【映画】「ドゥランダル作戦」感想・レビュー・解説

ムチャクチャ面白かった!さすがインド。206分もあるらしいが、「まだまだ全然観れる」ってぐらい面白かった(全劇場で同じかは分からないけど、僕が観たところでは間に10分ぐらい休憩があったのでご安心を)。ってか、続編の日本公開が決まってるらしい。まあ確かに、まだまだ続きそうな物語だったが。そりゃあ『RRR』の方が面白いが、『RRR』よりもかなりリアル寄りだろうし(歌って踊るシーンも、結婚式の場ぐらいだったから全然違和感はない)、また違った感じで観れるインド映画じゃないかなと思う。

で、「リアル寄り」についてもう少し説明しておこう。本作では、実際に起こったテロ事件が扱われている。1999年12月24日から31日に掛けて(本作では12月30日の出来事として描かれる)起こった「インディアン航空814便ハイジャック事件」、2001年12月13日に起こった「インド国会議事堂襲撃事件」、そして2008年11月26日に起こった「ムンバイ同時多発テロ事件」である。最後の事件は『ホテル・ムンバイ』として映画化もされているので、知っている人も多いのではないかと思う。

そして、これらのテロ事件が1つの物語として繋ぎ合わされるのだ。そして、その背景に隣国パキスタンがいる。つまり、「インド国内のテロ事件に、パキスタンが深く関わっている」という物語なのだ。

さて、これがどこまで事実なのかは良く分からないが、作中には「ムンバイ同時多発テロ事件の際の、指示役と実行役の実際の通信記録」が流れる場面がある。となると、さすがにこれは「パキスタンによる関与が明確になっている事件」と捉えていいだろう。他はどうかは分からないが、「少なくともインドがそう判断していること」は間違いないだろう。

で、本作のメインの設定は、「パキスタン最大のギャング組織にスパイを送り込む」である。で、本作の物語自体はフィクションだろうが、この「パキスタン最大のギャング組織にスパイを送り込んだ」というのは事実なんじゃないかなと思う。映画の最後に「名も無き影の男たちへ」と表記がされるし、また作中に「数奇な実話に着想を得た物語」という字幕も出てくるからだ。

それに、インドでのテロ事件にパキスタンのギャング組織が関わっていたのだとして、やはり潜入捜査ぐらいしないとその関与ははっきりしなかっただろうし、同時多発テロの際の音声データの入手も不可能だったんじゃないかなと思う。

公式HPに書かれているので触れていいと思うが、本作の主人公ハムザは「元死刑囚」ということになっている(映画ではこの事実は最後の最後に明かされるのだが)。ただ、「本当に元死刑囚を送り込んだのか」についてはちょっと怪しい気もする。まあこれが事実なのかは分からないが、ともかく「事実ではないこと」は山ほど盛り込まれているだろう。とはいえ、本作の大枠も部分はかなり事実に沿ってるんじゃないかという気がする。

ただそうだとすると、1つ注意しなければならない点もあるよな、と思う。というのは、「インド制作の本作は、インド側の視点で作られているはず」だということだ。最近のエンタメ映画が国のプロパガンダに使われるとはあまり思えないが、監督(や制作側)の個人的な思想が強く含まれている可能性はあるだろう。あるいは、もちろん最初はインド国内で上映するわけで、だとすれば「パキスタンを悪く描くほどインドの人は喜ぶだろう」という思惑があってもおかしくはない。だから、本作の描写だけからパキスタンという国について何かを判断するのも良くないだろうなと思う。

みたいな、映画とは直接的には関係ないことをあーだこーだ書いたが、そういうことは気にせずにシンプルにエンタメとしてメチャクチャ楽しめる作品なので、観てほしいなと思う。

というわけで内容を紹介しておこう。ちなみに、登場人物がかなり多く、冒頭からしばらくは人間関係の把握が大変かもしれないが、割と情報の提示の仕方が上手いと思うので、しばらく観ていれば理解できると思う。ただ、「バローチ人」「パターン人」などの民族紛争的な部分はやはり外国人の僕にはイマイチ良く分からず、その辺りの理解は正直諦めた。まあ、あまり気にしなくても大丈夫だと思う。不安な人はあらかじめ公式HPの人物相関図をざっと眺めておいてもいいかもしれない。

1999年のハイジャックで、インド情報局長のアジャイは最終的に、囚人3人の解放を呑んだ。「もう少し時間を掛ければ交渉可能だ」と、現場にやってきた外務大臣に訴えたのだが、首相から「時間切れだ」と言われたようで、止むなく3人解放ということになった。

その後、2001年にそのハイジャック事件に関わった者が国会議事堂の襲撃事件を起こす。インド各地ではテロが相次いでいたようで、アジャイはその対策に迫られることになる。

そしてアジャイが提案したのが「ドゥランダル(剛の者)作戦」だった。作中では、この時点で作戦の詳細は語られない(というか、詳しく語られるのは本作の最後)が、観ていればそれが「潜入作戦」だということは理解できる。

2004年、アフガニスタンとパキスタンの国境の町トルハムに1人の男が降り立った。ハムザである。彼はパキスタン入りし、そしてカラチという都市のリヤリ地区へと向かう。そこは、バーブーとレヘマーンという2人の男が縄張り争いを繰り広げるギャングの巣窟だった。ちなみに2人は共に「ダカェート」という苗字で呼ばれている。実はレヘマーンはバーブーの隠し子だったとかで、その事実を知ったレヘマーンが逆上し母親を殺すという事件を起こしている。

