【映画】「ギルバート・グレイプ」レビュー・解説

いやー、ビックリした。まさかまさかって感じだった。

僕は本作を観ながらずっと、「主人公のギルバートは、トラビスジャパンの松田元太にメチャクチャ似てるな」と思いながら観ていた。一回そう思うと、松田元太にしか見えなくて、最後の最後まで「松田元太」のイメージのまま終わった。

で、僕が驚いたのはエンドロールである。なんと、「ギルバート・グレイプ:ジョニー・デップ」と書かれていたのだ。「嘘でしょ!?」って感じだった。最後の最後までまったく気づかなかったなぁ。いや、言われてみれば確かにジョニー・デップだったけど、まったく分からんかった。いやはや、ビックリ。

というわけで、「12ヶ月のシネマリレー」という企画でやっていた『ギルバート・グレイプ』を観に行った。「主演がジョニー・デップ」ということさえ知らなかったわけで、もちろんどんな映画なのかまったく知らないまま観に行ったのだけど、なんとなく勝手なイメージでは「強盗とかする映画」みたいに思っていた。けど、全然違った。なんで「強盗」だと思ったのかも覚えてないけど。

舞台はアメリカのどこか(作中で示唆されていたかもしれないけど、覚えていない)。主人公は、映画のタイトルの通り「ギルバート・グレイプ」である。彼はグレイプ家の次男で、一家の大黒柱的な存在である。父親はかなり前に亡くなり、その死にショックを受けた母親は、もの凄く美人だったにも拘らず、夫の死以来ひたすら食べまくって鯨のように太り動けなくなってしまった。今では、長女でギルバートの姉エイミーが母親代わりとなって家事を担っている。あとは、妹のエレンと、そして弟のアーニーがいる。

アーニーは、重度の知的障害を持っている。もうすぐ18歳になるが、元々は10歳まで生きられないだろうと言われており、その年齢は超えたものの、身体が大きくなるにつれて面倒を見るのも大変になり、アーニーを主に見ているギルバートの負担は増すばかりである。しかしギルバートは、「弟をいじめる奴は許さない」という決意を固めており、アーニーが給水塔に登る(これは何度も繰り返されていることだ)度に保安官に謝り、「これで最後にします」と頭を下げている。実に献身的な兄である。

そんなギルバートは、夫婦が経営している小さな食料品店で働いている。実は国道沿いに大きなスーパーが出来、客をかなりそちらに取られているのだが、ギルバートは恩義があるのか何なのか、自身の買い物も頑なに職場で済ませ、スーパーへは足を踏み入れない。

そんな食料品店では配達も行っており、いつものようにギルバートはカーヴァー家に配達に行く。その奥さんであるベティとは不倫関係にあり、配達の度にキスをするなど浮気をしている。ベティの旦那はその関係にまったく気づいていないようで、配達に来てくれるギルバートに小遣いをくれたりするのだ。

さて、映画の冒頭は、アーニーが待ちわびているトレーラーが登場するシーンから始まる。毎年ある時期になると、移動生活をしているらしいトレーラハウスの集団が家の近くの道を通る。アーニーは毎年その列を楽しみに待っているのだ。

しかし今年は、そのトレーラーの1台が故障のため足止めを食らってしまう。修理が終わるまで、トレーラーを道路脇に停めて生活をするようだ。そんなトレーラーに乗っていたのが、祖母と共にあちこち移動しながら暮らしているベッキーである。彼女はなかなか変わった価値観の持ち主であり、その美しい容姿も相まって近所の注目の的になる。そしてギルバートはちょっとしたことがきっかけで、ベッキーと仲良くなるのである。

さて、グレイプ家では、数日後に控えたアーニーの誕生日に向けてパーティーの準備が進められているのだが……。

先程も書いた通り、どんな話なのかさっぱり知らなかったこともあり、しばらくの間「ここからどんな風に物語が展開されるのか」みたいなことが全然想像出来なかった。何かが起こりそうな雰囲気があまりなかったのだ。もちろん、色んな要素は出てくる。障害を持つアーニー、太りすぎて動けない母、突然現れた美しい少女ベッキー、アーニーの誕生パーティーの準備などなどである。しかしそれらが、何か「これ」と言ったような展開を導く感じがなく(唯一、ベッキーの存在は「何かが起こりそう」な予感を抱かせたが)、全然どうなるのか分からなかったのだ。

で、結局のところ、「これといった物語」は別に描かれなかった。「特段ストーリーのない物語」と言っていいだろう。ただ、だからつまらなかったみたいなことではない。メチャクチャ面白かったわけでもないが、しばらく観ていく内に、「なるほど、そういう部分に焦点が当てられる作品なのか」ということが分かってきた。

