【映画】「キムズビデオ」感想・レビュー・解説

いやー、これは凄い! 久々に超ド級のドキュメンタリー映画を観たな。いや、「超ド級」というのはちょっと違うか。別にスケールが大きいとか、テーマが高尚とかそういうことじゃない。ただ、「うえぇ、そんなんアリなん???」みたいなムチャクチャな展開を見せる作品で、「すげぇ、これがマジで実際にあった出来事なんか」と思った。

ちなみにまず書いておくと、本作の公式HPは、もちろん”敢えて”だろうけど、「昔のHP風」になっていて、それも面白い。トップページには「あなたは◯◯人目の訪問者です」というカウンターがあり、「キリ番ゲットした方は~」なんてことも書かれている(キリ番なんて現代人には通じないだろうなぁ)。

さて、そんなわけでまず、本作の「核心」的な部分(どこを「核心」と感じるかは人によるかもしれないが)に触れておこう。普段の僕の基準でも、これを書くのは「ネタバレ」なのだが(ただ公式HPにはその詳細が書かれている)、本作の「ぶっ飛び」っぷりを説明するにはこの点に触れないわけにはいかないので仕方ない。この事実を知っても本作を観る上での面白さは対して減らないと思うが、「知らずに観たい」という方はここで僕の文章を読むのを止めてほしい。

というわけで、その説明のためにまずは、ざっくり「キムズビデオ」について説明する必要があるだろう。「キムズビデオ」はかつてNYに存在したレンタルビデオ店で、「伝説の店」と言われた場所である。しかし、映画が配信に切り替わり、時代の流れには勝てずに閉店した。しかし、「半端なかった」と言われる品揃えを散逸させるのは惜しい。そこで、オーナーだったヨンマン・キム(本作の字幕ではこうなってたけど、公式HPにはキム・ヨンマンと書かれている)は「コレクションの譲渡先」を公募で決定することにした。

そして色んなことを検討した結果、キムはイタリアシチリア島のサレーミ市(映画『ゴッド・ファーザー』の舞台から60kmほどの距離らしい)にコレクションを譲渡することに決めたのである。色々条件はあったようだが、その中には「元会員がサレーミ市のキムズビデオを訪れた際には、その建物に宿泊できる」みたいなものもあったという。そういう条件をすべて呑んでくれたため、キムはサレーミ市に譲渡を決めたそうだ。

しかしそれから10年経っても、キムズビデオのコレクションは一般公開されないまま死蔵されている。

で、ここからが「ネタバレ」的な話だが、キムズビデオの元会員であり本作の監督であるデイヴィッド・レッドモンはなんと、「映画撮影と偽ってキムズビデオのコレクションが置かれている倉庫に侵入、そしてコレクションを強奪してNYに持ち帰る」ことにしたのである。これは別に、計画倒れで終わったとかそういう話ではない。彼は実際にそれを成し遂げたのだ。なんと、その強奪の様子もカメラに収めている。明らかに100%犯罪行為である。

という、ムチャクチャな話なのだ……と思っていたのだけど、公式HPにはこんな風に書かれている。

【前半はドキュメンタリーだが、途中からはふたりの監督と映画の“精霊”たちによって、ある種の意図的な創作物語へと発展していく。】

ふむ、これはどういうことだろう? 映画後半の「奪還作戦」はフィクションってことなんだろうか? うーむ、分からない。分からないが、ただ経緯はともかく、「監督らがコレクションを取り戻し、ニューヨークで再びレンタルできる状態にした」ことは確かである。仮に「強奪」をしていないにせよ、「イタリアにあったコレクションをニューヨークに戻す」というのは相当大変だったはずだ(これは決して「輸送」の話ではなく「交渉」の話である)。

本作の予告編は映画館で何度も観たのだが、正直、「何だこの内容?」と思うようなふざけ倒した予告だった。全然、内容が理解できない。ただ、映画を観てみて、そんな予告編になった理由が分かった。本編がイカれ倒していたからだ。そりゃあ、そんな映画の予告編を作るとしたら、イカれたものになるよなぁ。

しかし凄いのは、イカれた映画であることは確かなのだけど、同時に「映画愛」が死ぬほど伝わってくる。というのも本作には、様々な映画からの膨大な引用がなされているからだ。それは、監督の心情や行動をトレースしたもの(というか、それは逆で、映画のシーンを監督がトレースしたのだと思うが)になっており、「現実の状況になるべく合った映画のワンシーン」を膨大な映画の中から探し出してツギハギしているのである。しかも、キムズビデオの薫陶を受けた監督であり、だから引用している映画はメチャクチャマイナーなものばかりだと思う(僕はまったく映画に詳しくないので何とも言えないが、引用していた映画の中で有名なのは数本ぐらいじゃないだろうか。僕が分かったのは『市民ケーン』ぐらいだったが)。

まあそんなわけで、何がドキュメンタリーで何がフィクションなのかよく分からないが、まあ仮に途中のプロセスがフィクションだとしても面白かったことは間違いないし、「伝説のコレクションがニューヨークに戻った」という事実は素晴らしいんじゃないかと思う。