ハムザは、以前にパキスタンへと潜入し、地元で飲食店を経営する人物と接触、そしてそこで働きながら機会を待った。パキスタンに潜入しただけでは意味がない。ギャング組織に近づく必要があるのだ。そして1年が過ぎた頃、その機会がやってくる。仲間の1人が、レヘマーンの息子ナイームを敵対組織が襲うという話があると聞きつけてきたのだ。ここで息子を守れればレヘマーンに顔を売れる。

こうしてどうにかレヘマーンの部下となったハムザは、メキメキと頭角を現し、どんどん引き揚げられていく。そして、組織の重要な取引にも立ち会えるようになり、そこで知り得た情報をどんどんインドに流していた。

レヘマーンを取り巻く状況はなかなか複雑だ。ただその説明の前にまず、リヤリの特殊さについて触れておこう。作中では「リヤリの覇者がカラチを制し、カラチの覇者がパキスタンを制す」というセリフが出てくる。リヤリで覇権を取ることが莫大な権力に繋がるのだ。そして、そんなレヘマーンが支援しているのが「パキスタン大衆党(PAP)」である。その所属議員であるジャミールは、レヘマーンの支持をバックに選挙に勝ち続けている。一方のバーブーの組織は、「ムスリム運動党(MMP)」の支援に回っており、地方選挙では毎回、レヘマーンとバーブーの代理戦争のような形でPAPとMMPの勝敗が決まっていく。

さて、息子を殺されたレヘマーンはしかし、ジャミールに「復讐なんて考えるなよ」と念を押されたこともあり大人しくしていた。地方選挙で自陣営がどれだけ勝てるかで、活動資金の金額も変わってくるからだ。しかしもちろんレヘマーンは腸が煮えくり返っている。そこで部下たちに「復讐すべきではないか?」と問うのだが、もちろん皆「選挙が終わってからにすべきだ」と答える。しかしハムザだけが、「仇討ちをすべきだ」と進言した。そしてこの言葉を契機に、レヘマーンは選挙前にリヤリの覇権を一気に奪うことに決め……。

というような話です。

今説明したので、全体の1/3弱という感じだろうか。話はまだまだ全然続く。色んな組織が出てきてややこしいが、思ったよりも複雑ではなく、先程も触れたが、観てれば概ね理解できるだろうなという感じだ。

で、まあとにかくずっと面白い。まずはベースとして「インドの人間がパキスタンの一番ヤバいギャング組織に潜入する」という設定があるわけで、だから「バレちゃったらヤバいよ!」という緊迫感がある。本作には、この点を敢えて盛り上げようとする描写はあまりなく、ハムザは特段疑われることも潜入を続けるのだが、まあでもそりゃあそうだろう。百戦錬磨の組織なわけで、「ちょっとでも怪しまれたら、その違和感は逃さない」だろうからだ。物語的に盛り上げる要素として使えはするが、それよりはリアルな描写を優先したんじゃないかな。とはいえ、「潜入捜査をしている」ことは確かなわけで、「大丈夫なの!?」みたな感覚は最後まで継続する。

でその上で、ハムザがなかなか有能で、組織の中で「使える奴」としてのしあがっていく様がなかなか爽快である。内容紹介の中で「1人だけ仇討ちを進言した」と書いたが、他にも色んな場面で「ハムザのお陰でどうにかなった」みたいな状況が描かれる。レヘマーンや組織が何度も窮地に陥るのだが、その度にどうにか状況を立て直していくわけで、そういう実にフィクション的な展開はやはりさすがの面白さだった。

しかし、これは痛し痒しでもある。ハムザからすれば、レヘマーンの組織がちゃんと機能してくれていないと情報が取れないのだから、存続を手助けしなければならない。しかしそうすればするほど、組織の影響力はどんどん大きくなり、そしてそのせいで祖国インドに被害を及ぼすような状況を招いてしまいもする。潜入捜査をしている以上、どうにも避けがたいことだとは思うが、ハムザとしてはやりきれなかっただろう。

で、全体的には「悪い奴らのドンパチとか政治」が描かれるのだが、恋愛的な要素もあり、206分もある物語の中にはこういうのも必要だよね、という感じである。また、インド映画と言えば「歌と踊り」だが、本作では「結婚式の場面で歌って踊る」みたいな、別に全然自然なシーンとしてあったぐらいなので、全然違和感はない。

ただ、「歌に乗せて状況を要約的に描いていく」みたいな場面は結構ある。で、そういう場面で流れる音楽がメチャクチャかっこいいんだよなぁ。公式HP上で、「(恐らく)本作で使われているだろう曲」が聞けるようになってたりもする。普段僕は全然音楽とかに反応するタイプじゃないんだけど、本作では、音楽そのものもカッコいいし、それが映像とバチッと合ってるから、なんか凄く気持ちいいなって感じになった。ラップっぽい曲が多かったかな。

ってか曲と言えば、本作のエンドロールで流れる曲の歌詞がなかなか凄い。あまり具体的に覚えてないけど、「エンタメ映画のエンドロール曲でこの歌詞は凄いな」と思った(ただ、内容には合ってるから全然違和感はないが)。

まあそんなわけで、超どエンタメ作品としてメチャクチャ面白い! 「インド映画でオススメの1本は?」って聞かれたらやっぱり『RRR』だけど、「エンタメ映画でオススメは?」とか聞かれたら、何本かの内の1作に入れてもいいなと思うぐらい。ストーリーテリングとか映像のスケールとか肉弾戦とか色々魅力的な要素が詰まった映画で、今年観た映画の中でもかなり人に勧めやすい(長さ以外は)作品だったなと思う。


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