文徒ジャーナル vol.211

Index------------------------------------------------------
1)芥川賞候補作が発表された!受賞作を大胆予想!
2)直木賞候補作が発表された!二作同時受賞あるか?!
3)大川原化工機冤罪事件に加担した報道機関の責任
4)蓮池薫「日本人拉致」(岩波新書)が国会書店で売れてない!?
5)公取委が小学館、光文社にフリーランス法違反で初勧告
6)著者の執念×編集者の執念が生んだ超絶鈍器本が話題になっている!
7)イラン国営放送が生放送中に受けた爆撃は世界でどう伝えられたか
8)「オールドメディアvsソーシャルメディア」という対立を超えて
----------------------------------------2025.6.16-6.20 Shuppanjin

1)芥川賞候補作が発表された!受賞作を大胆予想!

芥川賞の候補作が次のように発表された。
グレゴリー・ケズナジャット 「トラジェクトリー」(「文學界」六月号)
駒田隼也「鳥の夢の場合」(「群像」六月号)
向坂くじら「踊れ、愛より痛いほうへ」(「文藝」春季号)
日比野コレコ「たえまない光の足し算」(「文學界」六月号)
「新潮」「すばる」から候補作は選ばれなかった。通常は候補には5作品が選ばれるはずだが、今回は4作品にとどまった。不作だった?
「新潮」であれば中西智佐乃の「橘の家」や竹中優子の「水辺のフリスビー」あたりが候補になっても良かったろうし、大原鉄平の「チグの家」(「小説トリッパー」)も候補になっても良かったのでは?
候補者のプロフィールを「本の話」はこう紹介している。
グレゴリー・ケズナジャット《1984年生まれ。クレムソン大学、同志社大学大学院卒。2021年、「鴨川ランナー」で第2回京都文学賞を受賞。2023年、第9回早稲田大学坪内逍遙大賞奨励賞を受賞。》
駒田隼也《1995年生まれ。京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)卒。2025年「鳥の夢の場合」で第68回群像新人文学賞を受賞。》
向坂くじら《1994年生まれ。詩人。著書に、詩集『とても小さな理解のための』『アイムホーム』、エッセイ『夫婦間における愛の適温』『ことぱの観察』など。執筆活動に加え、小学生から高校生までを対象とした私塾「国語教室ことぱ舎」の運営を行う。クマガイユウヤとのポエトリーリーディング×エレキギターユニット「Anti-Trench」としても活動。2024年、初小説「いなくなくならなくならないで」が第171回芥川賞候補となる。》
日比野コレコ《2003年生まれ。22年「ビューティフルからビューティフルへ」で第59回文藝賞を受賞しデビュー。》
https://books.bunshun.jp/articles/-/10021
九州大学大学院准教授・辻野裕紀は2023年9月30日付「母語でないことばで書く人びと」でグレゴリー・ケズナジャットを取り上げている。
《グレゴリー・ケズナジャットは、1984年、アメリカ合衆国サウスカロライナ州グリーンビル市に生まれた。イラン出身の父親は、英語とペルシャ語を話す。2007年、クレムソン大学を卒業し、外国語指導助手として来日。その後、同志社大学大学院に学び、2021年に「鴨川ランナー」で第2回京都文学賞を受賞してデビュー。同年、それに書き下ろし作品「異言タングズ」を加えた『鴨川ランナー』が発兌された。
本年2023年には『開墾地』が刊行され、第168回芥川龍之介賞の候補作となった。法政大学で准教授を務める日本語文学者でもあり、就中、谷崎潤一郎を専門とする。「アメリカ」や「法政大学」からリービ英雄を、「京都」や「谷崎」から『いちげんさん』を著したデビッド・ゾペティを連想する読者も多いと思われるが、ケズナジャットもまた彗星の如く日本語圏に現れた不世出の作家である。》
https://webzine.asahipress.com/posts/7505
いとうせいこうが「鳥の夢の場合」を高く評価している。
《群像新人賞『鳥の夢の場合』(駒田隼也)、どんどん読ませたなあ。面白かった。エピソードも比喩も次々タッチが変わって、なおかつ関西弁の散らばせ方がクレオール的に意識されてて。飽きることのない文。》
https://x.com/seikoito/status/1930653512385642602
駒田隼也は書評家・江南亜美子の教え子だった。
《駒田くんの群像新人賞受賞作、「鳥の夢の場合」、おしゃれでいい作品だった! 受賞を報せに来てくれた日から発売日の今日まで、どんな小説かとどきどきしていた。(駒田隼也くんは京都造形大時代にわたしが受けもった最初のゼミ生のひとりなのです)。本当におめでとう!》
《教え子の(というにはおこがましいけど)駒田隼也さんのデビュー作「鳥の夢の場合」(群像新人賞受賞作・6月号掲載)が、第173回芥川龍之介賞の候補に入りました! すごい。できるだけフラットに選考会の結果を待っていようと思うものの、つい楽しくてにやにやしちゃう。》
https://x.com/ami_ena/status/1920190711330119691
https://x.com/ami_ena/status/1932948234550546639
5月29日付で毎日新聞が掲載した文芸時評で大澤聡が絶賛している。
《人文社会科学では、言語の手前にある情動が着目されている。現代小説たちもそこを掴もうとするらしい。人称のすべらかな移動は主客未分や共同主観の次元を表現する仕掛けにも見える。強靭な主体性をもって語ったり、絶対的な主人公らしくふるまったりはしない。全体が語る。語られる。それは現代社会の空気を精確に写しとったものだ。このかぎりにおいて、外見とあべこべに本作は究極のリアリズム小説といってよい。期待の新人の登場。》
https://mainichi.jp/articles/20250529/dde/014/070/011000c
向坂くじらはデビュー小説「いなくなくならなくならないで」から2作連続のノミネートとなった。河出書房新社が「すごい」とポストしている。
https://x.com/Kawade_shobo/status/1932909252697600095
百万年書房が絶賛している。
《『踊れ、愛より痛いほうへ』(向坂くじら)、2回目読了。
前作のタイトル(いなくなくならなくならないで)のつかみが強烈だったせいで、最初に題を目にしたときは「だいぶ普通になった!?」と思いそうになりましたが、よく考えたらそんなこたぁない。
中身を2回読んで確信、明らかに前作より〈面白く〉なっている。
まず、主人公・アンノの口が大きいという設定が最高。大好き。序盤から惹き込まれるエピソードや読み飛ばせないセンテンスがサービス過剰ぎみに投入されていて、ぐいぐい読める。
ネタバレになるので具体的な内容には触れませんが一つひとつのシーンがエンターテインメントでありつつ詩的でもあり、くじらさんにしか書けない作品になっていると思いました。
また、作品の端々に過去の詩作品やエッセイと共通する問題意識がまぶされていて、これを面白いと思った人には、ぜひ『とても小さな理解のための』『夫婦間における愛の適温』『犬ではないと言われた犬』もあわせて読んでほしいなと思います。
くじらさんがくじらさんらしい小説を書いたということに、新年早々元気が出ました。》
https://x.com/millionyears_bs/status/1880129323434389700
書評家・あわいゆきが日比野コレコの「たえまない光の足し算」を「X」で取り上げている。
《日比野コレコさんの『たえまない光の足し算』(文學界)。
「異食の道化師」として非食物ばかりを喰らう菌は自らの身体を武器にしながら生きている。しかし、その生きざまを「ショウ」だと認識してしまう側との断絶が彼女の変化を実質無効にしてしまい、出口のない場所に閉じ込めてしまう局面を描く。
三人称多元視点を巧みに操りながら、人生をBETした三人それぞれの「ビューティフル」的な美学が、必ずしも全員「ビューティフルへ」つながらないところにデビュー作からの変化を強く実感した。菌が「べつのやり方」を探すようになるのは象徴的で、「美学」を貫いた抱擁師のハグと軟派師の弘愛に関しても、二人の動画が他者の目線からすれば美学もなにもないものとして受け取られてしまう(否定される)絶望が終始強く描かれる。
でも、日比野作品はやはり美学自体を決して否定しない。たとえ「べつのやり方を模索する」としても、これまで貫いてきた自分自身の「美学」を──生きざまを──足し算として100%肯定する力強さがみなぎっていて、その点がいちばん読んでいて気持ちよかったです。》
https://x.com/snow_now_s/status/1922955115503419681
本命◎グレゴリー・ケズナジャット 「トラジェクトリー」、〇駒田隼也「鳥の夢の場合」、▲日比野コレコ「たえまない光の足し算」。