というわけで、もう少し本作で描かれるキムズビデオの話をしたいと思う。

キムズビデオは1987年に韓国人のヨンマン・キムが作った。元々はクリーニング店の一角でレンタルを行っていただけだったが、あまりにも盛況になり、レンタル一本に方向転換したのだそうだ。確か7店舗支店があったようで、その品揃えは凄まじかったという。特に8丁目にあった支店は別格だったそうだ。

店内には海賊版のビデオも置かれていた。時折、警察だかなんだかが店にやってきて、レジ前に堂々と置かれている海賊版をすべて袋に入れて持っていってしまうのだが、一週間もするとキムが再び海賊版を仕入れて店に並べたという。また、各国の大使館を通じて44ヶ国本国でしか流通していない映画を勝手にダビングして店に並べていたそうだ。もちろん、当時の法律でも違法だっただろう。

さらに、当時ほとんどソフト化されていなかったゴダールの『映画史』という映画を(もちろん勝手に)レンタルしていたことで、ゴダール側から差し止め通告が届いたこともあった。この件ではFBIも捜査にやってきたそうだ。

「コーエン兄弟が延滞金600ドルを滞納している」という話は作中何度も出てくるし、また映画では語られなかったが、公式HPには「トッド・フィリップス、アレックス・ロス・ペリー、ショーン・プライス・ウィリアムズなどの監督が当時スタッフとして働いていた」とも書かれている。キムは何故かタランティーノと仲が良かったようだし、キムズビデオには25万人というとんでもない会員がいたそうだ。まあ、「伝説」と呼ばれるのも理解できるだろう。

しかしやはり時代の流れには逆らえず、キムズビデオも閉店することになった。2008年だったそうだ。以前、こちらもニューヨークにあった伝説的なレコードショップ「アザー・ミュージック」のドキュメンタリー映画を観たことがあるが、「アザー・ミュージック」は2016年閉店だそうだ。なんとなく、音楽のサブスクの方が早く広まった印象があるが、結果的にはキムズビデオの方が早く閉店したことになる。ただ、作中で使われていた映像の中で、キムが「映画はいずれコンピュータで観れるようになる」みたいなことを言っているものがあったので、もしかしたら、先々の時代の変化を踏まえつつ早めに閉店という判断をしたのかもしれない。

まあいずれにせよ、キムズビデオは閉店の道を選んだ。しかしやはり、「伝説」と呼ばれたコレクションを散逸させるのは惜しい。そこでキムは公募で、コレクションを引き取ってくれるところを募集したのだ。40以上の応募があったそうだが、その中から彼はシチリア島のサレーミ市を選んだ。決め手が何だったのかよく分からないが、「元会員が訪れた場合の対応」などの条件を呑んでくれたことも大きかったのだろう。

さて、ここまでが、キムズビデオに関わっていた人なら知っていて当然の事態の推移である。そして、ここからが、本作ドキュメンタリーでの取材によって明らかになった事実ということになる。

元会員である監督は、サレーミ市へと向かった。通訳も付けずに単身乗り込んだようだ(本作ドキュメンタリーの撮影に当たって監督は、事前情報一切なしでカメラを回し始めたらしい)。観光案内所でキムズビデオのコレクションが置かれているらしい「セントロ・キム」を尋ねるも、英語が通じず苦戦、まあ色々あってようやくその建物まで辿り着いたものの、「閉館」のようだった。というか、監督はイタリア語が分からなかったから後で知ったのだろうが、観光案内所で若い職員が「あそこは一般公開してない」みたいなことを話していた。そう、その通り、サレーミ市はキムズビデオのコレクションを受け取ったものの、そのまま死蔵させているのである。

どうしてそんなことになっているのか。監督はここから本格的に調査を開始する。

サレーミ市にキムズビデオのコレクションをという話は、当時のサレーミ市の市長であるズガルビの発案だったようだ(ちょっとこの辺りちゃんと把握できていないが、市から委託を受けてある社会学者がキムズビデオにコンタクトを取り、最終的に譲渡が決定した、みたいな流れのようだ)。サレーミ市が1968年に起こった地震によって壊滅的な被害を受けていたこと、そのためその復興となるような事業が求められていたこと、ミラノ(だかローマだか)で失敗したせいでサレーミ市の市長になったズガルビには返り咲くための手土産がほしかったことなどなど様々な思惑があり、ズガルビはサレーミ市に「芸術の街」を作ろうと目論んでいたそうなのだ。そしてその目玉として、キムズビデオのコレクションが欲しかったということのようだ。

本作には、キムズビデオのコレクションがサレーミ市に届いた際の様子を記録した映像も使われているのだが、市民は大熱狂していた。連日報道されるほど、関心が高かったという。そして正直なところ、それこそがズガルビの求めることだったようだ。作中では、「ズガルビは、コレクションが手に入りさえすればそれで良かった」と説明があったと思う。要するに、「『キムズビデオのコレクションを手に入れた』という実績と、それに熱狂する市民の姿さえあれば、それ以上のことはどうでもいい」ということだろう。この点は、コレクションが死蔵されてしまった理由の1つだと思う。

