【映画】「君は映画」感想・レビュー・解説
いやー、これは面白かった!基本ストーリーにしか興味ない人間には、こういう「ストーリーや設定の一発勝負」みたいな話は大好物である。しかも、物語としてもよく出来てるし、ってかホント、よくもまあこんな物語を生み出したものだよなと思う。凄いもんだ。同じ上田誠監督の『リバー、流れないでよ』も超絶良かったけど、本作『君は映画』もまあ良かった。
というわけで内容の紹介をしたいのだが、これ、文字で書いて伝わるかなぁ。観れば別に全然難しいことはないのだが、言葉で説明しようとするとちょっと頭イカれてくる物語である。
物語の舞台は、下北沢にある映画館「トリウッド」。で、さっそく脱線するが、この映画館、一回行ったことあるんだよなぁ。『ヴァイオレット・エヴァーガーデン劇場版』を上映するっていうのでわざわざ下北沢まで行ったのだ。で、まあボロ泣きしましたね。という思い出深い映画館が舞台である。
下北沢で劇作家をしているマドカは、古着屋シカゴの上にあるバー・ウッドヘブンズを舞台に小さな演劇を続けてきたのだが、実績を積んできたし今の劇も話題だからと、劇団員のシホから「駅前劇場でやろう」と提案される。マドカもそのつもりで新たな脚本を考えることにしたのだが、どうにも詰まっている。その時、馴染みの喫茶店の店主がある映画を勧めてくれた。『三軒茶屋エスケープ』。面白いらしいけど全然お客さんが入ってない、と言われて、まあ脚本の参考にでもと、トリウッドへと観に行くことにした。
始まった映画は隣町・三軒茶屋が舞台。そこでバンドを組んでいるカズマは、メンバーのミコシバとサポートの2人の4人で、三日月ロックという居酒屋で飲んでいた。いつものことだが、ミコシバ全然チケットを売らないし、ってかギターの練習もしないわで、カズマはキレる。そして、先に帰るカズマに居酒屋の店主が、「面白いんだけど全然お客さん入ってないらしい」と言ってある映画のチラシを渡してきた。タイトルは『下北沢エクソダス』。
まあ観てみるかとトリウッドまで足を運んだカズマ。「もう始まってるよ」と言われて劇場に入ったカズマの視界に入ったのは、同じ黄色い座席に座る女性の姿。そう、それはマドカである。『下北沢エクソダス』の主人公はマドカなのだ。
つまりこういうことだ。『三軒茶屋エスケープ』を観に行ったマドカはカズマが主人公の物語を追っていたのだが、そのカズマが観ている映画『下北沢エクソダス』はマドカが主人公なのである。2人は映画館のスクリーンを挟みながら「あなたの方が映画だ」「お前の方が映画だ」と会話をする。マドカもカズマの劇場の座席に座ったままなので、物語は進まない。
しかしカズマが、『下北沢エクソダス』のチラシに書かれた内容紹介を読み上げると、マドカは絶句してしまう。何故ならそこには、「劇団員が退団ドミノを起こし、シホが駅前劇場での公演を止めようと言い出す」と書かれていたからだ。そして実際にマドカの世界では、その内容紹介通りに”物語”が展開し……。
というような話なのだが、伝わっただろうか? 文字面だけから頭の中で想像するのはなかなか難しいだろう。いや、観れば全然難しいことはない。
しかしこの作品、下北沢トリウッドで観たらまた別の面白さが出てくるだろうなぁ。下北沢トリウッドで観る選択肢を取れる人はその方がいいと思う。ってか絶対にそうしよう。絶対にその方がいい。
さて、本作は68分の映画で、正直「劇場公開する映画としては短いなぁ」と観る前は思っていたのだが、観終えた感想としては「いや、これで正解だな」である。トリッキーなワンアイデアの映画だから、これ以上伸ばすと間延びしてしまうだろう。ちょうどいい長さだったと思うし、で、68分だからといって満足度が低いとかはない。僕は昨日、147分ある『黒牢城』を観たが、本作『君は映画』の方が全然満足度は高い。
というわけで、もう少し内容の話をしよう。まず観ながら、「ここからどう展開させるんだ?」と思っていた。「お互いが映画だ」というのはマドカ、カズマ共に理解した。「で?」って感じだろう。マドカはカズマの、そしてカズマはマドカの物語が動くことを期待しているわけで、でもどちらも「映画館に映画を観に来た」という認識でいるわけだから、この2人がここから何か行動を起こす理由がない。
だから、普通に考えたら物語は進まないはずだ。
なのだけど、まあさすが上田誠、その辺りの展開のさせ方が上手い。マドカもカズマも、否応なしにそれぞれの「映画」のストーリーを追わざるを得ない展開になっていくのだ。さすがである。
で、2人には「スクリーンを挟んでいないと会話できない」という制約もあって、これもまた物語を展開させるのに難しいポイントだろう。しかしカズマがある場面で、自分はマドカの姿が見えていないのに、カメラに向かって(と書くとおかしなことになるが。理屈上、カズマの世界にもマドカの世界にもカメラはないはずだから)「◯◯は△△かもしれないよ。ほら、チラシのここに☓☓を持ってる」なんて話すことで物語が進んだりもする。このシーンは、マドカ側の状況も含め、特に絶妙だったなぁと思う。
でそこから、マドカの物語もカズマの物語も「ぶっ飛んだ超展開」を迎える。これも、「どちらの世界も映画である」という設定を踏まえれば筋が通っているし、その上で、お互いの物語に一層の「カオス」をぶち込む展開にもなっているわけで、「雑な展開だなぁ笑」とか思いつつも、別に悪い印象ではない。特に、マドカ側の物語で、マドカが終始びっくりした顔をしているバーのシーンは凄く良かったなぁ。まあ、ビックリするよね。
しかもそこからさらにもう1段展開があるのだが、そのきっかけが、マドカがカズマに「そのTシャツ、いつ買いました?」って会話から始まるんだから、ホント何が起こるか分からないものだ(Tシャツじゃなくてシャツだっけなぁ。ちゃんと覚えてない)。ちなみに、マドカ(伊藤万理華)、カズマ(井之脇海)それぞれが着ているTシャツは、どうやら各々がデザインしたようだ。エンドロールに「Tシャツデザイン」として「デザイン:伊藤万理華」「写真:井之脇海」とクレジットされていたので。
え、最後は正直、「もうちょっと何かあるといいな」とは感じたが、ただ不満はない。それまでの展開が十分面白かったので、これ以上は望みすぎという感じだろうか。
しかし、「シネマティック・マルチバース」なんてテキトーなフレーズをするっと出てきたりするのも面白かったなぁ。こういう専門用語っぽいのが出てくると、なんとなく理屈がついた的な雰囲気になるし、その辺りの効率の良い処理の仕方も上手かったなと思う。しかしあの作業員みたいな人、防御弱すぎやろ。
というわけでホント、「よくこんなこと思いついて、そしてそれを実現させたものだなぁ」という衝撃・驚きに満ち溢れた作品で、個人的にはメチャクチャ満足度が高い。で、行ける人は下北沢トリウッドで観た方がいいと思う。たぶん、映画の鑑賞体験が全然違ったものになるはずだから。いやしかし、見事でしたわ。
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