと思う。
前半では、類家ではなく清宮(渡部篤郎)が取り調べを担当していたこともあり、「爆弾の在処はどこか」みたいな部分に焦点が当たっていた。スズキタゴサクも、訳のわからない話を色々と繰り出しつつ、全体としては「君たち、僕が出したヒントから爆弾の場所にたどり着けるかな?」みたいなゲームを仕掛けている感じだったと言っていいだろう。もちろんそれも面白かったのだが、やはり、類家(山田裕貴)に変わってからのやり取りの方が面白い。
類家は、スズキタゴサクに負けず劣らず変わった人物で、例えば分かりやすいところで言えば、スズキタゴサクから「刑事さんは人を殺したいと思ったことはないんですか?」と聞かれて「あるに決まってるだろ」と返したりしていた。類家もまた、「常識的にはこうするだろう」みたいな言動から外れている感じがあり、「化け物 VS 化け物」みたいな感じがとても良い。
そして取り調べ官が類家に変わってからのスズキタゴサクは、類家のことを見透かすような発言を繰り返すことになる。「見透かす」というのはちょっと違うかな。例えば、「世の中の人間を馬鹿だと思いながら生きてるでしょう?」みたいなことを言うのである。類家は実に頭がキレる人物で、そういう振る舞いを見ての発言である。そしてその過程で、何となくだが、類家とスズキタゴサクの間に「ある種の一体感」みたいなものが見て取れるような気もしてくる。スズキタゴサクも、「何もないような自分と、メチャクチャ頭の良いあなたは、実は同じ結論に達するんじゃないですか?」みたいなことを言っていた。
しかしその一方で、明白な違いも浮き彫りになる。そしてそれが最も如実に表れていたのが、このセリフだろう。
【何かを壊すことなんて誰だって出来る。だからそんなことはつまらない。そして、何かを壊すのを阻止する方が難しい。だから俺は、そこで留まる。】
これが類家の本心なのか、あるいは「お前は易きに流れたな」とスズキタゴサクを挑発するための言葉だったのか、それはなんとも分からないが、本心であってもおかしくはないセリフであり、なかなか興味深い。
他にも、類家とスズキタゴサクが接点を持ちそうで、しかしはっきりとした理由によってそこに線が引かれる、みたいなやり取りが繰り返されていくことになる。その辺りのやり取りが、本作の一番の見どころじゃないかなという感じがした。
さて、先程の類家の表現に少し寄せるなら、「狂気を狂気として描くのは簡単だが、リアルな存在として描くのは難しい」となるだろうか。いくらでも「気が狂った人間」を描写することは出来るだろうが、「そんな人物が、自分のすぐ近くにいるかもしれない」と実感させるのは相当難しいと思う。そして本作では、その困難さを、主に佐藤二朗の演技によって乗り越えている感じがあって、圧倒させられてしまった。凄いもんだ。
あともちろん、そんな佐藤二朗と対峙する山田裕貴もかなりの存在感で、良い演技するなぁ、と思う。さすが、カメレオン俳優と言われるだけのことはある。
ミステリとしてちゃんと成立してるのかはなんとも言えないが、それはそれとして、取調室でのやり取りがとても面白いので、それで全然成立しちゃう作品かなという感じだった。っていうか、佐藤二朗が成立させてるよなぁ。ホント素晴らしかった。
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