【映画】「ワンダフルライフ」感想・レビュー・解説
国立映画アーカイブでの鑑賞。少し前に観た『誰も知らない』の上映後のトークイベントに出演していた撮影監督の山崎裕が、是枝裕和と最初にタッグを組んだ作品であり、「ホップ・ステップ・ジャンプ」の「ホップ」に当たる作品だと言っていた。で、その流れの中で、この『ワンダフルライフ』は「ドキュメンタリーが混ざってる」みたいな事前知識だけなんとなく持ってたのだけど、正直、そのことを知らなかったら「ドキュメンタリーが混ざってる」とは思わなかっただろう。
観ながら何となく、どんな風にドキュメンタリーが混ざっているのかは分かったが、改めて調べてみると思っていたより結構ガチでやっていた。本作には「過去の思い出を語る一般人」が多数出演しているのだが、その人たちをピックアップするのに、街頭インタビューで様々な人々の「思い出」を聞いて回ったそうだ。その数500。そしてその中から10人が選ばれ、自身の「記憶」を作中で語っているのだそうだ。
そういう要素が含まれているという意味で、本作には「ドキュメンタリーが混ざっている」のである。なかなか変わった構成の作品だし、しかも、そうと知らなければ全然普通のフィクション作品として成立しているように思えるし、ストーリーも含め、全体的にとても良く出来てるなと感じた。なんとなく想像してたよりずっと良かったなぁ。
というわけで、まずはざっくり内容の紹介から。
月曜日、古びた建物の中に幾人かの人が入っていく。そこで働くスタッフの朝礼的な場面で語られたところによると、合計22名だそうだ。22名は、3人の担当に振り分けられ、それぞれがやってきた人物の話を聞く。
やってきた22名は皆、前日に命を落とした人である(恐らくこの施設は「日曜日に亡くなった人」が集まる場所なのだろう)。念のためその事実を伝えた上で、スタッフは皆に、「これまでの人生で一番良かった記憶を1つだけ選んで下さい」と伝える。期日も設けられており、水曜日までだ。そして、その思い出をスタッフが出来る限り映像化し、土曜日にその上映会を行う。その映像を観た上で、自分の中でその思い出が鮮明に蘇ったまさにその瞬間に、死者はその思い出だけを持って別の世界へと旅立っていくのだ。一番良い思い出以外の記憶は、すべて忘れてしまうという。
そうして、スタッフによる聞き取りが始まっていく。
スラスラ色んなことを語る者もいれば、何も話さない者もいる。あるいは、「記憶を選ばない」と宣言する者も。色んなタイプがいてそれぞれに大変だったりするのだが、その中で1人、特に焦点が当てられる者がいる。望月が担当する渡辺である。
彼はなかなか思い出を選べなかった。そこで望月が、記憶を思い出す参考のためと、渡辺の70年の人生を70本のビデオテープに凝縮したものを用意した。それを観ながら思い出してほしいというわけだ。しかし渡辺はその映像を観ながら、自分の人生がいかに平凡だったかを思い知らされる。
そしてこのビデオテープの存在が、望月や、サポートスタッフとしてはたらくしおりの人生を大きく動かしていくことになる……。
個人的には、まずシンプルに「全体を貫くストーリーが秀逸だな」と感じた。主に、望月・しおり・渡辺を取り巻くものなのだが、正直、この3人がどう絡むのか、しばらく理解できないだろう。個人的には、「なるほど、そんな展開になっていくのか!」と感じた。設定を上手く活かした展開という感じで、よく出来てるなぁと思う。望月が初めて「担当を変えてほしい」と言ったってのも伏線だったんだなぁ、なんて思ったり。
さらに本作では、決して強く重心が置かれているわけではないが、「仕事って何なのか?」みたいな問いかけも含まれているように感じられた。
作中でスタッフの1人が、「俺たち、どうしてこんなことやってるんだろうな」みたいに零す場面がある。「こんなこと」というのは、「死者の一番の記憶を映像で再現し上映する」というものだ。それがあの世の世界で法律的なものに義務付けられているのか、あるいはそうではなくなんとなくの慣習で続いているのか、そういうことはよく分からない。ただ少なくとも、その仕事に従事している者としては、「そんなことにどんな意味があるのか分からない」と感じられる仕事であるようだ。