2)直木賞候補作が発表された!二作同時受賞あるか?!

直木賞の候補作が次のように発表された。
逢坂冬馬「ブレイクショットの軌跡」早川書房
青柳碧人「乱歩と千畝 RAMPOとSEMPO」 新潮社
芦沢央「嘘と隣人」文藝春秋
塩田武士「踊りつかれて」文藝春秋
夏木志朋「Nの逸脱」ポプラ社
柚月裕子「逃亡者は北へ向かう」新潮社
https://books.bunshun.jp/articles/-/10022
毎日新聞は3月15日付で逢坂冬馬の「ブレイクショットの軌跡」を書評で取り上げている。評者の角田光代が絶賛している。
《物語から、私たちの生きる今という時代が鮮烈に立ち上がってくる。はっきりと目には見えず、手では触れられないものに取り巻かれ、何が起きているのか、そのただなかにいながらもよくわからない。何によって分断されているのかわからないまま分断され、相手の実存もわからないままソーシャルメディアを介して他者を知る。パンデミックの前にはたしかに構築されかけていたはずのものは、失われ、あるいは変形し、もともと何を構築しかけていたのかも、みんな忘れはじめている。》
《あまりに急速な、急速すぎて予測不可能な時代の流れに棹さすのではなく、希望という錨を下ろすような作品である。》
https://mainichi.jp/articles/20250315/ddm/015/070/023000c
久田かおりが「WEB本の雑誌」で「ブレイクショットの軌跡」を取り上げている。
《自動車工場の期間工が、アフリカの若き兵士が、タワマンに住む成功者が、善良なる板金工が、サッカーで夢を追う少年たちが、追い詰められた会社員が、ブレイクショットという一台の車で繋がっていく。作業中のミスにより車内に落ちたままのボルト。この小さなボルトがこのあとどういう運命につながるのか。ドキドキしながら読んで欲しい。広がり続ける物語、そしてたたみかける怒濤のラスト。あぁ、気持ちいい。読み終わった後の気持ちよさが別格だ。》
https://www.webdoku.jp/mettakuta/kaori_hisada/20250523080000.html
讀賣新聞オンラインは5月23日付で長田育恵による書評を掲載している。
《心が 快哉 を叫んだ。本書を物語を愛するすべての人と分かち合いたい!  緻密 に組み上げられた構成、丹念な取材が基盤にある風通しのいい文体、オープニングからエンディングまでの鮮やかな飛距離と 尚 かつ美しい円環構造。そして何より登場人物へのフェアな 眼差し。作者はどんな国に生きる、どんな状況下の人間でも、等身大の生活とその主観をリアルに描き出す。》
https://www.yomiuri.co.jp/culture/book/reviews/20250519-OYT8T50031/
4月12日付沖縄タイムスは岡和田晃による書評を掲載している。共同通信の配信だ。
《モノというフィルターを通じて、人間同士の悲喜劇が可視化される。日本でも一世を風靡したシドニー・シェルダンのサスペンス小説で見られた手法であるが、本書はそうしたスタイルを踏襲しつつも、欲望同士のぶつかり合いを読者に突きつけて終わらない。多様な立場を描きぬくことで、ビジョンの先鋭さと引き換えに、リーダビリティー(読みやすさ)をもたらすのに成功している。》
https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/1563093
門井慶喜は青柳碧人の「乱歩と千畝 RAMPOとSEMPO」を「楕円形の歴史小説」と評している。
《そう、これは乱歩と千畝だけではない。その二つの焦点を楕円状に取り囲むすべての人の物語なのだ。読後の印象ののびやかさ、ふところの広さは格別である。青柳碧人はこの一作によって、いきなり歴史小説の大物となった。》
https://www.shinchosha.co.jp/book/356271/
谷津矢車がポストしている。
《版元さんよりご恵贈いただいた青柳碧人『乱歩と千畝:RAMPOとSEMPO』(新潮社)、まことに面白かった。「もしも江戸川乱歩と杉原千畝が知り合いだったら」という蓋然性の高いIF(二人は同じ学校の先輩後輩の関係にある)で、ここまで豊かな歴史小説を構築できるとは!》
https://x.com/yatsuyaguruma/status/1923980503134372139
末國善己は「小説丸」で次のように評している。
《1919年。大学卒業後に職を転々とし、今は弟2人と古書店「三人書房」を営みつつ夜鳴きそばの屋台を引いている平井太郎(後の乱歩)は、早稲田大学の近くにある蕎麦屋「三朝庵」に入りカツ丼を頼んだ。相席になった乱歩は、目の前の学生が愛知五中の茶封筒を持っているのを見て声をかける。その学生が千畝だった。
子供の頃から父親に医者になるよういわれていたが魅力を感じず、かといってやりたいことも見つからず、漠然と好きな語学が活かせる仕事がしたいが留学の費用はない千畝は、太郎が新聞で見つけた外務省の官費留学生試験を受ける。一方、少年時代から探偵小説や怪談が好きだった太郎は会社勤めが苦手で、作家になりたいと思いながら実現できないでいた。まだ何者でもなかった2人が、迷い苦しみながら、そして互いに影響を与え合いながら進むべき道を模索する前半は、秀逸な青春小説になっている。》
https://shosetsu-maru.com/recommended/toretate/202506_4
アルパカ内田は芦沢央の「嘘と隣人」について次のようにポストしている。
《『嘘と隣人』芦沢央(文藝春秋)の主人公は刑事を引退した男。些細な違和感。歪んだ正義。疑惑から膨らむ負のオーラ。ままならぬ人間関係から芽生えた悪意、そして狂気の事件。欝屈した感情により変化する日常風景。身近に潜んだ鮮やかな闇に打ちのめされる!》
