【映画】「ナイトフラワー」感想・レビュー・解説

なかなか良かったかな。ただ、個人的には、ラストがちょっと好きじゃないかなぁ。「不愉快」とかそういうことじゃなくて、もう少し何かあってほしかった気がする。「観客に委ねる系のラスト」という感じでもないし、色んな登場人物の物語が中途半端なまま終わってる感じがしたんだけど、どうなんだろう。

ただ、物語の冒頭から中盤にかけての、「追い詰められたシングルマザー、そしてドラッグの売人へ」という流れは結構良かったし、だから総合的には満足という感じかな。

というわけでざっくり内容の紹介を。

主人公は、2人の子どもを育てるシングルマザーである夏希。夫は借金を残して失踪した(んだったと思うけど、死んだんだっけ?)ため、生活費だけではなく借金の返済にも追われている。夏希は、スナック、ラブホテルでの清掃、地球儀制作などなどいくつも仕事を掛け持ちしているが、それでも全然足りない。役所に「児童手当の前借り」を頼んだ時にも、小銭を出して「これが全財産です」と言っていた。

娘がバイオリンを習っていたり(才能があるそうだ)、息子が保育園でトラブルを起こしたりと、色んな理由でお金が出ていく。彼女は、可能な限り子どもには不自由させないようにと身を粉にして働くが、全然どうにもならない。息子が「餃子を食べたい」とねだっていたのを思い出し、ある夜、ゴミ捨て場に置かれていた餃子弁当を持ち帰ってしまったほどだ。
結構
そんなある日のこと。彼女は偶然、合成麻薬MDMAを手に入れてしまった。これを売ればお金になるかもしれない。何度も躊躇し、それでもやるしかないと覚悟を決めたのだが……。

そして、それがきっかけで、夏希はボクサーの多摩恵と知り合った。多摩恵は夏希に「守ってやるよ」といい、2人でドラッグの売人としてタッグを組むことにしたのだが……。

本作はまず、「普通のシングルマザーが、ドラッグの売人になる」という展開にリアリティを感じられるか、という点が非常に大きなポイントだと言っていいでしょう。まあ、どんな風に描こうがリアリティは無いっちゃ無いんですけど、でもなるべく「なるほど、それならあり得るか」と思わせてくれる展開であってほしいものです。

で、本作では、その辺りがちゃんとしてた感じがします。要素としては大きく、「夏希がいかに追い詰められているか」と「いかにしてドラッグにアクセスするか」の2点が重要になるでしょうが、どちらもちゃんと描いてるなぁ、という感じでした。

特に「追い詰められている描写」は様々な角度から描き出していて、「確かにこういう状況で、ちょっとしたきっかけがあったら、ドラッグの売人も考えちゃうかもね」という説得力を生み出す感じが良かったなと思います。

特に前半の「追い詰められたシングルマザー」の描写では、夏希を演じた北川景子がとても良い雰囲気でした。個人的には、本作の冒頭の「夏希がスナックで『深夜高速』を熱唱する」ってシーンがメッチャ好きなんだけど、ヤケクソみたいにダミ声で無理やり声出してますみたいな歌い方は、北川景子のスタイリッシュなイメージとかけ離れた感じがあります。冒頭でこの熱唱を観ると、「北川景子は今回こんな感じで映し出されますよ」ということが瞬時に伝わるし、それ以降の「夏希のしんどさ」みたいなものも割と受け入れやすくなる感じがしました。

しかしホント、こういう「子どもがしんどい状況に置かれる」みたいな物語(でも現実でも)に触れる度にいつも思うけど、「誰だってこういう状況になり得るよね」ということだ。僕は昔から子どもとか全然欲しくなかったのだけど、それは「こういう可能性」を許容できないからみたいな部分もあります。「シングルファーザーとして子どもを育てる」でも「離婚して子どもを引き取った元妻がしんどい状況に置かれている」でもいいのだけど、「自分がそういう状況になったら耐えられないだろうな」みたいな感覚があって、それで「あ、子どもとか全然いいっす、別に」みたいに思ってしまいます。

で、個人的には、「世の中の多くの人が『こういう可能性』を全然考えないで子どもを欲しがっている」感じがしてて、まあそれは「少子化」的な意味で言えば全然良いことなのかもしれないけど、個人的には「うーん」って感じがします。

僕の中には昔からそういう感覚がずっとあるので、だから夏希が置かれている状況を見ると、「あー、やっぱ無理だよなぁ」みたいに思えます。もちろん、そんな風にならない可能性はあるけど、でもなる可能性だって全然あるわけで、「いや、ホント無理っすわ」という感じでした。

で、同じようなことは、田中麗奈演じる母親を取り巻く状況にも言えるでしょう。夏希とはまったく違う境遇ですが、ただ「最悪な状況」であることは確かで、「子どもを持つと、こういう可能性もあるよねぇ、あー無理無理」って感じます。

まあ、観ながらそんな風に感じているということは、僕はそこにリアリティを感じてるってことなんだろうし(ただ、田中麗奈の前にあのブツが出てきた時は、「うーん」って感じはしたけども)、こういう現実は結構リアルに存在するんだろうなという気もするし、だからホントに嫌な世界だなって感じがしちゃいました。

作中である人物が、「子どものために他人を不幸にしてでも金を稼ぐなんて、良いかあちゃんだよな」みたいなことを言うのですが、このセリフが本作を貫く本質だなという感じがしました。

夏希がしていることは、良いか悪いかで言えばもちろん「悪い」でしょう。法律的にアウトだからです。ただ、やっていることを抽象化すれば、「欲しい人に欲しい物を届けている」のだし、さらにその動機は「子どもの今、そして未来のため」なわけです。こういう本質的な部分だけ抽出すると、「夏希の行為は『悪』だと断定できるんだろうか?」みたいにも感じられます。

僕は、こと薬物に関して言えば、「その収益が悪い組織の資金源になる」という点だけが問題だと感じます。薬物をやっている人には、「人間には別に、『不幸になる自由』もあるんだから、好きにしたら?」と思ってしまうのです(僕はタバコさえ吸ったことはないので、ドラッグなんか絶対に手を出しませんが)。薬物中毒者が増えて犯罪が増加するみたいなことになればまた話は別ですけど(そしてまあ、それはあり得ることでしょう)、「他人に迷惑を掛けない」というのは薬物に限らずどんなことに対しても同じなわけで、だから「他人に迷惑を掛けない範囲でなら、別に薬物とか好きにしたら?」みたいに思ってしまいます。

割とそういう感覚があるので、夏希の行動も、「法律的にはアウトだけど、まあ、いいんじゃないの?」みたいに感じているところがある気がします。「自ら不幸になりたいです」と思って薬物を買う人間のお金で子どもの未来が開けるなら、まあそれは良いのでは? ってな感じです。まあ、この辺りの感覚は恐らく、あまり賛同されないだろうなと思ってはいるけれども。

あと、大したことではないけど、田中麗奈演じる母親の怒りが「そこに向くの?」って思ったりはしました。まあ、観客はより具体的な状況を知っているからそう思えるだけかもしれないけど、「いやいや、そこに怒りを向けるのは筋違いじゃない?」と感じちゃったなぁ。まあ大したことではないけど。

そんなわけで、凄く良かったという感じではないけど、結構楽しめました。森田望智のボクシングは凄かったなぁ。


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