【映画】「スキャンダル」感想・レビュー・解説

僕は、「ハラスメント」という言葉の意味が広がりすぎている現状を、嫌だなぁ、と感じている。

しかし、この映画で描かれているのは、まさに本来的な意味の「ハラスメント」、セクハラだ。

まず、最近の「ハラスメント」という言葉の使われ方への違和感について書こう。

例えば「マヨハラ(マヨネーズハラスメント)」という言葉を聞いたことがある。もちろん、ある種のネタ的な意味合いも込めて名付けをしたんだろう、ということは理解している。しかしやはり、こういう風に「ハラスメント」という言葉が使われるのは、僕は嫌だなと思う。

その違いは、「嫌だ」と言えない理由が「性格」なのか「環境」なのか、ということだ。

「マヨハラ」というのは要するに、大勢での食事の際に、勝手にマヨネーズをかける行為を指すのだろう。しかし、それは「好み」の問題であって、「私は嫌いです」と言えばいい話だ。「言えないから困っているんだ」という指摘もあるだろう。もちろん理解している。しかし、その「言えない理由」に問題を感じているのだ。例えば、それが異性の上司しかいない飲み会の場で、職場での力関係を考慮して「嫌だと言えない」のであれば、広い意味でそれは「パワハラ」だろう。しかし、その行為を「パワハラ」と言っても理解してもらえないだろうから「マヨハラ」という名前をつけているのだと思う。一方、その場の力関係などとは関係なしに、ただ自分が「嫌だと言えない性格」なのであれば、それは僕は「ハラスメント」という言葉を使うべきではないと思う。もちろん、「嫌だと言えないこと」そのものは、本人にとって辛い問題だろうし、何らかの形で解決出来ればいいとは思う。しかしやはりそれは、「ハラスメント」という言葉を使うべき対象ではないと僕は感じる。

ここまで書いて、一応「ハラスメント」の意味を調べてみようと思った。日本語の「ハラスメント」は、ちょっと色んな解釈に揉まれている気がしたので、そもそもの英語の「harassment」の意味を調べてみると、大体最初に「嫌がらせ」という訳が出てくる。「嫌がらせ」という日本語の意味を調べてみると、大体「わざと」という単語が使われる。つまり「相手が不快と感じると想定できる」という意味だろう。

つまり、本来的な意味で言えば、「ハラスメント」というのは、「相手が不快と感じると想定できる状況下で相手の嫌がる行為をする」ということであり、そこには「その行為にNoと言えない何らかの環境的事情がある」という含みが込められている、ということだと思う。やはり「マヨハラ」は「ハラスメント」ではないよなぁ、と僕は思う。

セクハラは、最悪だ。まさに「相手が不快と感じると想定できる状況下で相手の嫌がる行為をする」ということの象徴のような行為だ。

しかし、僕自身の視界に入る範囲でも、「男ども、それはアウトだぞ」というような状況を見聞きする。もちろん、法的に訴えるレベルのものではないだろうが、法的に訴えるかどうかに関係なく、日常生活の中で、男たちから無駄に削られていくという状況は、しんどいだろうなぁ、と思って見ているし、時々相談に乗ることもある。

セクハラについては、ようやく問題意識が浸透してきて、これまで無自覚(だろう、きっと)にセクハラをしてきた世代の人たちも、「よく分からんが、今まで当たり前にやってきたことがダメらしいぞ」という程度にはセクハラを捉えられるようにはなってきただろう。女性としては、だからどうした、という程度の変化でしかないだろうが、多少は良くなっている。

とはいえ、セクハラに限らずハラスメント全般に言えることだが、大きく変わっていくことが難しい。

何故なら、訴える側も大きなリスクを背負うからだ。

環境的に「嫌だ」と言えない状況を「ハラスメント」と前述したが、それはつまり、「嫌だ」というと自分にも被害がある、ということだ。それが、左遷なのか降格なのか言及なのか、社会的評価が下がることなのか、レッテルを貼られることなのか、他のことなのか、様々だが、とかくハラスメントというのは、訴える側も傷を負ってしまう。だから、なかなか声を上げにくいし、状況の変化のスピードも遅い。一応誤解がないように書くが、僕は、訴えない女性を責めているつもりは一切ない。

フリージャーナリストの伊藤詩織さんが、テレビ局の社員に性的暴行を受けたとして訴えた事件は、海外でも大きな話題として受け入れられた。彼女の告発は「勇気あるもの」として称賛された。

しかし、「称賛される」という状況は、きっと良くない。何故なら「称賛される」ということは、「それが当たり前のことではない」ということを意味するからだ。

そしてもう一つ。この映画の制作者は、そんな意図を持ってこの映画を作らなかっただろうが、しかしやはり、「強い女性でなければ訴えられない」ということが伝わる内容になっている。

映画の中で、女性たちは様々に葛藤する。「女性同士」だからと言って、共闘出来ない状況は多々あるが、この映画で描かれている女性たちも、立場も境遇も背負っているものも違うが故に、「女性同士」で一つにはなれない。

狡猾な男は、そういう状況すらも利用するのだ。

この映画の中で、セクハラで訴えられたロジャーは、「自分は女性たちに仕事を与え、重用し、出世させた。そんな自分が悪いことをしてるだなんてことがあるか?」というような主張をする。彼が心の底から本当にそんなことを信じているのかどうか、それは分からない。しかしどうであれ、彼はメディア王の座から失脚した。