https://x.com/office_alpaka/status/1927684451560997288
藤原あかりのポスト。
《「嘘と隣人」芦沢央 #読了
観察眼の鋭い元刑事を主人公にした短編集。
自己愛や保身によって生まれる悪意が元となり、取り返しのつかない事態が引き起こされる。
日常の延長線の話ばかりなので構えずに読めるが、身近であるがゆえのリアルさがあって怖かった。シリーズ化してほしいおもしろさ。》
https://x.com/akari_f93/status/1923253837030134035
「WEB本の雑誌」は高頭佐和子による【今週はこれを読め! エンタメ編】で塩田武士の「踊りつかれて」を取り上げている。
《軽い気持ちで誹謗中傷をしたり、平気で虚偽報道をした人々が、返り討ちに合って気分スッキリ......という読後感を想像する人もいるかもしれないが、決してそうではない。何者でもなく、恵まれた子供時代を過ごしていたとは言い難い二人が、才能という一本の糸を頼りに這い上がり、たくさんの人がそれを大きく育てようとするさまが、それぞれの時代と業界の熱気や勢いとともに描かれていく。とりわけ、80年代の音楽業界の中心で活躍した人々の姿には、ノンフィクションのような臨場感があり、惹き込まれる。
全て出尽くしたと思った後も、次々と畳みかけるように衝撃的なエピソードが描かれていく。テレビやスマホの画面越しには見えなかったであろう光と闇を、天童ショージと奥田美月は持っている。心奪われ、最後まで一気に読むしかなかった。》
https://www.webdoku.jp/newshz/takato/2025/06/09/113000.html
6月6日付讀賣新聞で宮部みゆきは「踊りつかれて」をこう評価している。
《読者を引率してくれる視点人物は女性弁護士なので、名誉 毀損の法的解釈や公判までの手続きなど、リーガルサスペンス的な読みどころもある。しかし、塩田作品のいちばんの魅力といったら 錯綜する重層的な人間ドラマだ。随所に一時代前の音楽業界の裏話が出てくるのも興味深い。》
https://www.yomiuri.co.jp/culture/book/reviews/20250602-OYT8T50044/
6月14日付沖縄タイムスは吉野仁による共同通信配信の書評を掲載している。
《とくに後半、奥田美月がたどった波瀾万丈の半生が克明に描かれ、その厳しさとすごみに圧倒された。テレビの歌番組が全盛だった時代を知る人ならば、昭和歌謡史に刻まれたまぶしい光とその知られざる影をまざまざと重ねて見る思いだろう。高い能力を持つがゆえに有名になった者が、心ない連中につぶされてしまう現実とともに、題名の「踊りつかれて」の意味をしみじみと考えさせられた。》
https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/1604063
スターツ出版文庫アンチブルーがポストしている。
《スターツ出版文庫アンチブルーから刊行もしている夏木志朋さんの『Nの逸脱』が直木賞候補に選出されました!》
https://x.com/Antiblue_25/status/1933102690776875137
俳優みやなおこがポストしている。
《姪っ子の夏木志朋の2冊目の作品『Nの逸脱』が、直木賞の候補に選ばれました^^
なんか実感ない…すごい…
先月、2人でご飯食べた時に、一応サインしといて~と、してもらったばかりで、まさか、まさか…です
私からも、本を読んでくださった皆様に感謝です^^》
https://x.com/miyanaoko38/status/1932946604774076526
5月16日付讀賣新聞は柚月裕子の「逃亡者は北へ向かう」を書評している。評者は解剖学者の遠藤秀紀。
《円熟の力強い筆である。この人のストーリーテリングは、私の感性にぴったりと合う。》
《流行の特殊設定小説に食傷気味の読者も多かろう。私も、物語空間は特殊であるよりは、自然な方が好きだ。奇をてらわずに、重く、深く、 緻密 に人物の心を描く。それが書き手の揺るがない実力であると信じる。本作は災害という重い事実を導入しながら、最後まで自然に、登場人物に人生を歩ませようとする。
既に、震災を背景にした様々な文学が生まれている。そして十四年を経て、柚月裕子の確かな筆をもって、津波の悲しみと自然な人生がいま丁寧に重ね合わされた。傑作である。》
https://www.yomiuri.co.jp/culture/book/reviews/20250512-OYT8T50069/
nippon.com」は滝野 雄作による書評を公開している。
《もうひとり重要な登場人物がいる。真柴を取り調べた、さつき東警察署のベテラン刑事・陣内康介だ。彼の一人娘も震災で行方不明となり、捜索に半狂乱となる妻を手助けしたいものの、職務を優先すべきという葛藤で苦しんでいる。陣内も逃亡する真柴の追手に加わるが、彼の不幸な生い立ちを調べ、北へ向かった事情に思いが至った陣内は、体育館の扉を挟み、投降するよう説得を試みる。その結末は──。
あとは読んでみてのお楽しみだが、エピローグは明るい将来を予見させるとだけ伝えておきたい。本作には、誰のせいでもない、自分で乗り越えていくしかない、というメッセージが込められている。柚月氏の両親の遺体は、震災からそれぞれ2,3週間後に自衛隊員の手によって発見された。遺体安置所で、ブルーシートに覆われた遺体の頭のそばに、着ていた服など遺品を入れた袋が置かれており、父親の腕時計が形見として残された。》
https://www.nippon.com/ja/japan-topics/bg900561/
◎が逢坂冬馬「ブレイクショットの軌跡」で、〇が塩田武士「踊りつかれて」。▲が柚月裕子「逃亡者は北へ向かう」。☆は夏木志朋「Nの逸脱」。直木賞は二作同時受賞もあるかもしれない。


