【映画】「ハンス・ジマー&フレンズ ダイアモンド・イン・ザ・デザート」感想・レビュー・解説
僕がハンス・ジマーの名前を初めて聞いたのはたぶん、以前観たドキュメンタリー映画『すばらしき映画音楽』でだったと思う。それまでは、存在すら知らなかったはずだ。そもそも音楽に興味がないし、「映画音楽」に注目することもなかったので、特に知る機会がなかったのだ。
ただ、『すばらしき映画音楽たち』を観て、「そうか、映画音楽を作る人は凄いんだな」と思って、その後も映画『モリコーネ』などのドキュメンタリー映画を観たりした(エンリオ・モリコーネもまた、ハンス・ジマーとは違うタイプの「やべぇ映画音楽作曲家」である)。
さてそんなわけで、今回観に行った映画は、ハンス・ジマーが作曲した映画音楽のライブ演奏である。ドバイで行われた公演を丸々映画として収録しているようだ。そしてその合間合間に、ハンス・ジマーと縁のある人物(ドゥニ・ビルヌーブやクリストファー・ノーランなど)との対談の様子がモノクロで映し出されるという構成になっている。
公演で演奏されていたのは、『パイレーツ・オブ・カリビアン』『インセプション』『ダンケルク』『インターステラー』『デューン/砂の惑星』『ダークナイト』『マン・オブ・スティール』『X-MEN』『ライオンキング』などなど、有名映画の音楽ばかりである。とはいえ、僕が曲を聞いて「知ってる」と思ったのは、『パイレーツ・オブ・カリビアン』の中でも最も有名だろう曲だけだ。『インセプション』『ダンケルク』『インターステラー』は、映画は観てるけど、曲にはピンと来なかった。まあ僕にとっては「映画音楽」というのはその程度のものである。基本的には「ストーリー」にしか興味がないので、音楽のことは全然注目していないのだ。
ただ、知らない曲ばかりだったけど、コンサートは十分楽しめた。とにかくまず、舞台上に載っている楽器の数が以上だ。そもそもドラムが2台あるし(2台のドラムを合わせるのってメッチャむずくない? と思ったりした)、見たことない楽器や見たことない機械も色々ある。電子楽器も多いだろうから、その配線を考えるのもイカれてくるんじゃないかと思うような物量だった。
また、曲の構成もやっぱり面白い。と言って、音楽には詳しくないのでちゃんとしたことは言えないのだけど、個人的に「おー!」と感じたのは、何の曲だったかな、「木琴のソロパート」があったことだ。舞台上にあれだけ楽器が並んでて、その中で、木琴だけが音を奏でているというのも、なかなかの異常さだったなと思う。
また、対談の中で誰かがハンス・ジマーに「レコーディングでは大体の楽器を自分で演奏するんですよね?」みたいに質問していたのだが、コンサート中もハンス・ジマーは色んな楽器を持ち替えては弾いていた。ギター的な楽器とピアノ的な楽器が多かったが、そうじゃない楽器も色々弾けるんだろう、きっと。
またハンス・ジマーは、楽器を弾かずに、演奏しているプレイヤーを眺めているだけ、みたいな場面もあった。他のプレイヤーが「黒い衣装」で統一している中、ハンス・ジマーは「ユニクロで買ったみたいな服」で舞台上をウロウロしては、楽器を弾いたり、他の人の演奏を眺めたり、合間に喋ったりする。その自由な感じも凄くいいなと思う。
で、何よりもやはり、楽器を弾いている人たちが楽しそうなんだよなぁ。凄まじい数の楽器を、(表向き)指揮者なしで合わせているわけで(たぶんハンス・ジマーが各所で合図を出しているんだとは思うけど)、まあ相当大変なんじゃないかなと思う。けど、みんな楽しそうにパフォーマンスするんだよなぁ。このコンサートの編成は「バンド」とも「オーケストラ」とも呼べそうだけど、「バンド」はともかく、「オーケストラ」でこんなに楽しそうに演奏している様子を見たことはないなと思う(まあオーケストラを直接見たことはないから、実際には分からないけど)。中でもやっぱり、みんな大好き『パイレーツ・オブ・カリビアン』は、観客もプレイヤーもテンション爆上がりという感じで、コンサート全体の中でも「楽しさ」が爆発していたなと思う。
そんなわけで、コンサート自体ももちろん楽しめたのだけど、やはり個人的には、合間の対談の話にも結構惹かれた。
個人的に最も好きな話は「ドリスのために曲を作っている」というものである。ドリスというのは実在する女性というわけではなく、ハンス・ジマーの脳内にいる架空の存在だ。彼女は仕事に追われていて、週払いの給料をもらっている。そして週末、過ごし方の選択肢は2つ。1つはパブに行く、そしてもう1つが映画館に行く。で、もし映画館を選ぶなら、僕が魔法を掛けてあげたいと思う。そのために曲を作ってるんだ、という話だった。
ハンス・ジマーはずっと、監督やプロデューサーのために曲を作ったことはなく、常にドリスのために作り続けてきたそうだ。「働き者で、世の中の片隅に取り残されている女性」であるドリスが、2時間なり2時間半なりの魔法に感動してくれるか。そのために仕事をしているんだという話である。
しかしそれはそれとして、クリストファー・ノーランとの対談の中では、「あなたとの仕事は常に命がけだ」と言っていた。どういうことかというと、「いつも、この作品のために死んでもいいというぐらいの気持ちで臨んでいる」そうである。クリストファー・ノーランにとってもハンス・ジマーにとっても、そして恐らく世間的にも、映画『インターステラー』はとにかく印象的だったそうで、クリストファー・ノーラン以外の人物との対談の中でも『インターステラー』の話は何度も出てきた。