で、そういうのって、僕らが生きている社会の中にも当たり前に存在するよなと思ったりする。「そうしなきゃいけないことになってるからやってるけど、意味あるんか?」みたいな仕事って、たぶん色々あったりするだろう。特に、ここでは触れないが、この仕事に従事している者たちに共通するある事情を知れば、余計にその感覚が強くなりもするだろう。
結局、「仕事だから」という、理由になってるんだかなっていないんだかよく分からない理由でそれをやり続けるわけだが、僕らが生きている社会にもありがちなそういう「不合理さ」みたいなものもなんとなく浮き彫りにしている感じがあって、それも面白いなと思う。
で、やはり本作においては、「一般の人が自身の本当の経験を語る」みたいな部分が特異的であり、そういう「ドキュメンタリー的な部分」がフィクションの中に違和感なく組み入れられているところがまた見事だったなと思う。
既に書いたが、本作は、「ドキュメンタリーが混ざってる」という事実を知らなければ、たぶんそのことに気づかない人もいるんじゃないかなと思う。そういう意味で、「フィクションの中に違和感なく組み入れられている」と感じる。しかし、それを知った上で観ると、また見え方が変わってくる。事実を語っているというリアリティはやはり強くなるし、それを一般の人が語っているんだなという部分もやはり面白い見え方になるだろう。
さらに本作では、そういう一般の人の記憶をリアルに再現する撮影が実際に行われていて、その様子も映画本編として収録されている(この点に関しては観てもらわないと伝わらないと思うので、これ以上は説明しない)。本作に参加した一般人からすれば「本当に自分の経験が撮影所で再現される」という経験になるわけだが、しかしその様子は、映画『ワンダフルライフ』の本編内では「望月らスタッフたちが、死者の記憶を再現するための撮影を行っている」というシーンとして出てくる。実際にはドキュメンタリーなのだが、それが違和感なくフィクションとして物語の中に組み込まれており、これは本当に良い発想だよなぁ、と思う。
だから「ドキュメンタリーが混ざってる」と知って観ると、特に「再現シーンを撮影している場面」は、なんか凄く変に見えるじゃないかなと思う。「ドキュメンタリーだけどフィクションでもある」という、状況が複雑に入り混じった見え方になるからだ。そして、それがちゃんと成立する設定が本作では存在しているからこその感じ方なわけで、やはり全体の構成が見事だなと思う。
あと、観ていて印象的だったのが、笑えるシーンが結構あったこと。客席からも結構笑い声が上がっていた。で、たぶんそれは、「フィクションだと思って観てる」からなんだよなぁ。例えば作中で、戦争の時の壮絶な体験を語るおじいさんが、「あと、ニワトリも食べたいなぁ」と言った時に客席から結構笑い声が上がったんだけど、恐らくこれは実際の話なんだと思う。で、観ている側も、「これが事実である」と知っていたら、きっと笑えなかったんじゃないかなぁという気がする。でも、「フィクションだ」という諒解があるからこそ、「メッチャ面白い話じゃん!」という感じで笑えるんだろうなぁ。こういう部分も、本作における「情報の提示の仕方」が絶妙だと感じるポイントだし、本作が持つ特異さだなとも思う。
というわけで、個人的にはとても良い鑑賞体験だった。
あと最後に。作品とはまったく関係ないが、本作を観ている時に地震が起こり、客席からも色んなスマホが緊急地震速報を鳴らしたりした(もちろん僕のスマホも鳴った)。が、誰も動かないし、声すら上げずに映画を観続けた。日本だなー、という感じである(まあ、正常性バイアスの発現とも言えるわけだが)。
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