【映画】「ヒトラーの毒見役」感想・レビュー・解説

映画として面白いかと言われると何とも言い難いが、実話がベースになっていると思うとなかなか凄まじいなと思う。ナチスドイツに関する映画や本には色々触れてきたが、「まだこんな話があるのか」と思うようなことばかりである。ホントに人類史に凄まじい爪痕を残す存在だなと改めて思う。

さて、本作は実話が元になっているとのことだが、この「ヒトラーの毒見役」という話は、ある女性の証言のみが存在する話らしい。本作の最後にも字幕で表示されたが、2012年に96歳のマルゴット・ヴェルクという女性が、亡くなる直前に「私はヒトラーの毒見役だった」と証言したという。本作の公式HPには、ドイツ映画研究/日本大学文理学部教授である渋谷哲也のコメントが載っているが、彼によると「ヒトラーの毒見役だったという女性の告白を裏付ける歴史的資料はいまだ見つかっていない」そうだ。

そういう意味では、「事実としての強度は強くはない」と思う。

が、同時に、「ヒトラーだったらあり得そうだよなぁ」ときっと誰もが思うからこそ、真実味の高い話に感じられるんだろうなと思う。

僕は本作の予告を散々観たが、その中で「世界的ベストセラーの映画化」と紹介されていた。で、僕はそれを「ノンフィクション」だとずっと思っていたのだが、調べてみるとどうやら小説であるようだ。しかも、ネットで調べた程度の話だが、その小説の著者はマルゴット・ヴェルクに関する小さな記事を読み興味を持ち、本人に話を聞こうと思ったが既に亡くなっていて会えなかったと言う。

ってことは、本作の内容はほぼ、その小説の著者の創作なのでは? という気もする。

こんなことを書いているのは、作中で「うーん、ホントかなぁ」と感じるような展開が結構あるからだ。もちろん、史実をベースにしつつ、フィクションを盛り上げるために創作が加えられることはよくあるし、本作もそういうことなのかと思ったのだけど、調べてみるとどうもそんな感じじゃなさそうで、「あれ?」となっている。

冒頭でも書いたけど、本作は正直、映画としてメチャクチャ面白いという感じではなくて、「これが実話なんだとしたら凄まじい」みたいな捉え方をしたのだが、「実は概ね創作かもしれない」となると、ちょっと話が変わってくるよなと思う。確かに本作では冒頭で「実話を基にした物語」みたいな表記はなかったし、だから制作側トしては「小説を映画化したんですよ」みたいなスタンスなのかもしれない。ただ、予告の作り方とか本編の雰囲気なんかから、「これは実話でっせ」みたいな雰囲気がかなり強く感じられたので、「なんかちょっと話が違う気がする」という気分に、今この感想を書いている中で思えてきた。

僕は別に、「マルゴット・ヴェルクが毒見役だった」という話を疑ってるわけではない。そういう事実はあってもおかしくないだろうし、真実味はある。ただ、本作『ヒトラーの毒見役』で描かれていることの大半はフィクションと捉えておくのが無難かもしれない。で、そうだとした場合、映画としての面白さはそこまででもない。その辺り、ちょっと残念なポイントではある。

というわけで、内容の紹介をしておこう。

舞台となるのは東プロイセンのパルチュ。1943年11月、この地に住む義両親を訪ね、ローザ・ザウアーはベルリンからどうにかやってきた。ベルリンは爆撃が続き、危険が迫っていたのだ。どうにか最寄りの駅までたどり着いたものの、バスに乗れず、長い距離を歩いてきたローザは、栄養失調気味だったこともあり、玄関口で倒れ義母に支えられる。

夫のグレゴールは結婚直前に徴集され、結婚後は1度しか会えていないという。エンジニアだった夫の秘書をしていたローザは、夫からの便りを待ちながら、この地でまず仕事を見つけようと考えた。しかしそんなある日、軍がやってきてローザを連れて行く。若い女性ばかりが乗った車の行き先を、誰も知らないようだ。

