【映画】「ラ・コシーナ/厨房」感想・レビュー・解説
メチャクチャ面白かったわけではないけど、なかなか楽しめた。しかし、主人公のペドロがマジでクソ野郎で、「メッチャ嫌いだわぁ、こういう奴」と思いながら観ていた。そのクソ野郎っぷりがまあ面白いのだけど。
物語は、NYタイムズ・スクエアにある「ザ・グリル」というレストラン。作中には「従業員専用の女子更衣室」が出てくるのだが、スーパー銭湯かなっていうぐらい広く(ロッカーの数も凄い)、それを踏まえると、店もメチャクチャ広いのだと思う。店内の様子はあまり出てこないのでよく分からないが、厨房だけでも、学校の教室1.5個分ぐらいはありそうだ。
そんな「ザ・グリル」のある1日を追った物語だが、この日は開店前から色んなことがあった。
映画に最初に登場するのはエステラ。彼女はメキシコからの移民で、英語はほとんど喋れない。同郷のペドロが「ザ・グリル」で働いているようで、母親から「彼に仕事を紹介してもらいなさい」と言われここまでやってきたのだ。面接の予定はなかったのだが、たまたま面接予定者が1人遅刻していたこと、そしてエステラがまともに英語を聞き取れなかったお陰で、面接予定者だと勘違いされてそのまま面接を受けることになった。英語が出来ないためほとんど会話にならなかったが、エステラが「ペドロの知り合いだ」というと、面接担当者は「ペドロの友人は俺の友人だ」と言って採用を決める。
さて、そのペドロは今、女子更衣室で話題の的だった。前日に、同じく料理人であるマックスと取っ組み合いの喧嘩を繰り広げたというのだ。最終的にペドロが包丁を掴んだところで取り押さえられたという。そしてその更衣室では、洗面台に吐いてしまった女性がいる。ジュリアという名のウェイトレスは、お腹の辺りをさすっている。どうやら妊娠しているようだ。しかし彼女は、当然のようにタバコを吸っている。
そしてこの日は、店全体を揺るがす大問題が起こっていた。なんと、前日の売上から823ドル78セントが消えているのだ。オーナーは、名乗り出れば警察には突き出さないと言っている(ただ、もちろんクビにはなるが)。エステラの面接をした人物は厨房で、「皆さんからも1人ずつ話を聞かせてもらう」と言っていた。とりあえず、犯人を見つけるしかない。
厨房では、ランチ営業に向けた準備中だ。酒を飲んだりタバコを吸ったり皆自由にしている。エステラはペドロと一緒に働くことになったが、そのペドロはマックスに謝罪に行った後(受け入れてはもらえなかったが)、厨房から姿を消した。フロアで準備しているジュリアの元へ向かったのだ。ペドロに対するジュリアの態度はつれないが、2人の間には何か関係がありそうだ。そしてペドロはジュリアに何かを渡す。どうやら、お金のようだ。ペドロはジュリアに何かを懇願しているみたいでもある。その状況は、徐々に分かってくる。
さて、厨房ではスペイン語が飛び交っている。移民が多いのだ。そしてその状況にマックスが「英語を話せ!」とキレる。盗難事件の話題でも白人と非白人の扱いの差の話になったりと、人種の問題は色々と根深い。
そしてついにランチ営業が始まり、厨房は戦場のような忙しさになる……。
というような話です。
ストーリーとしては「ペドロとジュリアの関係性」を主軸にしながら、全体としては「レストランの厨房を中心としたドタバタ」を描き出す作品という感じだった。さっきも書いたけど、とにかくペドロがクズ過ぎてまあそれは大変不愉快なんだけど、「そのクズがどうしてこのレストランで長く働けているのか」みたいな捉え方も面白いし(やはり料理の腕がいいらしい)、また、確かにペドロはクズなんだけど、他の料理人も、調理中なのにタバコ吸ってたり、メチャクチャ粗暴だったりと全然良い奴じゃなかったりするので、そこまでペドロの酷さが際立っているわけではないという部分もある。
さらにいえば、ペドロのクズさというのは「移民の大変さ」みたいなものを背景にしていたりもする(だからといって許容されるようなものではないが)。映画を観終えてから知ったが、本作は70年ほど前の戯曲『調理場』を原作にしているらしい。ただ、70年前を舞台にしているわけではなく、設定を現代に映していると思うので、移民の現状についても今の状況を反映させているのだろう。
この映画が公開されている今、まさにアメリカでは、トランプ大統領の差し金で移民が排斥されていて、カリフォルニアだかで暴動が起こっていたりする。さすがにそのような現場を組み込んでいるわけではないが、やはりいつの時代も移民(有色人種)というのはアメリカで苦労させられてきたのだろう。ペドロについてもある場面で、「ビザを取るために必死だ」みたいに言われていた。移民にとって、アメリカのビザが得られるかどうかは大問題なのだろうし、ペドロはどうにかその目的を果たそうとしているのだと思う。
そしてペドロ以外にもそういう移民はたくさんいて、さらに、恐らくだがそういう移民の方が店全体に占める割合としては多いんじゃないかという気もする(これは僕の勝手な憶測だが)。そしてそれ故に、本来的には優位に立っているはずの白人が数の論理で負けている。そのことに白人も苛立ちを覚えているように思う。
というわけで、なんだかんだこのレストランにいる人はみんな何かしらの不満を抱えているし、そこにさらに現金盗難事件なんかも加わって余計にややこしくなっていく。本作では、そういう「不満要素」を少しずつ積み上げて「場の緊張感」みたいなものを高めていき、それが最後一気にバーンと弾けるみたいな感じで展開されていく。ラストでオーナーが「俺の世界を止めた」「これ以上何を望んでいる」と繰り返し口にするシーンはなかなかに異様で、しかもそのまま物語が終わっていくという展開もなかなかに不穏だった。
「世の中の不条理」みたいなものを全部厨房に詰め込んだみたいな作品で、しかもスピーディーに淀みなく展開していくので謎に爽快感もある。何度も書くが、とにかく主人公のペドロはクズで全然好きになれないが、そのクズがかき回していく物語はなかなか面白かったなと思う。
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