【映画】「木挽町のあだ討ち」感想・レビュー・解説

なるほど、これはなかなかよく出来た物語だったなぁ。正直、全然観るつもりはなかったんだけど、観る予定の映画のストックがちょっと切れたので観てみることにした。なるほど、よく出来てる。

というわけで、まずは内容の紹介から。

文化7年(1810年)1月16日、江戸・木挽町にある芝居小屋・森田座では、仮名手本忠臣蔵の千穐楽が行われていた。そしてその直後、芝居小屋裏手の火除地で仇討ちが始まった。美濃国遠山藩の伊納菊之助を名乗る男が、江戸でちょっと知れた悪党である作兵衛を父の仇として討つという。雪降る中、芝居を観終えた観客を含め200人近くの見物客がいる中、菊之助は作兵衛の首を討ち取り、仇討ちを成した。

それから1年半後。その森田座に1人の男がやってくる。加瀬総一郎を名乗るその人物は遠山藩の者だとかで、聞けば妹の許婚が菊之介だという。芝居小屋の客寄せをしている一八は彼の話を聞き、さらに、森田座で菊之介と関わっていた者たちを紹介する。そう、菊之介は仇討ちの半年前から、この森田座の世話になっていたのだ。菊之介の母と、この森田座に所属する江戸一の狂言作家・篠田金治にはかつて縁があったとかで、母から「仇が見つからなければ森田座を訪ねなさい」と言われていたのだ。菊之介は森田座で、黒衣として重宝されていたそうだ。

加瀬は、いろんな人から菊之介の、そして仇討ちの話を聞く。しかし、目的は何なのか? 1年半前の仇討ちについて調べる理由は? 200人の証人がいる仇討ちに、何か疑惑でもあるというのか?

というような話です。

本作は、まず冒頭で割と綺麗でインパクトのある仇討ちの場面が展開される。インパクト、というのは少し違うか。まあ綺麗な感じのシーンで、冒頭から惹きつけられることは確かだ。

そして、返り血を浴びた菊之介が生首を持って歩くシーンの後、すぐに1年半後に飛ぶ。加瀬という男が出てきて、仇討ちについて調べ回るのだけど、とにかくこの加瀬が曲者で面白い(その感じを柄本佑がまあ絶妙に演じている)。加瀬は何かを探ろうとしているようだが、しかしそういう思惑を絶妙に隠して(まあバレてはいるが)話を聞く。

ただ、どうして1年半前の仇討ちを調べているのかは、森田座の面々も、そして観客も、しばらくよく分からない。

で、ここには「そもそも『仇討ち』って何?」みたいな話も絡んでくるので、まずはその話をしておこう。僕は歴史とかホントに大嫌いで学校でも避けてきたので本作中で説明されるまでちゃんとは知らなかったが、どうやらかなりちゃんとしたルールに則ったものらしい。

菊之介の場合は「父の仇討ち」なわけだが、その際、まずは藩に届け出を出すようだ。で、承認されたら、仇討ちのために藩を出る。で、仇討ちを遂げるまで藩には戻れないそうだ。マジか。しかも、仇討ちを一度宣言してしまえば取り消すことは出来ず、やり切るしかないようである。そしてその代わり、仇討ちを成し遂げれば英雄(という表現ではなかったと思うが)になれるみたいだ。

で、話を戻すと、加瀬は菊之介の縁者であり、そして、今も江戸中で知られている「木挽町の仇討ち」を成し遂げた菊之介は、まさに英雄と言っていい。となれば余計に、加瀬がこの仇討ちの一体何に疑念を抱いているのかが分からないということになるのだ。で、それは当面理解できないまま物語が進んでいく。

正直この辺りの展開は、物語としてはかなり運びが難しいんじゃないかなと思う。原作小説がどんな構成・展開になっているか知らないが、本作では、「200人の証人がいる疑いようのない仇討ちに、理由も分からず疑念を抱いている人間がいる」みたいな状態がしばらく続くので、観ている側としては「???」となる。もちろん、「この仇討ちには何か裏がある」ということは明らかで、さらに「ざっくり何があったのか?」みたいなことも割と早い段階で想像できるんじゃないかと思うが、しかし「何がどうなったらそんな状況が成立するのか?」は分からない。

というわけで、冒頭から中盤ぐらいまでは、結構分からないこと尽くしである。

そして、そんな物語に観る者をちゃんと惹きつけるのが、加瀬(柄本佑)を始めとする一癖も二癖もあるキャラクターである。特に前述した通り、加瀬は相当な曲者で、その佇まいだけでも結構見ていられる感じがある。

また、遠藤憲一演じる殺陣師(公式HPの表記だと「立師」だけど)や瀬戸康史演じる一八なんかも絶妙で、冒頭からしばらくはこういうキャラクターの面白さで大分引き込んでいるなという感じである。

で、中盤ぐらいからようやく物語自体が動いていく感じがある。しかしここでも、よくあるミステリ的な展開とは違った流れになる。というのも、まず明らかにされるのが「探偵側である加瀬の事情」だからだ。いや、真相よりも先に加瀬の事情が明らかになるのは当然と言えば当然だが、普通そういうのは割と序盤で分かるものであって、中盤以降に明らかになるというのはなかなか変わっている感じがする。

で、加瀬の事情が分かると、それまで提示された様々な情報の意味が一気に変わっていく。ありきたりな表現だが、オセロの駒が一気に裏返っていくみたいな感じになるのだ。で、加瀬が事情を明らかにしたことをきっかけにして、真相が明らかになっていく。その真相の大枠自体は恐らく誰もが早い段階で想像できるんじゃないかと思うが、先程も書いた通り、「どういう事情があったらこんな状況が成り立つのか?」みたいなことはなかなか想像できないので、その辺りがかなり上手いこと収斂していく感じが良いなと思う。

しかしホント、大昔の話とは言え、「武士のメンツ」みたいな話はアホくさいなぁ、と思う(別にそれは「ヤクザのメンツ」みたいなことにも同じようなことを感じるのだが)。メンツって何? そんなクソどうでもいいことのために人の生き死にが関わってくるのとか、止めてほしいんだけど。

さて、個人的に感心させられたのが、タイトルの「あだ討ち」が「仇討ち」ではない点。特に意味があると思ってはいなかったが、作中で「なるほどなぁ」となる場面がある。

というわけで、感想としてそんなに書くことはないんだけど、設定もキャラクターも展開もかなり秀逸で、満足できる作品だった。今年はホント、自分的にハズレの作品が多いから、今年観た中でも結構上位だなぁ。


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