【映画】「ハチミツとクローバー」感想・レビュー・解説
いつものように、タイトルとマンガ原作だってことぐらいしか知らなかったので、「櫻井翔と蒼井優なのか」とか「堺雅人とか出てるじゃん」なんてところから始まった。伊勢谷友介はちょっと前に是枝裕和監督の特集上映でよく観たし、加瀬亮は『スクラップ・ヘヴン』で観たなぁ。だからなんだって話だけど。
さて、今回はまず、チケットの争奪戦だった。毎回、ハチクロの上映だけチケットが売り切れてるのをホワイトシネクイントのサイトを見て認識してたから、「これは販売開始すぐに確保しないとまずいぞ」と思って0時ちょうどに買うことにした。で、販売開始から数分で、その日の3回の上映分のチケットがほぼ完売したと思う。凄まじい。映画館はホント、昔の映画のリバイバル上映やる方が儲かるんじゃないか?
で、ハチクロ、良かったなぁ。
観ながら、昔からちょいちょい思い出すことをまた思い出した。ある雑誌に載っていた、小説家・円城塔の言葉である。
その雑誌の特集は「数学」で、理系の大学出身の円城塔がインタビューに答えるコーナーがあった。で、インタビューアーが「好きな数学者は誰ですか?」と聞き、円城塔が誰かの名前を答えた(その名前は忘れた)。で、インタビューアーが円城塔に、「じゃあもしその数学者に会えたら何を聞きたいですか?」と質問したのだが、これに対して円城塔が「会いたくない」と答えたのだ。
で、その理由が印象的だった。
【彼に会っても、私が彼に与えられるものは何もない。であれば、彼にとって私と会うメリットは何もないだろう。だから会いたくない。】
正確には覚えていないが、ざっくりこういうことを言っていたのだ。で、僕は「メチャクチャ分かるー」と感じてしまった。
僕は日常的に割と同じことをよく考える。僕が「会いたい」「関わりたい」と思う人がいるとして、「でも、相手にとって、僕は何かメリットがある存在だろうか?」と思う。で、「そんなにメリットが無いような気がするなぁ」と思うと、関わろうとすることに躊躇してしまうのだ。
まあ、そんなことを言ってたら人と関われないので、「えいやっ!」と目を瞑って関わろうとしたりするのだけど、内心では常に「大丈夫かなぁ」と思ってる。自分にとって大事な存在だからこそ、相手には無駄な時間を過ごしてほしくないし、僕がそういう存在だとしたらマジでゴメンって感じである。
で、本作を観ながらそういうことをメチャクチャ考えた。
もちろん、ある意味でこれは傲慢な考えではある。「相手が何を無駄だと感じるかを、こっちが勝手に決めつけている」からだ。でも、絶望的にそれが分かっちゃう、みたいなこともあるよなぁと思う。円城塔の発言はまさにそういうことなんだろうし、本作中でもそういう絶望的な状況が描かれている。
本作中で僕が一番好きなセリフは、「あの彫刻、1週間前の方が良かった」だ。こういうことを言える人になりたいし、そういうことをちゃんと自覚できる人になりたい。本作では、蒼井優演じるはぐみが、伊勢谷友介演じる森田にそう伝えるのだが、
僕にはこのセリフ(とその後の森田の反応)だけで、「この2人は完璧な関係性なんだ」と思えた。お互いが、「自分の存在が相手にとって価値がある」と認識できたはずだからだ。
で、ここに、櫻井翔演じる竹本が絡んでくる。竹本は、はぐみを一目見た瞬間から恋に落ちる。が、彼は次第に、はぐみとの差を痛感していくことになる。
本作の設定の上手いのは、「竹本ははぐみの凄さを知らないまま割と仲良くなれている」という点だろう。はぐみは、堺雅人演じる建築学科の花本教授のいとこの娘(だったかな)である。で、花本は学生らを集めて定期的に「花本会」を開いており、そこで竹本は「花本教授の親類」としてはぐみに会うのだ。さらにその後、「はぐみは一人で飯が食えないから」というよく分からない理由で、竹本ははぐみが食事しているところに呼ばれ、仲良くなっていく。
で、この時点で竹本にとっては、「見た目がタイプの女の子」でしかなかったはずだ。
しかし、その後色んな形ではぐみの才能を知ることになる。森田は長く外国を放浪しており、最近帰国したのだが、普段他人を褒めない森田がはぐみの絵を見て絶賛したのだ(竹本が森田に、「先輩が人のこと褒めてるの見たことないですよ」と言った時、「え、俺、ピカソとバスキアは良いと思ってるよ」とナチュラルに返すシーンも良かったなぁ)。
