【映画】「メレディス・モンク 踊る声、歌う身体」感想・レビュー・解説
決してつまらなかったというわけではないのだが、そこまで良くはなかったかなぁ、という感じがした。
で、その理由は、公式HPに書かれていた本作監督のことばからちょっと読み取れるかもしれない。
【3年前、モンクは1972年から仕事場にしているトライベッカのロフトのドアを開け、彼女の日常生活のリズムと、最新作「インドラの網」を制作する姿を私とクルーが捉えることを許してくれた。それだけではなく、映画、写真、手帳など膨大なアーカイブにアクセスすることも許された私たちは、彼女のアーティストとしての進化を深く理解することができた。包括的な伝記映画というよりは、モンクの作品の構造を反映したモザイク的な作品にしたかった。】
この文章からは、「メレディス・モンクのことを知っている人向け」という印象を受けるんじゃないかなと思う。僕の印象も、まさにそんな感じだった。
僕はいつもの如く、「メレディス・モンク」が誰なのか知らない状態で本作を観に行った。で、そういう人間からすると、「包括的な伝記映画」ではない本作は、ちょっと距離を感じる作品に思えてしまった。
僕は今回のように、「よく知らない人」のドキュメンタリー映画を観に行くのだが、程度の差はあるものの、概ね「知らない人向けの説明」みたいなのもちゃんとある。「これ1本観れば大体分かる」というレベルのものから、「これだけ観てもちょっと分かんないけど、まあ概要ぐらいはなんとか」みたいなものまで様々だが、一応「知らない人でも観てもらえますよ」的なスタンスは感じられる構成になっている。
のだけど、本作は割とそうではなくて、全体的に「多少なりとも知っている人向けに、メレディス・モンクのことをより知ってもらうための構成」になっている感じがした。
まあとはいえ、そういう構成が悪いと思っているわけでもない。普通に考えれば、僕のような観客よりは「メレディス・モンクを多少なりとも知っている人」の方が多く観に来るだろうし、そういう人に向けて作った方が全体の満足度は上がるだろう。なので、これはこれで全然良いと思うのだが、個人的にはちょっとイマイチだったかなという感じである。万が一僕のように「メレディス・モンクについて全然知らない」みたいな状態で観るつもりの人がいるなら、事前に多少情報は入れておいた方がいいかもしれない。
で、彼女は「作曲家であり歌手、演出家、振付家でもあり、さまざまな音楽劇や映画、インスタレーションを手がけるアーティスト」らしいのだが、その中でもやはり「声」が最も特徴的だろう。「3オクターブ以上出せる」というのも凄いが、それ以上に彼女は「声そのものを”楽器”のように扱ってパフォーマンスをする」というスタイルを確立したのだ。多くの人が、この点を称賛しているようだった。
本作には、メレディス・モンク本人のインタビューが多く使われているのだが(このドキュメンタリー映画用のものはほとんどなかった気がするが、過去に様々な場面で行われただろうインタビュー映像が使われている)、その中で彼女が、「1965年に発声練習をしていた時に、私は突然悟ったの」と話していた。そして続けて、
【声は背骨のように柔軟で、手のように動かせると分かった。】
【言葉で表せる感情の狭間を声で表現できる。】
みたいに言っていたのである。彼女はこのような啓示を「家に帰るようなもの」と表現していた。つまり、「自分の能力やこれまでやってきたことが、収まるべきところに収まるような感覚」だったということなのだろう。
それで彼女は、その直感を元に、「ガールチャイルド」という集団を組んで演劇(と言ってたけど、セリフがあるような演劇なのかはちょっと分からない)をしたり、歌詞のない曲を声だけで聴かせるコンサートを開いたりする。
のだけど、彼女が絡む様々な公演は批評家から結構厳しい扱いを受けていたようだ。新聞に載った批評が結構紹介されていたのだが、「ダンスというには稚拙」「家の猫が喧嘩しているよう」など結構酷い。
さらに、これはちょっと僕の記憶違いかもしれないが(ウトウトしてしまう瞬間が多く、正確な記憶なのか自信がない)、彼女がテレビのインタビュー番組みたいなのに出演している時にもなんか凄い発言があった。
男性の司会者がトークの合間に「彼女の曲を掛けてみましょう」と言って、彼女の歌(前述したような、「歌詞のない曲を声だけで聴かせる」みたいなもの)を流すのだが、その後彼が、「我々があなたのこの声に慣れるまでどれぐらい時間が掛かるでしょうか?」と彼女に質問していたのだ。
すげぇこと言うなと思った(僕の記憶が正しければ、だが)。それに対して彼女は、正確には覚えていないが、「コンサートに来てくれる方は割と良い評価をくれます」みたいな大人の対応で返していたのだが、内心煮えくり返っていたんじゃないかなぁ。失礼にも程があるという感じだった。
で、そんな厳しい批評のせいだろう、金銭的にも厳しかったようで、彼女は「職安に通ったこともある」と言っていた(しかし、字幕で「職安」って表示されたんだけど、今の若い人にこの言葉通じるんか? まあ文脈で大体分かるとは思うが。たぶん字数の問題もあって「職安」にするしかないんだろうけどなぁ)
しかし、1991年に彼女が初めて手掛けた「アトラス」というオペラは大絶賛だったようで、新聞にも「20世紀のオペラを決定づけた」など絶賛のコメントが並んでいた。そこまで急激に評価が爆上がりするもんなのか、という感じもするが、メレディス・モンクが大衆に寄せたのか、時代が彼女に追いついたのか、別の理由なのか、まあ何かあるのだろう。
個人的に印象的だったのは、母親に関する言及である。そもそも誰かが、「母親から良い扱いを受けれてこなかったことが彼女の根源にある」みたいな話をしていたのだが、そんな母親は「CMソングの歌手」として有名だったという。で、「CMソング歌手はかなり過酷だった」「母は私をあちこちの現場に連れて行った」みたいに言っていた。かなり色んな会社のCMソングを担当していたらしいので、その録音であちこち飛び回っていたということなんだろう。で、メレディス・モンクは、「私はそんな母親を見て、彼女のように消費される存在にはならないようにしようと考えた」「一時的に知名度が上がってたけど、晩年は心を病んでいたようだし、そうはなるまいと思った」みたいに話していた。
彼女は昔から目が悪く(両目の像を合わせられず、右目・左目で捉えた像を別々に見ているみたいな感覚だったらしい)、それで身体能力にも難ありという感じだったらしいが、母親がリズム感と音感の良さに気づいてくれたからそこを伸ばした、みたいな話をしていた。とすれば、普通にしていたらアーティストというよりは歌手のような方向に進んでもおかしくなかったと思う。まあそれでも成功していたかもしれないが、母親の存在があったからこそ「歌手にはなるまい」と考え、常に創造し続ける人生を選び取ったのだから、結果オーライと言ったところではないかと思う。
というわけで、良かったとはちょっと言い難いが、「なるほど、こういう凄い人がいるんだなぁ」という感じになれる作品だった。
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