3)大川原化工機冤罪事件に加担した報道機関の責任

東京新聞デジタルは6月11日付で「大川原化工機側『7年の心の雲、やっと晴れた』 冤罪事件で警視庁と東京地検が上告断念、直接謝罪へ」(西川正志、井上真典、昆野夏子)を掲載している。
《大川原化工機の冤罪事件を巡る訴訟で、警視庁と東京地検は11日、いずれも上告しないことを表明した上で、同社に謝罪する意向を表明した。同社側は会見で喜びをかみしめつつも「やっとスタートラインに立った」とし、再発防止への取り組みを求めた。》
《相嶋さんの長男(51)は「どんな謝罪なら心が癒えるのか。気持ちの整理がつかず、怒りが沸いてくるかもしれない。形式的でなく、人としてちゃんと謝ってほしい」と述べた上でこう語った。
「取り返しのつかないことをやった事実は変わらない。あとは『生きている人が子孫のためにどのように社会を変えるかだ』って、父は言っている気がします」》
https://www.tokyo-np.co.jp/article/411081
この日の会見で「相嶋さんの長男」はもっと重要なことを語っているのだが、東京新聞はこれをスルーした。こういうことだ。毎日新聞デジタルは6月11日付で「遺族『メディアも報道姿勢の検証を』大川原化工機冤罪で記者会見」(遠藤浩二)を掲載している。
《長男の怒りは、会見に出席していたメディアにも向いた。
「メディアの皆さんには申し訳ないが、一言申し上げます。警察の情報を丸のみにして報道する姿勢、(逮捕時の)2020年3月にやったことを皆さん自身でも検証してください。一部のメディアは警視庁の見解を訴訟の間も垂れ流していた。検証の対象はメディアの皆さんも含まれている」》
https://mainichi.jp/articles/20250611/k00/00m/040/309000c
残念ながら毎日新聞は今日に至るまで検証していない。
朝日新聞は検証記事を掲載している。6月12日付「会社側の否定、掲載せず『大川原化工機』冤罪事件、朝日新聞社報道を検証」がそうだ。
《朝日新聞が最初に紙面で取り上げたのは、2020年3月12日。》
《そこでは逮捕容疑について、「経済産業相の許可を得ずスプレードライヤ1台を中国に輸出した疑い」と記述。「大川原容疑者らは申請書類で性能を偽っていたという」とも言及した。担当記者は同社に取材し、スプレードライヤが経産省への申請が必要な商品ではない、と容疑を否定する見解を聞き取り、記事に盛り込んでいた。この見解を掲載すべきだったのに価値判断を誤り、結果的に掲載されなかった。デジタル版も紙面と同じ内容だった。》
結局当局側の発表を鵜呑みにしてしまったのである。そう、記者クラブ制に安住してしまったのである。
そうした記事は起訴が取り消されてもデジタル版を修正することなく公開をつづけていた!新聞の書きっ放し体質を露呈させてしまった。
《21年7月30日、病死した元顧問の相嶋静夫さんを除く2人への起訴が取り消されたが、逮捕容疑を前提とした3本のデジタル記事をそのまま公開していた。
9月に入り、関係者を改めて取材する過程で、相嶋さんの遺族から指摘を受けた。起訴取り消しから約2カ月後の同下旬、公開を終了したり、起訴が取り消されたとの「おことわり」を付記したりする対応をとった(修正した記事も社内ルールにより公開期間終了)。》
朝日新聞には大川原化工機社長・大川原正明も報道のあり方を問うている。
《起訴取り消し後、事件がどう報道されたのか確認しました。朝日新聞は、私たちが最初に逮捕されたことを報じた記事で、容疑を否定しているという会社の見解を載せてくれなかった。警察の発表を一方的に記すだけでした。》
《自分自身が反論できない中で、会社は「違法なことはしていない」と訴えていました。新聞記事でこうした主張を載せていただけなかったことに、不信感を持ちました。
逮捕に至る前の任意の聴取で、私たちは違法性を否定していました。でも警察は私たちを逮捕した後、認否を明らかにしなかった。否定していたことは、ちゃんと言わなきゃだめだと思います。メディアもそれを求めないといけない。
警察取材では「逮捕」するということに焦点が行き過ぎていると考えます。本当に逮捕しなければならない事件なのか、メディアはきちんと切り込む必要があるのではないでしょうか。》
「相嶋静夫さんの長男」は朝日新聞を名指しで批判している。
《起訴取り消しから1カ月以上経っても、父の名前と逮捕容疑が記された記事が朝日新聞のサイト上に残っていました。記事には、会社に対して「収益優先か」など警視庁の見立てをそのまま書いており、非常に悪意を感じ、傷つきました。
警視庁が報じてほしいことを、メディアが報じていると感じます。それは警察が正しいという前提だから成り立つもの。警視庁はメディアからの信用を悪用し、メディアはうまく操られた結果、父や会社が大きな被害を受けました。メディアにばれてしまうから、うそはつけない――メディアはそういう役割であってほしい。
警視庁はメディア向けに逮捕を演出し、逮捕を勲章にしていると感じました。しかし、その裏には推定無罪の原則があるはずです。少なくとも逮捕の時点では実名を報じないでほしいです。
逮捕、起訴の段階で、メディアが違法捜査を見抜くことはリソースの問題などから難しい面もあると思います。今回は、会社側に丁寧な取材をしていれば、「おかしい」と思ったのではないでしょうか。個々の記者の問題ではなく、これまでの事件報道のあり方や、業界の流れにのった行動の結果だと思っています。》
https://digital.asahi.com/articles/DA3S16233368.html
朝日新聞はこのように検証記事を掲載しているが、社説ではこの問題を無視して、取り上げていない。本来、社説で謝罪するのが筋ではないだろうか。
朝日新聞は5月29日付で社説「違法な公安捜査 冤罪生んだ背景検証を」を掲載し、こう書いている。
《事件は警察が主導し、検察、経産省が加担した「権力の犯罪」といえるのではないか。》
https://digital.asahi.com/articles/DA3S16223821.html
これは正確ではない。事件は警察が主導し、検察、経産省、新聞が加担した「権力の犯罪」といえるのではないかと書くのが正しかろう。


4)蓮池薫「日本人拉致」(岩波新書)が国会書店で売れてない!?

