【映画】「ラスト・フル・メジャー 知られざる英雄の真実」感想・レビュー・解説
正直、最初の一時間は、あんまり面白くなかった。もし、配信で観てたとしたら、その時の気分次第で観るのを途中で止めたかもしれない。
メチャクチャ良い映画だった。
善く生きたい、といつも思う。
とりあえず最低限のラインとしては、他人に無用な迷惑を掛けずに生きていければいい、と思う。これだけでも、僕には結構大変だ。しかし、もしこれが、そんなに苦もなく実現できるのであれば、その上でさらに、善く生きたい。
善く生きる、というのを明確に定義するつもりはないのだけど、神様のような存在に全部見られていても、それでも堂々としていられるような、そんな生き方だ。
人間はどうしても、バレなきゃいいだろう、という気持ちを抱きがちだ。何か褒められないようなことをする場合でも、あるいは、すべきことをしないというような場合でも、「それが他人に知られてしまうとしたら」という気持ちがある程度の抑止力になる部分はあるが、その抑止力が働かない状況であれば、ズルしてしまうだろうなぁ、という自分の行動も簡単に想像できる。
僕は宗教的な信仰を特別持たない人間だけれど、信仰というのが役に立つのだろうなぁ、と思うのがこの点だ。「誰も見ていないかもしれないけど、神様は見ている」ということをリアルに信じることができれば、善く生きることに一歩近づけるように思う。
とはいえ、そういう生き方は、良心との闘いでもある。
人間は、ある程度適当に、適度にやり過ごしながら日々を頑張って生きている。すべての事柄に対して100%であり続けるのは、相当大変だし、続けるのは難しい。自分の中で基準を決め、それに則って重要度を定め、重要度の低いものについてはほどよく付き合っている。車通りの少ない場所で歩行者信号を無視する、なんてのがいい例だ。
しかし、もしも神様的な存在に見られていることが日常のリアルなのだとしたら、そういう小さな不正とも戦わざるを得なくなっていく。
まあでもそれは、日常生活の中でほどよく折り合いがついていくだろう。
問題は、個人が背負うにはあまりに大きな何かを担ってしまう場合だ。戦争というのは、まさにそういう対象だ。戦争においては、どうしたって辛く厳しい事象が様々に起こる。それらは正直なところ、個人レベルではどうにもならないような緊急事態だ。しかし一方で、すべての事象が個人の行動の積み重ねであることも確かだ。だからこそ、それらの事象に対して、良心をもって対峙し、自分の責任だと感じてしまうことになる。
この映画で描かれるのは、そういう状況にあって、様々な想いを抱きながら、戦場で亡くなった下士官を、最高の名誉である名誉勲章に推薦し続ける者たちを描く、実話を基にした物語だ。
内容に入ろうと思います。
1999年、国防総省で働くハフマンは、二人目の子供の出産を控える妻を尻目に、仕事に追われている。しかしある日、空軍省の長官が突如辞任すると一報が入った。そのドタバタでさらに忙しくなりそうだったが、ハフマンには予算案の作成ではない仕事が回ってくることになった。
それが、32年前のベトナム戦争で戦士した、ピッツエンバーガーという空軍の下士官(衛生兵)の名誉勲章授与のための、退役軍人たちへの聞き取り調査だ。実は先日、国防総省まで同じ陳情にやってきた退役軍人と面会し、その申し出をやんわり断ったばかりなのだが、上司から直々に頼まれ、乗り気がしないまま調査を開始することになる。
戦争に関する基本的な用語も知らない若造に、退役軍人たちは様々な対応を取るが、彼らのとの関わりの中でハフマンは、少しずつこの調査への関心と、そして使命感のようなものが芽生えてくるようになる。
ピッツエンバーガーへの名誉勲章の推薦は32年前に行われているのに、その推薦状が紛失しており、申請が行えない。理由がはっきりと分からないまま、ピッツエンバーガーへの申請が32年止まっているのだ。しかし彼に関わった者たちは、32年間、諦めることなく申請をし続けていた。
ハフマン自身の状況も変化する中、彼はある決断をすることに…。
というような話です。
ピッツエンバーガーへの名誉勲章の授与がどれだけ凄いことなのか、映画の最後に出てきた数字でわかります。
まず、アメリカの兵士に与えられた名誉勲章の数は3498。その内、ピッツエンバーガーが所属していた空軍の兵士に対するものは18。さらに、下士官という低い階級の者に与えられたのがたったの3。その3つの内の一つがピッツエンバーガーだ、ということだ。
とにかく物語は、かなりスローに展開していく。しかも、物語の中核が、「32年間、名誉勲章の申請が受理されないのは何故か?」という、正直に言って地味なものだ。これはアメリカ人と日本人の感覚の差もあると思うんだけど、正直、映画を見始めた当初は、「勲章ごときで大騒ぎだな」と感じてしまっていた。とはいえその、「勲章ごときで大騒ぎだな」という感覚は、主人公のハフマンにとっても同様のものだ。彼もまた、何故退役軍人たちが、32年も前の戦争の勲章についてこれだけこだわっているのか、全然理解できない。主人公のハフマンがそういう人物だからこそ、「勲章に対する想い」という点で物語から振り落とされることはなかった、といえる。
ハフマンと同じような気持ちで、観客も退役軍人たちと対峙することになるのだけど、この退役軍人たちがまた、あまり親しみを持てない人物たちである。ピッツエンバーガーの両親こそ、非常に良い人たちだと分かるけど、ハフマンが会いに行く退役軍人たちは、一癖も二癖もある感じで、最初はあまり好きになれない。まあ、退役軍人側の事情も分かる。ピッツエンバーガーの勲章の話は32年進んでないわけだし、これまでいた担当も碌な仕事をしてないんだろうし、ハフマンは大して戦争に対する知識もないし、当初はハフマンもやる気がなかったからそれが見透かされていた、ということもある。しかし、そういう事情が理解できても、やっぱり好きになれんなぁ、という感じが募っていた。
こういう感じ方をしてしまっていたから、前半は全然面白くなかった。
しかし徐々に展開に変化がある。一番大きいのは、ハフマンの変化だ。最初こそ乗り気ではなかった調査に、本腰を入れるようになったのだ。たぶんその雰囲気が伝わったのだろう。退役軍人たちも変わっていく。そしてそこから色々あって受章という流れになるのだけど、その受章式も非常に良い。とても良い。泣いてしまった。
【これがたった一人の人間が持っている力です】
という言葉には、ぐっときた。
この映画で描かれる者たちは、色んな見え方はするけれども、善く生きようとするものたちであることは間違いない。映画を観ながら感じていたことは、世の中には知られていないだけど善く生きている人はたくさんいるのだろうし、そういう人たちがきちんと報われてほしいなぁ、ということだ。
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