しかしどうやらそれだけではないようだ。

監督は、「マフィア撲滅委員会」みたいな組織のファルコという人物にコンタクトを取った。そして彼によると、サレーミ市は長年マフィアとの繋がりが噂されていたそうなのだ。その中心人物がジャンマリナーロであり、そしてこのジャンマリナーロは、ズガルビが市長だった頃ずっと一緒にいた人物だったのだ。当然、ズガルビにもマフィアとの繋がりが疑われていた。

作中に登場したジャーナリストは確か、「ズガルビの議会にはジャンマリナーロが介入していた」みたいな話をしていたと思う。つまり、市長であるズガルビの決定の背後にはジャンマリナーロがいて、そしてその背後にはマフィアがいたはず、という構図が存在したらしいのだ。キムズビデオのコレクションをサレーミ市に持ってくるという話も、もしかしたらマフィアが絡んだ話だったかもしれない(結局その話は確定しないまま本作は終わるのだが)。そしてそういう事情もあるのだろう、コレクションは湿気の管理もなされていない倉庫に死蔵され、ただ朽ちていくだけみたいな状態に置かれているのである。

「そんなことは許せない」と、監督は考えた。

監督は、砂漠の小さな町で生まれたそうだ。映画『パリ、テキサス』の舞台が近いという。6歳の時に両親が離婚(だったか死別だったか)した際に祖父母に預けられたことが映画との出会いだったという。昔から空想と現実の区別がつかなくなるタイプで、映画の世界のことが現実に感じられることもあったそうだ。

「田舎で映画と言ったらウォルマート」だったとかで、15歳でレンタルショップでバイトを始める。しかしある日店長から、「ゴミ箱にこれがあった」とビデオを見せられたという。つまり店長は、「後で盗もうと思ってゴミ箱に捨てた」と考えたのである。口論の末監督が負け、「二度と戻って来るな」と言われたという。

それから何年かしてニューヨークに住むようになったんだったかな、その時に映画を探していて色んな人に聞いていたら、「キムズビデオを知らないの?」と鼻で笑われたとか。そうやって知ったキムズビデオはまさに魔窟みたいな場所で、「初めて居場所が見つかった気がした」と感じられたそうだ。

そんな監督にとって「キムズビデオのコレクション」はある種「人生」みたいなものであり、そしてそれが遠いイタリアの地で適当に放置されている状況に我慢ならなかったのである。

まあ、だからと言って「強奪しよう!」というのはムチャクチャな話に思えるが、ただ、本作での描かれ方からすると、「なるほど、キムズビデオの元会員ならしょうがないか」みたいな気分にもなる。しかも、「強奪」の計画を立てるためにあらゆる映画を見漁ったそうで、最終的には、映画『アルゴ』で描かれている「実際に行われたスパイ救出作戦」を参考にしたというから、ここでも映画狂が炸裂していると言えるだろう。そして、「キムズビデオのコレクションが置かれている倉庫での撮影許可」をもらい、そのままビデオを盗み出しては、「すべて脚本通りだ」と嘯いてみせるのもまた豪胆だなぁと思う。

まあそんなわけで、超絶ぶっ飛んだ映画で、ムチャクチャ面白かった。そして、かつて書店で働いていた人間としては、「やっぱり物質的に品揃えした方が面白くなるよね」と思うし、あらゆるものがネットにいってしまう現状は、仕方ないけど「つまらないな」と思う。ネットの空間で「キムズビデオ」や「アザー・ミュージック」のような空間を生み出せるのかはこれからなのかもしれないが(VR空間がもう少しまともなものになればあり得るだろうか)、ただ、昭和生まれの人間としては、「リアルな物質には勝てないよなぁ」と思ったりする。

ちなみに、現在キムズビデオのコレクションは、ニューヨークで再びレンタル出来るようになっているそうだが、その話を監督からもらった現オーナーは、「訳分からない話だったし、初めは新手の詐欺かと思った」「受けたのはほとんど賭けだよ」と言っていた。まあそりゃあそうだろう。2008年に閉店して、行方知れずになっていた膨大なコレクションが突然
現れたかと思えば、「それをレンタルしてくれる人を探してる」なんて話、到底信じられないだろう。ちなみに、2022年3月にオープンしてから(恐らく本作がアメリカで公開されるまで)1700本レンタルされているそうだ。配信全盛の時代にしては健闘してるんじゃないだろうか。

また、僕が本作を観たヒューマントラストシネマ有楽町では、本作の公開を記念してだろう、ショップでVHSの映画を販売していた。1本だけ値段を見てみたのだけど6000円と表記されていた。映画『AKIRA』のVHSもあったけど、値段は観てない。そういえば、本作『キムズビデオ』も、450本限定でVHS版が制作されているそうだ。レコードと同じようにVHSも復権したら面白いけど、レコード以上にプレイヤーの入手が難しいだろうから、そう簡単にはいかないだろうね。

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