【映画】「花とアリス」感想・レビュー・解説
メチャクチャ良かったわ、『花とアリス』!
というわけで、初めて「目黒シネマ」に行ってみた。ホントは、「『ロスト・イン・トランスレーション』のリバイバル上映をやる」って情報を見かけてHPを見てみたんだけど、それは3本立てのオールナイト上映だったんで一旦諦め、で、その時に、岩井俊二の映画のリバイバル上映の情報を見かけて行ってみることにしたのだ。
でも、今日はホントは『リリィ・シュシュのすべて』を観るつもりでいて、でも前日にチケットを確認したら売り切れてて諦めた。っていうか、『花とアリス』もチケットがあと僅かで、久々に最前列で映画を観ることになった。メチャクチャ人気だなぁ、岩井俊二。「目黒シネマ」、思いのほか良さそうなので、ポイントカードももらったし、ちょいちょい行こうかなと思う。
で、『花とアリス』。「岩井俊二の作品」ってぐらいの知識しかなくて、「蒼井優が主演」ってことさえ知らなかったけど、いやー、ホント、これ超いいじゃないですか。ビックリ。
最初は正直、「花とアリスの関係性」押しの、ストーリーがそんなにないまま進む系の物語かなとか思ってたんだけど、割と早い段階で結構ぶっ飛んだストーリーが展開されていって、しかもその割とイカれた設定のまま最後まで突き進んじゃう。正直、その設定自体は「いやいやいや」って感じるようなものではあるんだけど、でも、どこかこの世界の中では許容されちゃうというか、「花とアリスの間でだったら起こってもおかしくはないかもなぁ」と感じさせるようなものでもあった。「ちょっとフワッとした世界観がこの奇妙な物語を成立させ、同時に、この奇妙な物語がちょっとフワッとした世界観を成立させている」みたいな、ウロボロスの蛇的なよく分からなさもあって、そういうところも凄く良かったなぁ。
というわけで、まずは内容をざっくりと紹介しておこう。
花とアリスは、同じ中学に通い、同じバレエ教室に通っている。2人は、2人以外に誰も乗らない駅から、誰も乗っていない電車に乗って学校に通っている。学校の最寄り駅に近づくにつれ乗客は増えてくるのだが、ある日彼女たちは、イケメン兄弟を発見した。いや、発見したのはアリスの方で、しかもアリスが好きになったのは兄の方だけ。っていうか、どう見ても兄弟じゃないっていうか、兄の方は外国人で、つまり2人は彼らの関係など全然分からずにあーだこーだ話しているのだけど、とにかくアリスはその外国人兄に惹かれたようだ。日本人弟の方は、文庫本を片手に何やらぶつぶつ言っている。
で、ある日、何故か花が1人で登校(か下校)している時、車内で爆睡していたら、たまたまその日本人弟が花の前に立っていた。目覚めた花はなんとなく気まずかったが、その時日本人弟が落語の本を持っていて、「寿限無寿限無……」と呟いていることを知る。
花とアリスはその後、同じ高校に入学した。花はすぐさま、落語研究会の門を叩く。やはり、日本人弟はそこにいた。彼は、落語の時には「爆発家五郎」という名前でやっていて、本名は宮本という。ちなみに花は「花家ピュンピュン丸」という名前をつけられた。
花は放課後、相変わらず文庫本片手にぶつぶつ呟きながら歩いている宮本先輩の後をつけていたのだが、そこで宮本先輩がシャッターに頭をぶつけて倒れるのを目撃してしまう。驚いて駆け寄った花は宮本先輩に「自分の名前は分かりますか?」と確認した。すると彼は「寿限無寿限無……」と口にして、「あー、良かった、名前覚えてた」と言う。記憶喪失なのか? と疑った花は心配するが、「寿限無寿限無……」と言ったのは先輩の冗談だったようだ。
しかしここで花は大胆な嘘をつく。記憶は失ってないから大丈夫と言う先輩に、「じゃあ、私に告白したことは?」と言うのだ。もちろん、そんな事実はない。しかし花は先輩に「もしかしたら記憶喪失なのかもしれない」「花に好きと告白したのかもしれない」と思い、「今私たち付き合ってるんですよ」という花の主張に押し切られるようにしてデートを重ねていく。
花は「先輩の方が私を好きになったんですからね」と主導権を握るようにして先輩を引き止めつつ、先輩が本当に自分のことを好きになってくれることを期待していた。しかしある日、「パソコンの調子が悪い」と言った花に「見てあげようか」と花の部屋に上がった先輩が、驚くべきものを目にしてしまい、そして後日花は、それをごまかすためにさらに嘘を上塗りすることになってしまう……。
