【映画】「SUPER HAPPY FOREVER」感想・レビュー・解説

そうだなぁ、これはちょっと、僕の期待が高すぎたかもしれない。いや、決して悪かったとは思わない。今泉力哉っぽさも感じる作風で、基本的には好きになれるタイプの作品だと思う。ただ、本作を観ようと思ったのは「Filmarksの評価がなんか高い」という理由で、普段はあんまりそういう理由で映画を観たりはしないんだけど、本作はメインビジュアルの感じもなんか良さそうだったし、ちょっと観てみるかという感じだった。まあそんなわけで、無駄にハードルが上がってしまっていた部分があって、ちょっとそれが今回はマイナスに働いたかという感じだった。

物語は全体として、主人公の佐野の妻・凪が出てきてからの方が面白い。というか、前半はちょっと退屈だった。割と早い段階で明らかにされる事実なので書くが、物語が始まる2023年8月19日には、凪は亡くなっている。「朝起きてこなかった」という死に方だったそうだ。そして佐野は、5年前、ちょうど凪と出会ったその日に、凪と出会った伊豆のホテルへとやってくる。そんな風に物語は始まるのである。

そこからしばらくの間は、「喪失感に苛まれる佐野」と「佐野の幼馴染で、佐野をなだめようとするが、あまりに酷い状態で手を焼く宮田」という2人のやり取りが描かれていく。

のだが、このパートが正直、そんなに面白くないんだよなぁ。佐野は終始不機嫌で、「妻を亡くした」という情報しか知らない観客には「イヤな奴」にしか見えない。また宮田は「SUPER HAPPY FOREVER」という名前のセミナーにハマっており「オーラ」だとか「メッセージ」だとかいう言葉をよく使う。佐野はそんな宮田にうんざりしているのだが、それは観客も同じじゃないかなと思う。まあ、別に「そういう役柄」なのでいいのだが、少なくとも僕は好感を抱けるタイプの人間ではないし、嫌だなぁという感じだった。

というわけで、冒頭からしばらくの間、「全然好きになれない男たちがなんやかんやしている」という映像が続くことになり、だから、「うーん」という感じだった。

前半で面白かったのは、「佐野と凪の出会い」についてだ。後半では、そのシーンが映像で映し出されるのだが、前半では、「旅先で出会った初対面の人間に語る」という形でその話が出てくる。それはこんな話だ。ホテルのロビーで寝てしまっている女性の手からスマホが落ちそうで落ちない。でも、ついに落ちるとなった時に、自分と凪だけが「あっ」って声を上げた。そんな風にして2人は知り合ったというわけだ。

このエピソードは結構好きだったなぁ。旅先で見知らぬ男女が自然と出会うにはそれなりの理由が必要だが、この出会いのエピソードはメチャクチャありそうで、メチャクチャ自然で、いいなと思った。確かにこういうきっかけなら、別の場面で顔を合わせた時に「さっき凄かったですよね」みたいに声を掛けやすいし、それは、いわゆる「ナンパ」みたいなことをしそうにない雰囲気の佐野を誰かと出会わすのにとてもしっくりくるものだったと思う。

さてそんなわけで、正直結構退屈だった前半が終わり、それから、佐野と凪が出会って仲良くなっていく過程が描かれていく。もちろん、前半で佐野があまりの絶望を示していたからこそ、2人の出会いのエピソードを知る前に「佐野がいかに妻を愛していたのか」を知れたわけで、そういう頭で観るからこそ、後半の物語が良く見えた、という可能性もあるだろう。だから、「前半が無意味だった」などと言いたいわけではないのだが、やはり、凪が出てきてからの方が物語は圧倒的に面白くなっていくと思う。

前半ではとにかくイヤな奴でしかなかった佐野が、後半では実に良い感じに凪との関係を深めていく。この感じが僕には、今泉力哉っぽく感じられたし、こうやって感想を書くのに調べていて初めて知ったのだが、凪役を演じた山本奈衣瑠は、今泉力哉監督『猫は逃げた』で主演に抜擢され注目された人物なのだそうだ。僕が感じた「今泉力哉感」も、あながち的外れとは言えないだろう。

別にこの2人の出会いについても、特段これと言ったエピソードがあるわけではないのだが、「凪がとにかくあらゆりものをするすると忘れてしまう」というキャラクターであることと、さらに「思いがけず、ホテルで働くベトナム人従業員が物語に関わってくる」という要素が、物語を少しおもしろくしている。特に、ベトナム人従業員の関わり方は割と意外なもので、その点もなかなか面白かったなと思う。

あと、エンドロールを観ていて謎だったのが、「企画協力:佐野弘樹・宮田佳典」という表記。実は本作は、佐野役を佐野弘樹が、宮田役を宮田佳典が演じており、そんなところからもなんとなく「企画段階から関わっていそう」という感じもするのだが、実際に何にどう絡んでいるんだろうなと思う。日本の場合はあまり、「企画段階から役者が関わる」というケースが多くないような気がするので、そんなところも少し気になった。

そんなわけで、個人的にはちょっとしっくり来ない作品だったのだけど、ただ、こういう雰囲気の作品を好きだと感じる人はもちろんいるだろうし、静かに淡々と進む物語ながら惹きつける要素のある作品という感じはする。僕ももう少しハマれると良かったんだけど、残念。

いいなと思ったら応援しよう!

長江貴士 サポートいただけると励みになります!

この記事が参加している募集