【映画】「レンタル・ファミリー」感想・レビュー・解説
なかなか面白い作品だった。前半はそうでもないけど、中盤から後半に掛けて「なるほど、そんな話も盛り込んでくるのか」みたいな感じになって、面白くなっていった。
少し前に参加した哲学カフェのテーマが「嘘をつくこと」だった。で、僕はそこで、昔から割と疑問だったことを最初に投げかけてみた。それは、「どうして『嘘をつくこと』は悪いとされているのか?」である。
例えば、「お酒を飲むこと」は基本的に悪いこととはされていない。しかし、酒を飲んだことで「他人に暴力を振るう」とか「アルコール中毒になってしまう」みたいなことが起これば、遡って「お酒を飲んだこと」は悪いこととされる。つまり、「結果が悪かった場合、その原因にまで遡って『悪い』とされる」みたいな感じである。
しかし「嘘をつくこと」の場合、「『嘘をついた』と判明した時点」で「悪い」ということになる。僕には昔から、これが不思議だった。別に、結果が悪くなければ嘘でもいいんじゃないか? と思ってしまうのだ。
もちろん、「嘘」より「本当」の方が良いに決まってる。ただ、「悪い結果を導く『本当』」と「良い結果を導く『嘘』」だったら、どう考えても後者の方がよくないだろうか?
いや、この話も詳細に考えるとなかなか難しい。というのも、「本当」であれ「嘘」であれ、それが表に出てきた時点では「良い結果を導くかどうか」は分からないからだ。だから先の話はより正確に言えば、「100%必ず悪い結果を導く『本当』」と「100%良い結果を導く『嘘』」で比較しないとフェアじゃない、みたいになるだろうか・
まあそんなわけで、僕は「嘘をつくことは決して悪いと思っていない」のだが、ただ、1つ明確に感じていることはある。それは、「嘘をつくなら、つき通せ」である。いや、仕方なくバレてしまうのは仕方ないが、「可能な限りバレない努力をした上で、その嘘を貫き通す覚悟を持てよ」と思う。というのもやはり、「それが『嘘』だと分かった上で良い結果をもたらす可能性は低い」と考えているからだ。
もちろん、「明らかに嘘だと分かる優しい嘘」が誰かの心を溶かすみたいなこともあるだろう。前に何かで、「結婚式で、子役などが新郎新婦の子ども時代を演じて両親を泣かせる」みたいなビジネスが取り上げられていたが、これも「嘘だと分かっていても感動させられてしまう例」だろう。だから絶対ではない。が、やはり「嘘」というのは、「嘘」だとバレてしまうと良くないことが起こる可能性が高まる。だから、「嘘をつくならバレないだけの努力をして、その嘘を貫き通す覚悟を持てよ」と思う。
そしてそういう観点から考えると、本作で描かれる「レンタル・ファミリー」いうビジネスはちょっとなぁという気がする。というのも、「ビジネス」である時点で「貫き通す覚悟」を持つことはなかなか難しいと思うからだ。秘密保持契約でも結ぶというなら話は別だが、そんなこともないだろう。本作でも、「結果的に嘘を貫き通せなかった」という状況が描かれていた。いや、そりゃそうよなぁ、無理だよ。
で、本作では、ブレンダン・フレイザー演じる主人公のフィリップが、嘘をつくことに葛藤したり、嘘を貫き通す覚悟を決めたり、嘘ではなく本当で相手を救いたいと考えたりする物語だ。「嘘であることを明かさず、誰かを騙すような形でつく嘘」を生業にすることにした彼は、様々な形で「嘘」や「本当」と向き合い、悩んだり喜びを得たりする。その姿を観ながら観客も、「嘘をつくこと」の意味みたいなものを考えさせられるだろう。
まだ遠い未来の話だろうが、いずれ人間社会は、「人間と区別がつかないAI」と共に暮らすようになると思う。そしてその場合、「人間だと思ってたのにAIだった」「AIだと思ってたのに人間だった」みたいなことが起こり得るだろう。そして極端なことを言えば、「レンタル・ファミリー」みたいなビジネスは、そういう時代を擬似的に先取りしているとも言えるかもしれない。
そういう世の中が当たり前になれば、本作の受け取られ方もまた全然変わってくるんじゃないかなと思う。
内容に入ろうと思います。
