【映画】「終点のあの子」感想・レビュー・解説
いやー、絶妙だなぁ。女子の世界のことは本質的には分からないけど、ただ、「こんな感じなんだろうなぁ」と思う。ちょっとしたこと(だけではないが)でオセロが一気にひっくり返るみたいにして世界が裏返っていく。主人公の、ある意味で「独り相撲」とでも言うべき言動が、「周囲との関係性」に囚われている彼女自身を蝕んでいく。そういう感じは、凄くリアルな感じがした。
そしてそれと同時に、これは男女関係ないと思うが、「他人と違う誰かになりたい」みたいな憧憬が、自身の振る舞いを狂わせもする。人はどうしても、「何者かになれるかもしれない」という希望を捨てきれない。特に、10代であればなおさらだろう。ごく一部の人を除けば、「大人になる」というのは「その希望を上手く捨てて、あたかも『最初からそんな希望持ってませんでした』みたいに振る舞うこと」を指すように思う。
そして本作で描かれているのは、高校生でそんな状況に直面させられた者の葛藤なのだと僕には感じられた。
もうあまり思い出せないが、僕にも「何者かになれるんじゃないか」みたいに思えていた時期があったように思う。そして、そういう思いを抱いているからこその苦しさが、「生きていること」の底流にずっとへばりついている感じがあった。さっさと捨ててしまったら楽になれることは分かっているのだけど、「この思いを捨てちゃっていいのか?」という葛藤もある。「未来の自分を信じてやれないことは、未来の自分に対する裏切りなんじゃないか?」みたいに思えてしまうからだ。
とはいえ、誰もが「何者」になれるわけじゃない。その現実といかに向き合うのか。人生に対するそんなスタンスの差が浮き彫りにされていく。
ある場面である人物が、「そう、みんな結局落ち着いちゃうんだよねぇ」と口にしていた。そしてこの言葉から、その人物のスタンスが浮き上がると思う。彼女はきっと、「『何者かになる』という思いを捨てずに突き進むこと」そのものに価値を置いているのだと思う。彼女もきっと、「自分は『何者』かになれないかもしれない」という疑念を捨てきれてはいないだろう。しかし同時に彼女は、「『何者にもなれない』と自分で決めてしまったらそこで終わってしまう」とも考えているのだと思う。
だから彼女は、「『何者かになる』という思いをずっと捨てずに生きること」を選択したのだろう。それは楽しいことばかりではないし、むしろ辛い生き方だと分かっているのだが、それでも彼女は「そんな風に生きることこそに価値がある」と信じたいのだと思う。
そしてそんな彼女はたぶん、「自分と同じような仲間を見つけたつもり」でいたのだろう。何者かになろうとしたら、群れていたら始まらない。そして、そんな「群れ」から引き剥がし、自分と同じ側を歩んでいく者として彼女のことを捉えていたのだろう。
だからこその「いくじなし」なのだ。
一方、「いくじなし」と思われた側の人物は、もちろん「何者かになりたい」というそこはかとない思いを抱いていたと思う。ただそれは、みんなと同じ程度というか、誰しもが持ちがちなレベルの思いだったのだろう。だから彼女は、急行電車から降りてしまった。彼女はきっとその時に、「『何者かになる』ために自分が手放さなければならないものの大きさ」みたいなものを自覚したのだと思う。
そしてこの瞬間に、2人の間の「溝」は決定的なものになってしまったのだろう。しかし、明確にそのことを意識していたのは一方の側だけだった。この点が、状況をややこしくする。急行電車を降りた側はたぶん、自分が決定的な行為をしてしまったなどと考えていなかったはずだ。しかし、相手はそうは思わなかった。「自分と同じ側を歩く人間じゃない」と判断したはずだ。
だから「友達」ではいられても「同志」にはなれない。彼女はそんな風に考えていたのだと思う。
この認識の差が、ある大きなきっかけを経てメキメキと音を立てて目に見える亀裂となって姿を現すことになる。一方は「同志ではいられない」と考えていただけなのだが、もう一方はそれを「友達ではいられない」と受け取ったからだ。
そんな風にして、2人の間の溝はどんどんと大きくなっていく。人生に対するスタンスが大きく違っていたが故に、そもそも並走することが出来なかっただけだし、お互いがきちんとそのことを認識出来れば、溝など生まれる前に「正しく距離を取る」ことも出来たかもしれないが、高校生だし、まあ難しいよなぁ。
みたいな、なんとも言えない絶妙な関係性が描かれていた。とても見事だったと思う。
「私と同じ気持ちになれるわけないじゃんか」という叫びは、2人のやり取り上は「ある光景を見た時に抱いた気持ち」に関する言及なのだが、本質的には「相手の認識の不備」を指摘するようなものだった感じがする。そう叫んだ彼女は「同志」を求めていただけだが、そう言われた彼女は「あの子自身」になりたかっただけだからだ。
