【映画】「そして彼女たちは」感想・レビュー・解説
これは興味深いし、なかなかやるせない作品だったなと思う。しかし同時に、「日本よりは全然マシに見える」とも感じた。
本作の舞台となるのは母子支援施設である(ただ作中でスタッフは、「ここは母親の支援施設で、子どもを育てるのは母親。託児所じゃないわ」と言っていた)。様々な事情を抱えた少女たちが共同生活しており、ここを起点に自立を目指そうとしているのだ。
で、恐らくだが、本作で描かれる母子支援施設は公的機関なんじゃないかなと思う。NPOなどではなく、国が支援するものとして機能するように僕には見えた。
で、日本にはこういう施設ってないように思う。もちろんNPOが独自に様々な取り組みをしているとは思うが、「国がきちんと支援する」みたいな形では行われていないんじゃないか。「児童養護施設」はあるが、これは子どもがメインである。本作ではむしろ「母親の支援」に重点が置かれている感じがあり、僕の知識では、日本にはこういう公的支援施設は存在しない気がする。
で、あった方がいいよなぁ、と思う。だからそういう意味で、僕は「本作に描かれている方がマシだ」と感じられた。
本作では4人の少女たちが描かれる(本当は5人いるのだが、5人目は一瞬しか描かれないので外す)。
ジェシカは出産を間近に控えており(既にアルバという名前を付けている)、そして母親との再会を望んでいる。彼女は施設で育った。母親に、捨てられたのだ。そして今、自分が母親になろうとしているタイミングで、彼女は母親に会いたいと思うようになった。「私はあなたのように子どもを捨てたりはしない」と言うために。
ペルラは生まれたばかりのノエと一緒に、彼氏のロバンと会う。彼女は昔から「家族がほしい」と考えていて、だからロバンの生活を楽しみにしている。支援施設の紹介で安くアパートに住めるので内見に行くのだが、ロバンは「職業訓練施設から遠い」と乗り気ではなさそうな返答。というか会話の中で、ロバンが両親に子どもが生まれたことを伝えていないらしいことが分かり、彼女は怒りと不安を覚える。ペルラは、保証金が高いが職業訓練施設から近いアパートを借りようと奮闘するが、そもそもロバンとあまり連絡が取れなくなってしまい……。
アリアンヌは娘のリリと共に実家に一時帰宅する。後に分かるが、彼女は15歳で子どもを生んだ。もちろん堕ろすつもりだったのだが、母親から「私が育てるから生んでほしい」と言われ生むことになった。その母親は暴力を振るう彼氏と別れ、酒も断ち、自宅に赤ちゃん用のベッドを用意して迎え入れる態勢はバッチリ整えていた。しかしアリアンヌは、喜びを溢れさせる母親に水を差す。「この子は養子に出すつもり」……。
ジュリーは結婚を予定しているディランと共に、保育園にミアを預けたりこれから一緒に住もうと思っている家の内見に行ったりする。一見すると、すべて順調そうだ。しかし2人は共に問題を抱えていた。薬物依存である。ディランは既に克服したようだが、ジュリーは未だ治療途中である。彼女はミアに、「あなたに誓って、もう戻らない」と口にするのだが……。
というような話です。
本作は割と、ドキュメンタリーでも撮ってるみたいな感じで、ストーリーもカメラワークなんかもリアル寄りに作られている感じで、だから余計に「現実感」がどっと押し寄せてくるなと思う。少女たちの置かれている現実はもちろんしんどいものだが、同時に、「社会の中では頻発しているだろう」という意味ではありがちだとも言える。そしてそんな「ありがちな物語」だからこそ僕は、なんか凄く「うわーっ」となってしまった。
以前、「中絶が禁止されていたフランス(だったかな?)で中絶しようとする大学生」を描いた『あのこと』という映画を観たのだが、その時に、「妊娠させた男側の物語がほぼ存在しない」みたいに感じた記憶がある。同じように中絶を描く映画『17歳の瞳に映る世界』でも状況は同じだった。そしてその印象は、本作に対しても割と強い。
本作では、男側が描かれないということはないのだが、やはり「男側はいくらでも逃げれちゃうよね」みたいな描かれ方にはなっているなと思う。薬物依存と闘うジュリーの彼氏であるディランは本作においては異質だが、他の3人の「妊娠させた男」は酷いか存在しないかどちらかである。一番酷いのはペルラの彼氏で、彼はペルラの前から完全に逃げた。そして、アリアンヌの場合は、妊娠させた男側の物語は一切なかった。
で、個人的に一番ざらっとした感情になったのが、ジェシカの相手である。
本作におけるジェシカの関心は「自分の母親」に向いており、妊娠させた男にどうこうしようということはない。ないのだが、物語の中で一度、妊娠させた男の両親のところへ行く場面が描かれる。ジェシカは彼の両親が経営するスポーツクラブでアルバイトをしていたようで、それで知り合ったようだ。
で、「電話番号を教えてほしい」というジェシカ(「認知も迫らないし、要求もない」と彼女は口にする)に対して両親が、「あなたがピルを飲まなかったんだし、中絶も拒んだ。息子は被害者よ」と言うのである。
ふむ、という感じだった。
