【映画】「永遠に君を愛す」「不気味なものの肌に触れる」「天国はまだ遠い」「Walden」感想・レビュー・解説

濱口竜介監督の最新作『急に具合が悪くなる』が近々公開されるということで、その記念に過去作の特集上映「突然、偶然、必然」が今やっているので、観に行くことにした。今回は、「永遠に君を愛す 58分」「不気味なものの肌に触れる 54分」「天国はまだ遠い 38分」「Walden 2分」という計4作の中短編を一気に上映するというプログラムで、こんな機会はなかなかないだろうから絶対観ようと思っていた。ので、チケットは割と早い段階でチェックしていたのだけど、早くから結構埋まっていて、結果的にはほぼ満員という感じだった。この4作は配信ではどうも観れないようで、こういう機会でもないとなかなか触れられない。良い機会だったなと思う。

というわけでまずはざっくりと、それぞれの内容を紹介したいと思う。

「永遠に君を愛す」
結婚式当日を迎えた永子と誠一のカップル。婚姻届は挙式後に提出する予定のようで、テーブルの上に記入済みの婚姻届が置かれている。誠一は前日、夜遅くまで飲んでいたようで、全然起きる気配がない。なので永子は、色々準備もあるので先に式場へと向かうことにした。

その式場で彼女は手紙を書いている。誠一に読ませるかもしれないし、読ませないかもしれない手紙だ。そこには、「元カレと浮気してしまった」と書いていた。もう会っていないが、誠一と喧嘩した日に誰かに話を聞いてほしくて会い、それから何度かそういう関係になった。彼女は、結婚式の日を迎えた今、嘘はいつかバレると直観し、誠一にこのことを正直に話すべきだろうかと逡巡している。

一方、美大でヌードモデルをしている寿志は、休憩中に女子学生のエリナから突然「あなたのこと好きかも」と言われる。突然すぎてよく分からないが、しかし寿志はそんな学生に構っている暇はなかった。何故なら、まさにこの日、今も好きな元カノが結婚式を挙げるからだ……。

「不気味なものの肌に触れる」
父親を亡くした千尋は、腹違いの兄・斗吾に引き取られることになった。斗吾と彼の恋人である里美は彼を優しく迎え入れるのだが、千尋は差し伸べられた手を素直に掴むことが出来ない。

千尋は、役者になるためのワークショップでもしているのか、同い年の直也と「お互いの身体に触れないままお互いに影響を及ぼし合う」みたいな動きをずっとしている。レクチャーしてくれる講師に見られながら、2人は互いに一切触れず、それでいてそこに何か繋がりがあるかのような動きを見せる。

直也は付き合っているあずさから「距離を取ろう」と言われる。直也は、彼女がどうしてそんなことを言うのか分からず、だから彼女との適切な距離をはかろうと(そして恐らく、沈鬱な雰囲気を吹き飛ばそうと)、「これぐらいの距離ならいい?」と何度か聞くが、あずさから「もう会わない」と言われてしまう。

なんとなく様々な不穏さが彼らの周囲を纏う中、その不穏さは街にまで染み出していき……。

「天国はまだ遠い」
AVにモザイクを付ける仕事をしている雄三は、何故か女子高生の三月と一緒に生活をしている。部屋でもずっと制服を着ている彼女の存在は違和感をもたらすが、雄三と三月の関係は長いようで、2人にとっては日常のようだ。

そんなある日、三月の妹・五月から連絡が来る。会ったこともないし関わったこともない人物で、雄三は何故自分に連絡が来たのか不思議でならない。どうやら、ドキュメンタリー映画を撮るとかで、その被写体の1人になってほしいという。ますます訳が分からない。

とりあえず話を聞きに指定されたカフェまで向かうのだが……。

「Walden」
これはちょっと説明出来ない

という感じである。

個人的に一番面白かったのは『天国はまだ遠い』だ。これはよく出来てたなぁ。設定的な部分は途中で分かったが(ただ、そうだとしてもカフェで彼らが話していた会話は、次のシーンになるまで色々謎だったが)、短い物語の中でなかなか興味深い展開や人間模様を描いていて、かなり好きだった。

というわけで、この作品に関してはネタバレをせずには何も書けないので、ここでは内容にもっと深く触れてしまおうと思う。知りたくない方はこれ以降の文章は読まない方がいいだろう。ちなみに、僕はなんとなく「瀬尾まいこ原作の物語」だと思っていたのだが、瀬尾まいこの小説のタイトルは『天国はまだ遠く』で、全然別物だった。

さて、五月が撮ろうとしているドキュメンタリー映画のテーマは、17年前に殺害された姉である。事件自体を追っているのではなく、彼女の言葉を借りるなら「姉の影響の範囲を知りたい」という関心を持っているようだ。そして、その殺害された女子高生というのが、雄三が一緒に住んでいる女子高生・三月なのだ。つまり三月は幽霊ということになる。

