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ロン・ミュエク展@森美術館。過去イチレベルで超良かった!

森美術館でやってるロン・ミュエク展に行ってきた。これはマジでメチャクチャ良かった。今まで色んな美術展に足を運んできたが、その中でもトップクラスに良かったなぁ。3周してしまった(森美術館はループ状の構造になってるから、何度でも観るのに最適)。


ただはっきり言って、何が良かったのかは上手く説明できない。言ってしまえば「精密な彫刻」であり、それ以上でもそれ以下でもないからだ。「正確さ」や「リアルさ」みたいなものは、特に現代美術においてはさして重視されない要素に思えるし、「リアルだから何なん?」みたいな受け取られ方になってもおかしくはないだろう。

ただ、本展の場合、まずはその「圧倒的なリアルさ」が印象的だった。皮膚や爪まで本物みたいに思える造形に、シンプルに「すげぇな」という感じになる。基本的には「人」をモチーフにしているようで(今回いた人以外の存在はニワトリだけだったはず)、そしてそのリアルさによって、人のその「存在感」が圧倒的になっているなと思う。


しかし、面白いのはここからだ。彫刻だから当然と言えば当然ではあるが、実際の人とはサイズ感が異なる。そしてそのことによって、「人ではない」という印象がとても強くなるのだ。特にそれが顕著だったのが、ベッドに横たわる女性の彫刻だろう。完全にバグったサイズ感なのだが、しかし造形は凄まじくリアルであり、だから、「現実感」と「非現実感」が同時に共存しているみたいな印象になる。

その強烈な違和感が、観るものに強い印象をもたらすのかな、と思う。


印象的な作品はいくつかあったが、まずはスクール水着(じゃないんだろうけど、日本人的にはそう見える)の女性だ。血が通ってそうな皮膚とか、本物を使ったのかって思うような爪などムチャクチャリアルなのだけど(腕に毛も生えてる)、身長がかなり大きめで(ちゃんと立ったら2m50cmぐらいありそう)、そこはリアルじゃない。なんだけど、何かを訴えかけるような表情は、まさに今僕の目の前に女性がいるかのような印象を与えるし、なんとも不思議な気分になる。




また、「パンツ一丁の老人とニワトリ」の彫刻も良かった。まず、シチュエーションが謎すぎる。なんでパンイチ? なんでニワトリと向き合ってるの? ってかテーブルにニワトリが乗ってる状況何? みたいなツッコミところが山ほどある。で、そういう「現実にはあり得なそうな状況」を、異次元レベルのリアルさで描くので、なんかザワザワさせられてしまうのだと思う。




あと、作者自身をかたどったらしいデカい顔も印象に残っている。顔というのは人を象徴するような部分であり、だから余計にリアルさが要求されるわけだが、ヒゲとか唇のシワなんかも本物みたいでビビった。なのだけど、やはり顔のサイズがデカすぎてリアルさが失われてるし、だから、不気味の谷にも陥らずに済んでるのかなとも思う。



さらにこの顔の彫刻は、裏側に回ると空洞になっていて、そういう意味でもよりリアル感がないと言っていいだろう。正面から観ると紛れもなく人の顔なのだが、少し角度を変えると一気に実在感が失われる。リアルと非リアルがシームレスに接している感じ(というか、反転してるの方が近いかな)があって、これも実に不思議な感覚だった。


で、やはり白眉と言っていいのが、展示のラストにある骸骨の山だろう。これは圧巻だったなぁ。骸骨1つの大きさを何かに喩えようと色々思い浮かべたけど、どうもしっくり来るものがなかった。ただ、高さが僕の身長の半分ぐらいはあってもおかしくないから(いや、もっとあったか?)、直径90〜120cmぐらいの球体って感じかな。日常で見かけることのないサイズの球体だし、もちろん、骸骨のサイズとしても異常だ。


そしてそれが、無数に置かれている。説明によるとちょうど100個らしいが、サイズ感のこともあり、「無数にある」という印象だった。無造作に積み上げられた(実際はロン・ミュエクが各会場ごとにちゃんと配置を決めてるらしいが)骸骨は、彫刻作品かつ骸骨であるという性質から「物言わぬ存在」であり、しかし同時に、「かつて生物だった記憶」としての骸骨でもあるわけで、何かを訴えかけてくるような印象もある。「声」と「無声」が同時に存在しているような感じなのだ。


また、骸骨は明らかに人骨をかたどっているが、やはりサイズがバグっているせいで人骨には見えない。日本人なら、『進撃の巨人』の巨人を連想してもいいかもしれない。そんな「人の形をした人ならぬ存在」の死が積み上がっているような印象もあって不気味だった。


