【映画】「人はなぜラブレターを書くのか」感想・レビュー・解説

なかなか面白かった。いや、正直、物語としてはそんな大したことはないなと思ったのだけど、やっぱり役者の演技が上手いからかなぁ、最後まで面白く観れてしまった。物語的にベタな展開も結構あるわけだけど、だからこそ人を感動させる力も強くなると言えたりもするし。しかも、本作は実話がベースになっているので、「こういうことが起こるもんなんだなぁ」という感慨深さみたいなものもある。

さて、「物語としてはそんな大したことはない」の説明をもう少ししておこう。本作は実話がベースになっているわけで、「こういうことが実際に起こった」という点には興味深さがある。のだけど、やはりどうしても「フィクションの物語」としてはちょっと弱いかなという感じがした。この辺りは、実話をベースに物語を作る上での普遍的な障壁と言えるかもしれないが。特に関係者が存命で、かつ、人が亡くなるなど大きな出来事が起こっている場合は、「事実」から大きく逸脱させるのは難しい。物語の作り方的には、本作の設定から色んな展開を構築することは出来たと思うが、「事実を元にしている」という制約からそうはいかなかったんじゃないかなと勝手に想像している。

まあ、その辺りのことを総合的に踏まえつつ、「なかなか面白かった」という評価になったという感じだ。

ちなみにだが、本作は少し、予告編の作り方が下手かもしれないなぁ、と感じた。いや、予告編が下手なわけではないかもしれないが。予告編では「プロボクサーを目指していた青年が列車事故で亡くなった」という事実に触れられているが、本編でその話が出てくるのは結構遅い。物語の中盤ぐらいだろうか。予告編を観ている人間からすれば「その後のことが知りたいんだよな」という感じで映画を観始めるんじゃないかと思うが、そもそも事故の話が全然出てこないので、何だかなぁという感じになる。物語の立ち上がりの遅さみたいなのは、特に予告編を観ている観客的にはモヤっとする点かもしれない。

というわけで、ざっと内容の紹介をしておこう。

ナズナは、夫の良一と娘の舞の3人で暮らしている。彼女自身は「アホウドリ」という名前の食堂を経営していて、そこで使う野菜も自分で育てている。夫の良一は、妻のことを心配しているようだが、娘の舞には「配慮が足りない」という風に見えていて、なんとなく家族はギクシャクしている。ナズナも、何か言いにくい秘密を抱えているようだ。それでも彼女は、日々楽しそうな姿勢を崩さない。

しかしそんな日常の中でふと、昔のことを思い出した。きっかけは、舞が同じ電車に乗っている男の子のことが気になると言ったことだ。ナズナには、まったく同じ経験があった。いつも同じ電車の同じ車両で会う人。名前も何も分からないけど、いつも見てしまう人。何故か友人が彼のことを知っていて、麻布高校に通いながらプロボクサーを目指しているという情報を仕入れたのだけど、でも結局名前は知らないみたいだ。

ふとそんな高校時代のことを思い出した彼女は、彼が所属していたボクシングジムを住所に書き、彼宛ての手紙を書いてみた。深夜のテンションで書いたもので、結局投函しなかったのだけど。

ナズナが想いを寄せていた青年・冨久信介もまた、同じ電車に乗っている少女のことが気になっていた。彼の両親はずっと、学校に遅刻する時間でもないのに息子が慌てて家を飛び出す様子を何度も見て不思議に思っていた。そう、信介もまた、同じ電車に乗りたいと思っていたのだ。

彼は同じジムに通う川嶋勝重に師事していた。同じジムの練習生からは「あんな奴とつるむな」と忠告されるのだが、信介は「陰口とか止めた方がいいっすよ」と意にも介さない。信介はジムに入る際、「プロボクサーになって、ビジネスでも成功する」と言ったそうだが、川嶋は「世界チャンピオンになる」と宣言している。2人のことを周囲は笑っているそうだが、2人とも、そんなことはどうでもいいと思っている。

そしてその日がやってくる。その日信介は、前夜のボクシング研究の疲れがたまり寝坊してしまう。そして、普段乗るのとは1本遅い電車に乗ることになってしまったのだ。普段通りの電車に乗ったナズナは、電車のドア越しに彼の存在を確認できただけだった。

