【映画】「ペリカン・ブルー~自由への切符~」感想・レビュー・解説

なかなか面白い作品だった。実話を元にしたアニメーションで、ソ連崩壊後のハンガリーで起こった「国際列車の切符の偽造」がメインの物語である。

映画冒頭で、「本作の元になったインタビューは、2011年から2021年に掛けて行われた」と表記された。公式HPにも「リサーチに10年掛けた」と書かれている。で、本作には2014年を舞台に「当事者たちが昔の出来事を振り返りつつ喋るパート」も随所に挟み込まれている。10年掛けて集めたインタビューの内容を、2014年のパートにすべてまとめたのだろう。

2014年という年代に特段の意味があるのかはよく分からなかったが、主要な登場人物の1人が2017年に亡くなったとかで、そういうことも関係しているのかもしれない。

さて、物語の舞台は1990年代なのだが、重要な決定が最も前になされていた。1987年、ハンガリーのグロース・カーロイ首相が「旅券導入」「外貨使用」の合法化を決めたのだ。この時はまだソ連は崩壊していなかったし、東西ドイツも統一されていなかったが、もうそういう流れが起こっていた感じなのだろう。

1989年10月23日には、国家が正式に「ハンガリー共和国」という名前になり、民主化へと歩みだした。人々は民主化に大いに期待していたようで、作中で誰かが(おそらく2014年設定の音声だと思う)「あの時ほど団結した雰囲気を感じたことはない」と話していた。

さて、東西ドイツが崩壊した後、西独マルクと東独マルクは1対1で交換されることになったようなのだが、レートの違いとかなのだろう、ハンガリーで手にした東独マルクをベルリンで西独マルクに両替すると3倍になったそうだ(そういうことも有り得そうだなと思うけど、しかし凄い話だ)。で、その両替をしようと銀行(だと思う)に並んでいる時に、アコシュ、ペーチャ、ラチの3人が出会った。彼らもやはり、民主化した国で期待を抱く者たちだった。

彼らもまた旅行に行きたかったが、国際列車の切符は容易に手が出る値段ではなかった。それで当時、彼らよりも前に切符の偽造をする者がいたのだが、一度買ってはみたもののお粗末なレベルだった。それで彼らは「自分たちでも作れるんじゃないか?」と考えたのだ。

当時の旅券は、窓口のスタッフによる手書きだった。カーボン紙を下に敷いた上から文字を書き、それを購入者に渡していたのだ。そこで彼らは方針を立てた。まず、一番安い切符を買う。そしてその切符に書かれたインクをどうにかして落として真っ白にする。その後新たに行き先を書いたりスタンプを押したりして切符を偽造する。

そして彼らは運良く、インクを落とす方法を発見し、そしてそこからやり方をさらに磨いた。本作のタイトルである『ペリカン・ブルー』は、カーボン紙の種類である。ペリカン社の青いカーボン紙だと、彼らのやり方でインクを落とせるのだ。だから、「ペリカン・ブルー」を使っている窓口で最安の切符を買い、偽造を続け、そうして彼らはヨーロッパ中のほぼすべての首都を訪れるほど旅行に出まくっていた。

彼らは元々金のためにではなく自由を求めるためにこの偽造を始めたこともあり、偽造チケットを販売するような方向に進むつもりはなかった。しかし、やはり人の口に戸は立てられない。色々あって偽造の噂は広まり始め、そこで彼らは、自分たちが通報されたりしないためにも、希望する人に偽造チケットを売るようになっていく……。

というような話です。

まあ、正直、大したことないっちゃ大したことない物語ではあるのだけど、実話だったってことや、なんとも言えない雰囲気のアニメーション、随所に挿入される粗い画質の実写なんかが相まって、結構良い雰囲気の物語になっていたなと思う。

あと内容的にも、「絶妙なレベルの犯罪」だったことが、実話を元にしつつエンタメとしてちゃんと仕上がっている要素だなと思う。殺人や結婚詐欺みたいな話だとちょっと重いが、「切符の偽造」というのは犯罪の中でも軽微なものと言っていいだろう。作中で誰かが「実害はそんなになかっただろう。だって、乗客がいなくたって、列車は走るだろ?」と言ってて、まあ罪を犯している本人がそんな風に言っちゃうのはダメだと思うが、「まあ確かにその通りだよな」という感じもある。というか本作では、当時この事件を捜査した刑事(恐らく本人の声なんじゃないかなぁと思う)が、「刑事の私でさえ、彼らを犯罪者だとは思わなかった」と言っていて、なんとも平和だなぁという感じがした。

しかも、切符が手書きだった時代の話であり、模倣しようと思ったってそもそも不可能である。本作では「ドメストでインクを消す」という描写があるのだけど、その際に「このドメストは私たちが知っているドメストとは成分が違うので、絶対に試さないように」みたいな注意書きが表示されたが、「いや、やらんやろ」と思った。まあ、ジョークとして受け取るのがいいだろうか。

2014年から過去を振り返るパートでも、みんな当時のことを結構楽しそうに話していて、そういう雰囲気は、少なくとも映画としては良かった(人として良いのかどうかはよくわからないが)。偽造切符を使って旅行した人は、「当時、偽造切符のお陰で知り合った人と仲良くなれて良かった」みたいなことを言っていて、ホント、どこまでも平和な物語だったなと思う。

まあ、実際には、捕まった人とか大変だったし、追い詰められたりもしたんだろうけど、本作ではそういう悲壮感は割とスパッと排除されてて、エンタメ的に楽しく展開されていく。だからどの程度当時の雰囲気が再現されているのかよく分からないけど、ただやっぱり「民主化ヤッホー!」みたいなウキウキした気分が支配的だったんだろうなと思うし、だからこういう作風で合ってるんだろうなという感じがする。

メチャクチャ面白かったということはないけど、実話を元にしている面白さとか、緩くエンタメに振り切ってる感じとか、なかなか良い雰囲気の作品だったなと思う。


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