【本】NHKスペシャル取材班「超常現象 科学者たちの挑戦」感想・レビュー・解説
超常現象、という時、僕はいつも「四つ葉のクローバーを瞬時に発見する女性」のことが思い浮かぶ。
以前テレビに出ていた日本人女性が、普通にはなかなか見つけられない「四つ葉のクローバー」を、次から次へと発見し、それどころか、「四つ葉のクローバー」以上に発見確率が低い「五つ葉」とか「六つ葉」なんかもどんどん見つけてしまう、というものだった。
これは、いわゆる「テレパシー」や「臨死体験」など、よくある超常現象とはまた違ったものだろうが、「説明のつかない出来事が起こっている」という意味では超常現象と呼んで良いだろう。
さて、あなたはこの現象をどう判断するだろうか?
その番組内ではもちろん、どうしてその女性にそんなことが出来るのかという理由は明かされなかった。当の女性にしても、「四つ葉のクローバーがある場所だけ光って見えるんです」と言うばかりで、本人もどういう理屈でそういうことが出来るのか分からないようだ。
可能性だけを挙げるのであれば、いくらだって考えられる。例えばこういうのはどうだろう?
その女性は、「自分が四つ葉のクローバーを探しに行くことになるかもしれないあらゆる場所」において、あらかじめ「四つ葉のクローバー」を探しておく。彼女には実は、「四つ葉のクローバー」が光って見えるような能力はなく、地道に探すしかないのだが、膨大な時間を費やせば「四つ葉のクローバー」だって見つけられるだろう。そして彼女には、「四つ葉のクローバーの位置を正確に記憶できる能力」があると仮定してみよう(少なくとも、四つ葉のクローバーを瞬時に発見する能力よりはイメージしやすいはずだ)。膨大な時間を掛けて探しておいた「四つ葉のクローバー」を、さも今見つけたかのように振る舞えば、「四つ葉のクローバーを瞬時に発見する女性」という虚像を作り出す事ができる。
しかし、読んでいて誰もが思っただろうが、「なんでそんなことをするんだ?」と思うだろう。それだけ膨大な時間をつぎ込めるのであれば、もう少し別のことが出来るのではないか。僕にしても、その「四つ葉のクローバー」を瞬時に見つけ出す女性は、テレビで一度しか見なかったし、今ものすごく有名、というほどでもないだろうと思う。その程度のことのために、「自分が四つ葉のクローバーを探しに行くことになるかもしれないあらゆる場所であらかじめ四つ葉のクローバーを探しておき、場所をすべて記憶する」なんていう、アホみたいに時間が掛かることをするだろうか?
あるいはもう少し単純な説明としては、「テレビ局が作り上げた嘘」という可能性もある。実際にはそんな能力のない女性を、さもそうであるかのように仕立て上げた、という可能性だ。これについては、その可能性を完全に否定することは難しいが、しかしやはり、そんなことをして双方に得があるとは思えない、という意味でやはり考えにくいと思う。
この「四つ葉のクローバーを瞬時に見つけ出す女性」について、僕は、基本的にはこう考えている。何か、現時点では解明されていない仕組みによって、実際にその女性は「四つ葉のクローバー」を発見しているのだ、と。
「共感覚」と呼ばれるものがある。例えばこれは、「数字に色を感じる」とか「音に匂いを感じる」など、いくつかの感覚が混じり合うものだ。実際に「共感覚」というものはその存在が知られており、科学的にも認められている。僕らの感覚からすれば、「数字に色を感じる」などイメージすら出来ないが、「共感覚」を持っている人の認識では、それは当たり前の感覚なのだ。
それと同じように、何か特定のものに対して特異に反応してしまう人、というのはあり得るだろう。先の女性の場合は、それが「四つ葉のクローバー」だったからこそ特殊に感じられただけであって、恐らくこの感覚は、多くの人が持ち合わせているものではないかと思う。方向音痴である僕からすれば、曇りの日でも建物内でも「東西南北」の方向が分かる人間は驚異だと思うし、あるいは、以前にいた職場に、女性がアイラインを変えたことを指摘する男がいて女性から気持ち悪がられていた。その仕組みはともかくとして、「特定の何かに対して特異に反応する」ということは十分あり得るだろうなぁ、と僕は思う。
他の例を挙げてみよう。これは、最近読んだある本の話なのだけど、ちょっとネタバレになるようなことを書くので、本の名前も、その本で扱われている実際に起こった事件の詳細にも触れないでおこう。
