【映画】「クリムト & THE KISS ―アート・オン・スクリーン特別編―」感想・レビュー・解説
アート作品を映画館で鑑賞できる、という趣向の「アート・オン・スクリーン」という企画がある。僕はそれなりにアートが好きなので(下手の横好きだけど)、この「アート・オン・スクリーン」は時々観に行くようにしている。前は「フェルメール」を扱った回を観たかな。
で、今回は「クリムト」である。名前ぐらいは知ってるし、本作に登場する絵もいくつか見たことはあったなぐらいだけど、基本的にはほとんど知らない人である。ウィーンの人だということもたぶん初めて知った。
で、そんなクリムトの代表作と言えば「接吻(THE KISS)」である。本作は、この「接吻」を中心にしながら、クリムトを紐解いていく作品になっている。
「接吻」について本作に登場する学芸員(教授とか色んな肩書きの人がいたけど、この記事では「学芸員」で統一する)は、「解釈が定まっていないことがこの絵の美しさに繋がっているんだと思う」みたいなことを言っていた。で、恐らくだが、「解釈が定まっていない」のは恐らく「接吻」だけではなく、クリムトの作品全般について言えるのだと思う。
というのもクリムトは、絵のモティーフについて語ることはなく、また日記なども一切遺さなかったからだ。多くの人がクリムトに、「この絵のテーマは何なんだ?」みたいに聞いても、「その答えは私の中ではなく、絵の中にある」と言って何も語らなかったそうだ。まあそういう芸術家は少なくないようにも思うが、クリムトはかなり孤独を愛した人物のようで、余計その傾向が強いのかもしれない。
「接吻」はベルヴェデーレ美術館に展示されているのだが、1903年に現代アートの美術館として開館したこの美術館に、割と早い段階で「接吻」がやってきたという。1908年5点ほど作品を買ったそうだが、その中に「接吻」があったという。
で、クリムトの作品は他の画家の作品と比べて遥かに値が張ったそうだ。既にウィーンで大人気の画家になっていたのである。「接吻」や「クリムト自身」については様々な評価があったが、「モダニズムの象徴」「ウィーンで最も有名な画家」など高く評価されているようである。
しかしある学芸員が「ここまで画風が変化した芸術家を私は他に知らない」と言っていたのも印象的だった。元々は正統派の絵を書いていたようだ。貧しい家に育ったのだが、7人きょうだいの内クリムトを含む3人に絵の才能があったそうで、それで、新しい建築物の壁画や肖像画の依頼などを引き受けていたそうだ。それらは「正統的に上手い絵」という感じで、作中では「ブルジョワに好まれるタイプの絵」みたいな表現をされていた気がする。彼が通っていた美術学校が、イギリスの教育を参考にしたかなり正統的なカリキュラムだったらしく、さらに「アートを通じて社会や世界に貢献するように」という、学校側が学生に求める希望も理解していたようなので、それで最初の頃は「正統的な絵」を描いていたのだろう。
しかしある時から突然、画風が変わったという。その理由は明らかになっていないそうだ。何かきっかけがあったのか、なかったのか。とにかく、クリムトは挑発的で賛否を巻き起こすような画風に変わっていった。そしてその系譜の中に「接吻」もあるというわけだ。
何を描いているのか、何を象徴しているのか、みたいな話も語られていた気がするけど、その辺りの解釈はちょっと僕には難しかったし、なかなか頭に残らなかった。ただ、「接吻」に限る話ではないが、クリムトは後年「金箔」を使う手法を取り入れるようになり(まさにその期間が、クリムトの「黄金時代」とされているようだ)、他の作品にもふんだんに金が使われていた(ちなみに、彼が初代リーダーを務めた「分離派」と呼ばれる集団のメンバーも金をよく使っていたと語られていた)。
で、その「金を使う」という発想は、日本の「金蒔絵」の影響が多分にあるのだそうだ。また、金箔をキャンバスに貼り付ける方法として、漆を使う技術が応用されているとも説明されていた。「浮世絵がゴッホに影響を与えた」みたいな話は聞いたことがあるが、日本の芸術はクリムトにも影響を与えていたようである。
