【映画】「バーラ先生の特別授業」感想・レビュー・解説

いやー、さすがインド映画、面白い!ストーリーがシンプルで分かりやすく、難しいことを考えさせずに誰が観ても面白いと感じさせるエンタメを作らせたら、やっぱりインドは凄いな。

しかも、公式HPを見て知ったが、本作にはモデルの人物がいるそうだ。ストーリーはフィクションらしいが、「インドの僻地の公立校で教育改革を成し遂げ表彰された人物」の半生にヒントを得ているそうだ。確かに僕も観ながら、「実話じゃないだろうけど、『インドの教育の酷さ』の描写は事実だろうな」と思っていた。物語の舞台は1990年代なので少し前ではあるが、それにしても酷いものだなと思う。

というわけでまずは、本作の内容を紹介することにしよう。

本作はまず、あまり頭の出来の良くない工学部の生徒が、「父親が自分の学費のために、祖父の代からのビデオ店を売った」と聞き、友人と共に、もう閉店してホコリまみれになった店内に入るところから始まる。店の奥から木箱に入ったビデオテープが見つかり、「絶対にアダルトビデオだよ」と盛り上がる。そうと決まれば観るしかないと、テレビにデッキを接続してみたところ、映し出されたのは何故か数学の講義だった。しかしその講義が、まさに今日宿題で出されたのと同じ解説をしていて、しかもとにかく分かりやすい。

だったら、この先生に教えてもらえばいいんじゃないか? というわけで彼らは、残された情報を頼りに色んな人に話を聞き、最終的にカダル県の行政長官A・M/クマールの元へと辿り着いた。

しかし、その人物は明らかにビデオに映っていた数学教師ではない。無駄足だったか……と思ったが、行政長官は「これは私の恩師だ」と懐かしそうな顔をする。そして、チョーラワラム村での出来事について語り始めるのである。

さてもちろん、その恩師こそバーラ先生なのだが、バーラ先生を紹介するよりもまず、1992年以降のインドの教育環境の変化に触れておく必要がある。

1992年にインドの教育が民営化された。公立校はもちろん残るが、私立校の設立が認められたのだ(それまで民営の学校が存在しなかったことも驚きだが)。そして、そんな法改正に目を付けた者たちがいた。彼らは私立学校や予備校を作り、授業料を高く設定、その生徒たちにTNPCEE(工学部医学部共通試験)で上位を取らせるようにした。つまり、教育を「金のなる木」にしたのである。

優秀な教師は市立学校に高給で引き抜かれていったため、公立校は教師を集めるのが困難になり、次第に閉校を余儀なくされる。こうしてインドでは、「高い授業料を払える者」しか教育を受けられないという状況が生まれてしまったのだ。

しかしここで、教育をビジネス化し大儲けした者たちを脅かす事態に発展する。あまりの教育格差に人々がデモを起こし、それに野党も参戦するという状況になっていったのだ。こうして次第に、「公・私授業料一律案」が検討されるようになっていく。もしそんな法案が可決されれば、私立学校ビジネスは終わりである。

そこで、このビジネスで帝国を気づいたティルパティはある策を打ち出す。「教師のいない公立校を、私立学校協会が引き受ける」というのだ。私立学校の優秀な教師を公立校に派遣するという方針を打ち出すことで、授業料一律の法案を阻止しようというのである。

しかし私立学校協会のメンバーからは「そんなことしたら、私立学校に人が集まらなくなる」と不安を口にする。しかしティルパティは「頭を使え」と言い、「三流の教師を送ればいいだけだ」と言ってのけた。公立校のことなど、救済するつもりなどまったくないのである。

さて、ここでようやくバーラ先生が登場する。彼は元々、ティルパティ高校の数学教師(性格には補助教員)だった。そして、ティルパティが教師たちに「公立校に行ってもらう」と演説をした際に、「成果を挙げたら昇格させてもらえますか?」と質問する。ティルパティは、「君の学校の生徒全員が、君の教科で合格したら、昇格させてあげよう」と皆の前で宣言した。まあ、もちろん、ティルパティにそんなつもりはなかったのだが、バーラ先生はその言葉でやる気に満ち溢れた。

そんなわけで、物理と化学の教師と共に僻地の公立校へと赴任した。初日、村長を含め多くの人が大々的に迎え入れてくれ、カメラで散々写真や映像を撮られた。生徒たちも集まっていて、美人教師もいる。よし、明日からも頑張るぞ……と意気込んだのだが、そうはいかなかった。