50年ぐらい前、ある国で異様な山岳事故が起こった。9人の登山経験豊富な男女が、まったくどうしてそうなったのか説明のつかないような無残な死に方で発見されたのだ。この事件は、長年広く知られることはなかったのだけど、近年注目されるようになり、そしてつい最近、その事故の真相はこうだったのではないか、とする本が出版されたのだ。
その本では、この事故は、当時はまだ知られていなかった(現在でも広く知られているとは言えない)ある特殊な気象現象によるものではないか、と結論づけていた。もちろん、その仮説を証明する手立ては一切ないわけだが、その本に書かれていた様々な情報を突き合わせると、非常に整合性のある、納得のいく結論だなぁ、と感じた。
こんな風に僕たちは、その時代その時代の科学力では認識すら出来ないものに取り囲まれながら生きている。本書の中に、「古代人が自動ドアを見たら、超常現象だと思うに違いない」というような文章が書かれていたが、まさにその通りだろう。僕らも、不可思議だと感じる様々な現象に直面することがあるだろう。しかし、それが「自動ドア」のようなものだとしたら、「そんな不可思議な現象は何かトリックに違いない」とか「そんな不可思議な現象は研究するに値しない」などと言ってはおかしなことになるだろう。「自動ドア」にはきちんと原理があるように、現代を生きる僕らが不可思議だと感じる様々なものにも、僕らがまだ気づけていないだけで、何らかの法則や原理があるかもしれない。
本書にも、まさに今僕が言ったのと同じようなことが書かれている。
【では、科学者たちは、超常現象をどう捉えているのか。その答えはこうだ。
“超常現象とは、現代科学では説明ができていないだけであって、いつかは必ず合理的な説明がつけられる自然現象や物理現象である”
多くの科学者たちは、そう確信して研究している】
本書で扱われている「超常現象」とは、そういうものである。
さて、本書の元になったNHKの番組を作るにあたって、制作陣が決めたスタンスがある。
【我々がとったスタンスは、次のようなものである。まずは、超常現象を最先端の科学で徹底的に検証し、何がどこまで分かってきたのかを、詳細に見極めていく。現代科学によって、超常現象の正体が次々と明らかになっていく過程は実に爽快だ。だがそれだけでは終わらない。検証の結果、残された謎についても、包み隠さず触れていく。現代科学ではまだ説明できない現象があったとしても、その事実をありのままに伝えていこうというものだ】
本書でも書かれていたが、こういうスタンスで超常現象を扱うことは非常に珍しいだろう。大体、「超常現象は存在する!」と煽るものか、あるいは「超常現象なんて嘘っぱちだ」と反論するものに寄ってしまうからだ。本書では、そういう偏りは極力無くし、「現時点で解明出来た(あるいは可能性を提示できた)ものについてはそれを紹介する」「現時点で科学では解明できないものについてもそれを紹介する」という形で、非常にフラットに情報が提示される。そして、何よりも重視されるのが「科学」であり、科学的見地から「超常現象」がどう捉えられているのかを追いかけているのだ。
そういうスタンスで取材が続けられているので、科学が好きな僕としては非常に興味深かった。面白いなと感じた話は色々あるが、いくつか絞って紹介してみよう。
まず、かつてCIAに「超能力スパイ」が存在していた、という話が描かれる。これは非常に面白いと思った。元々CIAは、超能力に興味がなかった。しかし冷戦時代、ソ連が超能力者を使ってスパイ活動を行っているという話があり、それを脅威に感じたCIAは、とある研究機関に超能力の実用性を判定してもらえるように持ち込んだのだ。もちろんCIAとしては、否定的な結論が出ると思っていた。しかし、「遠隔透視」という、離れた場所から透視をする能力については、統計上無視できない結果が出たとされ、それを受けてCIAは「超能力スパイ」を養成することになったという。彼らが具体的に何をしていたのかは是非本書を読んでほしいが、「現代の科学では説明のつかない原理」を前提としなければ理解できないような事例が多いと感じた。