実はこのパルチュの森に、総統大本営があると義両親から聞かされていた。ヒトラーはベルリンではなく、ここパルチュにいるらしい。それで、ローザが連れてこられたのはそんな森の中にある軍の施設。そこで彼女たちは事情も分からないまま健康診断を受けさせられた。

そしてその後、彼女たちは豪華な食事が並べられた部屋へと通される。当然皆空腹であり、目の前のご馳走に目が眩む。遠慮せずに食べていいと言われて食べるが、食べ終わっても帰ってはいけないと指示される。1時間は残るようにというのだ。理由を問うと、衝撃的な返答が返ってきた。

私は総統の料理人だ。1時間後に、毒が入っていないか分かる。

若く健康な女性を「毒見役」にし、ヒトラーが食べる前の料理を念のため食べさせていたのだ。口に手を入れ吐こうとする者もいたが、兵士に止められる。彼女たちは恐怖にさらされながらただ時を待った。

帰宅したローザは義両親に、毒見役になったことを伝える(ドイツらしいなと感じたのが、月に200マルクの給料が出るという点だ)。義両親からは当然反対されるが、彼女に決定権はないし、それに他に仕事もない。

こうして毒見役に選ばれた女性たちは、昼食と夕食の前に毒見をすることになり……。

というような話です。

さて、「毒見をしていた」というだけでは当然物語にはならないので、色んな要素が足されている(で、恐らくそれらは史実ではなく、小説の著者による創作なのだと思う)。もちろん、その足されている要素も、戦時下のドイツでは実際にあった(あるいは起こり得た)ことであり、そういう意味ではリアルな物語なのだとは思う。とはいえやはり、どうしても「状況の重なり方」や「展開のタイミング」などがフィクション的すぎて、リアル感はどうしても薄くなるなと思う。

ただ、個人的に面白いなと思ったのは、女性たちの中にヒトラーに心酔している人がいるという設定だ。なるほど、確かにそういうこともあるよなぁ、と。彼女は「勝利のために」と言って料理を口にしたり、同席した料理人に「総督がお好きな食べ物はなんですか?」と聞いたりしている。女性たちの中では明らかに浮いているのだが、しかし「ハイルヒトラー」と大声で口にする兵士たちに囲まれたこの環境では彼女の方が”正しい”態度なわけで、そのチグハグ感はなかなか面白いなと思う。

またドイツ兵たちの、「料理を食べ、吐き戻したりとかしなければ、後のことは別にとやかく言わない」みたいなスタンスも、なんとなくドイツらしくて興味深かった。「任務を全うする」ということが最優先で、だからそれ以外のことは些末でしかない、みたいなスタンスは合理的な感じがする(この辺り、戦時中の日本の偉い軍人とは大分違う印象だ)。

例えば、ある女性が料理人に「毒が入っている可能性は?」と質問するのだが、これに対して兵士は特に何も言わない。「つべこべ言わずに食え」みたいなことは言わないのだ。ちなみにこれに対して料理人は、「我々が戦争に負ける確率と同じだ」と返していた。1943年11月時点では恐らく、本気でそう考えていたのだろう。

女性がコップ(か皿)を割っても「気にするな」と口にするし、昼食と夕食の間にタバコを吸っててもお咎めなしだ。さらに、ローザがある事情から家から出られなくなった時、兵士が家までやってきて彼女を無理やり車に乗せるのだが、その際もローザの義母に「靴を履かせて」と命じていた。別に履かせないで連れて行くことも出来たはずだが、その辺りちゃんとするんだよなぁ。

みたいな振る舞いが、僕の中になんとなくある「ドイツ兵」のイメージに合っていて、「実際にこういう感じだったんだろうなぁ」みたいに感じさせられた。

というわけで、「ヒトラーの毒見役」というコアの部分だけが史実(の可能性が高い)であり、それ以外はフィクションと捉えるのが良いだろう。なので本作は、「ナチスドイツに振り回された女性たちの数奇な運命」みたいな捉え方で観るのが正しい映画かもしれないなと思う。


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