【映画】「ようこそ映画音響の世界へ」感想・レビュー・解説
非常に面白いドキュメンタリー映画だった。しかし、95分の映画だったのか。全然もっと長く感じた。別に「冗長だった」みたいなことではまったくなく、非常に情報が多かったので、もっと長いと思ったのだ。
さて、僕は音楽には全然興味がないくせに、『すばらしき映画音楽たち』やハンス・ジマーのコンサートを収録した映画など結構観に行っている。やはり、才能や職人の世界が好きなのだろう。本作では、映画音楽を含む「音響」全般について語られている作品で、まったく知らない世界だったこともあり実に興味深かった。
本作は、割と冒頭から「映画を発明したエジソンの時代からの『映画』と『音響』の歴史」みたいな話が始まっていく。それはそれでとても面白いのだが、その途中から挿入される「映画音響のレジェンドたちの歴史」の話が非常に興味深かったので、まずはその辺りの話から始めよう。
作中で、「今の映画音響に関わるすべての者の父」と評されていたのが、音響デザイナーのウォルター・マーチである。彼は10歳の頃からテープレコーダーのテープを切り貼りしたり、逆再生したりして独自の音を作っていたそうだが、その後きっかけがあってフランスの映画学校に通う。ゴダールの『勝手にしやがれ』が作られていた頃の、ヌーベルバーグ全盛期のことである。
さて、本作にはジョージ・ルーカスも出てくるのだが、彼もフランスの同じ映画学校に通っていたようで、そして「そこでウォルターと出会った」と語っていた。「音響」に焦点が当てられているから当然かもしれないが、ウォルターが「ジョージ・ルーカスに会った」と話しているのではなく、その逆であることが印象的だった。
ウォルターは当時から音作りのアイデアが豊富で、非常に優秀だったらしいが、しかしそれを活かす場がなかなかなかった。当時の娯楽・メディアの主役はテレビだったからだ。新聞には「ハリウッドはゴーストタウン」「4割の人間が失業状態」と見出しが躍るほどである。
そんな状況でウォルターを救ったのがジョージ・ルーカスだった。彼はワーナーの研修生となり、そしてそこで、同じく研修生だったフランシス・F・コッポラと出会った。そしてコッポラが、音響の知識のある者を探しているということで、ジョージ・ルーカスはコッポラにウォルターを紹介したのだそうだ。映画『雨のなかの女』がキャリアのスタートらしい。
その後、ジョージ・ルーカスと共に映画制作スタジオ「ゾエトロープ社」を設立する。彼らの最初の作品が映画『THX-1138』だそうで、非常に斬新な音響だったが興行的には大失敗で、ほぼ倒産寸前だったという。
しかしそんな時、コッポラの元にあるオファーが届く(恐らくコッポラもゾエトロープ社の所属だったのだろう)。既に12人の監督に断られたという企画だ。それがなんと、あの『ゴッドファーザー』である。『ゴッドファーザー』は大ヒットし、そのお陰でゾエトロープ社も倒産を免れたという。
さて、『ゴッドファーザー』の音響は、1939年の『風と共に去りぬ』と同じで、スクリーン裏にスピーカーが1つだけのシステムだったという。しかしその後、音楽の世界でスピーカー2つから音を出すステレオが広まり始める。そしてその頃、音楽業界から映画業界にドルビーが進出してきたのだそうだ。
そのドルビーの副社長がインタビューの中で面白いことを言っていた。その当時、ハリウッドの幹部から、「良い映画に必要なのは、良い席とストーリーだ。音は関係ない」と言われたという。このような主旨の発言は作中に何度も登場する。そのほとんどが、「会社は音の重要性を理解しなかった」という、古くからの音響デザイナーたちの嘆きである。1960年代ぐらいまで、映画業界はスタジオ毎に「音のリスト」を持っていて、銃声なら1種類の音を様々な映画で使いまわしていたという。「音は付いてさえいればそれでいい」というようなスタンスだったのだろう。
そんな雰囲気を変えたのが、バーブラ・ストライサンドである。女優でありプロデューサーでもある彼女は、自身が主演・プロデューサーを務めた映画でステレオでの音響にこだわった。彼女は、映画制作のために600万ドルを集めたが、さらに音響のためだけに追加で100万ドル必要になったそうだ。さらに、当時の音響編集の平均所要期間が7週間程度だったにも拘らず、彼女は音響だけに4ヶ月も費やしたという。
しかしその甲斐はあった。完成した映画を観たワーナーの幹部は、「追加の100万ドルはウチが払う」と言ったそうだ。音響の効果を実感させられたのだろう。
さて、その後焦点が当てられるのはベン・バートである。確か、ジョージ・ルーカスがウォルターに仕事を頼みたかったが彼が忙しすぎ、それで紹介してもらったのがベン・バートだったと思う。ジョージ・ルーカスは彼に、「こういう映画に興味はあるか」と言って、ラフデザインを見せた。謎の生物や宇宙船やライトセーバーが描かれたラフデザインにベン・バートは興奮し、「やります」と即答したそうだ。
もちろん、映画『スター・ウォーズ』である。
凄いなと感じたのが、「『スター・ウォーズ』は現実の音で埋め尽くしたかった」というジョージ・ルーカスの発言だ。当時のSF映画では、シンセサイザーによる電子音がよく使われていたそうだが、彼はそれを嫌ったという。というわけでベン・バートは、あらゆる場所であらゆる音を録音する旅に出た。なんとこの採録に1年を費やしたそうだ。また、作中に登場するロボットや異星人(なのか?ちゃんと観たことないから知らない)について、「撮影の前にどんな声をしているのか聞きたい」とジョージ・ルーカスが言ったため、撮影の1年も前から声や言葉を作る作業に入ったという(「撮影前に声を知りたい」という要望は、当時としては珍しかったそうだ)。こうしてベン・バートは、『スター・ウォーズ』の音響でアカデミー賞を受賞し、一躍その名が知られるようになった。