『終点のあの子』というタイトルに原作者がどんな意味を込めたのかは知らないが、僕は「あの子自身になれたら、それが私の終点」という意味で受け取った。「理想とする存在そのものになりたい」という気持ちというわけだ。一方、「理想」とされた側にとっては面白くもなんともないだろう。彼女が「同志」を求めていたのであればなおさらだ。
「『何者かになる』ための努力を惜しまない生き方」も「『同志』を求める気持ち」も、とてもカロリーが高い。ごく一般的な高校生にはそんな風には思えないだろうし、だから別に「急行電車を降りたこと」を責めたい気持ちは僕の中にはない。どちらかと言えば、「『いくじなし』と言った側」の方が常軌を逸していると思う(それ故に魅力的ではあるのだが)。
みたいな僕の解釈が制作側の意図通りかは知らないが、僕はそんな風に受け取ったし、そういう「本質的にはどっちも悪くないはずなのに、結果としてはすべてが決定的に崩れ去ってしまう」みたいな関係性・状況は、凄く良かったなと思う。
内容に入ろうと思います。
中等部から高等部へと進学した内部生の希代子は、仲の良い他の内部生と「同じクラスになれたらいいよね」と話しながら学校に向かっていた。そんな朝、真っ青の服を着た見知らぬ少女に唐突に話しかけられる。「誰なんだろう」と不思議がっていたが、すぐに分かった。外部生で、朱里というらしい。父親が有名なカメラマンで、その関係もあって日本の学校にあまり通っていなかったらしい。制服を着ていなかったのも、それが理由だったようだ。
ある日希代子は、朱里から唐突に「メロンパン、交換してくれない?」と言われ、そのまま、いつもの子たちに断って朱里と2人でお昼ご飯を食べることになった。朱里は学校で浮いた存在だったが、それ故に一目置かれているところがあり、希代子もまた彼女のことが気になっていた。そしてそれから2人は、長く一緒の時間を過ごす仲になっていく。
ある日、一緒に登校している時、ホームに「片瀬江ノ島行きの急行電車」がやってきた。朱里は時々、学校をサボって江の島に行っているらしく、その時にこの急行電車に乗るんだと言っていた。そして、朱里に背中を押されるようにして、希代子も学校とは反対側の急行電車に乗るのだが……。
というような話です。
希代子と朱里の関係性的なことや、その背景に僕が感じ取ったことなどはあれこれ書いたので、ここからはそうじゃない話をしよう。
まず、本作でとにかく印象的だったのが、朱里を演じた中島セナだ。ホント、良い雰囲気を醸し出す存在感だったなと思う。「江口のりこを若くした」みたいな見た目で、なんとなく江口のりこの風貌も重なるからかなぁ、目力とか佇まいとか、そういうものが強めに感じられる。本作で朱里というのは、「その場にいるだけで周りの人を自然と巻き込んでしまうが、同時に、決して中心人物にはなり得ない」みたいなキャラクターなのだが、そういう雰囲気をまさにちゃんと醸し出していて、凄く良かったなと思う。
朱里とは対照的に、南琴奈演じる恭子が「その場にいるだけで周りの人を自然と巻き込んでしまう中心人物」であり、恭子と絶妙に対比する人物としての存在感も凄く良かったなと思う。
そして、當真あみが演じた希代子は、そんな「人を惹きつける存在である朱里・恭子」に憧れを抱きつつも、「自分はそうはなれないよなぁ」と感じている。たぶん目立つのが苦手で、そのことは「恐らく地毛が茶髪なのだけど、それを申告したくなくて黒染めしている」という冒頭の描写からも窺える。そして、「自分が人を惹きつける存在になれないから、そんな存在に惹きつけられてしまう」みたいな主体性の無さを、當真あみが良い感じに演じていたなと思う。
本作は、心情を言葉にしたり、泣く・叫ぶみたいな感情の発露があまりなく、表面的には割と淡々と進んでいく。しかし、登場人物たちのちょっとした佇まいとか、その後の展開とかで彼女たちの心情が浮かび上がってくるみたいな構成になっていて、そういう抑制された感じも結構良かったなと思う。たぶん、劇伴(音楽)もほとんど無かったんじゃないかな。「感情は観客の皆さんの方で良きように受け取って下さい」みたいなスタンスで作られているような感じがした。
観ながら、「朱里の気持ちも分かるし、希代子の気持ちも分かるよなー」ってずっと思ってたし、だからとてもやるせなかった。どちらかにしか共感出来なかったら、もう一方を悪者にしてシンプルに受け取れるけど、なかなかそうはいかない。「自分の中にはどっちの要素もあるし、だからこそ彼女たちの関係が壊れていってしまう過程が悲しくて仕方ない」みたいな感覚がとても強かったかな。
そんなわけで、大きな展開も激しい描写も特にない抑制の利いた作品だったけれど、登場人物たちの心情に共振させられるようにして自分の気持ちも動かされていく感じがあって、絶妙な作品だったなと思う。
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