しかしその一方で、科学が敗北した例も載っている。「プロジェクト・アルファ」と名付けられたその実験は、バナチェックというアメリカ人によって行われた。彼は超能力者を名乗り、一流の研究機関で4年にも渡る調査を受け、それにより約50ページにも及ぶ科学論文が作成され、バナチェックの超能力は一定の評価を受けた。
しかし科学者たちの悲劇はそこからだった。なんとこのバナチェックという男、実はマジシャンであり、彼はその科学論文が発表された後、「この4年間、マジックのトリックによって科学者たちを欺き続けました」と公表したのだ。これにより、バナチェックは華々しいデビューを飾ることとなったが、一方その余波として、科学者たちが超常現象の研究から手を引くようになってしまったという。
テレパシーを研究する過程で発見された、実に興味深い現象についても紹介されている。それは、「離れたところにいる二人の脳が同期する」という現象だ。以前から双子の間ではテレパシーとも思えるような状態が報告されてきたが研究者たちは一般人を被験者にある実験を行い、その結果、一方の脳の変化に合わせて、離れた場所にいるもう一方の脳も同じタイミングで変化していることを突き止めたのだ。この実験は、まだまだサンプル数も少なく、未知の現象を捉えたと主張できるレベルにはないようだが、しかしテレパシーを、脳の同期というこれまで想定されていなかった現象によって説明しようとする動きは面白いと思った。
また、乱数発生器を使った実験というのも非常に面白い。乱数発生器というのは、非常に説明しにくいが、「ある物理理論に沿う形で、完全にランダムに0と1が並ぶ数字を生み出す機械」という感じである。ある物理理論というのは量子論のことであり、量子論のある効果を使って、0と1が確率的に50:50で発生するように厳密に調整されている。乱数発生器は、様々な外的要因に関わらず、0と1の発生確率が均等になるように作られている。量子論的な確率が生み出す乱数は、人間の人為が介在する余地が一切なく、それゆえに超能力の実験でよく使われるのだという。
そして、世界中で行われている様々な実験により、「人間の意識がある方向やモノなどに集中した時、乱数発生器が生み出す0と1の発生確率がどちらかに偏る」という現象が存在することが知られている。例えば本書では、9.11のテロや東日本大震災の際に、乱数発生器が異様な偏りを記録したと書かれている。何故そのような現象が起こるのか、もちろんまだ解明されていないが、もしかしたら人間の意識の集合体みたいなものが大きな力を持っているのかもしれないし、あるいはある科学者は、人間の意識というものは実は極微小の物質であり、その物質が移動したり介在したりすることによって不可思議な現象が起こるのだと考えているという。
本書に登場したある科学者は、「超能力は30世紀頃にはきっと解明されているだろう」というような発言をしていた。僕も、恐らくそうだろう、と感じる。そもそも、現代科学こそ、超常現象的なわけのわからないことを主張しているのだ。例えば先に話に出した「量子論」でも、「1粒の粒子が2つのスリットを同時にすり抜ける」とか「ごく僅かな時間であれば何も存在しない空間に大きなエネルギーを発生させても良い」とか「100兆光年離れたところにある2つの粒子が量子もつれという状態にあるなら、一方に対しての影響がもう一方に瞬時に(光速を超えて)伝わっているように見える」など、はっきり言って意味不明なことばかり言っているのだ。しかしそれらが何故「科学」として受け入れられているのかと言えば、本書でも指摘されているが、「数式」で表現できるからなのだ。科学者たちは、どれほど荒唐無稽なアイデアでも、数式で綺麗に説明されることであれば納得して受け入れる。超常現象に関する研究は、その点で大きなハンデがある。しかしいずれ、天才が現れ、きっと多くの謎を解明していくことだろう。
その時に大事なことが、きちんとデータが揃っていることだ。天体の運動に関して非常に先見的な理論を組み立てたケプラーは、確か誰かから天体の観測データを引き継ぎ、それらを精査する中で法則を導いたのだったと思う。どんな天才だって、何もないところから何かを生み出すことは相当に困難だ。そういう意味で、今超常現象について研究をしている人たちの積み重ねも、いずれ役に立つ日が来るのではないかと思っている。
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