【映画】「ミシェル・ルグラン 世界を変えた映画音楽家」感想・レビュー・解説
さて、毎回こんなことを書いているが、ミシェル・ルグランのことは全然知らなかった。本作の予告編を観て初めて「ミシェル・ルグラン」という名前を知ったと思う。当然、本作で取り上げられる映画も観たことがない。
けどやっぱり、時々「聞いたことある!」っていう音楽が出てくるんだよなぁ。音楽というのはこういうところが強い。例えば小説や映画だと、「意識せずとも読んでた/観てた」なんてことはまずあり得ないが、音楽はそういうことがあり得る。
で、そんなミシェル・ルグランを取り上げるドキュメンタリー映画なのだけど、まず全体的な感想から。ミシェル・ルグランが「凄い人」だということは伝わった。のだけど、「どう凄いのか」はよく分からなかった。
もちろん、分かった部分もある。例えば、彼が音楽を手掛けた『シェルブールの雨傘』という映画は、「セリフをすべて歌で語らせる」という、いわゆるミュージカル映画として誕生した。作中に登場した人物が、「あんな大胆な映画、よほど勇敢じゃなきゃ作れない」みたいなことを言っていたが、そのような評価から察するに、「ミュージカル映画の先駆け」的な作品と言っていいんだと思う。公式HPによると、『ラ・ラ・ランド』の監督が、『シェルブールの雨傘』をモデルに『ラ・ラ・ランド』を作ったのだそうだ。
『シェルブールの雨傘』の監督であるジャック・ドゥミに「ミュージカル」という提案をしたのはミシェル・ルグランだったそうで、そして全編の音楽を彼が担当している。今までそういうタイプの映画が存在しなかったのだとしたら、「映画音楽を通じて、映画を新たに発明した」と言っていいだろうし、それは凄いなと感じた。
のだけど、正直このエピソード以外は、「ミシェル・ルグランの何が凄いのか?」はちょっとよく分からなかった。音楽に詳しい人なら、彼が紡ぐ音楽を聞けばその凄さが分かるんだろう。けど僕にはそういう素養がないので、説明してもらわないと理解できない。で、本作は、とにかくそういう説明が少ないのだ。
以前観た、同じく映画音楽家を扱った映画『モリコーネ』はそうではなかった記憶がある。エンリオ・モリコーネという天才映画音楽家を扱った作品なのだが、「彼がどう凄いのか」をちゃんと解説してくれるような映画だったのだ。覚えているのは、「実際には使われなかった別人作曲の曲」と「エンリオ・モリコーネ作曲の曲」を同じシーンに嵌め込んで比較している映像。それは確かに、エンリオ・モリコーネの曲の方が圧倒的に良いと実感できた。
まあ、「音楽の凄さ」を説明するのは難しいかもしれないし、「聞いたら分かるでしょ」みたいな感じかもしれないけど、僕は「聞いても分からない側の人間」なので、そういう意味では本作にはちょっと不満がある。
ただ逆に言えば、「ミシェル・ルグランの凄さが当然理解できている人」には面白く観られる映画だと思う。誰かが「強烈な性格」と表現していたが、オーケストラにかなりの悪態をついているシーンは人間味があって面白いなと思うし、またミシェル・ルグランは指揮者としても一流らしいのだが、そんな彼が指揮をしたオーケストラの様子が割と長く映し出されるので、ファンには良い機会だと思う。
というわけでいくつか興味深いと感じた話に触れていこう。
まずは、ブーランジェという、音楽学校の教師?なのかな、みたいな女性との関係である。ブーランジェについて知る人物は、「特に才能のない人物にはさっさと卒業証書を渡してエレガントに退場させた」みたいな表現を使っていた。で、ミシェル・ルグランは5年も卒業させずに徹底的に叩き込み、さらに伴奏のクラスは結局最後まで卒業させなかったそうだ。これだけでも、若い頃から傑出した才能を持っていた人物だということが理解できるだろう。