ロジャー・エイルズ。FOXニュースの創業者であり、会長でもあった彼は、元人気キャスターから訴えられ、2016年辞任した。この映画は、この事実を元に作られている。

内容に入ろうと思います。
FOXニュースは、アメリカニュース放送局で視聴率NO.1を誇る。人気キャスターのメーガン・ケリーは、トランプが大統領候補として立候補している最中、番組内でトランプの女性問題を批判。そのせいで、トランプ本人のツイートや、トランプ支持者たちからの嫌がらせを受けていた。メーガンは、FOXニュースの全権力を持つロジャーに相談し、警護をつけてもらう。
ロジャーはビルの2Fにいて、「2F」と言えばロジャーのことを指す。ロジャーの部屋の電話は調整室直結で、あらゆる放送をチェックしては、細かく口を出していく。例えば、「広角で女性キャスターの脚を映せ」というような。
同じく人気キャスターであるグレッチェン・カールソンは、社内で微妙な立ち位置にいた。スタンフォード大学を首席で卒業し、ミス・アメリカにも輝いたこともある彼女は、しかし、ロジャーの”誘い”に屈しなかったことで、午後の視聴率の低い番組に降格させられた。
彼女と同じ番組のスタッフであった若手のケイラは、家族全員がFOX中毒という一家で、FOXの番組でメインキャスターの座を狙っている。社内でちょっとしたチャンスを掴んで、ロジャーのいる2Fの部屋に潜り込んだ彼女は、そこでロジャーから、下着が見えるまでワンピースの裾を上げさせられる。ケイラは、ロジャーの引き上げによって、別番組で抜擢されることになったが、それをグレッチェンに伝えると、引き止められた。しかしケイラは、上を目指すために決断した。グレッチェンは、さすがに言えなかった。ロジャーが何を望んでいるのかを。ケイラはまだ知らなかった。ロジャーが何を望んでいるのかを。
やがてグレッチェンは、理由も告げられないままクビを言い渡される。先手を打って弁護士とやり取りを続けていた彼女は、ついに、メディアを牛耳っているロジャー個人をセクハラで訴えることにするが…。
というような話です。

先程も少し触れたが、この映画では、女性側の視点で状況が描かれていく。同じ女性でも、ロジャーをどう捉えるかという見方は違う。それは、大きな差だったり些細な差だったりするが、人間関係や自身の生活のことなどが様々に絡み合って、皆、どう決断すべきなのか分からないでいる。そういう、疑心暗鬼や足の引っ張り合いも含めた複雑な機微を丁寧に描き出している映画だと思う。

特にこの映画では、メーガンの葛藤が描かれることになる。

詳しくは触れないが、ロジャーのセクハラ問題にとって、メーガンは最も重要なキーパーソンだと言っていい。誰かがそう望んだり企んだりしたわけではないが、結果的に、メーガンがどういう決断を下すかによって状況が大きく変わる、ということになった。

これも詳しくは書かないが、メーガンはロジャーに対して、プラスの感情もマイナスの感情も抱いている。メーガン自身が、「ロジャーという人物」をどう捉えるべきかという部分で、大きく悩んでいる。さらにメーガンは、キャスティングボードのような存在なのだ。自分の動き方次第で、状況が決する。引き金を引いたのはグレッチェンだが、決着をつけるかどうかの決断はメーガンに託される形になってしまったのだ。彼女がどう悩み決断に至るのか、ということは、見どころの一つだ。

さて、ストーリーそのものとは関係ない部分で、この映画にはもう一つ見どころがある。

映画の冒頭で、こんな表示が出た。

「ニュース映像以外は、役者が演じています」

この映画について、アカデミー賞が決する前にテレビでその情報を得ていたので、この表示の意味も分かったが、そうでなかったら、意味不明だっただろう。

この映画では、役者たちが、実在の人物そっくりにメーキャップされている。

本当にそれは、恐ろしいレベルで似ている。実際のニュース映像の後で、メーキャップされた役者を見ても、正直全然分からない。映画の中では、「大統領候補であるトランプと対談するキャスター(メーガンだったかグレッチェンだったか忘れた)」という実際のニュース映像も出てくるので、役者を実在の人物に近づける作業は、この映画では不可欠だったと言えるが、それにしても凄すぎる。

この映画でメーキャップを担当したのが、日本人のカズ・ヒロ(辻一弘)で、アカデミー賞メイクアップ&ヘアスタイリング賞を日本人として初めて受賞した。まあ、そうだろう。これほど、実在の人物に似せられるメーキャップは、驚愕と言うしかない。

映画は全体として、難しさを感じる部分もあった。これは、多少仕方ない。アメリカ人にとっては当たり前すぎることはきちんと描かれていない、というだけのことだ。FOXニュースがどういう放送局なのかということや、共和党や民主党の争いについてなど、ごく一般的なアメリカ人なら知っていることについては深く描かれず、「もちろん知ってるでしょ?」という体で描かれるので、それらについての知識がない人には、かなり早口で話される政治ネタとか、FOXニュース内の人間関係などを追うのは難しいかもしれない。とはいえ、それらが完璧に理解できなくても、映画は楽しめる。実在の事件をモチーフにしているから、結末は想像できるわけだけど、それでも、そこに至るまでの過程をスリリングに楽しむことができる。

こういう映画が、「話題作」として多くの人の目に触れることは、良いことだなぁ、と思う。

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