ちなみにクリムトは、同時代の画家をよく観察・研究し、それを自分なりのやり方にアレンジして取り入れるみたいなことをかなりやっていたそうだ。かつて「クリムトに影響を与えた人物展」(名称は全然違うが、そういう趣旨の展覧会)が開かれたことがあり、「なるほど、この作品は、この人物のこの絵をモロに取り入れてるな」みたいなことが分かるようになっていた。しかし結局のところ、「クリムトでしかない」みたいな強烈な個性を放つアーティストになったわけで、「やっぱり凄い人ってのは凄いなぁ」なんていうアホみたいな感想を抱かされた。
さて、本作にはベートーヴェンが出てきたりして、それもまた興味深いなと思う。先程少し名前を出した「分離派」というのは、「既存の枠組みから分離した」という意味であり、「完全な総合芸術」を目指していたという。つまり、「彫刻、絵画、建築といった区分には意味はなく、それらをすべて融合したような総合芸術を提示する」みたいなスタンスなのだろう。
そしてだからこそなのだろう、クリムトには「ベートーヴェン・フリーズ」という作品があったりします。そもそもベートーヴェンは「交響曲に初めて歌詞をつけた人物」らしいのだけど、そのベートーヴェンが作曲した「第九」を壁画で表現したのが「ベートーヴェン・フリーズ」なのだ。そしてベートーヴェン作曲の音楽の中に、「このキスを全世界へ」という歌詞があるのだという。それ以上詳しい説明はなかったけど、「接吻(THE KISS)」という作品ももしかしたら、ベートーヴェンの歌詞から連想されたりしているのかもしれない。
さて、当然と言えば当然だが、「『接吻』でキスをしている男女は一体誰なのか?」もやはり注目されているポイントである。一般的には「寓話的存在」として、特定の誰かと考えないという捉え方があるようだが、それとは別に、実在する人物説というのもあるそうだ。それが、クリムトと、長くクリムトと親しくしていたエミーリエ・フレーゲである。彼女はクリムトよりも12歳ぐらい年下なのだが、生涯を通じて親密な関係だったようだ。クリムトが彼女に送った手紙に「矢で射抜かれたハート」が描かれているなど、親しい関係だったことは確かなようだが、しかし、肉体関係があったのかどうなのかなど、分からないことが多いようだ。いずれにせよ、2人はその関係性を周囲に隠していたようである。
クリムトはそもそも、モデルの女性(クリムトは、上流階級の婦人や、道端で声を掛けた少女など、あらゆる女性をモデルとして起用した)と肉体関係を持ち子どもを生ませたりしていたという。クリムトの死後、12人だか14人だかの人が「自分がクリムトの子どもだ」と名乗り出たというからなかなかである(彼自身は結婚しなかった)。そしてエミーリエも恐らく、クリムトのそんな振る舞いを知っていたはずだという。だからこそ余計にどんな関係だったのか気になるところである。
またクリムトは、裸婦像のスケッチをたくさん描いていたのだが、その中には「2人1組(もちろん女性同士)で性的な行為をしているようなもの」も見つかっているという。これだけだと「だから?」という話だが、当時のウィーンでは「同性愛」が禁止されていた、という情報を加えると見え方が変わってくるだろう。そもそもクリムトの作品は「ポルノ的」だと批判されていたみたいだし、そしてそういう評価だったところから「ウィーンで最も有名な画家」みたいに言われるようになるのだから、分からないものだなと思う。
というわけで、よく分からない割にアートは追いかけていこうと思っているので、そういう意味では良い経験だった。あと、個人的には解説・背景・歴史の説明は好きだし知的好奇心を刺激されるけど、ただこういう映画であれば、もう少し作品自体をじっくり見せるような構成でも良かったかなという気はする。そこは少し減点ポイントかな。
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