【映画】「サブスタンス」感想・レビュー・解説
いやこれは、まあなんとかイカれ倒した映画だったなぁ。ラストの展開なんか、「物語閉じる気ないだろ」と思わせるようなもので、ムチャクチャだった。思わず笑ってしまったよ。面白かったかどうかと言われるとなんとも言えないが、なかなか凄い映画だったし、とにかくインパクトは凄まじいので、圧倒させられる。
そしてその上で、「容姿に対する過剰なスタンス(男女とも)」が、特異な設定の中で誇張的に描かれ、そしてそれによって、現代社会を風刺しているみたいな部分もなかなか面白い。実際にこんな薬(治療か?)があったら、手を出したいと思ってしまう人は山ほどいるだろう。
物語は、「かつて一斉を風靡した女優が今は見向きもされなくなっている」という示唆から始まる(この見せ方はとても上手かった)。エリザベス・スパークルは、50歳間近(という設定だと思う)だが、レオタードを履いてエクササイズの番組に出演している。恐らくだが、彼女にとって今、唯一の「自身がメインの番組」なんじゃないかと思う。
しかし、番組プロデューサーはエリザベスを「若い女性」に替えるつもりでいた。若くないエリザベスはお払い箱というわけだ。そんな現実を突きつけられた彼女は、運転中、自身の看板が作業員によって剥がされる様に気を取られて事故を起こしてしまう。
奇跡的に奥歯にヒビが入っただけで済んだのだが、まさにこの日が誕生日であるエリザベスは、病院のベッドの上で自身の境遇に涙していた。「誕生日おめでとう」の声がまったくうれしく聞こえない。医者からは帰っていいと言われたのだが、隣にいた若い医師から「もう1つ診療がある」と言われ、背骨を触られた。そして「理想の候補者だ」という意味深な言葉を口にして彼女を帰すのである。
帰り道、コートのポケットに手を入れた彼女は、紙に包まれた何かが入っていることに気づく。紙には「私の人生を変えた」と書かれており、その紙が包んでいたのは、側面に「SUBSTANCE(物質)」と電話番号が書かれたUSBメモリだった。
家で再生してみると、そこには刺激的な文言が並んでいた。DNAのロックを解除することで新たな細胞分裂を促進し、もう1人のあなたが生み出されるというのだ。母体と分身に分かれるが、2人で1つ。7日毎に交代しなければならないというルールがある。
一度はそんな怪しげなUSBを捨てたエリザベスだったが、自身の境遇を再認識して、やはり連絡してみることにした。怪しげな場所でキットを受け取り、実際に注射を打ってみる。
すると本当に、若くて美しい「分身」が生み出されたのだ……。
というような話です。
予告編の段階で「分身が生まれる」「7日間で交代」みたいな設定は知っていたけど、「どうやって分身が生まれるのか」「どうやって交代するのか」みたいなことはもちろん分かっていなかった。で、実際に映画を観てみると、グロいと言えばグロいし、リアルと言えばリアルという感じがした。母体と分身のどちらか一方しか稼働出来ず、さらに、分身は母体の体液がなければ生存できない、という設定がなかなかリアルで、そしてそんな制約が、物語自体も面白くしていた。
物語の展開自体は、「こういう設定なら、まあそうなっていくよね」という感じで、設定ほど斬新という感じではなかったが、本作の場合は、全体的になかなか挑発的な映像が多く、その構成は面白いなと思う。「何かをクチャクチャ食べる」みたいな、不快感を与えるような挙動・音を、ドアップ・大音量で流すみたいな場面が多く、そういう意味での気持ち悪さみたいなものもある。なんというのか、「人間が生きていること」をことさらに強調することで、「まともな生物ではなくなってしまったエリザベス(とスー)」と対比させているような気がする。
それはなんというのか、「人間ってのは本質的には醜い存在なんだぞ」と訴えかけてくるような感じと言えばいいだろうか。エリザベスはサブスタンスを使い、スーという分身を生み出すのだが、このスーがかなり非現実的な存在で、あまりの美しさ故にすぐに全米中で人気になるという設定である。「理想化された非存在」とでも言えばいいだろうか。
スーは「非存在」だからこそ美しく、そして「存在」している人間はどうしたって醜い。そういうことを、映像そのものから伝えようとしているような演出に思えた。
ストーリー的に僕が気になったのは、「隔週でスーがいなくなることに、誰も疑問を抱かない」という点に対する違和感である。まあ、そこまでちゃんと描かなくてもいいようなふざけ倒した映画ではあるのだけど、個人的には、サブスタンスの設定がかなりちゃんとしていただけに、この点ももう少し踏み込んでくれても良かったかなという気がする。
で、ラストですわ。これはホントどうなんだ? 作品として成立してるかなぁ。これもやはり、サブスタンスの設定がかなりしっかりしているが故に、「ラストの展開は、ちょっと雑過ぎない?」と感じさせられてしまった。まあ、ただムチャクチャな方向に行ったってだけじゃなくて、ムチャクチャな方向に振り切ってぶっ放した感じがあって、その点は評価できるけど。しかしやはり、個人的には、ちょっと無しかなという気がした。
あと、これも描く必要はないっちゃないけど、「サブスタンスを広める(映画を観ている限り、僕には、売ってるんじゃなくて無料配布に見えた)者たちの動機」がなんともよく分からない。あんなムチャクチャなラストを用意するなら、こういう方向の掘り下げがあっても良かったなと思ったりした。うーん、でも、やっぱ要らないか。個人的には興味あるポイントだけど、やっぱ要らないか。
そんなわけで、良い悪いの評価はなんともしづらく、ただ、「人に勧めにくい」ことだけは確かである。まあ、つまらないなんてことはないけど、積極的に観なくても別にいいんじゃないかなと個人的には思う。
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