しかし、また違った解釈も出来るだろう。例えば僕は、「『死』があまりにも日常から隠されてしまっている」みたいな印象を抱いている。「死」に関わるあらゆるものが「禁忌」として遠ざけられているような気がしているのだ。誰もが迎える普遍的なものなのに、何故か「触れてはいけないもの」みたいな扱いになっているなという印象が強い。

で、この巨大な骸骨を人骨と捉えるなら、「人の世から忌避されているが故に、人が見ていない内に肥大してしまった『死』」を象徴してたりするかもなぁ、なんて思ったりした。


心理学の世界には「シロクマ効果」と呼ばれているものがある。これは、「『シロクマのことだけは考えないで下さい』と言われると、シロクマのことばかり頭に浮かんでしまう」という有名な実験を踏まえたものだ。人間は、見ないようにすればするほど、遠ざけようとすればするほど、却ってそのことが意識に上ってしまうのだ。

同じように考えれば、「社会が『死』を遠ざけようとすればするほど、社会にとっての『死』の存在は大きくなる」とも言えそうだし、そんな「大きな存在になってしまった『死』」を、巨大な人骨として表現しているなんて解釈も出来る気がする。


そしてそのように考えるなら、ベッドに横たわる巨大な女性像もまた違う解釈が出来るんじゃないかとも思う。調べると2005年制作の作品だそうで、当時は現代と比べればより一層女性の地位が低く抑えられていたと言えるはずだ。つまり「(男)社会が『女性』を遠ざけていた」のである。そしてそうであるが故に、社会にとっての「女性」の存在が肥大化している、なんて捉え方も出来るかもしれない。結果的に、そんな肥大化の余波として、今、女性の権利を尊重する流れが強まっている、なんて風に観てみるのも面白いんじゃないだろうか。



まあこの辺りはかなり我田引水的な話なのだが、いずれにせよ、こういう思考が脳内に湧き上がってくるというのは、アートを観る効用としてとても良いものに感じられる。本でも映画でもアートでも、「思考を刺激する」ために触れているみたいなところがあるので、そういう意味でも本展はメチャクチャ良かったなと思う。

さて、アート的な観点以外で気になったのが、「あの骸骨は固定されているのか?」ということだ。ざっくりした見え方としては、「ただ積み上げてるだけ」に思える。でも、ンなわけないと思うんだよなぁ。鑑賞者が触れないというのが前提だとしても、例えば地震が起こる可能性だってあるわけで、だから、固定せず載せてるだけなんてことはさすがにない気がする。


でも、その辺りのことも確認しようと思って結構見てたのだけど、イマイチどうなってるのか分からなかった。

まあそういうこともあって、この骸骨の展示に関しては、展示の準備をタイムラプス的に撮影しておいても面白そうだなと思う。骸骨1個の重さがどれぐらいか分からんが、そんなに軽いものではないだろうし、そんなものを結構な高さまで積まなきゃいけないわけで、シンプルにどうやってるんだ? と感じた。

ロン・ミュエクは寡作だそうで(あのクオリティを見ればさもありなんだが)、30年の活動で作品数は49しかないらしい。で、今回の森美術館の美術展ではその内の11点が展示されてるらしいが、「そうか、11点しかなかったのか」という感じだった。とにかく、作品も、作品が展示されてる空間も濃密だったし、終始圧倒されていたなと思う。ホント、良いものを観たなぁという感じだった。


平日に有休を取って観に行ったが、それでも結構混んでいた(特に森美術館は外国人のお客さんも多いので、平日でも人は多い)。土日はヤバいだろうなぁ(まあ、森美術館は時間指定券で、入場者の上限を設けてるっぽいから、そう酷いことにはならないかもだけど)。他人が映らない写真を撮りたいなら平日に行くのがいいだろう。9/23までやってる。

僕は、森美術館の年パスみたいなのを買ったので、行き放題になった。なので、ロン・ミュエク展、あと何回かは行きたいなと思ってる。今度は土日に行くことになるだろうけど、もう写真は撮ったし、またある意味で人がわらわらいる状況も良いかもしれないとも思う。というのも、骸骨を「人骨」と捉えるなら、サイズ的に、その周囲をウロウロする人間は「死骸に群がる虫」みたいに見えるかもしれないからだ。観客でぎゅうぎゅうなことによって見え方が少し変わるならそれはそれで面白いし、この点もまた、「サイズ感がバグった作品」であるが故の面白さと言えるかもしれない。

日本では、金沢21世紀美術館での展示以来18年ぶりだそうで、次いつ観られるか分からない。行ける人は行っておこう。久々に、会う人会う人に勧めようかと思えるような美術展だった。

ちなみに、あまりにも良かったのでポストカードを4枚も買ってしまったが、ポストカード4枚で800円(10%割引)だったので、それなら、3000円弱の公式カタログを買えば良かったなぁ、と後から思った。次行ったら買おうかな。あと、「鬼が使うクリップ(つまり、超デカい)」が売ってて、発想が面白いなと思った。

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