【映画】「苦悩のリスト」感想・レビュー・解説

米軍機に大勢の人々がぶら下がったまま発進し、そのまま上空から人が落ちてしまう映像は、報道番組の中で観てかなり衝撃を受けた。2021年の7月か8月の出来事である。アフガニスタンから米軍が撤退することが決定し、それを契機にタリバンが復権した際のことである。

アフガニスタンは大混乱に陥った。特に首都カブールは。映画の中で、「カブール市民全員が空港に集まった」みたいなセリフが出てくる映像が使われる。市民が、タリバン政権から逃れるために国外脱出を図ろうと、カブール国際空港に集結したのである。

しかしそこは米軍が管理しており(他のヨーロッパの軍人もいたようだが、主導権を握っていたのは米軍だったという)、空港内への入場そのものが制限されていた。作中では、「アメリカは、アメリカがほしい人物だけを優先的にゲートを通している」みたいなことを誰かが言っていた。国外脱出するにはカブール国際空港の中に入るしかないが、大量に殺到した人たちのごく一部しか中に入れずにいたのである。

さて、そのような状況の中で、最も命の危険が高い存在がいた。それが「芸術家・アーティスト」である。何故ならタリバンは「反文化、反芸術」を標榜しているからだ。さらに、タリバンが鳴りを潜めていた頃、アフガニスタンのアーティストたちは「反タリバン」的な作品を発表したりしていた。芸術家というだけでも危険なのに、「反タリバン」的な作品を作っていたことが分かれば、それだけでも命が奪われておかしくない。

当時のアフガニスタンは、そのような状況にあったのだ。

そこで立ち上がったのが、モフセン・マフマルバフ監督である。本作『苦悩のリスト』の撮影・監督を行ったハナの父親である。モフセン・マフマルバフはイラン出身の巨匠と呼ばれる監督である。本作と、同時上映のもう1作『子どもたちはもう遊ばない』は今日12月28日が公開日なのだが、モフセン・マフマルバフは10年ぶりに来日し、舞台挨拶とトークイベントを行った。この記事では、そのトークイベントで語られた内容も随時含めていく。

本作『苦悩のリスト』には、説明的な描写はほぼない。日付と、彼らが住んでいるのがロンドンであることが明示されるぐらいで、それ以外は、撮影された映像の中で語られる言葉から状況を読み取るしかない。だから分からないことも多いのだが、トークイベントの中で補足的な状況がいくつか話されていた。

まず、イラン出身の監督がどうしてアフガニスタンの芸術家の救出に関わることになったのか、という話。マフマルバル一家は娘も息子(だと思う)も映画監督らしく、3人でこれまで42作(40作かもしれない)の映画を撮ってきたのだが、その内12作はアフガニスタンでロケを行ったという。そのため、アフガニスタンの芸術家とは関わる機会が多く、「自分が何かしなければ」と立ち上がったのだそうだ。

彼はフランス政府と交渉し、アフガニスタンの芸術家の救出を求め続けた。ロンドンに住んでいるのに何故フランスに助けを求めたのかはよく分からないが、恐らく政府高官に対する何らかのルートがあったのだろう。しかし結局、カブール国際空港を仕切っていたのが米軍だったこともあり、なかなか上手くいかない。イランとアメリカの仲の悪さもあって恐らく、直接アメリカに支援を求めるのも難しかったんじゃないかと思う。

トークイベントの中で監督は、「この映画は、救出活動を続けていた5週間の内の最後の1週間を映し出したもの」と言っていた。何故救出活動にリミットが存在するのかというと、「8/31に米軍がアメリカから撤退する」という話になっていたからだ。それまではカブール国際空港はまだタリバンから安全と言えるわけだが、米軍が撤退してしまえば恐らく、遠隔で救出活動を続けるのは難しくなる。そしてそんな、8/31までの最後の1週間が切り取られていくというわけだ。

本作で使われている映像は別に、映画を作ろうと思って撮っていたのではないという。娘のハナは普段から、何かあれば記録的に映像を撮っているのだと思う。この時も、救出活動の手伝いの合間合間にカメラを回していた。そして1年ほど経った後で親子で話している中で、「そういえば私、あの時の映像撮ってある」という話になり、それから編集し公開に至ったというわけだ。

監督は当初、救助すべき800人のリストを作成していた。アフガニスタン在住の芸術家とその家族合わせての数字である。しかし、電話越しに誰か(フランス政府の高官だろうか)から、「もっと少ないリストもくれ。800人は不可能だ」と言われてしまう。まあ、現実的にはその通りであり、彼らは「より分割したリストの作成」をすることになる。

そしてその後、具体的に救助の方法がまとまってくると、「飛行機1便に対して20名まではなんとか枠を取る」という話に落ち着いたようだ。そのため彼らは、「どの便にどんな20人が乗るのか」というリストをひたすら作っては送り続けた。

しかし想像できるだろうが、これは大変な作業だ。まず、「米軍による排除が厳しくなる前にカブール国際空港内に入れていた者」もいたりする(のだと思う)。しかし、誰が「塀の内側」にいて、誰が「塀の外側」にいるのか分からない。さらに、カブール国際空港の外にいる者でも、「今塀の外側にいる」のか、「塀の外側にはいないが、カブール国際空港まですぐ行ける距離の場所(ホテルなど)にいる」のか、あるいは「カブール国際空港から大分離れた場所にいる」のかもある。また、芸術家本人がそこにいるのか、あるいは家族だけなのかも把握しなければならないし、リストを当局に送ってからも、随時修正の必要がある。既に脱出を果たした者をきちんと把握しておかなければ、再びリストに名前を載せてしまいかねないので、その辺りの管理も必須である。

みたいなことを、監督を含めたった3人だけでやっているのである。

しかも途中で、爆弾が爆発して170名以上が死亡したり(芸術家だけが亡くなった、みたいなことではないが)、通信状況が悪くなったりする。またそもそもの問題として、「リストを送ったとして、それが誰なのか分からない」という問題もあった。最終的には身分証で確認するにせよ、初手からそれではしんどい。そこで監督は電話口の誰かに、「映画館主を生かせますよ。彼なら、リストに載っている芸術家全員を知っているので」などと提案する(それが実現したのかは分からないが)。確かに、フランス軍の確認作業を手伝う人物も必要だろう。そのような調整をひたすら続けていくのである。

彼らは、8/31のリミット以降も活動を続け、2021年8月から2023年7月までの2年間で、800名の内375名の救出に成功したそうだ。しかし残りの400名強は、今もアフガニスタン国内で身を隠しながら暮らしているという。ウクライナの戦争やガザ地区の戦闘など様々なニュースが伝えられる中、アフガニスタンの現状が忘れられていると感じたため、このような映画を作って改めて世間に訴えることにしたのだそうだ。

世の中で起こっている悲劇をすべて知ることも、忘れないでいることも容易ではないが、こうして作品として新たに触れ直すと蘇ってくるものもあるだろう。タリバン政権は本当に、時代を数世紀逆行させるみたいな最悪な存在だと思うので、どうにか世界から廃絶されてほしい。いや、廃絶しなくても別にいいのだが、「本当にその信仰が必要だと思う人」以外には強制しないような存在としてあり続けてほしいものだと思う。お前らがコーランを信じるのは勝手にすればいいが、他の人にも押し付けるなよ、と僕は思う。

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