という部分は、カフェのシーンの割と早い段階で分かったのだが(明らかに五月がその場にいない存在として扱われていたので)、しかしそうだとして、「何故五月が雄三を撮ろうと思ったのか?」がマジでしばらく理解できない。電話のシーンでも喫茶店のシーンでも、五月と雄三がそれまで関わりがなかったことは明らかだし、そしてさらに、これは後で理解できることだが、三月もまた生前は雄三と関わりがなかったのだ。雄三が三月の存在を知ったのは死後のことであり、となればどうやったって、五月は雄三の存在を知り得ないだろう。

にも拘らず彼女は雄三に電話を掛けてきたのだ。もちろん雄三は、「女子高生の幽霊と一緒に生活している」なんて話、誰にもしていないはずである。だから「五月はどうして雄三の存在を知り、何故今回のドキュメンタリー映画で最も興味深い存在だとまで言っていたのか」が全然分からなかったのだ。

しかしそれは、五月が実際にカメラを回しドキュメンタリーを撮影する場面で明らかになる。ので、ここでは伏せておこう。しかし、普通にはあり得ない関係性を描き出すという意味でこの設定はかなり秀逸だったなと思う。

そしてその上で、このドキュメンタリーの撮影パートもメチャクチャ良かった。「雄三目線」と「五月目線」と「観客目線」ではすべて見えている世界が異なり、だからこそややこしいしだからこそ面白い。雄三の主張も五月の主張も分かるし、で、色々あった上での展開も興味深いし、観客としてはなんかヒヤヒヤさせられる場面もあったりして、本当によく出来てる。良いものを観たなという感じだった。

次に良かったのが『永遠に君を愛す』。こちらかは、冒頭からしばらくの間は「花嫁が結婚式の直前に自分の浮気を後悔している」のと「美大のヌードモデルに恋する女子学生」という、まあ別にどうってことない物語って感じだったのだが、この両者が邂逅することでなかなかカオスな状況になっていく。

ただ、邂逅すると言っても、誠一と寿志がバトル! みたいな展開になるわけではない。実際的な話で言えば、寿志が式場に顔を出したことは何かの直接的な原因になっているわけではない。けど観客視点で言えば、「寿志の存在が呼び水となってあんなことになったんかなぁ」みたいな見え方になるし、そしてそこに、全然関係ないエリナが絡んでくることで一層カオス的な状況になっていく。

しかも、状況的にはどう考えても永子が悪いのに、何故か誠一が謝る展開になっていて、しかもそれが「まあ、こういう流れになることもあるかー」みたいな割と自然なものだったので、それも面白かった。「何で誠一が謝ってるんだ?」ってなるのだが、「こういうことは起こり得るよなー」という理不尽さも分かるし、なんか色々ひっくるめて面白かった。ラストのおんぶも、なんか良かったなぁ。

で、『不気味なものの肌に触れる』は正直良く分からなかった。のだけど、これは中編をまとめて観た効果だろう、決して悪い印象ではない。『天国はまだ遠い』と『永遠に君を愛す』は「コメディっぽい雰囲気を含むヒューマンドラマ」という感じだが、『不気味なものの肌に触れる』は全然違う雰囲気の作品で、『永遠に君を愛す』と『天国はまだ遠い』の間に挟まれていたこともあり、「違うタイプの作品で気分が切り替わる」みたいな感じがあったなと思う。

『不気味なものの肌に触れる』ではとにかく、「触れる/触れない」「距離を取る/取らない」みたいなことがかなり多層的に積み上げられていく構成で、そこにどんな意味があるのかは分からなかったが、「塗り重ねられていくことによる厚み」みたいなものは感じられた。また、「触れる前は怖いけど、触れちゃえば怖くない」みたいなセリフもどこか示唆的で、作品自体を的確に受け取れている感じはしないが、全体的には嫌いじゃない雰囲気だったなと思う。

で、『Walden』は2分と短い作品なので、公式の内容紹介をコピペして置くだけにしよう。

【木々が映る水面を、風が揺らし、アメンボが波紋を広げる。鳥や蟬たちの鳴き声が響くなか、ダグラス・サーク監督『天が許し給うすべて』(1955)より、ソロー作『ウォールデン』を読むジェーン・ワイマンの声が重ねられる。第60回ウィーン国際映画祭のトレイラーとして作られた、フィックス撮影によるワンショット映画。】

というわけで、全体的にはとても満足できる鑑賞だった。別に僕は「監督の作家性」みたいなものが理解できるわけではないし、それを求めて映画を観ているわけでもないのだけど、こうやって同じ監督の作品をわわわっとまとめて観ると、そうじゃない場合と比べてやはり「作家性」みたいなものが濃く感じられる気もする。

というわけで他の作品も観る予定なのだが、Bunkamuraでやってる特集上映のスケジュールだと、未だに観れていない『寝ても覚めても』がまた観れない。6/5からはシネマリスでもやるらしいので、そっちで観れることを期待しよう。


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