拉致被害者の蓮池薫が岩波書店から新書「日本人拉致」を刊行した。朝日新聞デジタルは6月14日付で「解決のため『もはや隠すことない』蓮池薫さんが初めて語る拉致体験」(北野隆一)を掲載している。蓮池は次のように語っている。
《「ええ。97年に拉致被害者家族会が結成されたことも、日本の新聞記事で知りました。90年に金丸信・元副総理が訪朝する前には、金丸氏が尊敬する武田信玄に関する資料の翻訳を命じられました」
「2000年夏には対外情報調査部の担当副部長から、『柏崎の海岸から船で沖合に出て遭難し、北朝鮮の船に救助された』という虚偽のシナリオを覚えさせられました。ところが、02年に小泉純一郎首相の訪朝が決まると話が変わり、『シナリオは説明しなくてもいい』と担当の幹部から言われました。同年9月17日の日朝首脳会談で、金正日氏は姿勢を大きく方向転換し、拉致を認めて謝罪しました」》
https://digital.asahi.com/articles/AST6B4SH8T6BUTIL01DM.html
新潟日報は5月19日付で「『人生の集大成』蓮池薫さん岩波新書『日本人拉致』5月20日出版、拉致の目的・北朝鮮での思想教育の実態つづる」を掲載している。
《5章編成で、1章は北朝鮮が主張する「8人死亡」が虚偽であることなどを明らかにし、2章では、拉致の目的を蓮池さんの体験や資料に基づいて記した。3章では、拉致は失敗で北朝鮮にデメリットをもたらしたと指摘。4、5章では、蓮池さんが北朝鮮から受けたマインドコントロールや任務などについて、実体験を詳細につづっている。
特徴的なのは、論理的に拉致問題について整理した上で、拉致の首謀者として故金正日(キムジョンイル)総書記の名を挙げた点だ。「拉致を(金正日氏が)指示したからこそ、私は抹殺されずに生き残った」。最高指導者に責任があることを、自身の生存が証明していると訴える。》
https://www.niigata-nippo.co.jp/articles/-/610134
「平安のステキな!女性作家たち」(岩波ジュニア新書)などの著書で知られる国文学者の川村裕子がポストしている。
《★おすすめ本――『日本人拉致』(蓮池薫、岩波新書)。蓮池先生は新潟産業大学のもと同僚です。また帰国したお嬢さん。彼女のゼミと卒論の指導教授を拝命しておりました。文科省宛だけではない書類を書いたり、編入単位補填のために彼女+SP二人(危険なので)に『古今和歌集』(彼女のたっての希望)の講義をしたり貴重な体験をいたしました。
蓮池さんが拉致されて24年間、諦めずに運動をされたご家族の方々、そして柏﨑の市民の方々に敬意を表したいと思います。もちろん大変な思いをされた蓮池さんご一家にも……。毎年柏﨑の高校生といっしょに和歌や詩の朗読をする「ことばのひびき」にも参加していただき幸甚でした。同年齢ということでいろいろとお話することもあり、勉強になりました。まだまだ問題は解決してませんよね。今後の進展を心よりお祈り申し上げます。》
https://x.com/kagekageko/status/1934233740668248250
兄の蓮池透がポストしている。
《北朝鮮で「用済み」となった弟は抹殺されても不思議ではなかった。そんな弟が、客観的に北朝鮮の拉致の思惑やそれが奏功したのか、マインドコントロール等の実態を分析した著書 #日本人拉致 は、貴重な記録となるだろう。》
https://x.com/1955Toru/status/1925644246335328652
永田町界隈では話題になるだろうと私などは思っていたのだが、それが早合点であったことを有田芳生が6月14日に発表したポストで知る。何と国会の書店では売れていないという。
《とても貴重な著作です。
でも国会の書店には10冊入りましたが、売れたのはゼロ。ブルーリボンバッヂを議員も秘書も多くが付けていますが蓮池本に関心はないのでしょう。そんな欺瞞を乗り越えて増刷になってよかった。蓮池さんは「すべて」を語っていません。帰国後の政府への証言は書いていません。自由に語れる日を作らないといけない。そう思います。》
https://x.com/aritayoshifu/status/1933857175799275614
岩波新書編集部が有田をリポストしている。
《国会議員の皆さんにはぜひ読んでいただきたい一冊です。》
https://x.com/Iwanami_Shinsho/status/1933865246764183805
6月15日、有田は再びポストしている。
《国会には書店が一つしかありません。参議院にある成文堂書店です。そこに蓮池薫さんの新書は10冊入荷。ところが1冊も売れません(僕は銀座「教文館」で買いました)。そこで議員の各部屋に宣伝チラシが配られました。拉致問題解決の意思を表すというブルーリボンは議員や秘書の胸にあるのを多く眼にします(僕は実際の交渉の意思があるので付けない)。明日にでも売れ行きの様子を聞いてみます。》
https://x.com/aritayoshifu/status/1934055179294548065
有田のように街の書店で購入した議員もいるのだろうが、それでも国会内の書店で10冊置いて一冊も売れないという現実は「日本の政治」を象徴している風景なのかもしれない。議員からすれば本を読んだところで票に結びつかないと考えているのだろう。


