【映画】「Tokyo Melody Ryuichi Sakamoto」感想・レビュー・解説
なかなか奇妙なドキュメンタリー映画である。というか、元々は映画として作られたわけではないようだ。公式HPによると、「フランスのテレビ番組のためにドキュメント・フィルムを撮らせてほしい」という依頼があって撮られた映像のようだ。
そんなわけで、本作のナレーションはフランス語(たぶん)で、字幕は英語という構成だった。基本的には、坂本龍一が喋っている音声が英訳されているので、日本人は声を聞いていればいい。のだけど、冒頭の方で坂本龍一を紹介する英語の字幕が表記され、それに日本語訳はつかなかった。本作は「近年になり倉庫に眠っていた16mmフィルムが発見され、修復を経てデジタル化が実現した」という経緯で4Kレストア版の公開に至ったそうだが、デジタル化だけして、中身には一切手を加えなかったということなのだろう。
本作は、ざっくり言うと3つのパートで構成されている。1つが「坂本龍一へのインタビュー」。恐らく監督に問われるがままに、色々答えているのだろう。2つ目が、「坂本龍一らによるレコーディング風景」だ。公式HPによると、『音楽図鑑』というソロアルバムの制作している様子らしい。そして3つ目が、「東京の街(の音)」である。この3つが入り混じる形で1つの作品に仕上がっている。
まず割と印象的なのは、「東京の街(の音)」だろう。本作の撮影は1984年5月に行われたそうだ。僕が1歳になったばかりの頃ぐらいである。そしてその当時の東京を外国人目線で捉えた景色が本作には収められている。しかも、すべてではないが、「音」が特徴的な光景が多く、作中に時々挟み込まれるこの要素がまず結構面白いと思う。
中でも、現代人にはまったく聞き覚えがないだろう(というか、僕も正直無い)「切符を切る音」は、ある種の「音楽」感もあって凄くいいなと思う。自動改札やSUICAなどなかった頃は、「改札で駅員が紙の切符に切り込みを入れる」というのがあった。その音が、なんとも言い難いリズミカルな感じで素敵なのだ。
そして他にも、「パチンコ」「竹の子族(かな?)」「秋葉原(だろう)電気街の喧騒」「団地」「お賽銭」「祭り囃子」「風鈴」など、様々な「風景(の音)」が収録されている。
前に何かで読んで知った話なのだが、外国人が日本に来て驚くことの1つに、「街が静かなこと」が挙げられるという。これは「人が喋っていない」という意味だ。外国では、人が会話をする音が街を満たしているのに、日本はそれがないのだという。確かに、欧米のことはよく知らないが、アジアとかは常に人の声で満ちていそうな印象はある。
そしてそんな「人の声が少ない都市」だからこそ、人の声以外の音が耳につくなんてことにもなるのだろう。日本人からすれば普通の状況だが、外国人からすれば、「人の声ではない音がこれほどたくさん聴こえる」みたいなところに面白さを感じたなんてこともあるかもしれない。
さて、そんな「街の音」に関して、坂本龍一がこんな言及をしている場面があった。
【今、喫茶店でもデパートでもバックグランドミュージックが流れてますけど、どの曲も、頭から終わりまで聴くなんてことはないわけですよね。エスカレーターに乗っている間だけ耳にして、それで終わっちゃうなんてこともある。だから、どこを切り取っても必要を満たしているみたいにして作られてるんです。僕は、そういう音に凄く興味があります。
5分から10分、頭から終わりまで聞かないと意味が取れない音楽なんて、今の生活には合わないですよね】
そして同じようなことを別のインタビューの中でも語っていた。
【音楽って最初は、曲の頭から順を追って作ってくみたいにして始まったと思うんですけど、今は、途中を作ってどこかにメモリーして、また別の場所を作ってメモリーして、みたいなことが出来る。それまでは、音楽の時間は線形の一方向のものだったけど、そうじゃなくて、バラバラの時間の塊をどう繋ぎ合わせるかみたいなことになってる】
作中には、坂本龍一がシステムディスクについて説明する場面があるのだが、要するに「テクノロジーの進化で新しい音楽の作り方が出来るようになった」ということなのだろう。そしてそんな「テクノロジーの進化」については、こんな風に話していた。
【今、この国のメインストリームの文化は権威を失ってる。一方で、テクノロジーは一人歩きしてどんどん高度になってる。人間が想像できる地平のはるか向こう側まで可能性を示し始めてると思う。
そのことに対して僕は肯定も否定もしない、つまり、自然とか近代以前に還れなんて考えてるわけじゃない。ただ常に、テクノロジーのエラーのことは気になってて、そこから当たらな知見が発展していくんじゃないかなと思ってやってるんです】
フランス人クルーたちによるこのインタビューが何を目的として行われたのかイマイチよく分からないのだが、「今この時代に、東京という街で音楽を作っていること」みたいなテーマで色々聞かれていたのかなという感じがするし、彼の答えは実に興味深いなと思う。
しかし、「今この時代に、東京という街で音楽を作っていること」には含まれなそうな返答もあって、そしてそちらもなかなか面白かった。
彼はドビュッシーの音楽が好きらしいのだが、その理由が、「少ない音なのに、複雑性があるその多様性」にあるようだ。そして彼は、「音楽の多様性」みたいなことについても結構考えていたようだ。
【日本には「カタログ雑誌」みたいなものが増えてきてて、それは音楽にも言えるように思います。音楽も、ジャンルばっかり増えていくんですよね。でも、音楽の多様性はどんどん薄くなっていく。ジャンルがメインみたいになってて、音楽としては均一性が増している気がします】
そして、恐らく同じような主張なのだろう、「コピーライター」に関する言及もあった。
【今日本ではコピーライターがもてはやされてる。実体を短く言葉で表現するわけですけど、結局それって、「実体を言い表す枕詞だけで実体を理解した気になってるだけ」だと思うんです】
こういう割と哲学的な思考は、さすが「教授」と呼ばれただけのことはあるなという感じである。
本作は62分のドキュメンタリー映画で、しかも「風景(の音)」や「レコーディングの様子」などがかなり多いので、言葉に興味のある僕としては凄く良かったというわけではない。ただ、時折坂本龍一の口から語られる思索は興味深かったし、もちろん、坂本龍一にとっては色んな意味で興味を抱ける作品だろうと思う。
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