7年前に来日し、東京で暮らしているフィリップは、あまりパッとしない俳優だ。色んなオーディションに参加するものの、大した役をもらえるわけではない。そんなある日、所属事務所から「ギャラがいいから」と言われて向かったのが「生前葬」の現場。そしてそこで出会ったのが、「レンタル・ファミリー」という仕事を手掛ける社長。フィリップはその社長から「うちに来ないか?」と誘われるのだ。
後日事務所を訪れたフィリップは、仕事内容を聞いて「自分には出来ない」と断ろうとするが、説得されてやってみることに。最初の仕事は、「嘘の結婚相手」。事情があって「ニセの挙式」を挙げなければならない女性の新郎役である。しかし彼はその直前、トイレに閉じこもって逃げようとして……。
というような話です。
フィリップが関わる仕事は、ざざっと紹介されるものも含めれば色々あるが、メインで描かれるのは2つ。ミアという少女の父親役と、キクオという役者にインタビューする記者役である。
ミアの母親から、「小学校(だと思う)の編入試験はシングルマザーだと通らない」みたいなことで、父親役を頼まれた。しかし、面接でミアには嘘をつかせたくないという希望から、ミアには「本物の父親」であると思わせてほしいという依頼だったのだ。フィリップは、やはり嘘をつくことに抵抗を感じるものの、それがミアのためになると信じて父親を演じきる。
このミアとの話は、割と想定通りというか、王道的な展開というか、シンプルに良い話(とまとめるわけにもいかないけど)で、この物語は本作の軸として観客の心を掴むんじゃないかなと思う。
一方、キクオの方の話は、経緯をあまりちゃんと理解出来なかったのだが、確か娘から「かつて著名だった父が最近取り上げられないから、取材に来たという感じにしてほしい」みたいな依頼があったんだと思う。で、フィリップは記者のフリをして話を聞きながら老人の相手をする、という話である。
個人的にはこっちの話の方が好きで、まず何よりも柄本明が素晴らしい。キクオは「今にも認知症になりそうな雰囲気」を醸し出す、ちょっと危うささえ感じさせるような存在なのだけど、そういう雰囲気を絶妙に醸し出していた。ってかホント、柄本明メチャクチャいいな。ホントに「そういう人」にしか見えない凄さがある。
で、本作はブレンダン・フレイザーが主演ということもあるのだろう、日本人役者も英語のセリフが多い。ただ、ほとんどの場合違和感はない。レンタル・ファミリーの会社では外国人も扱うだろうから英語が喋れるのは不思議じゃないし、フィリップが起用されるのは「外国人」という要素が必要になる場面ばかりだから、そこにいる人が英語を喋るのも不思議はない。
ただ、キクオだけはメチャクチャ違和感だったなぁ。キクオが英語を喋れる必然性はない気がしてしまう。ここはもう少しでいいから、自然な納得感が得られる設定があっても良かったかなぁ。とはいえ、英語のセリフを喋ってる柄本明も、「英語を喋らされてる」みたいな感じになってないのが凄い。あと、セリフのすべてが英語なわけじゃなくて、日本語とのちゃんぽんだったのも良かった。その辺は、少しリアリティ的なことを考えてのことだったのかもしれない。
ちなみに、後半に描かれるちょっとホラー的な描写(いや、別に血みどろとかそういうことじゃないけど)にはビックリした。「ある人物がレンタルファミリーしていた」ということが明らかになるシーンなんだけど、作品全体のトーンからすれば、ここだけかなり狂気的というか、捉え方次第ではホラーだろって思った。いや、メチャクチャ面白かったけど。凄い話をぶっ込んでくるなと思った。
あと、個人的にちょっと驚かされるのが、「ブレンダン・フレイザーって『ザ・ホエール』の人だよな」ということ。役柄も体型も全然違うから、「マジかよ」って感じだった。
個人的には、「もうちょい何かあるといいなぁ」なんて思ってしまったが、全体的には良かったと思う。あと、電車に乗ってたり、電車が動いてる様子を撮ってたりする映像が多かったのも印象的だった。本作は「外国人に日本を見せる」みたいな意図もある作品だろうし、だとしたら「日本=電車」みたいなイメージって結構強いのかな? とか思う。どうなんだろう。
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