本作はこの両親の言葉としてしかこの話は出てこないので、本作の舞台であるベルギーでこれが常識的な判断なのかはよく分からない。ただ、そう言われたジェシカが反論しなかったのは確かで、もちろんそれは「そういうやり取りを以前からしていて、反論しても無駄だと思っていただけ」かもしれないが、場合によっては本当に「ピルを飲まなかった自分が悪い」と思っているのかもしれない。
いやいや。ンなアホな。そりゃあ、ピルは飲んだ方がいいかもしれないが、そもそも男がコンドームを付けてなかったんだろうし、どう考えてもその点に非があるだろう、と僕は思う。だから「息子は被害者だ」と言っていた両親は、ちょっとヤバい人に見えてしまった。
さて、4人の物語それぞれに対しての感想をざっくり書いておこう。ジェシカに対しては、僕自身が「親からの愛情・承認」みたいなことに全然関心がないので、彼女の葛藤は正直僕にはピンと来なかった(が、彼女の物語のラストは凄く良かった)。ペルラに関しては「彼氏がクソすぎてしょうがないよね」みたいな話だし、きっと誰もがそんな風に感じるんじゃないかと思う。ジュリーには「色々あるだろうけど頑張れ!」という感じが強かったかな。
で、4人の物語の中で一番「何とも言えない雰囲気」みたいなものを感じたのが、アリアンヌだった。彼女の物語は、なかなかにややこしい。
15歳で子どもを生むことになったその事情は、まったく描かれないので分からないが、アリアンヌはとにかく「子どもなんか欲しくないし、堕ろしたかった」と思っている。その感覚は、生んだ後も変わっていないようだ。一方、アリアンヌの母親の方は、完全に孫を迎え入れるつもりになっている。娘と孫の3人で人生をやり直すんだ、という気持ちで一杯というわけだ。
そして、この2人のすれ違いがなかなかに歪んでいる感じがあり、印象的だった。
さて、先に1つ書いておくと、本作で描かれる母子支援施設では、アリアンヌの意見が尊重される。これ、日本で同じ状況になったら、どうなるんだろう? 先程も触れた通り、アリアンヌは15歳で子どもを生んだ(18歳になったら子どもに届く手紙の中で、「あなたは18歳になった。今の私の3つ上」と書いていることから判断した)。恐らくベルギーでも「未成年」の扱いだろう。日本だと未成年の場合、色んな判断は親が担うことになる気がする。だから、アリアンヌと同じ15歳の少女が子どもを生んだ場合、本人ではなくその親の意向が重視されるのではないかと思っている(実際どうかは分からないが)。
しかしベルギーでは、母親が何をどう主張しようが、母子支援施設は(これはつまり「国は」ということだろう)アリアンヌの意向を尊重するのだ。
母親がどうしてそこまで孫を育てることにこだわっているのか、具体的には説明されない。しかし恐らくだが、彼女にとって「娘と孫と一緒に暮らすこと」は「クソだった人生を再生させる」みたいな感覚があるんだろうなと思う。母親は、暴力を振るう彼氏がいて(別れたと主張しているが、未だに関わりを完全には断てていない)、またどうやらかなり酒にやられていたようだ。さらに、本人は「断酒のせいだ」と言っているのだが、頭に血が上るとアリアンヌに手を上げてしまうのだ。すぐに謝って許しを請おうとするのだが、とにかくそんな「ダメなところの多い母親」である。
そのことは母親自身もそれなりには自覚していて、だから「娘と孫と暮らす生活」によって、自分のダメさを含めたクソみたいな人生をやり直したいと考えているのだと思う。
しかしアリアンヌは母親のそんな思惑から外れたところにいる。彼女は、「自分が生んだ子どもに、愛情とお金のある環境を与えてあげたい」と考えているのだ。まあ、個人的には合理的な判断だなと思う。僕は正直「血の繋がった子どもを育てなければならない必然性」みたいなものがイマイチ理解できなかったりするので、子どもを養子に出すとか、養子を引き取って育てるみたいなことも「みんなもっとやったらいいのに」と思っている派である。だからアリアンヌの、「自分は15歳で自力では育てられないし、母親の元も良い場所とは決して言えないから、養子に出す」みたいな判断は、理にかなっているなと思う。
個人的には、アリアンヌの母親の振る舞いは非常におかしいものに見えたが、しかし「母親の愛情」みたいな信仰が強い人にはむしろ、アリアンヌの方が「あり得ない」みたいに感じるのかもしれない。どうなんだろうな。
本作は、殊更に「母親の愛情」云々みたいな話が強く押し出されず、その点も良かったなと思う。そういう感覚が強すぎると、どうしても僕は「うわぁ」って感じになってしまうので。自分が生んだ子どもだって、好きになれない親もいる。それぐらいがリアルで自然で当然のことに僕には感じられるし、そういうことがもう少し当たり前のこととして受け取られる世の中の方がいいよなとも思う。
そんなわけで、なかなか興味深い作品だった。エンタメ的な楽しさは別にないが、ドキュメンタリーを観ているみたいなリアルさはメチャクチャ強いし、印象的である。
いいなと思ったら応援しよう!
サポートいただけると励みになります!