5)公取委が小学館、光文社にフリーランス法違反で初勧告

共同通信は6月17日付で「フリーランス法違反で公取初勧告 小学館と光文社、期日に報酬なし」を配信している。
《雑誌編集に関わったフリーのライターやカメラマンに取引条件を明示せず、報酬を期日までに支払わないなど、フリーランス法違反に当たる行為があったとして、公正取引委員会は17日、出版大手の小学館と光文社(いずれも東京)に取引の適正化や再発防止を求めて勧告した。公取委によると、昨年11月の同法施行後で勧告は初めて。》
《小学館はフリーランス約2千人、光文社は約4千人と取引があるとされる。》
https://www.47news.jp/12734642.html
朝日新聞デジタルは6月17日付で「小学館と光文社、フリーランス法違反で初勧告 報酬を期日内に払わず」(高島曜介)を掲載している。
《公取委の発表によると、小学館は昨年12月1~31日、月刊誌や週刊誌の制作でライター、写真家、イラストレーター、ヘアメイクなどのフリーランス191人に業務委託をする際、報酬の支払期日といった取引条件を明示しなかった。また、報酬を法定の期日内に支払っていなかったという。
光文社は昨年11月1日から今年2月27日、フリーランス31人との取引で同様の違反をしていた。》
https://digital.asahi.com/articles/AST6K1RGMT6KUTIL02FM.html
公正取引委員会は6月17日付で「株式会社小学館に対する勧告について」「株式会社光文社に対する勧告」についてを発表している。前者を引用しておこう。
《2 違反事実の概要
(1) 小学館は、個人であって、従業員を使用しないもの又は法人であって、一の代表者以外に他の役員がなく、かつ、従業員を使用しないもの(以下「特定受託事業者」という。)に対し、自らが出版する月刊誌及び週刊誌に関する原稿、写真データ、イラスト等の作成、ヘアメイクの実施等を委託している(以下、これらの委託を「本件業務委託」と総称する。)。
(2)  小学館は、令和6年12月1日から同月31日までの間、特定受託事業者191名に対し本件業務委託をした際に、直ちに、特定受託事業者の給付の内容、報酬の額、支払期日その他の事項(フリーランス・事業者間取引適正化等法第3条第1項に規定するものをいう。以下「明示事項」という。)を、書面又は電磁的方法により当該事業者に対し明示しなかった。
(3)小学館は、令和6年12月1日から同月31日までの間、特定受託事業者191名に対し本件業務委託をした際に、直ちに、報酬の支払期日を当該事業者に明示しておらず、当該事業者に対し、当該事業者の給付を受領した日又は当該事業者から役務の提供を受けた 日までに報酬を支払わなかった。
3 勧告の概要
(1) 小学館は、フリーランス・事業者間取引適正化等法を遵守する体制を確立するため、次の措置を講ずること。
 ア 次の事項を取締役会の決議により確認すること
  (ア) 前記2(2)の行為が、フリーランス・事業者間取引適正化等法第3条第1項の規定に違反するものであること
  (イ) 今後、特定受託事業者に対し業務委託をした場合に、直ちに、明示事項を、書面又は電磁的方法により当該特定受託事業者に対し明示す ること
  (ウ) 前記2(3)の行為が、フリーランス・事業者間取引適正化等法第4条第5項の規定に違反するものであること
  (エ) 今後、特定受託事業者に対し業務委託をした場合に、当該特定受託事業者に対し、フリーランス・事業者間取引適正化等法第4条第1項の規定により定められた支払期日までに報酬を支払うこと
 イ 令和6年11月1日から令和7年6月17日までの間に、特定受託事業者191名に対し業務委託をした内容と同種又は類似の内容の業務委託をした特定受託事業者に係る取引について、フリーランス・事業者間取引適正化等法第3条第1項及び第4条第5項の観点から問題が生じていなかったのかを調査し、問題が認められた場合には、特定受託事業者に係る取引の適正化のために必要な措置を講ずること
 ウ 以下について、自社の役員及び従業員に対するフリーランス・事業者間取引適正化等法の研修を行うなど社内体制の整備のために必要な措置を講ずること
  (ア) 今後、特定受託事業者に対し業務委託をした場合に、直ちに、明示事項を、書面又は電磁的方法により当該特定受託事業者に対し明示すること
  (イ) 今後、特定受託事業者に対し業務委託をした場合に、当該特定受託事業者に対し、フリーランス・事業者間取引適正化等法第4条第1項の規定により定められた支払期日までに報酬を支払うこと
(2) 小学館は、前記(1)に基づいて採った措置を自社の役員及び従業員に周知徹底すること。
(3) 小学館は、前記(1)及び(2)に基づいて採った措置を取引先特定受託事業者に通知すること。
(4) 小学館は、前記(1)から(3)までに基づいて採った措置を速やかに公正取引委員会に報告すること。》
https://www.jftc.go.jp/houdou/250617_fl_syogakukan.html
https://www.jftc.go.jp/houdou/250617_fl_kobunsya.html
小学館は6月17日付で「公正取引委員会からの勧告について」を広報室名義で発表している。
《本日、公正取引委員会より、当社による特定受託事業者の皆様との契約及び支払いにつきまして、昨年11月1日に施行されました「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(以下「フリーランス法」といいます。)の第3条第1項(給付の内容、報酬の額、支払期日その他の事項の明示義務)及び同法第4条第5項(第4条第1項若しくは第3項に定める支払期日までの支払い義務)の違反がありましたことに関し勧告(以下「本勧告」といいます。)を受けました。当社は本勧告を重く受け止めますとともに、本勧告に関わる特定受託事業者の皆様にご迷惑をおかけし、当社と取引のあるすべての関係者の皆様にもご心配をおかけする事態となりましたことを深くお詫び申し上げます。
今後は、当社内に特別対策委員会を設置し、調査を行い、対策を講じてまいります。同様の問題が発生することのないよう、本勧告の内容を役員及び従業員に周知徹底致します。また、あらためてすべての部署を対象にしたフリーランス法に関する研修の実施、業務委託をする際の発注手順の検証、支払い状況のモニタリング体制の強化などを推進し、全社一丸となって法令遵守を徹底してまいります。》
https://www.shogakukan.co.jp/news/476969
光文社は6月17日付で「公正取引委員会からの勧告について」を発表している。
《株式会社 光文社(本社:東京都文京区、代表取締役社長:巴一寿/以下、光文社)は、本日、公正取引委員会から、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法/以下、フリーランス新法)の適用対象となるフリーランスの方々との取引に関して、フリーランス新法に基づく勧告(以下、本勧告)を受けました。
本勧告に直接関わる全ての方々をはじめ、多くの関係者に多大なるご迷惑、ご心配をおかけしましたことを深くお詫び申し上げます。

本勧告の概要
光文社は、フリーランス新法第3条「特定受託事業者の給付の内容その他の事項の明示等」および同第4条「報酬の支払期日等」が守られていないものと判断され、勧告を受けました。
フリーランス新法への光文社の姿勢
光文社は、フリーランス新法施行前の2024年10月に2日間に亘り社員向けの研修を実施いたしました。しかしながら長年の商慣習において、電話などでの口頭による発注や、新法が示す法令期日内の支払いにずれが生じていました。本勧告を真摯に受け止め、役員及び従業員に周知徹底するとともに、2025年6月16日にも緊急の社内研修を再び実施いたしました。今後も、定期的に行ってまいります。また、取引条件等を明示した共通発注書による業務委託の徹底と、支払い管理体制の再構築に全社をあげて取り組み、社内手続きや業務遂行状況をモニタリングして、法令遵守を徹底してまいります。》
https://www.kobunsha.com/news/0000000172/
編集・ライターの佐久間 功がポストしている。
《あ~、まず大手から。というか見せしめか? 従来通り適当にはできないんだよという話で(いまのところ勧告だけだけどね)》
https://x.com/Biz_Sakuma/status/1934959332766220489
こんなポストも発表されている。
《小学館と光文社が、フリーランス法違反で、公取から勧告されたね。両社とも色々と言ってるが「フリー、なめてた」って事だろう。一流企業でこうなのだから、中小はフリーを「人」とは思っていないだろう。フリーの方も「コイツラ、俺の事を農耕馬くらいにしか思ってないな」と考えた方がいいかもね。》
https://x.com/Ensouzan/status/1934973065139732652


6)著者の執念×編集者の執念が生んだ超絶鈍器本が話題になっている!

