【映画】「満天の星」感想・レビュー・解説

今日は2本映画を観たので、感想をもう1つ。本作はドキュメンタリー映画で、第二次世界大戦中に起こった「戦時中最大の遭難事件」として知られる「対馬丸事件」が扱われている。

恐らくこの事件について知っている人は多くないだろう。作中でもそのように示唆される。その詳しい理由については後で触れるが、どうも、事件直後から箝口令が敷かれたらしいのだ。本作に登場した「生還者」の1人は、55年間誰にも言わなかったと話していた。

「対馬丸事件」は、沖縄から鹿児島へと民間人を疎開させる船が連合国軍によって爆撃され、1484人の民間人(内784人が子ども)の命が一夜にして失われた事件である。1944年8月22日のことである。そして本作は、「『生還した乗組員』の孫」が中心となって展開されていく。

「生還した乗組員」の名前は中島髙男という。彼は軍人ではなく、日本郵船に入社した後、奇しくも対馬丸の乗組員になった人物であり、彼もまた、事件から30年近く誰にも話さなかったそうだ。

しかし彼はあるきっかけ(これについては後で触れるが、なかなか凄い話である)から事件について語るようになり、さらに「この事件を風化させてはならない」と、各地を回って講演活動を行うようになった。そして、2018年にこの世を去ったという。

で、本作の主人公は、その中島髙男の孫・寿大聡である。彼は20年以上俳優として活動してきた人物なのだが(この「俳優である」という要素は本作においては比較的重要である)、生前、祖父から「対馬丸事件」について詳しく話を聞くことはなかったそうだ。講演活動を行っていることは知っていたが、「体験した者が語るからこそ説得力が生まれるのだ」と考えており、だから関わりを避けていた部分もある。そしてそうこうしている内に、祖父が亡くなってしまったのだ。

そして、祖父の死をきっかけに彼は、「このままでは『対馬丸事件』は記憶から失われてしまうのではないか」と考えるようになっていった。そこで、「『対馬丸事件』について次世代に語り継いでいけるのは自分しかいないのではないか」と思い、行動を起こすことにしたのだそうだ。本作は、そんな彼の足跡を追うような形で進んでいくドキュメンタリー映画である。

対馬丸は、最近地震でも話題の「悪石島」から北西10kmのところに今も沈んだままなのだそうだ。寿大聡はまずそこから旅を始め、当時子どもだった生還者たちに会いに行っては話を聞く。そしてその過程で、祖父・中島髙男のインタビュー映像が見つかり、その映像も作中では使われている。

第二次世界大戦では、「いよいよ本土決戦が始まる」というタイミングで、大本営が「沖縄から女性や子どもなどの民間人を本土へ疎開させる」と決断した。これは決して、民間人の命を重んじての判断ではない。「沖縄本島での本土決戦において、民間人にいられては邪魔だから」という判断だったようだ。そしてだからこそ、「対馬丸事件」では箝口令が敷かれることになった。

対馬丸での民間人の疎開は恐らく、疎開全体からいってもかなり早い時期のことだったのだろう。そしてだからこそ、「対馬丸が連合国軍に爆撃された」などという情報が広まれば、疎開の流れに水を差しかねない。大本営としては、「本土決戦のために沖縄本島から民間人を疎開させる」ということが大目標だったのだから、それで事件は完全に隠蔽されてしまったのである。

そもそも、本土へと疎開する子どもたちも、その親も、「対馬丸が元々客船ではなく貨物船だったこと」「沖縄から鹿児島への航路はかなり危険なルートだったこと」を知らされていなかったそうだ。これもまた、疎開をスムーズに完了させるためだろう。その事実を知っていれば、子どもを疎開船などに乗せなかったという親も多かったのではないだろうか。ちなみに、生還者の証言では、疎開船に乗り込んだ子どもたちは、本土へ初めて行くこともあり、ウキウキしていたそうだ。実に残酷な話である。

そしてそのような現実を語る中島髙男と、祖父の足跡を追うように「対馬丸事件」について調べる寿大聡の様子が映し出されていくというわけだ。

という部分は良い。本作は84分の映画なのだが、僕の体感ではそうだなぁ、ここまでの話が、冒頭から50~60分ぐらいだろうか。それは全然良かったと思う。

のだけど、そこからまず「寿大聡がウクライナを訪問する」という話になり、この時点から「???」と感じるようになってしまった。もちろん、意図は分かる。「戦時中の悲惨な出来事を、現代の戦争に活かすためには?」みたいな感じだろう。それぐらいはもちろん分かる。分かるが、でも、それは観客に想起させるに留めた方がいいんじゃないか、と個人的には思う。本作では、寿大聡がウクライナへと足を踏み入れ、現地の様子を観て、さらに子どもたちと交流する姿が映し出される。それは「対馬丸事件に関するドキュメンタリー映画」としては、やはりちょっと逸脱していると言わざるを得ないだろう。

そしてさらにその後の展開である。ちょっとこれはいただけない。これがまさに、「寿大聡が俳優であること」とか変わってくるのだが、いやいや、さすがにそれはちょっと無いだろう、と感じた。全体の流れとしてそこに行き着くのは決して不自然ではないが、でもやはり、「ドキュメンタリー映画」と銘打っている作品でそれをやってしまうのは、個人的には「正しくない」気がする。ちょっとさすがにビックリしたなぁ。そんなん、だめだろ。

というわけで、映画の後半は「むむむ」と思いながら観ていた。ちょっと本作は、後半に行くほど「良くない感じ」になっていくなぁ、と思う。その点はかなり残念だった。まあ、「1本のドキュメンタリー映画に仕上げるためには、そういう要素を入れるしかなかった」みたいな感じだろうとは思うが、本作には4人ほど「当時児童だった生還者」が出演しているのだから、個人的には、彼らの証言をもっと多く収録すれば良かったのにな、と感じた。どうしてそういう判断にならなかったのだろうか?

というわけで、「今までまったく知らなかった『対馬丸事件』について知れた」という点は良かったのだが、「ドキュメンタリー映画としてはちょっと微妙」という感想になった。うーん、なんとも言えない。

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