【映画】「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」感想・レビュー・解説
これは面白い物語だったなぁ。もちろん「フィクション」だろうが、ただ、「月面着陸が失敗した時に備えて、フェイクの映像を用意しておく」というのは、本当に行われててもおかしくないなと思う。いや、アメリカという国なら、それぐらいのことはやるだろう。となれば、「証明は出来ないが、描かれていることには事実も含まれているのではないか」と考えることも可能だろう。
さらに、昔から「月面着陸の映像は本物なのか?」という疑惑は存在する。まあ僕は、そういう話は信じていない。本作中には「フェイク映像を撮っている場面」も出てくるのだが、あんなやり方で「地球と比べて1/6の重力」をちゃんと再現できる気がしないからだ。フェイク映像だとしたら恐らく、精密な解析によってすぐにバレるだろう。そしてそういう信憑性のある話が出てこない以上、月面着陸の映像は本物なんだろうなと思う。
ただ、映画の舞台となる1960年代後半には、「フェイク映像だと後でバレたとしても、月面着陸の様子をテレビで流す」という動機が存在した。作中で、このフェイク映像の制作を指示した人物が、「もはや問題は月面に着陸するかではない。ソ連に勝つアメリカをテレビを通じて世界に見せつけることだ」と語る場面があるのだ。つまり、フェイク映像の制作は「国家の威信をかけたプロジェクト」だったというわけだ。
宇宙開発競争でソ連に遅れを取っていたことはよく知られていることだろうが、さらに当時のアメリカはベトナム戦争の真っ只中だった。泥沼の戦争に莫大なお金を注ぎ込んでいる最中だったのだ。そのような状況では、日常生活に何の影響もない「月面着陸」の人気が衰退していくのも当然だった。予算の増額など望めなかったのだ。さらにNASAは、アポロ1号で宇宙飛行士の死亡事故を起こし、一時アポロ計画は無期限の延期となっていた。その後も事故が度重なり、アメリカ国民にとって「月面着陸」は興味を抱ける対象ではなくなっていたのでる。
さて、そのような背景があるからこそ、本作の主人公の1人であるケリー・ジョーンズの造形もリアルに映る。彼女は「凄腕のPR担当」として知られる存在だった。あらゆる企業と関わり、商品を売るためのプランやキャッチコピーなどを考えていたのだ。そんなケリーはある日、政府関係者らしき人物からNASAの仕事を頼まれる。不人気なNASAをPRし、月面着陸に注目を集めろというわけだ。そこで彼女は、見栄えの良い俳優をNASA関係者と偽ってテレビに出演させたり、企業との広告タイアップを取ってきたりと活躍する。実際に、彼女のお陰で、月面着陸は国民的イベントとして認知されるようになっていくのである。ケリーは「彼らをビートルズよりも有名にする」と意気込んで仕事をしていた。
さて、このケリー・ジョーンズの存在が実話なのかどうかはよく分からない。ただ、「事故ばかりのNASAが不人気だったこと」「当時のアメリカはベトナム戦争で疲弊していたこと」などは事実だろうから、1人だったかどうかは分からないが、やはりケリー・ジョーンズのような役割を担った人物がいたと考える方が自然だろう。
そして、「フェイク映像を用意する」というプランが持ち上がった時に、ケリーに声がかかることもまた自然だと感じた。そんなわけで、設定が凄くリアルに作られている映画である。凄く良く出来てるなと思う。
しかし「なるほどな」と感じたのは、「月面着陸の撮影の様子を撮影したカメラ」である。今までこの点についてあまり深く考えたことは無かったのだが、本作の描写でちょっと納得出来ることがあった。
本作においては、「月面着陸の様子をカメラで撮って生中継する」というのはケリーのアイデアである。しかし、NASAの発射責任者であるコール・デイヴィスは彼女のアイデアを一蹴する。理由はいくつかあるが、「そもそもカメラが存在しない」というのが大きかった。
というのも、月は110℃からマイナス170℃と寒暖差が凄まじい。宇宙船などはもちろん、その気温差に耐える性能で作らなければならないわけだが、そんな環境で使用できるカメラがそもそも存在しないというわけだ。確かに、そう考えたら「絶対に無理」だろう。
しかし、これも事実なのか不明だが、本作では「国防総省が開発した秘密のカメラが存在する」という話になる。ベトナム戦争で使うのに開発されたそうだ(なぜそれが寒暖差に耐えうるかは忘れてしまった)。まあこれで、最大の問題は解決した。
しかしその後コールは、「ネジ1本だって重さを測ってるんだぞ」と反対する。確かに「宇宙に何かを飛ばす」というのは「重量」との闘いであり、その制約は非常に大きい。そんな中、既に開発が進んでいる月面探査機に7キロもあるカメラを付けろというのだ。これはなかなか大変な話である。
しかし政府関係者は、「これは頂上からの指示だ」と言って押し切る。つまり、当時の大統領ニクソンがやれと言っているということだ。まあ、そう言われたらやるしかないだろう。
ただ、結果として、カメラで月面着陸の様子を撮影したことは、NASA職員的にも良かったようだ。これも本作の展開なので実際どうだったかは知らないが、コールと長い付き合いであるNASAの職員が、月面着陸の様子を実際にこの目で見て涙していたのだ。「宇宙にロケットや人を送り込む」という仕事をずっとしてきたNASAの職員でさえ、月面着陸の映像には大いに感動させられたというわけだ。これは良い副産物だったと言っていいだろう。
さてそんなわけで、冒頭からアポロ11号の発射ぐらいまでは、ポップな雰囲気を保ちながら割とリアリティのある描かれ方だった。しかしそれ以降、つまりケリーが考えたある計画の準備と、月面着陸以降の展開は、かなりコメディタッチに展開されていく。そして、それもまたなかなか面白かった。
特に、冒頭から何度も出てくるある要素が、なるほどここでこんな風に絡んでくるのか、という展開はとても面白かった。
というわけで、さらっと観る分にはかなり楽しめる、とても良いエンタメ映画だと思います。
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