【映画】「クライマーズ・ハイ」感想・レビュー・解説

丸の内TOEIの閉館企画で昔の映画を再上映しており、今回は『クライマーズ・ハイ』を観た。横山秀夫の原作はもちろん読んだことがあるけど(もう相当昔のことで記憶はないけど、メチャクチャ面白かったことだけは覚えている)、映画もやはり面白かった。しかし、なかなか豪華な役者が出てくる映画だなぁ。しかし、高嶋政宏はあれだけの出演でいいんか? ってぐらい贅沢な使い方だったなぁ。

まずはざっと内容から。

群馬を拠点とする地方紙である北関東新聞の記者である悠木は、部下を持たない遊軍として記事を書き続けている。どうやら社長とは何か関係がありそうで、それで「優遇されている」みたいな見られ方をされたりもするのだが、本人はそういうことを気にせずにいるようだ。

悠木は社内で「登ろう会」という登山部に入っており、今度の休みも、販売部の安西と一緒に衝立山に登る予定でいた。しかし、まさにその出発の直前、社内に特大の一報が入る。東京発大阪行きの日航機123便がレーダーから消えたというのだ。524人が乗った飛行機は長野・群馬・埼玉のどこかに墜落したようで、社内は俄に慌ただしくなる。群馬に落ちたのなら、地元ネタだ。もちろん、山なんか登ってる場合じゃない。

しかし、もちろん携帯電話などなかった時代。既に駅にいるはずの安西に行けなくなったことを伝えなければと考える悠木だったが、上司から「社長が呼んでる」と言われる。俺に何の話だ? と思いながら社長室に行くと、なんと悠木が日航機事故の「全権デスク」に指名されたのだ。日航機事故に関する紙面の全責任を負う立場である。そしてそこから、怒涛の日々が始まる。

そもそもまず、墜落現場が群馬か否かが確定しない。しかも、場所が確定したとして、それは間違いなく山の中である。山の怖さを知っている悠木は、「登ろう会」の面々を集め現場に言ってもらう算段を立てた。しかし、県警キャップである佐山が、自分に行かせてくれと何度も頼み込む。そこで悠木は、「自衛隊と消防のケツから絶対に離れるな!」と言明して、地域報道班の神沢をカメラ担当として向かわせることにした。

しかし大きな問題が。北関東新聞には無線機がないのだ。以前から申請していたにも拘らず、「大久保連赤」で名を上げた編集の上層部は、無線機なんか要らないと突っぱね続けたのだ。悠木は、「登ろう会」の面々には「共同通信の記者を拝み倒して無線機を借りろ」と指示し、徒手空拳で向かった佐山・神沢は結局、山を下りた後民家を駆けずり回って電話を借りていた。

しかし、そんな風にしてやっとの思いで届けた現場雑感は、翌朝の紙面には載らなかった。意図的だったのかどうなのか、上層部が邪魔立てしてくるのである……。

というような話です。

映画を観ながらまず感じることは、「新聞社ってやべぇなぁ」ということ。もちろん、令和の新聞社はあんな感じじゃないだろうけど、一昔前は地方も都市部もきっとあんな感じだったのだろう。「ワーク・ライフ・バランス」とか「コンプライアンス遵守(ハラスメントの防止)」みたいなものは完全に無視された環境で、なかなか凄まじい。とはいえ、新聞が今よりも遥かに影響力が大きかった時代には、「自分は新聞を作っているんだ」みたいな矜持が記者を支えていたのだろうし、望んでその環境にいるのであれば別に問題ないと思うけど、「俺には絶対無理ー」って感じだった。

しかも、本作は原作を書いた横山秀夫が元地方新聞の記者だったこともあり、「新聞社の雰囲気をリアルに描いている」と勝手に想像しているのだけど、「上司が部下の記事を台無しにする」みたいなことを平気でやるみたいな描写もあり、ちょっと驚かされてしまった。まあ、「仲良しこよし」では新聞記者などやってられないんだろうけど、にしたって社内(のしかも同じ編集内)でもめたってしゃーないだろ、と思ったりもする。

さて、揉め事の話で言えば、悠木は他局と揉めまくる。悠木の判断で勝手に広告を取っ払ったり(広告を取ってくる部署としてはたまったものではないだろう)、締切を遅らせて販売店への納品が通常より大分遅れるような状況にしたりする(というか、そんなレベルの話ではないのだけど)。「全権デスク」と言ったって「日航機事故に関する紙面作成の全権を預かっている」だけであり、広告をすっ飛ばす権限が悠木にそもそもあるのかはよく分からないが、にしてもなかなか凄いことするなと思う。

とはいえ悠木は、誰よりも「読者のため」に紙面を作ろうと考えており、だからこそ、悠木の考えに基づいて無茶振りされる面々も、「悠木が言うなら」みたいな感じで協力する。ムチャクチャなことをやる時にもそれなりにちゃんと理屈があり、観客はまあ悠木寄りで作品を鑑賞することになるのでフェアではないものの、「それなりに筋は通っているか」みたいに感じさせられる。この辺りのバランスはなかなか面白い。

本作は、御巣鷹山に墜落した日航機事故をベースにしているものの、「事故そのもの」にはあまり焦点は当たらない。むしろ、「事故の情報を収集した新聞社が、何をどのような理屈で紙面に載せるか」という点にこそ主眼がある。当然だが、新聞社には「紙面に載らない情報」も集まる。悠木は何をどこにどのように載せるのかを取捨選択するわけだが、その過程で様々なドラマがあり、非常に面白い。

その中でもやはり、「物理的な紙に印刷して配達する以上、『締め切り』が存在する」という要素が、物語を面白くする要素として機能していると言えるだろう。現代であれば、何時であろうがネットで速報を打てるわけで、「締め切りがどうのこうの」みたいなことは一昔前とは全然違っていると思うが、本作の舞台となっている1985年には、「輪転機の締め切りまでに情報を手に入れ紙面を作れるか」という勝負になるのである。本作は結果として、事故発生直後から数日間(8月12日から16日までだったと思う)をメインに描き出す作品であり、そしてそんな「締め切りの攻防戦」が何度か描かれていた。

まあ正直なところ、マスコミの「抜いた/抜かれた」みたいな話は、マスコミ関係者以外にはあまり関係ないように思うが、しかし本作を見ると、特ダネの陰には色んな人の苦労や想いが詰まっていることが理解できるし、その人間ドラマみたいなものは面白いなと思う。

特に、個人的には、「それは佐山の仕事だ」というセリフ周辺の物語が凄く良いなと思う。「裏取り」の話であり、そして「どうやってその情報の『真偽』を”信じる”か?」みたいな話になっていく。ある人物の「それは私のネタです」という主張ももちろん理解できるが、しかし、「その情報が真実だ」という確証を持って紙面に載せるためには別人の手を借りなければならないのだ。この辺りの攻防も実に良い。

というわけで、なかなか馴染みのない新聞社のリアルを描く緊迫感が見事だったなと思うし、悠木が様々な場面で見せる葛藤は興味深かった。出てる役者も、絶妙に「新聞社にいそうな人」であり、素晴らしい。

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