また、学食ではぐみと飯を食おうとした時、食券を買うのに並んでた学生がはぐみを見て「特待生」「天才」と話しているのも聞いてしまう。
そんなことがあって竹本は、間接的にはぐみの才能を知っていったのである。
さて、もし僕が竹本の立場だったら、「自分はその才能に気づけなかった」と感じるだろう。竹本がはぐみと最初に出会った時も、はぐみは絵を描いていたわけで、竹本に審美眼があればその時点で彼女の才能に気づけたはずだ。しかし、実際にはそうはならなかった。
この時点で「相手にとって不要な人間」って、僕なら感じちゃうだろうなぁ、と思う。
「1週間前の方が良かった」発言を竹本は聞いていないが、それでも様々な場面で、はぐみが森田に関心を向けていることに竹本は気付かされる。だから、そりゃあ葛藤するよなぁ、と思う。どう考えても、はぐみには森田の方が似合うと、竹本自身も感じているはずだ。
そしてだからこそしんどい。
で、ちょっと違うのだが、本作では別の形でのややこしさも描かれる。
同じく花本会に顔を出す建築学科の真山は、アルバイト先の女性(花本教授と大学の同期である)に恋をしている。で、陶芸学科の山田は、そんな真山のことが好きなのだが、ある日真山を尾行していて、真山がバイト先の女性のことが好きだと知ってしまうのだ。
真山は、山田が自分に好意を向けていることを知っている。しかし真山は、バイト先の女性が好きだという点を揺るがせにしない。で、山田は山田で、真山が好きだという自分の気持ちを手放さない。
みたいな、とてもややこしい状況にいる。
で、物語の後半で、この3人の関係性が大きく変化する場面がある。どうなんだろう、女性的にこれはリアリティのある描写なんだろうか? 原作マンガの作者は女性だろうし、だから「女性の感覚としてこういうこともあり得る」という展開になってるんだろうけど、個人的には素晴らしいと思う。僕も割と、あの人物のような行動をするかもなぁ、と思ったりして、結構共感できたのだが、世間一般的にはどうなのかなという気はする。いや、個人的には凄く良いシーンだった。
で、なんやかんやあった後で、真山が口にする「ありがと」が、最後はぐみが口にする「ありがと」と重なる感じがあって、だから「まあそういうことよなぁ」と理解できたりもする。そういう構成も上手かったなぁ。
山田がある場面で、「『私が好きな人が、私のことを一番好きになってくれる』って単純な話のはずなんだけど、上手くいかないですねぇ」みたいに言う場面があって、このセリフはこの『ハチミツとクローバー』という作品を要約するようなものだったなと思う。ホント、それが難しいんですよねぇ。
マンガのストーリーをたぶんかなりぎゅっとして描いていると思うので、原作ファンには色々物足りない部分があるんだろうけど、原作を知らない身としては、「もうちょっと深く描いてほしいみたいな部分もあるけど、概ね満足」という感じの物語だった。
しかし、ちょっと前に蒼井優が出てくる『花とアリス』も観たが、蒼井優、透明感凄いな。原作のはぐみがどんなキャラか知らないが、少なくとも映画の中で描かれるはぐみに、蒼井優はピッタリだったなと思う。凄いもんだ。
あと、恋愛的じゃない部分に触れておくと、かなりラストに近いシーンなので具体的には書かないが、「これは札束で、少し前から作品じゃなかった」みたいなセリフは、凄く良かったなと思う。本作では「恋愛」に焦点が当たっていたので、「芸術」的な部分はあまり深く描かれなかったが、ラスト近くのこのセリフは「アートを生業に生きる人」にかなり刺さるセリフだったりするんじゃないかなという気がする。
あとは、森田が龍を描くシーン。実際的な話をすれば「色々ダメだろ!」って感じのシーンではあるのだけど、でも凄く良かったなぁ。本作においては蒼井優の存在感はやはり圧倒的だったが、伊勢谷友介もやはり見事だったなと思う。
というわけで、個人的には観れて良かったなという感じだった。ちょうど20年前の映画らしい。いやホント、キュンキュンしますわね。
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