で、そんな『インターステラー』についてクリストファー・ノーランが語っていたのだが、僕の理解ではどうやら、「ハンス・ジマーが用意した曲から要素を削ぎ落として、結局ほとんどキーボードだけみたいになった」みたいなことを言っていた気がする(正直、正しく理解しているか自身はないが)。『インターステラー』はクリストファー・ノーランにとっても挑戦だったようで、それまでは「細部から全体を組み立てる」みたいなやり方をしていたところ、『インターステラー』では「全体を組み立ててから細部を調整する」というやり方をしたと言っていた。そして恐らくだが、その過程で、ハンス・ジマーが元々作曲した曲から要素を削っていったという話なんじゃないかと思う。ハンス・ジマーは、「あの時は48回もセッションしたんだ」みたいに言っていて、それ以上のことは口にしなかったが、「48回もセッションしたのに、ノーランは結局それをそのままの形では使わなかったんだぞ」みたいなことを言いたかったのかなと僕は受け取った。
ちなみに『インターステラー』の際には、「ジャンルさえも伝えずに、1枚の紙に内容だけ書いて、それで作曲してもらった」みたいなことをクリストファー・ノーランが言っていた。それを聞いたハンス・ジマーが、「これは質問するけど、カットしてね」と言いながら聞いていたのが、「あの手紙はお父さんのタイプライターで打った?」だった。この質問にどんな意味があるのかよく分からないが、2人の間では通じるやり取りなのだろう。
さて、ドゥニ・ビルヌーブとのやり取りも印象的だった。と書きながらいきなり別の人の話をするが、本作にはティモシー・シャラメとの対談もあり、その中でハンス・ジマーは、「現役最高の監督2人と一緒に仕事が出来た我々は幸運だ」という話をしていた。その2人というのが、クリストファー・ノーランとドゥニ・ビルヌーブである。
ドゥニ・ビルヌーブは、「音楽には長い間反発していた」と言っていた。その影響力があまりにも強すぎるからだそうだ。で、いざ映画に音楽を入れるとなったら、「最も大事なのは作曲家との関係で、お互いに深く真剣に内側を見つめられるような人がいい」みたいなことを言っていた。まさにそれがハンス・ジマーだったのだろう。
その後ドゥニ・ビルヌーブは、「映画音楽は、そのシーンに新たな何かを加えなければならない」という話をしていた。例えばアクションシーンに音楽をつけるとして、「アクションシーンである」という内容の音楽を付けるんじゃ意味がない。それは単に、シーンの内容を補強しているに過ぎないからだ。そうではなく、映像だけでは存在し得ない「何か」を音楽によって付け加える、そういう役割が映画音楽には求められているのだ、というのである。そしてそのような観点で、ハンス・ジマーはやはり天才的なのだそうだ。
しかしホント、そういう話を聞くと、一体どんな風に作曲してるんだろうな、と思う。映画音楽というのはかなり特殊だろうし、「先に映像がある」とか「映像がないまま作る」とか色々パターンは存在すると思うが、特に「作曲の時点で映像が存在しない」みたいな時に、一体どういう取っ掛かりから作曲するんだろうか、みたいに思う。ドゥニ・ビルヌーブの話で言えば「シーンに存在しない何かを加える」ことが映画音楽の役割なわけで、だったら「映像」は必須に思える。映像が存在しないのに、「映像には無い要素を加える」なんてことが出来るんだろうか? ホント不思議な話である。
ちなみに、ドゥニ・ビルヌーブが監督した『デューン/砂の惑星』においては、ハンス・ジマーは「新しい楽器」を作ったそうだ。『すばらしき映画音楽たち』の中で誰か(もしかしたらハンス・ジマーだったか?)が言っていた言葉は今も覚えている。「映画音楽のルールは1つだけだ。『ルールなど無い』」。つまり、何をしてもいいのである。そんな「何の制約も存在しない」状況から「正解(らしきもの)」を見つけなければならないのだから本当に大変だ。
さて、初めの方で流れた対談で、長年タッグを組んでいるらしいプロデューサーとのやり取りがあったのだけど、その中で出てきた『パイレーツ・オブ・カリビアン』の話も興味深かった。元々この映画の音楽は別の作曲家に頼んでいたのだがどうにも上手くいかず、制作側はかなり行き詰まっていたそうだ。そしてそこで、ハンス・ジマーに話が回ってきた。そしてたった1晩で、あの誰もが知る超有名な音楽を作り上げ、それですべてがピタッと決まっていったのだそうだ。
そしてハンス・ジマーは、そのプロデューサーの対談の中で、「僕の作曲は単独作業ではなく、あなたとの完全なる共同作業だ」と話していた。そのプロデューサーは作曲そのものには関わらないが、「どん底になったり味方が誰もいなくなっても、あなただけは、午前4時でも僕と一緒に答えのない問いを考え続けてくれる」と言っていて、そういう精神的な部分で「共同作業」と捉えているようだ。またそのプロデューサーは、「映画製作はペンキが乾くのを待つ仕事だ」と言っていて、この表現も凄く良かったなと思う。
というわけで、コンサートそのものも圧倒的だったけど、合間の対談シーンも大変良く、個人的にはかなり満足できる鑑賞だった。僕が調べた時には、本作は7/11(金)から1週間限定で劇場公開されるとかで、観ようと思っている人は早く観た方がいいかもしれない。
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