とんでもない書物を発見してしまった!924ページ、二段組、1080グラム、4500円の鈍器本。小林篤の「see you again」。版元は講談社。香川・岡山のTV報道記者・山下洋平が「どえらい」という言葉を使ってポストしている。
《どえらいノンフィクションが出るぞ!
小林篤『see you again』講談社刊・6月4日発売
30年前に起きたいじめ自殺事件。亡くなった中学生の遺書の不可解さにとらわれたルポライターが、生涯をかけて追いつづけた謎は、はたして解けたのか? いじめた人、いじめられた人、傍観していた人――すべての人が読むべき空前絶後の大作。
小林篤さんといえば、清水潔さんより前に足利事件の冤罪性に気づき、大作『幼稚園バス運転手は幼女を殺したか』を2001年に刊行した、伝説のルポライター!
その小林さんが30年追いかけた、1000ページ近い作品とあれば、すさまじい本の予感しかしない!!
……と朝から一人で興奮してしまったので、ノンフィクション好きに伝えたい。》
https://x.com/y0he1_yamash/status/1926072442172146038
しかし、厳密に言えばノンフィクションではない。講談社の公式サイトには、こう紹介されている。
《1994年11月27日、愛知県西尾市立東部中学校2年生の上之郷清人が、自宅の柿の木にロープをかけて命を絶った。100万円を超える恐喝、死の恐怖にさらされた暴行。遺書には凄惨ないじめが克明に綴られていた。
日本中が涙した遺書に、ルポライター小林は強い違和感を覚え、新幹線に飛び乗る。それが30年に及ぶ謎解きの旅の始まりだった。隠蔽する学校、口を閉ざす教師たち。いじめにかかわった生徒は加害者と被害者が複雑に入り組み、数十人にのぼる。全面協力してくれた清人の家族も、心の奥底までは明かさない。小林の取材は暴走と挫折を繰り返し、とりあえずのゴールにたどりついたのは10年後のことだった。結論は、執筆断念。すべてを書くにはあまりにも関係者の不都合な事実に踏み込みすぎていた。
それでも遺族や関係者との親交、断続的な取材と思索の旅はつづく。ついに執筆を決断したとき、小林はノンフィクションを放棄し、すべてを架空の物語として書く道を選択する。新幹線に飛び乗った不惑のルポライターは、古稀を迎えていた――。》
https://www.kodansha.co.jp/book/products/0000404038
真実を書くにはノンフィクションであることを放棄しなければならなかったというわけだろう。
こんなポストを発見した。
《講談社から小林篤のノンフィクション「see you again」
大河内清輝君いじめ自殺事件(1994年)のノンフィクションと思われる。
月刊「現代」はなくなり、「g2」もなくなり、「週刊現代」は隔週現代になったけれども、「現代」という講談社のノンフィクション水脈は生きている
そんな感慨を覚える。》
https://x.com/urbansea/status/1926101387286389165
小林篤の記者としての「執念」が結実した作品であることは間違いあるまい。小林の「執念」を支えたのは編集者の「執念」でもあったようだ。この編集者は講談社を5年前に退職しながらも小林に原稿の催促をしつづけたようだ。その編集者の名は矢吹俊吉。今では野間道場の剣士として知られている。矢吹は「see you again」の完成に際して関係者に一斉メールをしている。概ね次のような内容のメールであったようだ。
《この本は30年前、私が雑誌編集者だった時代に連載したいじめ自殺事件がテーマです。
私が知るかぎり、ひとつの事件をここまで取材した本は空前絶後。
あまりに深く取材しすぎた小林さんはなんども執筆を断念。
私は催促しつづけたものの、5年前に退職となりました。
このまま書かずに済ませてなるかとさらに催促をつづけ、
ついに完成したというわけです。
924ページ、4500円。
規格外の本ですが、はっきり言って傑作です。
退職したあとになって、
私の長い編集者人生でも最高の本に関われたのは望外の幸せでした。
恥ずかしながら若いころの私もちょい役で出てきます。
ご興味のある方はぜひ買って読んでください。
よろしくお願い申し上げます。》
講談社ブルーバックスの公式アカウントがポストしている。
《写真だと伝わりにくいですが、まさに超鈍器本。
企画会議で900ページ超えの本書の提案を聞いたとき、編集部員全員が次々に「嘘でしょ」「無理でしょ」「削るでしょ」と口にしましたが、本当にそのまま刊行されました。
著者の小林篤さんの執念によって生まれた本です。》
https://x.com/bluebacks_pub/status/1932018312298512674
小林篤にとって、驚くべきことにこれが二冊目の単行本である──小林は2001年に「幼稚園バス運転手は幼女を殺したか」を刊行し、これを改題し文庫化した「足利事件 冤罪を証明した一冊のこの本」を刊行したのが2009年。実質、四半世紀ぶりの出版となる。小林篤と矢吹俊吉の「執念」が実ったのである。二人は同年齢だという。二人の「執念」によって生まれた「see you again」は間違いなく買いだ。私はアマゾンをポチッた。


7)イラン国営放送が生放送中に受けた爆撃は世界でどう伝えられたか

すでに多くのメディアが報じているように、イスラエル軍はイラン国営放送の施設が「軍事利用されていた」として、イランの首都テヘランにある国営放送局を爆撃した。衝撃的なのは、情報インフラであるメディア企業とその放送施設が標的になったこと、そしてそのときの映像が世界に配信されていることだ。
まずは日本のNHKの報道を紹介する。

イランのメディアは、国営放送局が16日夜に生放送中に攻撃を受けたと伝え、映像では女性キャスターがスタジオで話している最中に突然、大きな音がしてあたりが暗くなり、白い煙が広がりました。
その後、放送は再開し、女性キャスターは別のスタジオとみられるところからニュースを伝えています。

