【映画】「羊たちの沈黙」感想・レビュー・解説
古い映画を観る機会のない僕は本作を初めて観たのだけど、なかなか面白い作品だった。「刑務所にクソヤバい犯罪者がいて、そいつとやり取りする」ぐらいのメチャクチャざくっとした内容ぐらいは知っていたのだけど、なるほどこんな話だったのかという感じだった。
個人的に面白いなと感じたのは、「レクター博士は確かに主人公なのだけど、ストーリーそのものにはほぼ関係がない」という点だ。作中では「ある事件」が描かれており、レクター博士はその捜査協力をするという関わり方をするのだけど、正直なところ、レクター博士がいなくたって、この事件はきっと解決しただろう(時間は掛かったかもしれないが)。で、一応本作の物語は、「レクター博士の存在」を無視すればこの事件をベースに展開されていくわけで、とすれば、「本質的にはレクター博士の存在は不要」ということになるだろう。
しかし、そういう構造のストーリーにおいて、レクター博士は圧倒的に主人公であり、不可欠な存在である。その点がなかなか興味深い物語だなと思う。
というわけで、まずはざっくりと内容の紹介をしよう。
FBIアカデミーの実習生であるクラリスは、大学時代に、行動科学課の主任であるクロフォードのゼミにいたこともあって、FBI入局後も行動科学課を志望している。そしてそんなある日、クロフォードから呼び出され、ある囚人に会ってほしいと頼まれるのだ。
クロフォードは現在、監禁中の凶悪殺人犯の精神分析を行っており、大体の囚人が協力的なのだが、1人だけ完全に非協力的なのだという。クロフォードはクラリスに、「そいつはきっと君とも話はしないだろうが、行動観察だけでもいいので報告を上げてほしい」という。そしてその囚人というのが、著名な元精神科医であり、「人肉を食べる」という連続猟奇殺人によって収監されているハンニバル・レクターである。こうしてクラリスは、彼が収監されている刑務所(だと思っていたのだが、精神病院らしい)へと向かった。
「ガラスには近づかないで」「ペンなど渡さないように」と注意を受け、また「個人的なことは話さないように」とクロフォードからも言明されてた中(後で分かることだが、クロフォードはクラリスの辛い過去を知っているのだ)、クラリスはレクター博士と対面する。彼女はレクター博士に「質問事項に回答してほしい」と頼むのだが、のらりくらりと回答を控える。さらに、クラリスの個人的な話を聞き出そうとするのだ。
一方、今アメリカでは、「バッファロー・ビル」と名付けられた連続猟奇殺人犯が注目の的だった。被害者は全員女性で、死後に皮を剥ぎ取られるという酷い仕打ちを受けている。まったく手がかりがなく捜査は暗礁に乗り上げているのだが、レクター博士が関心を示していることもあり、FBIはこの事件について彼から何か情報を引き出そうと考えた。
さて、何度もレクター博士と会う中で、クラリスは結局、自分の話をせざるを得なくなる。それは、幼い頃に父親が亡くなったことから始まる物語だ。既に母親も亡くなっていたため親戚の牧場(羊と馬を飼っている)に引き取られたのだが、クラリスはある日、羊が解体されている様を見て家出を決意、柵を開けたのに逃げない羊に痺れを切らして1頭だけ抱えて逃げたのである。
レクター博士との会話の中で、そんな過去のトラウマが少しずつ引き出されていく彼女は、そのまま「バッファロー・ビル」の事件にも加わることになるのだが……。
というような話です。
やはりとにかく、レクター博士の存在感が絶妙で、「何をするのか/何を考えているのか分からない」という雰囲気がすごく良かったなと思います。僕は観る前からなんとなく「レクター博士は天才」という印象を持っていたので、そういう先入観ありきの見方になっているかもしれないけど、でもやっぱり、振る舞いや発言の端々に「天才性」みたいなものが感じられるのが素晴らしかったです。
しかもなんというのか、レクター博士にとっては別に「その天才性を世に見せつける」みたいな理由で犯罪に手を染めたわけじゃないと思うんだよなぁ。それもまた良い。シンプルに「生存」と「猟奇殺人」が結びついているんだろうなという印象があるし(割と序盤に出てくる「心電図」の話がその事実を補強するだろう)、そういう人物なんだろうということが、彼の振る舞いからにじみ出ている感じがあって、凄くいいなと思います。
しかしまあ、中盤以降、ある展開があって、レクター博士の存在感が増すのだけど、こういう展開は現実的にあり得るんだろうかと思ったりする。いや、別にそれがあり得ないからと言ってリアリティが無いみたいな話をしたいわけではないんだけど、さっきから書いている通り、「レクター博士は全然関係ない(はずの)人」であり、そんな展開になるだろうか、と思ったりする。ただまあ、出された条件が、レクター博士の行動云々ではない形で提示されていたので、まあそれならリスクも無いかという感じだったのだろう。
あと、後半の「逃げる」展開では、なんとなく直感で「あれ?これは怪しいぞ」と思ってたことが割と合ってたんだけど、しかしそれにしても、まさか「アレをあんな風にしている」とは思わなかった(観ていない人には何を書いているのかさっぱり分からない文章だろうが)。
そしてラストシーン。正直僕はウィキペディアを観るまで、このラストシーンの意味が分かっていなかった(これは、僕が人の顔を覚えたり認識したりするのに困難があるためだと思ってもらえばいいだろう)。ウィキペディアに書かれている「あらすじ」を読んで、「なるほど、そういうことか」と思った。こういう時にアファンタジア(脳内で映像が浮かばない人)の不利を感じるよなぁ。
というわけで、今回は「午前十時の映画祭」で観たんだけど、割と広めの劇場がほぼ満員で驚いた。アマプラとかでも観れるだろうに、みんな映画館に来るんだなぁ。おどろきである。
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