ポイントは、「ギルバートがこの土地から離れられない(と思っている)」という点である。

ギルバートは、冒頭からずっとアーニーの世話をしている。彼は、目を離すと給水塔に登ってしまうし、一人で風呂に入れないし、放って置くと何をするか分からない。だからギルバートは常に、アーニーを視界の端に入れて置かなければならないのだ。食料品店で働いている時も、オーナー夫妻からの信頼が篤いからだろう、店内にアーニーをいさせ、仕事しながらアーニーも見るという風にしている。本当に大変だ。

さらに、太りすぎて動けない母親も問題だ。彼女は、単に「動けないこと」が問題なのではなく、「メンタルが不安定」という問題も抱えている。父親の死は彼女に衝撃を与えたし、また、障害を持つアーニーを「私の太陽」などと呼んで溺愛している。だからアーニーに何かあれば、それもまた母の心労に繋がってしまうのだ。

さらに、グレイプ家の面々が住んでいる家は、亡き父が自力で建てた家であり、だからあちこちガタが来ている。色んなモノの修理が得意な友人に頼んで手直しはしているものの、これもギルバートがいなければ話が進んでいかない。

他にも、ベティとの不倫や食料品店への恩義なんかもきっと含まれるだろうけど、そんなわけでギルバートは、「住んでいる町から出られない」という感覚を抱いているのである。

ただ正直なところ、そのことをギルバートが「不幸」に感じているのかはよく分からない。僕の感触では、恐らくそんな風には思っていなかったんじゃないかと思う。そして、「放浪者」であるベッキーと出会ったことで、「『住んでいる町から出られない』と思っている自分」に気づき、「そのことに疑問を抱き始めるようになった」みたいな物語なんじゃないかと感じた。

印象的だったのが、ベッキーから「やりたいことは何?」と聞かれた時のギルバートの返答である。彼は、「母にエクササイズをやらせたい」とか「アーニーに新しい脳をあげたい」など、「自分以外の誰かのために」みたいな話ばかりするのだ。だからベッキーが、「自分のためには何がしたいの?」と改めて聞くと、しばらく考えた上で「良い人間になりたい」と口にするのである。これは本当に、ギルバートらしさを象徴するようなシーンだったなと思う。

そんなギルバートは、本当に最後の最後まで「留まらざるを得ない人」という描かれ方なのだが、そのまま終わるのかと思いきや、ちょっと衝撃的な展開があり、物語が一気に動いていく。いやー、ラストのあの展開はちょっとビックリしたなぁ。仮に思いついたとしても、それやっちゃう? みたいに感じさせるようなことであり、いきなりの急展開にまずは驚いた。

しかし本作が上手いのは、その「驚きの展開」に対して、「うーん、でも確かに、彼らならそうするか」と納得させてしまうような描写を積み重ねていることである。普通に考えたら「ンなアホな!」という展開で、共感など出来るはずがないのだが、紆余曲折様々あった彼らの「結論」としては、「なるほど、アリかもしれないな」と感じさせられた。あのシーンに納得感を与えるのは相当困難だと思うので、「よくもまあこんな状況を成立させたものだな」と思う。

あと書きたいのは、「ベッキーがメチャクチャかわいい」ということ。短い黒髪であのふんわりした顔なのは凄くいいなぁ。しかもベッキーのキャラも凄く良くて、特にアーニーと関わっている時のベッキーが良い。まあ、穿った見方をすれば、「『ずっとここにいるわけじゃない』からこそ発揮できる優しさ」なのかもしれないと思ったりもするのだけど、何となくベッキーの場合は、「誰に対してもあんな感じなんだろうな」と思わせる雰囲気があって、凄く良かった。自分の決断で去っていくのに「これでお別れなの?」とかムチャクチャなこと言ってくる感じもいいよなぁ。まあこれは、ベッキーのキャラクターあってこそ許されるセリフという感じがするけど。

あと、本作を観ながらもう1つ思っていたことは、「一昔前は、アーニーのような知的障害者って、もう少し社会の中に普通にいた気がするなぁ」ということ。少なくとも、僕がまだ生まれた地元(静岡)にいた頃は、町中でそういう系の人を見かけることは結構あった気がする。でも、これは僕が東京に住み始めたからなのか、あるいは時代の変化なのか、あるいは単に僕が見ていないだけなのか分からないが、最近は日常の中で目にすることがなくなったような気がする。個人的には、それはあまり良いことのようには感じられないのだけど、とはいえ、僕自身はどんな意味においてもまったく「当事者」ではないので何とも言えないなとも思う。

そんなわけで、なかなか素敵な映画だった。アーニー役の人は、ホントの知的障害者とかってわけじゃないんだよなぁ。って文章を書きながら「アーニー役って誰なんだろう」と思って見てみたら、嘘でしょ、アーニーってレオナルド・ディカプリオなの!!?? 今の今までマジで知らなかったし気づかなかった。すげぇ、ディカプリオ。天才やん。まったく演技に見えない。ってか、ジョニー・デップとレオナルド・ディカプリオが兄弟役なんか。凄い映画だな。

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