【映画】「消防士 2001年、闘いの真実」感想・レビュー・解説
さて、映画としてはそこまで面白くはなかったかなぁ、という感じの作品だった。本作は冒頭で、「2001年に発生した弘済洞ビル火災を基にしたフィクションです」という表記がなされる。そして全体としてはフィクションが多目の物語である。「弘済洞ビル火災」として知られる事件が描かれるのはかなり後半で、そして恐らくだが、そこに至るまでの物語の大部分がフィクションなのだろうと思う。別に、だからダメだって話ではないのだけど(もちろん、実話がメインの映画の方が好きであることは確かだが)、そのフィクション部分にさほど興味が持てなかったこともあり、全体的にちょっとあんまりだったかなぁ、という気はする。
ただ、この火災が韓国ではかなり大きな転機になったということは理解できる。
作中、消防士を前に議員が演説する場面が描かれる。正直、「なんでこんな場面があるんだろう?」と思っていたのだけど、観ていくと理解できるようになる。つまり、「弘済洞ビル火災を契機に、消防の現場が大きく変わった」ということを描き出すための描写なのだ。
さて、先に書いておいた方がいいような気がするが、韓国の消防は「消火する人」と「救助する人」の役割がはっきりと分かれているようだ。日本だとなんとなく、消防隊員はどちらの役割もシームレスにこなす印象があるのだが、韓国では「救助する人」は「救助隊」と呼ばれる部署にいる。そして基本的には消火ホースは持たずに、人命救助のために火災の中に飛び込んでいくのである。
そして本作は、そんな「救助隊」がメインで描かれる物語である。
で、そんな救助隊の班長が、衆人環視の中、議員に要望を出していた。しかしその内容がなかなか酷いものだった。「消防隊員はこんな酷い状況に置かれているのか」と感じさせるものだったのだ。「防火服」は、その名前とはうらはらに実際には「防水服」でしかなく、防火機能がない(ちなみに、ここの字幕表記、誤植だと思うんだよなぁ。「防火機能」となるべきところが「放火機能」って表記されてた気がする。たぶん)。また救助隊員が付けているのは軍手で、防火機能がないのだ。そもそも2001年当時、消防隊員は公務員じゃなかったというから驚きである(じゃあどういう立ち位置なのかというのはよく分からなかったが)。
しかし、その班長が訴えていた最も深刻な状況が「違法駐車」である。そもそも道が狭いとかなら仕方ないだろうが、ソウル市では、道路に違法駐車された車のせいで緊急車両が現場に急行できない状況が多発している。だから彼らは、火災現場から遠く離れた場所で車を下り、ホースを持って猛ダッシュして現場に駆けつけるのだ。そしてその後、長くホースを連結しなければならないわけで、その手間もある。だから班長は、「違法駐車している車を緊急車両で押して通行してもいいように法改正してほしい」と訴えていたのだ。
とこのように、消防隊員というのは「生命保険に入れない」ぐらい危険な職業であるにも拘らず、立場も装備もまったく優遇されておらず、酷い扱いを受けていたのである。
そしてそのような状況の中で弘済洞ビル火災が起こったのである。弘済洞という地域はまさに違法駐車だらけで、「弘済洞ビル火災」と名付けられた火災以前にも弘済洞周辺で火災が起こった際にも、違法駐車に悩まされていた。そして恐らくだが、この「弘済洞ビル火災」をきっかけに「違法駐車をなんとかしなければ」みたいな機運が高まったのではないかと思う。
さて、消防隊員にはもう1つ問題があった。そしてそれは、内部的な問題である。それが「指揮命令系統の曖昧さ」である。
消防にはたぶん「隊長」と「班長」がいて、たぶん「隊長」の方が立場的には上のはずだ。しかし救助隊の面々は、とにかく隊長の言うことを全然聞かない。特に、「危険だから建物に入るな」「危険だからすぐに戻ってこい」と隊長が指示を出しているにも拘らず、班長の判断で「行くぞ」「もう少し探そう」みたいな話になるのである。ある隊員は、「過去5年、ウチの班は救助数が1位だから、誰も何も言えないんだ」みたいなことを新人隊員に言っていた。
しかし、そんな消防の”慣習”に異を唱えたのが新人隊員である。彼は初日から失態を起こしたり(ただ何も説明されずに現場に放り込まれたから仕方ないと思うが)、火災現場での経験からPTSDになったりしてしまうのだが、それはそれとして、上司に「指揮命令系統がおかしくないですか?」と疑問を呈するのだ。個人的には彼のスタンスはとても好ましく見えるが、しかし作中では結構煙たがられていた。「人を助けるのが優先だ」みたいな聞こえの良い言葉で押し切られてしまっていたのだ。
そしてこの「指揮命令系統の曖昧さ」もまた、「弘済洞ビル火災」での被害を大きくする要因になっていた。この点も恐らく、この火災後に改善されたのではないかと思う。
みたいな感じで、本作で描かれている火災は、インパクトや被害の大きさ、さらにその後に与えた影響など様々な観点から韓国の人にとっては重要な出来事だったはずで、だから本作が本国韓国では大ヒットをとげているのだと思う。
そんなわけで、「韓国の消防隊員は酷い環境に置かれていたが、それでも、使命感で大変な仕事をやり続けていた」という現実を知れたことはなかなか興味深かったし、それらがすべてかどうかはともかくある程度は改善されていることにホッとさせられる映画だったかなという感じである。
個人的にはやはり、もう少し実話の部分がメインだったら良かったんだけどな、と思った。ちょっと期待外れだったかなぁ。まあこれは、僕が勝手に想定していたイメージと違ってたってだけなので、作品自体の評価というわけではないかなと思うけど。
いいなと思ったら応援しよう!
サポートいただけると励みになります!