というような話です。
本作はまずやはり、花・アリス・宮本先輩の3人の関係性がとにかく絶妙すぎる(上述の内容紹介だと、花と宮本先輩の関係にどうしてアリスが関わってくるのか分からないだろうが、この記事ではその辺りのことには触れないことにする)。正直、宮本先輩の「自分は記憶喪失なのか?」的な設定は無理あるやろーと思うのだけど、でもそれが全然嫌じゃない。ある種ファンタジックな設定とも言えるだろうけど、「それはそれでいいよね」みたいな感じにみんななっちゃうんじゃないかな。
で、たぶんそれは、蒼井優演じるアリスと鈴木杏演じる花の「恋する感じ」が観たい、っていう観客の希望がそうさせてるんだと思う。以前何かの本で、「『魔女の宅急便』のラストの方でキキ(だっけ?)が飛べるシーンには全然理屈はないけど、でもあの場面では、観客がみんな『飛べっ!』って思ってるから、だから飛ぶので正解なんですよ」みたいな、確か鈴木敏夫の言葉を読んだことがある。それと同じで、本作の「記憶喪失」の設定って、正直全然成立していないと思うんだけど、でも「観客が観たいと思っているものを提示する」のにメチャクチャ都合が良い設定だから、それで「それはそれでいいよね」みたいな感じになるんじゃないかなと思う。
で、この物語、何が良い(そして残酷)かっていうと、「自分はこの人のことを好きなんだっけ?」っていう感覚を宮本先輩が常に持ってる、ってことなんだよなぁ。彼は「自分は記憶喪失なのかもしれない」と思っているし、花がついた「私に『好き』って言ってくれたじゃないですか?」って話も一旦受け入れているわけで、だから「自分は花のことを好きになったことがあるんだろう」という風に思っている。のだけど、どうも先輩は花に対して「心の惹かれ」みたいなものを強く感じていないようだ。そのことは、花にもちゃんと話している。
宮本先輩は、「花のことを好きになったことがある自分」を取り戻すべきだろう、みたいに真面目に考えていて、だからたぶん、意識的に花に気持ちを向けるようにもしているんだと思う。
なのだけど、宮本先輩はどうにも花に「好き」という気持ちが芽生えない。この点が面白さでもあるし残酷さでもあるなと思う。
正直、こういう状況ってまずあり得ない。まああるとしたら、「ずっと昔の自分」に対してだろう。「昔の自分はどうもこんな感じだったらしいけど、今の自分の感覚からすればちょっと信じられない」みたいなことは、誰しもが感じることがあるんじゃないかと思う。しかし本作ではそうではなく、直近の過去について同じことが起こっているのだ。そんな「普段経験し得ない状況」をかなりリアルに描き出している点が、まずとても面白いなと思う。
そしてさらに、「『ちょっと前の自分が好きだったはずの人』のことを、今はどうも好きとは思えない」みたいな炙り出されることは、花にとってはかなりのダメージだと言っていいだろう。本作を観ている限り、花を入れて3人しかいない落語研究会に所属し、通学時に落語の本を片手に「寿限無寿限無……」と言ってる宮本先輩は、とても「モテるタイプ」には思えないし、だから可愛い後輩に「私のこと、『好き』って言ったじゃないですか?」とか言われるとか、「なんか凄くいいじゃん!」みたいな状況だと思うんだよなぁ。でも、にも拘らず宮本先輩は花に対して「う~ん」みたいな反応を続けるわけで、これは花としてはかなりしんどい状況だろうなと思う。
ただ、単にそれだけだったら、「学生時代は落語に打ち込みたいのかな」とか「もしかしたら異性じゃなくて同性が好きな人なのかな」みたいな可能性もあるし、花としても色んな逃げ道を作れたかもしれない。しかし本作ではなかなか残酷に、そんな逃げ道をスパッと断つような展開になっていくのだ。
これもホントに絶妙だったなと思う。とにかく、そういう状況になってしまうまでの展開が上手い。花が宮本先輩に「記憶喪失かもしれない」と信じ込ませただけで十分あり得ないが、その後の展開も相当あり得ないだろう。しかし、「あり得ない」という枠の中で言えばかなり相当「あり得る」に近い場所にいる感じもして、だから「まー、受け入れたるか」みたいな気持ちになる。いや、ホント、よく出来てるよなぁ。
