【映画】「金子文子 何が私をこうさせたか」感想・レビュー・解説

正直、映画としてはそこまで面白くはなかったが、メインで描かれる金子文子という人物はなかなか興味深い存在だった。

彼女は、夫である朴烈や仲間らと共に「皇太子暗殺」を企てた。爆弾の入手が出来なかったこともあり、結局実行に移されることはなかったが、計画しただけでも罪に問われる大逆罪で起訴され、夫と共に死刑判決を受ける。しかし、「皇室からのありがたい恩赦」によって死刑から無期懲役へと減刑される。とはいえ、死刑判決を受けた際に法廷で「バンザイ!」と叫んでいた文子からすれば、無期懲役への減刑は許しがたい行為であり、刑務所長から渡された減刑書を破り捨てるほどだった。

こうして彼女は宇都宮女子刑務所に送られたのだが、そこでも皇室批判を繰り返す。また、「転向声明を書け」という再三の圧力にも屈せず、最終的に刑務所内で自殺した。23歳だった。

そして本作は、そんな金子文子の収監されて以降の孤独な闘いを描き出す作品である。

さて、まず書いておくべきは、本作のラストで表示されたように、「金子文子が遺した文章などはほとんど闇に葬られた」そうなので、残っているものはかなり少ないのだと思う。作中では時折短歌が表示されたが、恐らくこれは実際に残っているものだろう。あとは、裁判前の取り調べ(予審)の記録もちゃんと残ってるんじゃないかな、と思う。ただ、刑務所内での様子などは、たぶんだが、ちゃんとした記録は残っていないんじゃないかと思う。だから、どこまで事実ベースで、どこまでが「『恐らくこうだっただろう』という想像で作られた部分」なのかは何とも判断しがたいなと思う。本作を観る上では、まずこの点を認識しておく必要があるように思う。

で、それを分かった上であれこれ書くが、まずは彼女の主張がシンプルで真っ直ぐなことはとても好印象だった。もちろん「皇太子を爆破させようとした」みたいなのは良くない。が、彼女が狙っているのは本質的には「皇室」ではない。彼女は「権力構造の最上位としての皇室」を狙っていただけであり、本質的には「弱き者が厳しい生活を強いられるような権力構造(あるいは、それを生み出している者たち)」に怒りが向けられているのである。

で、その主張自体はとても理解できるなと思う。特に、彼女が生きた大正時代は今以上に階級差や差別などが酷かっただろうし、彼女はそういうものと闘い続けたのだ。

彼女は予審の中で、「何故皇太子を狙ったのか?」と問われた際にこんな話をしていた。

【私はずっと、人間の平等というものを考えている。そこには馬鹿もなければ履行もない。ただ「人間である」というたった1つの資格だけですべての人が平等を享受出来るべきである。】

現代では割と当たり前の感覚のはずだが、当時はまだまだそういう社会ではなかったし、そんな真っ当なことが実現される社会のために彼女は夫と共に奮闘し続けたのだ。

同じく予審の中で、「職業は?」と問われた彼女はこんな風に返していた。

【現にあるものをぶち壊すのが私の職業です。】

これもなかなか印象的な言葉だろう。

僕は「暴力」では何も解決しないと思っているし、トランプ大統領やプーチン大統領が推し進めるような「力による現状変更」は許容しない。ただ、「暴力も辞さない」ぐらいの覚悟を持っていなければ前に進めなくなるような状況はあるし、金子文子が生きていたのもまさにそのような世の中だっただろうとも思う。

さらに言えば、「暴力」という意味でいうなら、当時の権力側の人間の方が酷いだろう。「治安維持のため」みたいな理屈をつけて、公然と暴力を振るっていたみたいなことだって全然あるだろう。なんというのか、彼女たちの行動にも考慮すべき部分があるだろうなと思う。

さて、面白いなと思ったのが、「法廷や刑務所では堂々と天皇批判が出来る」みたいに言っていたことだ。当時は「不敬罪」という、皇族の名誉を害するような言動によって逮捕されるなんてことがあり、金子文子も大逆罪で逮捕される前は気をつけていたそうだが、逮捕されきっと死刑は免れないだろうとなって以降はそんなこと気にする必要がなくなった。そのため彼女(と朴烈)は、予審や法廷で自説を主張し、金子文子は恩赦が下って刑務所に収監されてからも、刑務所長や特高の人間に堂々と天皇批判を繰り返していたのだ。

彼女は刑務所長から、「ここでどれだけ反抗していても、世間はそのことを知らないし、お仲間の耳にも入らないから無駄だ」と彼女を諭そうとするのだが、彼女は「他人の目を気にして行動しているわけではない」と言い返す。結局彼女は最後の最後まで、自らのスタンスを一切変えずに命を断ったのだ。

その力強さはなかなか印象的だったし、凄い女性がいたものだなと感じた。


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