ミシェル・ルグランの父親も著名な音楽家のようだが、物心ついた時には両親が離婚しており父親との関わりはなかったという。ミシェル・ルグラン曰く、「父親は音楽を生み出すように次々子どもを作った」そうだ。5回も結婚したという。「無責任で無自覚でだらしない」と散々な表現をしていた。
音楽的な素養が遺伝するのかはよく分からないが(ミシェル・ルグラン自身も、「偉大な音楽家を父に持ったことは幸運だが、しかしそのお陰かは分からない」と言ってた)、なんにせよ彼は特大の才能を持って生まれたというわけだ。映画のラスト、彼が2019年に亡くなったことが字幕で表示された後、様々な人物が「ミシェル・ルグランはこんな人物だった」と口にしていたのだが、その中に、「次の世紀に古典となる天才の誕生を目撃した」という表現があった。なかなかの評価だろう。それぐらい、圧倒的な才能だったようだ。
さて、先程「強烈な性格」の話を少ししたが、ミシェル・ルグランがオーケストラの前で怒り倒している場面もなかなか面白い。彼のこの性格についても多くの人から証言があり、「何度殴ってやろうと思ったか知れない」「ベースをピアノに叩きつけて出ていってやろうかと思った」みたいな言い方をする人が結構いた。映像にも映っていたが、とにかく言い方がメチャクチャきつい。ずっとあんな感じなんだとしたら、「やってらんねぇ」と感じる人は多いだろう。
しかし、「彼の態度は間違っていることが多いが、言っていることは正しい」と言っていた人がいて、だから「まあ仕方ない」という気分になるのだろうなと思う。さらに、彼はちゃんと謝るのだそうだ。「僕が最初に怒られた時は不当な怒りだったが、翌日にはすぐに謝ってくれた」と語る指揮者がいたり、「殺人者が天使になる」と表現している人もいた。「彼の謝罪には魅力がある」そうで、そういう部分も含めて「憎めない奴」みたいな印象だったのかもしれない。ちなみに誰かが、「かなりキツい言い方をしている癖に、嫌われるのは嫌らしい」みたいに言っていた。こういうところも面白いなと思う。
さて、『シェルブールの雨傘』を撮ったジャック・ドゥミの長編デビュー作である『ローラ』は、撮影時には音楽がなかったそうだ(撮影監督とかが喋ってたのかな?)。「良い映画音楽家を知らなかった」みたいなことだった気がするが、ともかく彼はレコード店へ行き、映画音楽を作ってくれる人を探そうとしたという。そしてその際に店員から勧められたのがミシェル・ルグランだという。帰ってレコードを聞いたジャック・ドゥミは、映画音楽をミシェル・ルグランに頼むことに決めたそうだ。そしてその後、この2人のタッグによって『シェルブールの雨傘』『ロシュフォールの恋人たち』という傑作が生み出される。
ある人物は、「ジャック・ドゥミ単体でも偉大な人物だが、常にミシェル・ルグランと2人でいるところが頭に浮かぶ」と言っていた。それぐらい、切っても切り離せない存在だったということだろう。個人的にはミュージカル映画はまったく受け付けなくて、「何で歌うんだよ」と感じてしまうのだけど、それはともかく、「新たな表現」を生み出したことはやはり凄いなと思うし、そしてそれが世界に受け入れられているという事実も凄まじいなと思う。
というわけで、音楽の素養のない僕にはあまり音楽的な話題はピックアップ出来なかったが、興味深い人物であることは理解できたし、一時代を築いた人なんだなと感じさせられた。しかし、ミシェル・ルグランは87歳で亡くなったようだが、恐らく80代の時だろうピアノ演奏の様子が映し出されていて、その力強く性格な運指には驚かされた。指だけ40代とかなんじゃないだろうか。ある人物が「舞台に上がると20歳は若くなる」みたいに言っていたが、ホントそんな感じだった。
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