で、さらにここで効いてくるのが、花と宮本先輩がカフェでデートしている姿を覗きに来たアリスが口にした「どこで出会ったの?」である。そう、アリスは、電車の中で宮本先輩を見ていたことを忘れていたのだ。いや、アリスはたぶん外国人兄しか見ていなかったはずなので、それでまったく覚えていなかっただけなんだけど思うけど、この「アリスが宮本先輩のことをまるで覚えていなかった」という点も、結果としては花に対するダメージに繋がっていくよなと思う。
さらにその後、花からすればちょっと予想外すぎる展開になっていくし、そっちの展開もメチャクチャいい。特に、「引き出しの奥にしまっておいて、時々見つけたら私のことを思い出して」っていうあのシーンはやっぱり最高すぎるだろと思う。そこに至るまでの「発覚」とか「勘違い」とか「号泣」なんかも相まって、「なんて良いシーンなんだ」っていう感じだった。
で、正直この3人の関係性だけでも全然十分良かったんだけど、本作には他にも色んな要素が絡んでくる。
まずは、平泉成演じるアリスの父親(相田翔子演じる母親とは離婚しているらしい)とのシーン。正直、何でこんなシーンが挿入されるのかしばらく良く分からなかったんだけど、なんとこれが思いがけない展開になっていって感動をもたらすとは、って感じだった。花・アリス・宮本先輩の3人が浜辺でトランプしている時に「あれ?」と思ったけど、でもまさかそんな話になっていくとは想像もしていなかったし、良かったなぁ。まあ、この展開も、冷静に考えれば「あり得ない!」って感じなんだけど、でも、本作の世界観の中で提示されると、「ま、いっか」ってなるから不思議だ。不思議すぎる。
あと、本作における「バレエの話」と「アリスがスカウトされた話」は、正直、物語全体にあまり関わらないので、その要素をまるっと抜いちゃっても恐らく物語は成立するでしょう。まあ、「スカウトの話」に関しては、その後アリスがオーディションに落ちまくるっていう展開になるので、母親との関係性も相まって「世の中に自分は必要とされていない」みたいな感覚を強める要素として機能している気もするし、それは、花・アリス・宮本先輩の3人の関係性においても重要な要素になっている気もするので、まるで意味のない描写というわけではないかもしれません。
ただ「バレエの話」は、マジで何の意味も持ってない気がする。花とアリスがバレエ教室に通ってないといけない必然性はマジでなかったよなぁ。
なのだけど、ほぼラストシーンと言ってもいいような場面で、いきなりバレエに焦点が当たる。このシーンも別に、物語全体にとっては特段意味がないというか、必然性ゼロという感じはするのだけど、ただ、シーン単体で言ったらメチャクチャ良かった。メチャクチャいい。このシーンのためだけにバレエの設定を組み込んでいたとしたなら、なんつーかメチャクチャ贅沢だなぁって感じがする。何これ、ホント、良すぎるんですけど。しかも、このシーンのためだけに大沢たかおと広末涼子が出てくるし、無駄に贅沢すぎる。
そんなわけで、3人の関係性だけじゃなく、「蛇足じゃない?」と思わせる要素さえ素晴らしいもので、全体の雰囲気だけじゃなくてストーリーも素晴らしかったことに感動させられた。メチャクチャ良かったなぁ。
蒼井優と鈴木杏の演技もさすがで、ってかこの2人、当時何歳なのか知らないけど、15歳役をやってるんだから結構若いんだよなぁ。いや、上手い。宮本先輩を演じた役者は、まあそういう役柄っちゃそうなんだけど、正直そんなに上手いとは思えず、だけど、その上手くない雰囲気を演技で醸し出していたとしたらそれはそれで絶妙だなと思う。
あと本作には、ちょい役で色んな役者がぞろぞろ出てきてビックリさせられる。阿部寛なんかマジで一瞬しか登場しないし、大森南朋もかなり短い。大沢たかお、広末涼子、平泉成、相田翔子、あと木村多江なんかもそんなに登場シーンが多くはないし、さらに他にも、僕が気づいた限りだけど、アジャコング、ルー大柴、叶美香、虻川美穂子(北陽)などなど色んな人が出てくる。なんとも贅沢な映画だなという感じがする。
というわけで、文句のつけようがない作品で、ホントメチャクチャ良かった。22年前の映画みたいだけど、マジで全然今でも通用する作品だよなぁ。素晴らしい。岩井俊二の映画って、名前を知ってる作品は色々あるけど、たぶん観たことあるの『キリエのうた』ぐらいだったんだけど、機会を見つけて色々観てみようと思う。いやー、素晴らしかった!
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