【映画】「今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は」感想・レビュー・解説
河合優実を目当てに観たけど、まさか河合優実じゃないシーンでこんなに感動するとは!メチャクチャ良かった!女の子が1人でただ喋ってるだけのシーンなんだけど、最高だろこれ。ちょっと泣いちゃったもんなぁ。言いたいことは言うけど、でも、聞いている相手にとって不要だろうものは取り除いておきたい、という、あんまり使いたくない言葉だけど「配慮」が完璧で、素敵すぎた。このシーンよりも前から、彼女の振る舞いは結構好きだったけど、まさにこのシーンで「惚れてまうやろー!」ってなった。いやなるやろこれは。このシーンだけ、エンドレスで観たいなぁ。
というわけで、そんな超良かったシーンの話から。本作の予告でも十分示唆されていることだから書いてもネタバレではないと思うけど、これは、主人公の小西徹のことが好きなバイト仲間・さっちゃんが、彼に切実な想いを伝えるシーンである。
就業後の銭湯で清掃のアルバイトをしている小西とさっちゃんは、かなり気楽そうな関係に見える。小西は、大学で出会った桜田花に惹かれていくわけだけど、桜田さんとは「気楽な」という感じではない。感覚や価値観が合う、みたいなことはお互いに分かっている感じだけど、でも、小西の振る舞いには、さっちゃんと一緒にいる時のような「気楽さ」はない。
そして、その理由をさっちゃんは理解している。小西くんは自分に全然興味がないのだ、と。さっちゃんは、それまでの色んなやり取りからそう感じてきたわけだけど、観客にもそのことが伝わる描写がある。スピッツの『初恋クレイジー』という曲に関係するものだ。
さっちゃんはバンドでギターを弾いていて、それで、スピッツの『初恋クレイジー』のイントロが世界最高だから小西くんにも是非聴いてほしい、とオススメする。しかし、初めてその話を聞いた時の雰囲気から既に、「きっと小西は聴かないんだろうな」ということが伝わってくるだろう。さっちゃんとはバイトの度に顔を合わせるわけで、当然「『初恋クレイジー』聴いてくれた?」みたいな話になるわけだけど、小西はそもそもタイトルさえ覚えていない。
一方で小西は、「1週間前に知り合った女友達」の話をする。これが桜田花である。そして「彼女からテレビの音量を最大にしてみたことある? って聞かれて実際にやってみた」という話を披露するのだ。小西は何てことない雑談のつもりで話をするのだが、当然この話はさっちゃんにはダメージになった。「私のオススメの曲は何回言っても聴いてくれないのに、その友達の話はすぐやるやん」という感じである。他にも彼女は、僕がメチャクチャ良かったなと思う独白のシーンで「私に興味がないんだなって分かったエピソード」を披瀝していたが、それもまあとても悲しいものだった。
ただ、小西がそういう「あなたには興味がないですよ」というスタンスを意識的に出していたのであれば、それはある種の「優しさ」と受け取れなくもなかっただろう。人としては好きだけど恋愛にはなれないと、やんわり伝えようとしているとも受け取れるからだ。しかし、「そうではない」という描写も本作では描かれる。これも上手いんだよなぁ。
ある場面で小西が、店主に頼んでさっちゃんを呼び出したことがあった。銭湯の清掃は、日によっては1人態勢のこともあるのだが、「今日は早く帰りたいからさっちゃんに手伝ってほしい」とわざわざ来てもらったのだ。小西はさっちゃんに、「明日の授業が早いから」と言うのだが、実際には桜田さんと朝待ち合わせがあったからだった。観客としては益々さっちゃんに同情してしまうシーンである。
で、小西がさっちゃんに「埋め合わせのためにご飯ごちそうするよ」という話をする。これはまあ自然な流れだろう。ただ彼らはまだ、バイト先でしか会ったことがない。だから小西がさっちゃんに、「外で会うのとか、ちょっと照れるな」と言うのだ。僕は、小西がこれを言った瞬間、「お前それはダメだぞ!」と思った。小西は間違いなく「特段の意味を込めずに言った」のだが、さっちゃんからしたらそりゃあ何か期待しちゃうじゃんか。この時点で、「『小西がさっちゃんに興味を向けないこと』は決して、小西の優しさではない」ということが確定してしまう。このシーンが無ければね、まだ小西を擁護出来るんだけどねぇ。
で、なんやかんやとあって、あるバイと終わりの帰り際、さっちゃんが小西に「もしその子に告白して失恋したら、私が拾ったるから」と言うのだ。これに小西が、ちょっと冷たい声で「変な冗談止めて」みたいに言うのだが(この時の小西の言い方も「うわー」って感じだったなぁ)、さらにさっちゃんが「冗談ちゃうよ」と口にし、ここからさっちゃんが延々と一人で喋り続けるのだ。
メチャクチャ良いシーンだったのよ、ホント。
彼女の中にはとにかく、「小西くんのことがとにかく好きだったし、『好き』だってことをもっと早く伝えたら良かった」みたいな後悔と、「でも小西くんが自分のことに興味がないことはずっと分かってたし、そんな状態で『好き』なんて伝えるのも違うよね」みたいな理性がぶつかり合っている。だから、「好きって伝えたい/でもそんなの迷惑だよね」という葛藤が入り混じって言っていることがメチャクチャになるのだ。
