【映画】「架空OL日記」感想・レビュー・解説
これなら何時間でも観てられるな。
メチャクチャ面白かった!
これは褒め言葉なんだけど、この映画には「空気感」しかない。
それが凄い。
ストーリーらしいストーリーはない。教訓も主張もない。スペクタクルもどんでん返しも号泣もない。観ている観客は爆笑するけど、でも映画そのものの中に爆笑はない。日常が描かれるけど、「架空」とあるように、厳密にはこの映画は日常ですらない。
そういう意味で、ホントにこの映画には何もない。唯一あるのが「空気感」だけだ。
で、この「空気感」がとにかく凄い。映画は映画で楽しみながら、頭の片隅のどこかでは、この映画マジでどうやって撮影したんだろう?ってずっと思ってた。こんなナチュラルで作為性を感じさせない「空気感」を、どうやったらカメラに収められるんだろう?と。メインで描かれる5人のワチャワチャした感じが映画の中心になるのだけど、演技してる感じがまったくないし(まあそれは役者としては当然だと言われそうだけど、そういうことではないんだよなぁ)、場面によっては、アドリブに爆笑しちゃったテイクをそのまま使ってるんじゃないか?ってのもあった(トイレ内での、◯◯さんの✕✕まではセーフ、って話とか)。この5人が、普段から一緒に働いてて、その合間合間にこういうやり取りを何気なくいつもしてるんだろうなぁーという「空気感」が凄かった。
しかも、「ナチュラルで作為性を感じさせない空気感」とか言ってるのに、全然ナチュラルじゃない要素がある。バカリズムだ。この映画では、バカリズムが主人公役なのだけど、特段女装するわけでもなく(服装は女性のものだけど)、「バカリズムが女性の服を着ている」というそのままの出で立ちで劇中にいる。ナチュラルなわけない。でも、それがナチュラルに見えるんだよなぁ。不思議。まあ、そもそもこの「架空OL日記」ってのは、バカリズムが名前を伏せて、どこかにいるOLのフリをしてネットに書いてた日記が元になってるんだから、あの「空気感」の中にバカリズムが入り込んでいることに違和感を感じる”はずがない”のかもしれないけど、それにしても、不思議な光景だった。
とにかくそんな風にして、この映画には「空気感」しかない。それだけで映画一本成立させてしまうのも凄いし、それがずっと観てられるくらい面白いっていうのも凄い。また、「空気感」で映画を成立させると決めたとして、それが実際にカメラに収められていることが凄い。「空気感」なんて正直、捉えどころがないし、努力して出そうとするとむしろ消えそうなものだし、一人では出せないものだ。しかも、撮影期間がそれなりに限られているだろう中で、数年間同じ職場で働いていてずっとくだらない話をし続けてきた「空気感」を短期間で作り上げて、それをある程度維持しつつ撮影を続けるってのは、メチャクチャ難しかったんじゃないかなぁと思う。
そういう意味で、ちょっと凄まじい映画だった。もちろん、ストーリーや映像表現や役者の熱演で魅せる映画も凄い。けれどこの映画のように、ストーリーも装飾も熱演も全部剥ぎ取って、極力力を抜いているように見せながら、「5人組という一つの個性」を丁寧に慎重にみんなで育てていくような映画って、あんまり観たことがなかったから、非常に新鮮だった。観ている途中に、『セトウツミ』っていう映画を連想したし、今、以前書いた『セトウツミ』の感想を読み返したら、やっぱり「空気感」って単語を使ってたけど、でもやっぱりちょっと違うかな。『セトウツミ』は、主人公が男同士だから、もちろん共感もあるけど、どうしても議論とかツッコミとかそういう方に行きがちな気がする。こちらは女性同士だから、共感がメインだし、「5人組という一つの個性」という大きな塊が見えるような気がした。
書けることはあまりないけど、内容にもざっと触れておこう。
メインとなるのは、「みさと銀行」で働くOL5人。基本的には、主人公の<私>が書いた日記、という体で物語は進んでいく。
一番気が合うのはマキ。路線は同じだけど、乗る駅が違うから、会社のある駅で待ち合わせて一緒に向かう。サエは2人よりも年下で、ちょっと空気が読めない時がある。サカキさんとコミネ様は先輩。サカキさんは、「使ったスポンジの泡をすすがない」などちょっと細かな指摘をするけど、仕事は出来るし慕われている。またコミネ様(何故か「様」がつく)は、ある種のお調子者で、予想を越えた行動をする。盛り上げ役でもある。
この5人が、日々の些細な事柄にあーでもないこーでもないと話をする。「冬の月曜の朝問題」について議論し、「朝礼の立ち位置が違う問題」では【真実よりも矛先】という名言が飛び出す。更衣室の充電問題を解決する電源タップや、「J」と呼ばれている副支店長と行きたくもないラーメン屋に行った際の”復讐”、警察が強盗役をする防犯訓練、バレンタインなどなど、本当に日常の中のどうってことのない瞬間を切り取っては、その絶妙な「空気感」を展開させていく。
というような話です。
ホントにメチャクチャ面白かったんだけど、自分が面白いと思ったこの感じをこれほど言語化できないものかと感じさせられたのは久しぶりです。どうにも上手く、面白さを伝えるやり方が分からないなぁ。ホントにこれは、あの絶妙な「空気感」を醸し出すことに成功した役者の方々の大勝利と言えるでしょう。
ホントは、劇中で出てくる色んなエピソードを書きたいんだけど、難しいのは、それはここで文章で書いても全然面白くないんだよなぁ、ということ。どのエピソードも、言葉で切り取っちゃうと、たぶんそんなに面白くない。あの5人が、あの「空気感」の中で、ワチャワチャとやり取りしているから、どうでもいいことも面白くなるわけで、だからやっぱり、エピソードだけ単体で切り取っても、たぶんダメなんだよなぁ。
一つだけ書いておくと、映画を観始めてすぐに、この映画どうやって終わるんだろうなぁ、というのが気になった。なかなか難しかったと思うけど、終わり方は、ちょっとしっくり来ないなぁ、というのが正直なところ。いや、じゃあどうすべきだったんだ、と言われても困るんだけど、なんかもっとベストなやり方があるんじゃないかなぁ、と思ってしまった。個人的な希望では、この5人の関係には、始まりもなく終わりもなく、なんだかずっと永遠に続いていくんじゃないかと思わせるような終わらせ方でも良かったなぁ、という気がします。それが、この映画が醸し出す「空気感」に合ってる気がしたり。まあどうなんでしょうね。
とにかく、そんなラストのことは大した問題じゃなくて、メチャクチャ面白かった!
いいなと思ったら応援しよう!
サポートいただけると励みになります!