【映画】「ファーストキス 1ST KISS」感想・レビュー・解説
しかしこれはよく出来たストーリーだったなぁ。さすが坂元裕二という感じ。「タイムスリップして未来を変える」系の物語なんかそりゃあこの世に山程あるわけだけど、ちょっと新機軸というか、一風変わってる感じが面白かった。
そもそも「タイムスリップして未来を変える」系の物語というのは大体、「うっかり過去に介入してしまって、このままだと未来がまずい(若い頃の両親が出会うタイミングを邪魔しちゃって、このままだと自分が生まれてこない、みたいな)」か、「現在にいる時点で『変えたい過去』があり、その後タイムマシン的なもので過去に行く」みたいな話が多い気がする。
しかし本作はそのどちらでもない。
主人公の1人である硯カンナは、ある時ひょんなことから、15年前の2009年8月1日のある場所に戻る方法を手に入れた。そこは、若き日の自分と夫が出会った場所であり、15年後の硯カンナは、まだ硯カンナ(というか、その時点は旧姓の高畑)と出会っていない硯駈(かける)と”再会”した。
というところから物語が始まるのだが、ここからさらに「未来を変えるためにあーだこーだしよう」という発想に至るにはもう少し時間が掛かる。まあそりゃあそうだろう。硯カンナは唐突にタイムトラベル的なことに巻き込まれただけであり、「過去に行ってどうこうしよう」なんて思っていたわけではない。それに、「タイムトラベル」と言ったって、「2009年8月1日」というピンポイントの日付のみである(その日の夜20時頃に、高畑カンナと硯駈が出会うことになっており、その絡みで硯カンナは20時頃までしかこの世界にいられないという設定)。彼女が過去に戻った時点ではまだ、2人は出会っていないわけで、その状態で「何かしよう」という発想にはまずならないだろう。
だから個人的に「なるほど、上手いなぁ」と思ったのが、「硯カンナがどうして『未来を変えるための行動』を取ろうと考えるようになったのか」というそのきっかけである。詳しくは触れないが(まあ別に触れてもいいとは思うけど、一応)、「確かにそういうきっかけなら、『未来を変えるための行動』を取ろうと考えるだろうな」という説得力が抜群で、とにかく絶妙だった。
また、本作が面白いのは、「タイムトラベルをした時点では、硯カンナ夫妻の関係は破綻していた」ということだろう。破綻していたも何も、硯駈は死んでいるわけなんだけど、そういうことではなく、「2人は離婚届を出そうとしていた」ぐらい、関係が悪化していたのだ。映画の割と早い段階で、「夫婦関係が悪化していく過程」が、かなりダイジェストで描かれていく。映画は「硯駈の死の描写」から始まるのだが、実はその時点で夫婦関係は破綻していたわけで、硯カンナにはもちろん「夫を失って悲しい」という気持ちはあるわけだが、しかしそれは、世間が思うほどではない(彼の死は多くの人から勇敢だと称賛された)というか、そこまで強い思い入れがあったわけじゃないというか、そういう感じなのだ。
だから、2009年8月1日に戻って、若い頃の夫に再会したカンナは、咄嗟に逃げ出してしまう。ついこの間まで、同じ家に住んでいるのに会話もしないような夫婦だったのに、そんな夫(というか、まだ夫ではない人)が、優しいような振る舞いをしてくることに違和感を覚えたということなのだろう。
そうはっきりとは描かれないものの、硯カンナは恐らく、「世間からは『悲劇の勇者』の妻と思われていて、だから悲しんでいることが伝わる方がいいんだろうけど、とはいえ夫婦関係は破綻してたし、あなたたちが思うほどには悲しくないかもなー」みたいに思っていたんじゃないかと思う。いや、違うか。彼女はそもそも「動物も人間も嫌い」みたいなことを言っていたから(動物はともかく、人間を嫌いになったのは夫の死以降な気はするが)、細かな理由はともかく、「あーもう人間ウザい」みたいな感じだったのかなという気はする。
まあとにかく、カンナはたぶん「願わくばもう一度夫に会いたい」みたいには思っていなかったはずである。タイムトラベルする前も、「餃子のために、少し前に戻りたい」みたいに考えていたぐらいだ。
そしてそこから、「『15年後の未来の硯カンナ』と『15年前の高畑カンナと知り合う前の硯駈』の関係性」が色々と変わっていく感じがとても面白い。どう変わっていくのかは具体的に触れないが、客観的に見ればなかなかねじ曲がった形での変化であり、これはこの設定ならではだなぁと思う。「夫が死なずに済む未来」を模索して延々色々と試したというプロセスが存在するからこそ説得力がある展開なわけで、よく出来てるなぁ、と思った。
そして、そういう流れの中で、タイトルにある「ファーストキス」に行き着くことになる。なるほどなぁ、という感じ。
そしてさらに、こういう作品は着地のさせ方が凄く難しいと思うのだけど、本作はそれも上手かったなと思う。「そうなるしかないよな」という結末ではあるのだけど、ただそれだけではなく、「なるほど、そう来ましたか」という着地のさせ方で、個人的には結構好きだった。
いやでもホント本作を観て思ったのが、別に「結婚」に限らないけど、「『1周目』のことを知った上で『2周目』を生きる」ってのはアリだよなぁ、と思う。特に「1周目」が失敗だとわかっているのであれば。まあ、現実にはそんなことは不可能なわけで考えるだけ無駄だが、ちょっと「羨ましい」と感じさせられた部分もある。
しかし、本作を観ていない人には、「2024年に死んでしまう人を、2009年8月1日へのタイムトラベルで死なせないようにする」という展開がなかなか想像出来ないだろう。これもまた、上手いものだなと思う。普通なら出来るはずのないそんなミッションに何度も挑戦する硯カンナの姿、そして毎回「初めまして」の硯駈とのやり取り。これらがとても絶妙で、とにかく全体的にストーリーが上手かったなという印象が強かった。「タイムトラベル」という設定以上に、作品が持つメッセージ性の方が強く浮き出る感じもあって、その辺りも流石だなという感じがする。
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