で、そんなグチャグチャな感情で喋っている中で、おそらく彼女はふっと一筋の光明を見つけたんじゃないかと思う。それが「私を失敗例だと思って」というセリフに現れていた気がする。つまり、「今の私のこのだっさい感じが、小西くんの恋の手助けになるんじゃないか」という風に感じられるようになったというわけだ。というか、その点を押す以外に、彼女にはこの「明らかに気まずい状況」で喋り続ける気力を振り絞ることが出来なかった、と書くのが正解だろうか。「私の気持ちを知ってほしい/でもそれは小西くんにとって迷惑/だけど『私みたいにならないで』って話なら成立するんじゃない?」みたいな思考になったんじゃないかと思う。
でも、彼女が語る「私みたいにならないで」は聞いてて苦しいよ。とにかく、彼女の「これが少しでも小西くんのためになるなら」みたいな気持ちが強く強く感じられて、あー泣ける泣ける。そんなの悲しすぎるけど、でも「自分が好きだって思える人が幸せになってほしい」みたいな気持ちは、綺麗事だって感じる人もいるかもだけど「分かる」ってなる人もいるはずだし、そういう人にはさっちゃんの思いが伝わりすぎるぐらいに伝わるんじゃないかと思う。
さらに彼女は、「次会う時メッチャ気まずいじゃんって思ってるかもだけど、大丈夫、メッチャ普通にするから」と、先回り先回りで「小西くんの罪悪感」を取り除こうとする。「好きだ!」がもう溢れすぎて口から出るのを止められなかったさっちゃんは、自分の今の言動が小西くんに与える影響力をどうにか最低限に抑えようと必死になるのだ。それもホントに悲しい。「好きだ」という気持ちがある種「暴力」にもなり得るということを知っているからこその「配慮」なわけで、そのことがとても悲しい。
さらにこの場面で、「『初恋クレイジー』を聴いてほしい」って言った”本当の理由”(「イントロが良い」ってのが別に嘘なわけじゃないんだけど)も明かしていて、それも泣ける。いやそうよね、そういうことよね、ってなる。
彼女にとっては「何も始まっていないのに終わってしまった」わけだが、そんな中で彼女の独白は「キレイではないかもしれないけど、ちゃんとした形で終わらせるための彼女なりの儀式」みたいな感じがあって、そんな儀式を経なければ「終わり」に出来なかった思いの強さとか、そんな儀式が小西くんにとっては出来るだけ無意味なものであってほしいという逆説的な願いが詰まりに詰まっていて、超良かった。超良かったよなぁ。映画単体ではもっと良いなと思う作品はたくさんあるけど、シーン単体で言ったら、ここ数年で観た映画の中でも突出して良かったかもしれない。このシーンだけ手元にほしいなぁ、ホント。
さて、物語としては、小西徹と桜田花の関係性がメインで描かれている。もちろん、この2人の関係性もとても良かった。小西はとある事情から半年も大学を休んでいて、久しぶりに登校したその初日に同じ授業に出ている桜田さんを見つけて惹かれていくのだ。
そして、「無理やり作った」みたいなきっかけから顔見知りになるわけだけど、そんな状態から親密な感じになっていくまでの「時間の短さ」に違和感を抱かせないのがさすがだなと思う。これは、萩原利久、河合優実の演技の上手さだろうなぁ。2人とも「友達が全然いない」みたいな役どころで、で、「なるほど、こんな感じなら確かに友達がいないって言われても納得感あるかも」という佇まいを見せている。そしてその上で、「なんか気があったのか、急速に仲良くなる」みたいな感じも違和感がなくて、その辺りの雰囲気の作り方も上手いなと思う。
また本作は、後半で「おう、そんな展開になるんか!」という、フィクションだとしてもちょっとおいおいと感じるような流れになっていくのだけど、とはいえそれも、作中で何度も「セレンディピティ」という言葉が使われることによってある程度中和されていく。その辺りの構成もよく出来ているなぁ、と思う。普通なら「それはちょっとあり得ないだろ」みたいに感じられてしまうだろう展開への違和感も、絶妙な感じで減らしているのだ。
さらに、桜田花にも独白のシーンがあり、こちらもさっちゃんとはまた全然違うのだけど、惹き込まれる感じがあって良かった。辛い状況を淡々と喋る感じが、逆に感情が籠もっている感じで素敵だなと思う。しかし、その後の「さくら~」のくだりは、どうなんだと思ったけど。
そんなわけで僕としては、とにかく「さっちゃんの独白」の印象が超強くて、そのシーンが最高に素晴らしい映画だった。河合優実も良かったけど、本作においてはとにかく、さっちゃんを演じた伊東蒼が良かったなぁ。
あと全然どうでもいいけど、本作のエンドロールは素晴らしかった。たまにあるけど(濱口竜介『悪は存在しない』も同じだった)、「ロールしないエンドロール」という感じ。画面いっぱいに人名が表示され、それが何度か切り替わって終了、みたいな感じで、本作のエンドロール、僕の体感では、30秒から長くても1分ぐらいだった気がする。エンドロール、観ていて面白いこともあるから決して嫌いではないんだけど、でも、こういう「ロールしないエンドロール」で統一してくれてもいいなぁ、と思ったりもした。
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