【映画】「災 劇場版」感想・レビュー・解説

僕はしばらくの間本作を、「香川照之演じる人物(Xとしよう)は同一人物ではないかもしれない」と思いながら観ていた。彼は横浜や石川、宮城、福岡など様々な場所にいる。もちろん、「時系列が異なっている」と考えればそれも可能だし、恐らくそういう物語なんだと思うが、僕にはそうじゃないように思えていた。

彼らが同じ顔なのは「たまたま」とか「ドッペルゲンガー」とかそういうことではなく、「Xと関わる人たちにはそれぞれXは別人(別の顔)に見えていて、映画的な演出としてそれが『同じ顔の人物』として映し出されている」のだと思っていたのだ。

このように考えた場合、「たった1つの設定を受け入れるだけで、他のことが綺麗に説明できる」ように僕には思える。この解釈を採用する場合、それぞれの場所にいるXは全員別人である。だから、1人の人間が塾講師やら長距離トラックのドライバーやら様々な仕事をしている必要はないし、また、亡くなっている人がXに殺されているのだとして、「Xはそれぞれ1度だけ殺人を犯し、それらが運良く自殺や事故として処理された」と考えればいい。だから僕は、そういう物語として落ち着くんじゃないかと思っていた。

しかし、物語の展開と共に、どうもそうじゃなさそうだということが分かってくる。「映画的な演出で同じ顔の人物に見えている」のではなく、「実際に同じ顔の人物である」ことが示唆されるのだ。

ふむ。なるほど。そうなると、物語に整合性と付けるのが相当難しくなるように思うんだよなぁ。

先程も少し書いた通り、Xは様々な仕事をしている。トラックのドライバーや清掃員などは特別な技能は必要としないかもしれないが、塾講師や理容師などはそうはいかない。1人の人間が、特殊な技能を必要とする仕事を含め、いくつもの仕事を転々とするというのは、かなり難しいように思う。

さらに、亡くなった人たちがXに殺されたのだとすれば、「Xはすべての殺しで完全犯罪を成し遂げている」ということになる。それはかなり非現実的ではないだろうか?

というわけで僕は、「全員同一人物である」という可能性を捨てられないのであれば、「Xが殺人を行っている」という可能性を捨てるしかないな、と考えた。この解釈でも「職業の選択」に関する疑問は解消されないが、少なくとも「完全犯罪を連続で成功させている」という点は解決できる。

しかし、そうだとしたら、このXは一体何なのか? というわけで僕は、「Xは災いをもたらす疫病神なのだ」と解釈することにした。そしてこう解釈すると、物語の見え方が変わってくる。

普通に考えれば本作は、「謎の男Xが日本各地を転々とし、関わった人物を自殺や事故に見せかけて殺している」と解釈するのが妥当だろう。しかし、僕の解釈は、「謎の男Xの周辺では何故か、関わった人間が死亡する出来事が多発している。そしてそのような出来事が起こる度、Xはその場を離れるようにしている」というものだ。Xがその環境を離れる理由については、「自分が疑われないようにするため」や「災いをもたらす自身の性質を恐れて」など色々考えられるかもしれないが、理由はともかく、Xは身近で人が亡くなる度に離れるようにしているのである。ざっくり、「江戸川コナン」みたいな存在だと思えばいいだろう(江戸川コナンがいる場所で事件が続発する)。

もしこのように考えれば、Xの見え方が真逆になる。「加害者」から「無関係な人」へと転換されるだろう。

ただそうだとして、「被害者の髪が不自然に切られている」という要素をどう扱うかは難しい。が、この点に関しては「Xが殺人を行っている」としても解釈は容易ではないだろう。もちろん、「シリアルキラーやサイコパスが、自身の犯罪であることを微かに示そうとして行っている」みたいな解釈が一応自然だろうが、それもどうだろうか。あるいは、作中で少しだけ「髪の束」みたいなものが映ったので、「単なる戦利品」ぐらいの意味合いなのか。

さて一方、僕の解釈を採用した場合どのような可能性が生まれ得るか。この場合、「Xが災いをもたらしている」という非論理的な可能性を既に認めているので、もう1つぐらい非論理的な説明を付け加えても別にいいだろう。つまり、「不自然に髪が切られた者にXの災いが降りかかる」という解釈だ。もちろん、「生きている間に、不自然に髪が切られる」という状況はなかなか想定できないのでこの説明はメチャクチャ無理があるのだが、とはいえ、「何人もの人物を自殺・事故に見せかけて完璧に殺している」というのだって相当に無理があるのだからどっこいどっこいだろうとは思っている。

なんてことを考えながら映画を観ていた。正直僕には、(恐らく)本作が提示しようとしている「Xが自殺・事故に見せかけて人を殺している」みたいな設定は受け入れがたい。特に無理があると思うのが、刑事が殺されたシーンだ。他の被害者は女性や非力そうな男性だったのでどうにでもなるだろうが、メチャクチャ鍛えている刑事の場合、いくら不意をつこうが「他殺の痕跡を一切残さずに自殺に見せかける」なんて殺し方はまず不可能だろう。

本作の場合、「決定的な描写」はないので、「Xが殺しをしているかどうか」は確定されない。そういう物語だからこそ僕的にも「これなら最悪許容できるかな」という可能性が見いだせたので良かったが、そういう余白のない物語だったら、正直評価できなかっただろうなぁ。別に「物語はリアリティがすべて」だなんて思っているわけではないのだが、「リアリティが必要な状況」というのはあるはずだし、本作は割とそういうタイプの作品だと僕には思える。制作陣が提示しようとしている可能性を押し通すなら、もう少し細部の設定が必要な気がしてしまった。

とまあ色々書いたが、全体的にはなかなか面白かった。前半はかなり物語が動かなすぎて「うーん」という気もしなくはなかったが、全体を通して「不穏な音楽」がかなり効いている印象があって悪くもないという感じ。「何かが起こりそうな嫌な予感」を音楽によって大分盛り上げている感じがあって、その雰囲気は良かったかな。

また、メインの役どころを演じる役者が結構絶妙なんだよなぁ。香川照之は見事な演技だったし、竹原ピストル、松田龍平、シソンヌじろうなど素晴らしかった。また、つい最近観た『終点のあの子』でメインの役どころを演じていた中島セナはやっぱり良い雰囲気だったし、どの作品で観たのか覚えていないが、清掃員役の内田慈もやはり良い存在感だった。あと、エンドロールに「芋生悠」の名前もあって(松田龍平が演じた役の奥さんか?)、この人も結構好きなんだよなぁ。

というわけで、悪くない鑑賞体験だった。元々WOWOWのドラマだったのね。


いいなと思ったら応援しよう!

長江貴士 サポートいただけると励みになります!

この記事が参加している募集