【映画】「ブライアン・エプスタイン 世界最高のバンドを育てた男」感想・レビュー・解説
ブライアン・エプスタイン、知らなかったなぁ。ポール・マッカートニーは「5人目のビートルズ」と呼んでいたそうだ。なるほど、確かにそう呼んでいいだけの仕事をしている人物に思える。しかし本作の英題が『MIDAS MAN』ってのは面白いな。「触れるものすべてを金に変える男」ってことか。言いえて妙というか、そう呼びたくなる気持ちも分かる。
ビートルズについては、ドキュメンタリーやノンフィクションに結構触れているつもりなのだけど、「世界的な人気を得るまでには結構苦労した」みたいなことは正直あまり知らなかった。そしてマジで、ブライアン・エプスタインがいなかったらビートルズは世界的大スターにはなれていなかったかもしれない。
ブライアンがあるレコード会社と交渉に行った時のこと。そこは主流のレコード会社ではなく、「お笑い」で名を挙げたところであるらしい。しかし、そこの社長が音楽家であることを知っていたブライアンは、ビートルズを売り込みに行ったのだ。
さて、そもそもだが、そんなマイナーなレコード会社に話に行くしかなかった理由は、それまでに大手レコード会社に断られ続けたからだ。断られて断られて断られて、どうにかここにたどり着いたのだ。
で、その社長が話し合いの最後に、「どうして私のところに?」とブライアンに聞く。ブライアンはとしてはもちろん、「他に断られまくったから」とは言えないだろう(いや、質問した社長も、そういう事情は恐らく理解していたとは思うが)。で、ブライアンがなんと答えたかというと、「私は行く先々で笑われるのでね、気が合うかと」と言ったのだ。
そんな笑われていたシーンの1つが、大手レコード会社の社長との食事会である。そもそもブライアンは、「祖父が創業した家具店に併設したレコード店の責任者」に過ぎなかった。しかし、彼が手掛ける「NEMS」の売上は好調で、本人が「北西部一の売上」と言っていた。レコード店を売る能力は高く、つまり「ヒットする曲が分かる」というわけだ。その仕事の過程で見つけたのが、狭苦しい「キャヴァーン・クラブ」というライブハウス(ネットで調べるとジャズクラブらしいが)で歌っていたビートルズである。
で、「絶対に売れる」と確信した彼は、マネージャーの経験などないのにマネージャーに就任し、彼らを売り込もうと奔走する。まだ全然ビートルズが無名の頃、ジョン・レノンがブライアンにキレてふてくされるシーンがあるのだが、その際にブライアンが、「君たちのために私以上に働く者はいない」と言っていた。これにはジョン・レノンも「知ってる」と返す他なかった。
で、なんでこんな話をしたかというと、ブライアンは「レコードをメチャクチャ売る敏腕で、そのためにレコード会社に顔が利く存在だった」という話をしたかったのだ。
し・か・し! そんなブライアンがビートルズを勧めると、ほぼすべてのレコード会社が断るのだ。食事シーンでは、レコード会社の社長から、「何故なんだね? あんな連中のために自分の評判を落としてまで」と痛烈なことを言われていた。しかし自分の判断に確信があったブライアンは、「彼らはエルヴィスを超えますよ」と断言し、さらに笑われていた。「行く先々で笑われる」というのは、こういう状況を指してのことなのだ。
それでも、断られまくっても頑張り続けるブライアンの不屈の努力があったからこそビートルズは世界的な大スターになれたと言っていいのではないかと思う。まさに「5人目のビートルズ」に相応しいだろう。
さて、本作は大雑把に言って、前半と後半で大きく物語の性質が異なるように思う。前半は分かりやすい。「マネージャー職とは無縁だったブライアンが、ビートルズに出会って彼らのマネジメントを引き受け、どうにか売り出すための奮闘をする」という、ブライアンの奮闘記である。
一方、後半では、ビートルズがスターダムに駆け上がったことによって「ビートルズ」の影は薄くなる。ビートルズは「ブライアンを忙殺させる存在」みたいな扱われ方(表現はちょっとよくないが)になり、そしてより一層「ブライアン・エプスタイン」という個人に焦点が当てられていくことになる。
さて、そんなブライアンを苦しめるものは大きく2つあるのだが、その内の1つはここでは触れないことにしよう(物語的に、じわじわとそのことを理解していくみたいな感じの方が良い鑑賞になりそうなので)。そしてもう1つが「薬物」である。
映画のラスト、字幕表記された事実に驚かされた。これは書いてもいいと思うが、ブライアンはなんと、32歳という若さで薬物中毒によって亡くなったというのだ。マジかよ、という感じだった。まさに「命を燃やし尽くした」みたいな感じだろうか。「ビートルズを見つけて世界的大スターへと押し上げた」という功績はちょっと破格のものなので、1人の人間の人生として決して不足はないかもしれないが、やはり32歳というのは若すぎるなと思う。
というわけで、まったく存在すら知らない人だったから色々と興味深くはあったのだけど、映画としてメチャクチャ面白かったかというとそこまでではなかったかな。時代時代で「スターダムを駆け上がる道」みたいなのは違うだろうし、現代なら分かんないけど「SNS職人」みたいな人が陰で頑張ってるから出役がスターになれる、みたいなこともあったりするだろう。もしビートルズの時代にSNSがあったら、みたいなことを考えてみても面白い。ブライアン・エプスタインは名を残せなかったかもしれないし、あるいは、ビートルズではないもっと別の誰かが世界的なスターになっていたかもしれない。
何にせよ思うことは、「その時その場に居合わせた人物が、勇敢な決断と素早い瞬発力で前進する」みたいなことがいつの時代でも大事だということだろう。ブライアン・エプスタインは、まさにそれを完璧にやり遂げたというわけだ。そういう凄い人物の話が知れたのは良かったなと思う。
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