【映画】「さよなら、僕の英雄」感想・レビュー・解説

ムチャクチャ面白かった!メチャクチャ笑ったしなぁ。これは超良い映画だった。こんなにハチャメチャで意味分からんのに、ヒューマンドラマとしてもコメディとしてもメチャクチャ秀逸で、ストーリーもマッツ・ミケルセンの演技もとにかく素晴らしかった。今年は、人にオススメを聞かれたら『ブゴニア』って答えてたんだけど、これからは本作『さよなら、僕の英雄』を加えてもいいな。一般的な人にも変わった人にも進められる、なかなか無いタイプの映画である。

というわけで、まずはざっくり内容の紹介をしておこう。

15年前、アンカーは銀行強盗で大金を強奪し(4170クローネ。今日のレートで約10億円)、しかしすぐに捕まってしまった。彼は捕まる前に、仲間と山分けした金をコインロッカーに隠し、そしてその鍵を兄のマンフレルに渡した。兄は知的障害を患っているのか、ちょっと普通ではない言動をする人物で、そして弟から「この鍵を呑み込め」と言われて躊躇なく呑み込んだ。アンカーは兄に、「ほとぼりが冷めた頃に、この金を、昔住んでいた家の近くにある森の木のテーブル近くに埋めろ」と伝えた。

そして15年後。仮釈放されたアンカーはすぐさま金を掘り出したいと考えるが、そこで予期せぬ出来事が起こる。マンフレルが、「マンフレル」と呼ばれると奇っ怪な行動を取るようになっていたのだ。ずっと同居していた姉フレイヤによると、兄は今自分のことをジョンだと思っているという。意味が分からない。が、そんなことに構っている暇はない。アンカーは兄を連れて、大金があるはずの森へと向かう。

のだが、その車中、アンカーがマンフレルと呼んだことで、兄は走行中の車のドアを開けそのまま落下してしまった。病院で診てもらい、「自殺未遂をしたので入院が必要」と言われるが、そんな時間はないとアンカーはマンフレルを無理やり連れ出す。しかしまたも、アンカーがマンフレルと呼んだことで彼は病院の窓から飛び降りてしまった。なんとマンフレルは、自分のことを「ジョン・レノン」だと認識しているようで、マンフレルと呼ばれることを拒絶しているのだ。

どうしたらいいか分からず、とりあえずクラブで酒を飲んでいたアンカー。そこに精神科医ローターがやってきた(昔の同級生だ、みたいなことを言っていた気がするが、ちゃんとは覚えていない)。アンカーが兄のことをひとしきり話すと、彼は「自分をナポレオンだと思い込んでいた患者」の話をする。彼に「お前はナポレオンじゃない」と告げると自己認識が歪んで問題が起こるが、周囲がナポレオンだと扱い、城やら馬やらを与えれば問題なくなる。だからお前も、兄をジョン・レノンだと扱えばいい、と言うのだった。

さて翌朝。血だらけで目覚めたアンカーは、何が起こっていたかよく分からなかったが、やってきたローターに驚くべき話を聞かされる。なんとアンカーは、「兄のためにザ・ビートルズを再結成する」と言い、さらに閉鎖病棟に入院していたマンフレルを警備員を殴り倒して取り戻してきたというのだ。全然記憶がないが、目の前の状況的にその通りなのだろう。さらにローターは、「国内に自分をリンゴ・スターだと思ってる奴が、そしてスウェーデンに自分をポール・マッカトニーとジョージ・ハリスンだと思ってる奴がいる」と言ってきた。それでザ・ビートルズを再結成しようというのだ。しかしアンカーはそんな話に付き合っていられない。ローターを殴り倒し、兄を連れて昔住んでいた家に向かう。

が、やはり自分をジョン・レノンだと思っている兄は、金を埋めた場所を忘れてしまっているようだ。聞き出そうとしても上手くいかない。それで、金属探知機まで持ち出してあちこち掘り返すも、もちろん見つかるはずもない。そしてそこに、”リンゴ・スター”と”ポール・ジョージ”を連れたローターがやってきて……。

というような話です。

ホント、よくこんな物語が映画になったものだなと思う。脚本の時点で「これならイケる!」って判断した人、凄いな。ストーリー的にはマジでムチャクチャっていうか意味不明っていうか「なにそれ?」みたいな話で、ホントにメチャクチャだと思う。最初の方の「マンフレルって呼ばれると車とかから飛び降りちゃう」みたいな話も「は?」って感じだし、その後の「自分をザ・ビートルズのメンバーだと思い込んでる人物でバンドを再結成する」って流れもホントにイカれてると思う。そんなわけで、本作はとにかく、全体的にムチャクチャというかあり得ないというか、前提となる設定がブッ飛んでるなと思う。