ちなみに、完成した『スター・ウォーズ』を観たフォックスの幹部は、「気に入ったが、ヒットには時間が掛かりそうだ」と言ったという。しかしその予想は良い意味で裏切られる。公開から2週間後には、映画館から数ブロック先まで行列が出来るほどの大盛況となったからだ。なんにせよ、『スター・ウォーズ』は映画音響のレベルを格段に高めた作品として知られているという。
そしてさらなる革新をもたらしたのが映画『地獄の黙示録』である。この作品には、ウォルターも音響デザイナーとして関わっている。
さて、当時彼らは、冨田勲の『惑星』というレコードを聴いて衝撃を受けたそうだ。それは、今でいう5.1chの手法で録られたもので、「音に包みこまれるような感覚」だったという。そして彼らは、5.1chのシステムなどまったく未経験の状態から(というか、彼らはステレオさえ経験していなかったそうだ)、ゼロからシステムの開発に取り掛かったという。音声の編集に1年半、ミキシングに9ヶ月という途方もない時間を要したそうだが、そうやって生み出された作品は大絶賛され、今でも、当時彼らが作り出した手法がすべてのベースに存在するという。
さて、次に映画音響を革新させたのはゲイリー・ライドストロームである。彼は、たまたまあるプロジェクトに関わることになった。1986年にジョン・ラセターらがアニメスタジオ「ピクサー」を立ち上げた。そしてジョン・ラセターは、短編アニメの音響をベン・バートに頼みたいと考えていたのだが、あまりに忙しくて捕まらなかったという。そこで、代わりにということでゲイリーに白羽の矢が立ったそうだ。ジョン・ラセターはカメラの前で、「ベン・バートが良かったけどね」と2度言っていたが、まあこれはジョークだろう。ゲイリーは素晴らしい仕事をしたからだ。
ピクサーは「ルクソーJr.」という、2つの電気スタンドが人間のように振る舞う短い短編アニメを制作した。そしてその音響を担当したゲイリーは、電気スタンドが喋っているかのように、感情を持っているかのように音を付けたのだ。こうして映画音響はさらに重視されるようになっていく。
みたいな、「レジェンド音響デザイナーたちの仕事を振り返る」みたいな部分が結構面白かった。特に、「会社やスタジオが音の重要性を認識しない中、現場の職人がメチャクチャ頑張って知見を積み上げてきた」という歴史が素晴らしい。作中に登場したある女性音響デザイナーは、何の作品だったか忘れたが、音響編集の作業中に幹部から「君はクビだ。音は重要じゃない」と言われたという。しかしその数ヶ月後、彼女がアカデミー賞にノミネートされると、その幹部から「音は重要だ」というメッセージと共に花が届いたというエピソードを語っていた。
本作では冒頭で、色んな人が「映画に音は欠かせない」と言っていて、それは、現代人なら当然の如く理解できる話だと思うけど、一昔前は、映画製作会社の上層部が「音は重要ではない」なんて思っていたわけで、凄い話だなと思う。
というわけで、ここから少しエジソンの時代からの流れをざっと追っていこう。
蓄音機を発明したエジソンは元々、「音と映像を一緒に届けること」を目標にしていたそうで、その過程で先に完成したのが「音」の方の蓄音機だったという。しかしやはり、当時の技術では映像と音を同時に録音し流すのは困難だったようで、映画はオーケストラ付きでの上映が普通だった。
その後、映画『ドン・ファン』で音声トラックを、『ジャズ・シンガー』でセットでの同録を実現し、本格的なトーキー映画の時代がやってくる。この変化によって、それまでサイレント映画の撮影では撮影現場の雑音など気にする必要がなかったのに、急に防音のスタジオが必要になったと説明があった。
その後、映画『キングコング』が音響編集というアイデアを先駆ける。様々な音を組み合わせることで、キングコングの鳴き声など、実際には存在しない音を作り出したのだ。しかし、この音響を手掛けた人物の仕事はあまりにも先駆的すぎて一般的に知られることはなかったという。
そして次の革新はラジオからもたらされた。『シャドー』というラジオドラマである。監督を務めたオーソン・ウェルズが立役者であり、「ラジオを聴いた人がパニックになった」という噂もあるラジオドラマ『宇宙戦争』なども手掛けている。そしてラジオドラマで培った手法を映画に持ち込んだのが映画『市民ケーン』なのだそうだ。
その後、「映画音楽」の重要性が認識されるようになるが、そんな中で登場するのがヒッチコックである。彼は音響の力をよく理解しており、自ら音響についての指示を行うほどだったという。そしてそのような流れの後で、ウォルター・マーチの来歴が語られるというわけだ。
さて、本作後半では、割と駆け足に「音声以外の音響」についても語られる。今まで語ってきたのは概ね「役者の声」の話であり、それ以外にも「環境音」や「フォーリー(足音などの様々な音を作り出すこと)」、あるいは「映画音楽」など、音響が果たす役割は様々存在する。そして本作では、それらについてもざっと語られるというわけだ。
僕はやっぱり、こういう「職人的な話」は結構好きで、気になってしまう。技術の進歩と人間の情熱によって「音響編集」という重要な役割が生まれ、認識されていく過程はとても面白かった。
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