なんと翌日から生徒が1人も来なくなったのだ。初日は広報用に、子どもたちをお菓子で釣って学校に来させただけだった。低い身分の家庭では、子どもたちにも働いてもらわなければ食べていくことも難しい。子どもたちの中には勉強したいという意欲を持つ者もいたが、様々な事情からそれは叶わなかった。

しかしバーラ先生は、想いを寄せるミーナクシ先生に、「月曜までにこの学校を生徒でいっぱいにしてみせる」と宣言し……。

というような話です。

僕が今説明した部分はちょっとややこしさもあって、人によっては短い時間で把握するのが難しかったりするかもしれないが、「宣言し……」以降の展開は超シンプルなので安心してほしい。あとはとにかく、「ピンチが起こる→どうにか解決する」を繰り返し、思いがけない成果をぶち上げていくという展開である。

どう考えたって「正義は勝つ!」的な展開なので、「これから何が起こるんだ?」みたいなワクワク感みたいなものはないのだけど、バーラ先生の熱さとか、子どもたちの純真さみたいなものがシンプルに良くて、感動させられる。あと、マンガかよ、ってぐらい、私立学校側の奴らが酷すぎて、まあそれも笑っちゃうみたいなところがある。まあ、笑える話じゃないんだけど。

バーラ先生は「教育は神からの施しであり、5つ星ホテルの料理のようなものではあってはならない」みたいな信念を持っている。そしてその信念が超強いのだ。本作はフィクションなので、「ンなアホな」みたいな展開にもなるわけだが(さすがに拷問は意味不明すぎるだろう)、しかしそれでも諦めない姿にはグッと来る。

そう、そもそも本作は「何故か数学の講義ビデオが存在する」というところから始まるわけだけど、それも「なるほど、そういうことかぁ」と納得させられる。状況が異常すぎて誰も想定出来ない展開だとは思うのだけど、ただ、インドならこういうこともあるだろうなぁと思わせる感じもあって、そういう意味でのリアリティは感じさせられる。

バーラ先生の教育は随所でその良さが発揮されるのだけど、個人的に一番良いなと感じたのが、「明日は速さと速度の試験をします」というセリフが出てくるシーン。具体的には触れないが、ここにはバーラ先生の「単に数学を教えるだけではない」という教育理念が宿っていて、とても良かった。国や文化や宗教などによって、「どうしても乗り越えがたい壁」みたいなものがどこにだって生まれ得るものだけど、バーラ先生はそれを「教えないこと」によって突破させようとしたわけで、実に素晴らしかったなと思う。

あと、ラストの展開も良かったなぁ。最後の最後まで、私立学校側のクソさが滲み出る場面でもあるんだけど、そこでのバーラ先生の振る舞いも見事だった。確かに、長い目で見ればバーラ先生の判断が正しいだろう。しかし、なかなかそんな判断は出来ないよなぁ、とも思う。

少し前に、TBSで『御上先生』というドラマがやっていて、これも教育改革の話だったが、個人的にも「何らかの形で教育に関われるといいなぁ」という気分が少しはあるので、こういう話は惹かれてしまう。学生時代から「他の人に勉強を教えること」は好きだったし、今も中学生ぐらいまでだったらそれなりに勉強を教えられるだろうなと思っている(さすがに高校生に教えられるほどの学力はもう無いけど)。本作でも『御上先生』でも、「教育を通じて人が変わっていく」みたいな感じはやっぱり素敵だなと思うし、別に「学校で教師をやりたい」なんて風には思わないけど、何か「希望する人がいるなら、何かを教える」みたいなことが出来たらいいなとは思っている。

そんな自分の感覚を普段意識することはないのだが、本作を観て改めて「やっぱ教育っていいよなぁ」みたいに思わされた。

最後に。本作はインド映画らしく、歌って踊るシーンがそれなりにはある。で、僕はミュージカル映画が大嫌いで、『ラ・ラ・ランド』とか何が面白いのかさっぱり理解できないというタイプの人間なのだが、どうしてかインド映画だと許せちゃうんだよなぁ。

本作の場合は、「それなりに時間が経過しているはずの状況を、歌って踊ることで短くぎゅっとまとめてる」みたいな使われ方が多かった印象で、そのことも違和感を覚えなかった理由かもしれないと思う。まああとはやっぱり、「インド映画だしな」みたいな感覚があることも否めない。

まあそんなわけで、インド映画らしいインド映画で、教育をテーマにしながら決して小難しくはなく、誰でも楽しめるエンタメ映画だと思う。みんな観たらいいと思うよ!

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