そして事故が起こる。ナズナは、彼の死を報じるニュースを見て初めて彼の名前を知ることになった……。

というような話です。

「こういうことがありました」という事実として捉えるなら、「24年前に起こった事故で亡くなった人に改めて手紙を出す」というのはやはり特異的だなと思うし、また「世界チャンピオンになる」と言って実際に実現させた川嶋勝重との関わりも実際の話なんだろうし、そういう部分は「事実の強度」としては強いなと思う。のだけど、やはり、「フィクションの物語」としてはちょっと弱いなぁ。大人ナズナの物語と、冨久信介の物語が、やっぱりちょっと重ならなすぎる。「手紙を送ったことで、何かが起こった」みたいな感じだと物語的には厚みが増しそうなのだが、そういうことは特にない。まあ強いて言うなら、「初恋の人に手紙を書く」という行動を取ったことで、ナズナの心境に変化があった、みたいな感じだろうか。まあ、だとしても、それは弱いなぁと思うのだが。

というわけで、基本的に物語にしか興味のない僕には、普段だったら面白いとは思えないような映画なのだけど、意外にも結構良かった。いやホント、さっきも書いたけど、やっぱりそれは役者の巧さだろうなぁと思う。過去と現在で役者が違ったり(現在のナズナは綾瀬はるかだが、高校時代のナズナは當真あみが演じている)、さらにナズナパートと信介パートがあるわけで、割と登場人物の多い物語だと思うのだが、全員上手いのでその部分に関するストレスが全然ない。

で、やっぱり僕は菅田将暉が気になっちゃう人で、「相変わらず菅田将暉は絶妙な雰囲気を醸し出すよなぁ」と思った。変というほど変ではないけど、普通と言えるような人物ではない川嶋勝重という役柄を、ホントに良い感じのライン上で演じている。公式HPによると、ボクシングシーンは8か月もトレーニングを積んだとかで(ただ菅田将暉は以前、『あゝ、荒野』って映画でボクサー役やってたなと思ったり)、気合い入ってたなと思う。やっぱ菅田将暉は素晴らしい。

あと、細田佳央太も結構好きで、出てくる度に印象が違う感じが菅田将暉感あるなと思ったりもする。本作で描かれる冨久信介も結構特異的なキャラクターだと思うのだけど(個人的には、「東大にはもちろん入れます」とか言ってるシーンがメチャクチャ好きだった)、ちゃんと実在感があるというか、地に足がついている感じがあって、やっぱり巧いよなぁと思う。

あと本作でかなり印象的だったのが、舞を演じた役者だ。初めて見た人だと思うけど、西川愛莉というらしい。他の役者が巧すぎるから、彼女の演技が巧いとは別に思わなかったけど、ただ、良い感じの存在感を醸し出していて、他の役者に負けていなかったなと思う。なんとなくだけど、初めて白鳥玉季を見た時と似たような感覚があって(映画『流浪の月』で白鳥玉季を見た時は、その存在感に結構ビックリした)、最近存在を知った中島セナ同様、ちょっと注目の役者がまた1人増えたなという感じだった。

というわけで、ホントにストーリー的には特にこれと言ったところはなかったので書けることはないのだけど、それでも役者の演技が大変巧いので全然観れちゃう映画だなという感想である。

あと、『人はなぜラブレターを書くのか』ってタイトルは、どうなんだろう? まあ、僕は「変なタイトルだなぁ」と思ったのが観ようと思う理由の1つ(割合としては大きくはないけど)になっているので、そういう意味では成功なのかもしれないけど、作品に合っているとはちょっと言えないような気がした。

それにこのタイトルの場合、「ナズナが手紙を書いた理由」が作品における重要な核になっている、みたいな印象になると思うが、少なくとも僕の主観的にはそんな風には受け取らなかったので、そういう意味でもちょっとズレてる気がするんだよなぁ。せっかく「川」が印象的なロケーションで撮影したんだから、「過去と現在を繋ぐ橋」みたいな要素をタイトルとしてまとめても良かった気もするけど、どうかなぁ。まあ、それも安直すぎるか。


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