「イスラエルがイラン国営放送局攻撃 イラン“全面戦争の準備”」(NHK)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250616/k10014836911000.html
これについて、各国のニュースがどう伝えているのだろうか。
共同通信は《イラン国営テレビは生放送中に攻撃を受け、司会者が避難する様子が放映された。イスラエル軍は事前に攻撃を強化すると警告し、周辺住民に退避を通告していた。》と伝えている。
「イラン国営テレビ本部を攻撃 イスラエルの石油施設も被害」(共同通信)
https://nordot.app/1307455310029406536
フランスに拠点を置く通信社AFPは、《イスラエルのイスラエル・カッツ国防相は16日、イランの首都テヘランの国営イラン放送(IRIB)が拠点を置く地区に避難警報が発令されたことを受け、同局が「間もなく消滅する」と述べた。
》と伝えている。
「国営イラン放送は『間もなく消滅』 イスラエル国防相」(AFP)
https://www.afpbb.com/articles/-/3583676
また、《イラン外務省のエスマイル・バカイ報道官は、生放送中のIRIBビルへの攻撃は「邪悪な行為」であり「戦争犯罪」だと非難》したことも報じている。
「イラン、イスラエルの国営放送攻撃を『戦争犯罪』と非難」(AFP)
https://www.afpbb.com/articles/-/3583680
さらにその動画も配信している。
《イスラエルは同日、IRIBビルを攻撃し、生放送を中断させた。イランメディアによると、司会者が生放送でイスラエルを非難していた時に爆発が起きた。生放送は中断されたが、間もなく再開された。》
「動画:イラン国営放送、生放送中に攻撃される 『戦争犯罪』と非難」(AFP)
https://www.afpbb.com/articles/-/3583708
米国に拠点を置くAP通信はこう報じている(参考訳)。
《イラン外相の報道官であるエスメイル・バカイは、この攻撃を非難し、国際社会に対し、メディアに対する攻撃についてイスラエルに正義を求めるよう呼びかけた。「イランの通信社 #IRIB の事務所を生放送中に攻撃したことは、戦争犯罪の邪悪な行為である」》
「Israeli strike on Iranian state TV fills studio with dust and debris during live broadcast」(AP)
https://apnews.com/article/iran-israel-irib-state-tv-air-strike-9ab46d05baeb354a6596bd09aa12a2d6
英国ロンドンに拠点を置くロイターではこう伝えている。
《イスラエル国防相は、地元住民が避難した後に放送局を攻撃したと表明。イランのテレビでは、攻撃があった際にニュースキャスターが慌てて席を立つ映像が流れた。》
「イスラエル、イラン国営テレビを攻撃 イランは『最大規模』報復予告」(ロイター)
https://jp.reuters.com/markets/commodities/ETCJMWXED5IHTLOJKUQHCQGGBU-2025-06-16/
米国CNNも同様の映像を配信している。
《イスラエル軍(IDF)は16日、イラン国営テレビ局の「IRINN」のスタジオを攻撃したと発表した。IRINNは国営イラン放送(IRIB)の一部。》
「イスラエル、イラン放送局への攻撃を認める 生放送中に爆発音」(CNNニュース)
https://www.cnn.co.jp/world/35234349.html
また、英国BBCは爆撃時の映像とともに、こう報じている。
《複数の従業員が負傷したと、国営テレビは発表した。記者の1人は、みんな「攻撃を受ける直前まで働いていた」と述べた。》
「生放送中に爆発音と粉じん、イラン国営テレビをイスラエル空爆」(BBCニュース)
https://www.bbc.com/japanese/articles/c20rlzz67x4o
中東カタールに拠点を置くアラビア語と英語でのニュースメディアALJAZEERA(アルジャジーラ)では、テヘラン大学の国際関係論の教授であるフォード・イザディのコメントを紹介している。
《巨大なビルだ。イランのニュースチャンネルは1階にある。このビルは4階建てで、どの階にも少なくとも200人から300人が働いている。イザディ氏は、この攻撃が国際的な怒りを呼び、国際的なメディアによって非難されることを期待している》
「Israel bombs Iran’s state TV after threatening it would ‘disappear’」(ALJAZEERA)
https://www.aljazeera.com/news/2025/6/16/israel-bombs-irans-state-tv-after-threatening-it-would
このように映像とともに、報道機関を攻撃したことの衝撃が世界中に向けて配信されている。かつての湾岸戦争の時代にリアルタイムでの爆撃映像がテレビで流れたことにも衝撃を受けたが、こうして生放送中の番組でキャスターが避難し、放送が中断するという映像は衝撃的だ。
最後に、佐賀新聞では、かつてイラン国営放送に勤務したことのある同県在住の上野菜穂子の《現地の友人は「大丈夫、心配しないで」と伝えてくれたが、気が気でない時を過ごしている。》というコメントを掲載している。さらに、記事では上野の経歴をこう紹介している。
《上野さんは大阪外語大(現大阪大)でペルシャ語を学び、02年にイランの国営放送局に就職した。ラジオの国際放送を手がける部署で、日本語の原稿をつくる仕事をしていた。放送の主な目的は、政府の考えを世界に向けて発信することだったという。》
「イラン国営放送元職員の上野菜穂子さん(有田町)、かつての職場が…映像に心痛め イスラエルの攻撃激化」(佐賀新聞)
https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1486932
こうした有事にあって、デジタルネットワーク時代の象徴的な出来事と言えるのは、インターネットを経由してメディアの映像が送られてきたり、1対1でのコミュニケーションが可能であったりするということだ。ウクライナ情勢のときも感じたが、デジタルネットワークは完全には破壊されずに生き残っていて、完全に停止したという報道はあまり聞かないのだが、情報ライフラインである通信や放送のインフラはどういう状況にあるのだろうか。


8)「オールドメディアvsソーシャルメディア」という対立を超えて

米国ロイター研究所が発表した「Digital News Report 2025」によると、米国の成人の54%が、ニュースをソーシャルメディアや動画プラットフォームから得ているという。そして、テレビは50%、オンラインニュースサイトは48%となっており、直近の調査ではこれらの「オールドメディア」を逆転した。特に、若年層がソーシャルメディアや動画プラットフォームを利用していて、高齢者はテレビを利用していることが顕著に表れている。
「Overview and key findings of the 2025 Digital News Report」(Digital News Report)
https://reutersinstitute.politics.ox.ac.uk/digital-news-report/2025/dnr-executive-summary
また、プレジデントオンラインは、「『オールドメディア』と『ソーシャルメディア』、どちらを信じるべきか? クエスチョンタイム」(鳥海不二夫)を掲載している。
https://president.jp/articles/-/96840
ソーシャルメディアの対義語として使われている「オールドメディア」という語が頻出するようになっていることを定量的に分析し、かつ「オールドメディアの役割が終わった」とソーシャルメディア上で言われていることについて次のように言及している。

一方で「オールドメディアの敗北」と言われるようになった要因には旧来のメディアの責任も大きいだろう。情報のほとんどをインターネットから摂取する人が大半になりつつあるこの時代、従来のような情報提供でよいのだろうか? どのように情報を提供していくのか最適な形を模索することは旧来メディアに課せられた大きな課題であろう。少なくとも1時間の取材内容を3行にまとめて「紙面の都合で……」などというのはやめてほしいものである。ネットの記事にすれば容量制限なんてほぼないのだから。

ここで改めていうまでもないことだが、ソーシャルメディアの発展は、情報の即時性、パーソナライズ、多様性の広がりといった面で大きな恩恵をもたらした。ユーザーは自らの関心に合わせて情報を選択・共有し、双方向的なコミュニケーションも可能になった。
しかしその一方で、「アテンション」を取ることに躍起になったり、「エコーチェンバー」や「フィルターバブル」といった現象が起きている。同質の情報ばかりが増幅される結果、視野の狭窄や誤情報の拡散が深刻化している。情報の多様性が、結果的に情報の偏在と分断を生むという難解な課題となっている。
このような状況の下で、「オールドメディア」におけるジャーナリズムの基盤的機能の重要性には改めて注目すべきだろう。特に、「ゲートキーパー(情報選別者)」としての役割は、フェイクニュースや誤報が氾濫する今日においてこそ、その真価が問われている。
ジャーナリストによるファクトチェック、編集部による倫理的判断、報道機関としての説明責任と透明性──これらは即時性や視聴回数を優先するSNS発信には欠けがちな価値である。つまり、「信頼をどう担保するか」という問いに、メディアは引き続き明確な回答を出し続けねばならない。オールドメディアが「ファクトチェックする」と言い出した場合、自分たちが発信した情報をチェックして見せないと、信頼回復どころかさらに失墜するのは間違いないだろう。
最終的に重要なのは、情報を受け取る一人ひとりの「リテラシー能力」である。特にデジタルネイティブ世代は、多様な情報に触れる機会が多い一方で、信頼性を見極める経験や訓練が不足している傾向がある。逆に、高齢世代は報道の質に敏感である反面、デジタル空間での検索能力やソース検証力には課題がある。「オールドメディア vs ソーシャルメディア」という二項対立は、もはや時代にそぐわない。むしろ今求められているのは、両者の利点を活かした共存型のメディア環境の構築ではなかろうか。


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