のだけど、物語全体としてはなんか凄く良いんだよなぁ。

まずは、全体的にメチャクチャ笑える。客席からも結構笑い声が上がっていたし、僕も笑った。これは「笑いを取りに来てる笑い」じゃ全然なくて、「笑わせる気なんて誰もないし、みんな真剣にやってるんだけど、真剣だからこそのおかしみがあって笑っちゃう」みたいな感じなのだ。アンカーが銀行強盗に手を染めていたり、フレミングっていう凶暴な男が出てきたりするし、殴る蹴るみたいなシーンも結構あるから、本来的には笑えるような話じゃないと思うんだけど、何故か全体のトーンとしては「コメディ」って感じで、最後まで面白いんだよなぁ。ABBAの『チキチータ』を歌ってるシーンもちょっと吹き出しちゃうぐらいだった。

しかも、フレミングって男のせいで、アンカーには「タイムリミット」が存在する。そのこともまた、ストーリーをリアルにしているように思う。タイムリミットがなければ、アンカーは別に大金を掘り出すのをそこまで急がなくても良かったかもしれない。しかしタイムリミットがあるが故に、一刻も早く大金を手に入れなければならないのだ。

しかし、その大金の在り処を唯一知っている兄は、自分のことをジョン・レノンだと思い込んでいる。しかも、アンカー自身が言い出したことのようだが、「ザ・ビートルズ再結成」って話を真に受けたローターが訳の分からないことをやらかしてくる。カオスすぎる。

ただそれでも、ここでもタイムリミットの存在のお陰で、「兄が正気に戻る可能性があるなら何でもする」という気持ちになっていて、だから「ザ・ビートルズ再結成」なんていう馬鹿げた話も、賛同こそしないまでも否定もしないという状況になっている。この辺りの設定が上手いんだよなぁ。普通ならまず成立しないだろう状況を、「なるほど確かにこれならこうなるかもね」と思わせる状況を作り出しているというわけだ。見事だなと思う。

で、それだけじゃなく、そういうドタバタコメディの中で、ちゃんと人間ドラマを描き出していくのだ。これがホントに上手かったなと思う。

本作の設定が概ね出揃った頃から、僕は、「これ、どうやって終わらせるつもりなんだろう?」と思っていた。だって、ストーリーラインは「大金を見つけられるかどうか」という話なわけで、「見つかりませんでした」って終わらせ方は出来ないし、かと言って「唐突に見つかる」みたいな展開も無理でしょう。観ている人を納得させるだけの理由が必要になるはずです。

で、本作はその辺りの展開が絶妙だった。本作には、アンカーとマンフレルの子ども時代の回想が随所で挿入されるのだけど、その回想シーンが色々と良い仕事をして、「なるほど、そうなっていくのか!」みたいな展開になる。特に、「犬の骨」を見つける話が出てきた後で(そう、本作では、直接的なシーンはないけど、犬が死にます)、アンカーがある実感を抱き、そしてその実感がラストのあるシーンで再び関係してくる、という流れになっていて、これはメチャクチャ上手かったなぁ、と思う。いや、正直「ホントかよ」とは思うが、まあでも、特にアンカーが経験してきたことを踏まえればあり得なくもないだろう。あまりにも辛い日々を過ごしたのだから。

で、そういうあれこれを踏まえると、ほとんど描写されることのない「マンフレルの心情」がなんとなく理解できるようにもなるから面白い。マンフレルはずっと本心がどこにあるのか分からないような振る舞いをしていて、しかもそれが病気のせいなのかもよく分からない。アンカーにとって目の前にいる兄は、15年振りに再会した人物であり、しかも15年前からさらに変わっているわけで、だからアンカーが兄を見る視点は観客がマンフレルを見る視点と大差ないように思う。そしてだからこそ、「アンカーもマンフレルの本心がどこにあるのか分からないだろう」と想像しながら観ることが出来る。

そしてそんな状態でも、作中で描かれる様々な出来事によって、「もしかしたらこういうことを考えていたのか?」みたいな想像は出来るようになるし、そしてそういう部分が本作の「ヒューマンドラマ感」を高めているなと思う。

そんなわけで、ムチャクチャな設定でハチャメチャな展開を描くのだけど、その実、根底ではちゃんと人間を描いていて、さらにコメディでもあるという、物凄く盛りだくさんな作品である。凄く良かった。これは割と誰にでも勧められる作品だなと思う(犬が死んじゃうのがダメな人じゃなければ)。

あと、個人的にちょっと面白かったのがエンドロール。”ポール・ジョージ”を演じた役者の役名がくるくると入れ替わる演出になっていたのだ。実はこの男、26の人格が入れ替わるという設定で(ABBAのビョルンもその1人)、それを表現しているのだと思う。大したことではないが、面白かった。あと、ローターが何かとイケヤを譬え話に使うのもなんか面白かったなぁ。

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