【映画】「かもめ食堂」感想・レビュー・解説
いやしかし、こんなに何も起こらない物語が評価されてるってのは凄いな。うん、確かに、結構面白かったけど、にしても、「メチャクチャ面白い」って感じではないよなぁ、と思う。
ただこれ、「観る側のメンタル」次第で受け取り方が変わりそうな気もするなぁ、と思った。なんか、心も身体も疲れてるみたいな時に観たら、メチャクチャ沁みるんじゃないかなぁ。
本作には、フィンランド・ヘルシンキで食堂を営むサチエ以外には、特段の目的を持つ者が登場しない。2人の旅行者(色々あってサチエの食堂を手伝う)は、これといった目的もなくフィンランドにやってきた人物であり、その他の登場人物はヘルシンキの住人で、なんとなく食堂に足を運んでいるだけだ。
さらに、唯一目的を持つサチエにしても、やる気があるんだかないんだかよく分からない。「理想の店」のイメージは持っているようだが、1ヶ月間もお客さんが誰も来なくても割と平然としている。「上手くいったらいいけど、ま、上手くいかなきゃいかないで、しょうがないよね」ぐらいの感じでいるようだ。
なので本作は、始まった地点から終わりの時点まで、これと言った変化は何もない。大きな変化は「食堂が混雑するようになった」ということだが、その変化は登場人物の誰の人生も大きく変えはしないし、だから「物語上の変化」という意味でも特に何もないという印象になる。
この点は、割と平穏なメンタルの時に観たら「退屈」よりの印象になってもおかしくはないと思うが、しんどいメンタルの時に観たらかなり「癒し」的な印象になるんじゃないかなと思う。
で、本作の凄いのは、何も起こらないのだけど、随所に面白いポイントがあり、何だかんだ惹きつけられてしまうという点だろう。特に、もたいまさこ演じるまさこの雰囲気は絶妙だ。サチエを演じる小林聡美とミドリを演じる片桐ハイリは割と「動」の印象だが、もたいまさこは「静」の印象で、それでいてたぶん一番笑いを取っている。良い雰囲気だったなぁ。
あとは、3人の関係性がホントに素敵で、彼女たちの緩い会話は割とずっと聞いていられるなと思う。僕は『ベイビーわるきゅーれ』や『ネムルバカ』のような、「若い女性がなんてこともなくただダベってるだけの映画」が結構好きなのだけど、年配の女性でもこういう「ずっと聞いていられる」みたいな感じが出るんだなぁ、と思った。
そういえば去年、何かで「ヘルシンキにある、『かもめ食堂』の舞台となったレストランが閉店する」みたいなニュースをチラ見した記憶がある。たぶんもう閉店してしまっているはずだ。そもそも『かもめ食堂』を観てなかった僕は、「実在のレストランが舞台だったのか」と驚いたのだが、それが2025年までずっと営業を継続していたことにも驚かされた。おそらくフィンランドを訪れることは一生ないと思うが、本作を観終えた今、もしフィンランドに行くようなことがあれば行ってみたいなという感覚にはなるし、それは今後もこの作品を観る人の多くが感じることじゃないかなと思う。
さて、あまりにも何も起こらないので正直特に書くことはないのだけど、全体的な印象としては「面白かったな」という感じだし、観て良かったなと思う。ホントになんか、こういう「穏やかさ」と共に生きていられたらいいような気もするけど、でも僕は「自分がヒマに耐えられない」ことも知っているので、まあ無理だろうな。まあでも、自分の中のどこかが「こういう生活もいいよね」とずっと囁き続けている感じもあって、そういう人生だったらどうなんだろうなぁと思ったりもした。
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